風都から少し外れにある桟橋……。
そこは数時間前まで歩とヴァン、麗奈が邂逅していた場所なのだが今は誰もおらず、ただ海のせせらぎだけが聞こえていた。
しかし桟橋の下から水面が盛り上がり、バシャッと言う水の跳ねる音と共に、2メートル近くある何かが桟橋の中央に着地した。
『風都よ!私は帰ってき…って誰もいねぇし!!』
数時間ほど前に、歩に遠くまで飛ばされてしまっていたアノマロカリスドーパントである。
彼は次元断裂に包み込まれると、何と東京湾のド真ん中まで飛ばされてしまっていたのだ。
だが流石はドーパントと言ったところか、その通常ではありえない水中移動スピードで数時間掛けてようやくここまで戻って来れたのだ。
しかし数時間もすれば流石に逃げられており、ここには彼一人しかいなかった。
『チクショウ…折角手柄取れると思ってたのによぉ……』
「随分と遠くへ飛ばされていたようですね」
ふと悲しげにぼやいた愚痴を拾った声のした方向を見ると、そこには何時からいたのか分からないが、自分の組織の上司にあたる井上運河の姿が確かにあった。
『げっ!い、井上さん!?何時からそこに!?』
「ついさっきですよ。因みに、貴女が狙っていた女性ならもうすでにこちらで確保してあります。残念でしたね」
『そ、そんなぁ!?折角2時間ぶっ続けで東京湾から戻って来たって言うのに!!』
ガックリと項垂れるアノマロカリスドーパントに運河は軽く含み笑いをすると、彼に別の提案を持ち出して来た。
「フフッ、でもそんな貴方に、これからチャンスを上げましょう」
『チャンス?何ですかそれって?』
「なぁに、ちょっとした私のお願いを聞いてもらうだけですよ。上手く行けば、貴方にそれ相応の利益があることを約束しましょう」
詳しく問い掛けたアノマロカリスドーパントの予想通りの質問に、運河は軽く舌で唇を湿らせると、更に続けた。
それぞれに変身をした歩達は、風都タワー内部の中央に位置する大展望台広場まで辿り着いていた。
本来ならこのタワーにはエレベーターが設置されているのだが、乗ってる最中に奇襲を受けたら堪ったものじゃないと言う満場の一致(ただしヴァンは微妙)でこうして階段を使ってここまで登って来たのだが、ここまで来てようやく敵陣が動き出した。
『ゲヘヘヘヘ…待ってたぜぇ仮面ライダーさん達よぉ』
『スベテ…コワス……』
『ここでアンタ等を倒せばいくらでも金を出すって言われてな。悪く思わないでくれよ』
待ち構えていたのはドーパント3体。
下品な笑い声を漏らしながら戦う気満々なのは、ゴキブリを彷彿とさせた体躯のコックローチドーパント。
片言で呟いたのは、トリケラトプスを半擬人化させた紫色の巨躯と棍棒を持ったトライセラトップスドーパント。
そして最後に金目的で動いている事が明らかな銅色の鎧を身に着け、舌を出した口の形を模したハンマーを持った青白いスキンヘッドの怪人のライアードーパントだ。
「オイオイィ…ここでいきなり3体とか勘弁してくれよぉ。マジで面倒なんだけどぉ~」
「ここは風都タワーの中で一番広い場所なのよ。待ち構えるならここがベストでしょ」
「………」
愚痴を零すディバイドにサイクロンがここでようやく敵が出て来た理由を大まかに説明していると、ディージェントが無言でグローブを嵌め直す仕草をしながら三体のドーパントに近づいて行った。
「ん?どうした代行者ぁ?」
ディバイドの問い掛けを余所に、ディージェントがコックローチドーパントの前まで来ると、そこでようやく言葉を紡いだ。
「……二人は先に行ってていいよ。ここは僕一人で十分だから」
『はぁ!?まさか一人で勝てると思ってんのかよ!?ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!コイツはとんだ馬鹿だな!!』
「ホントに大丈夫かよ一人でよぉ~?」
一人で何とかなると断言するディージェントに、コックローチドーパントは爆笑しながらディージェントを卑下するが、当の本人はそんな事など気にする様子もなく心配するディバイドにもう一度促した。
「大丈夫、すぐに終わらせて追い付くから」
『舐めた口きいてんじゃねぇぞゴラァ!!』
『イカセ…ナイ……!!』
淡々とした口調で行った事が癪に触ったのか、コックローチドーパントが啖呵を切って一瞬で背後に回り、トライセラトップスドーパントが棍棒を持ち上げ、ディージェントに振り降ろした。
「ちょ、あぶな……」
サイクロンが思わず叫ぼうとしたが、ディージェントは背後から迫るコックローチドーパントの蹴りをまるで後ろに目でもあるかのように片手で受け止め、トライセラトップスドーパントの棍棒を軽々ともう片方の手で防いだ。
『なにぃ!』
「うっそぉ……」
「ホラ、感心してないで早く行ってきなよ」
完全な不意打ちをいとも容易く止めたディージェントに狼狽するコックローチドーパントを余所に、ディージェントは呆気に取られるサイクロンに何でもなさそうに声を掛ける。正直非常識である。
『随分と舐めた口きくじゃねぇか』
その様子を静観していたライアードーパントが自分の武器であるライスピークスの口の部分からエネルギー弾を、二体の攻撃を受け止めて身動きが取れないディージェントに向かって放つ。
しかし即座にコックローチドーパントの足を掴んだ腕を回してライアードーパントに向かって思いっきり投げ飛ばした。
「…ハッ!」
『な…ぎゃばん!?』
『べらっしゅ!?』
その様子を見ていたサイクロンとディバイドは互いに顔を合わせて頷いた。
もうコイツ一人でいいな…と。
「じゃあ先に行ってるわよ」
「即効で終わらせろよぉ~。早く終わらせて寝たいんだからなぁ~」
「分かったよ」
二人が次の階へ向かうのを見送った後、先程からずっと受け止めているの棍棒を何とか動かそうと奮闘しているトライセラトップスドーパントに視線を向けて、抑揚のない口調で話し掛けた。
「さて、君達のメモリは破壊させてもらうよ」
『グヌヌ…ウゴァ!?』
トライセラトップスドーパントを棍棒ごと二体のドーパントとは反対側へ投げ飛ばし、先に小回りのきく二体のドーパントを倒すべく駆け出した。
『げっ!?コッチ来た!!』
『あ、テメ!逃げるなよ!うおわあぁぁ来るんじゃねえぇぇぇ!!』
態勢を立て直したコックローチドーパントは思わずその場から高速移動を使って逃げ出し、ライアードーパントはライスピークスから連続でエネルギー弾を放って牽制しようとするも、ディージェントは最低限の動きでエネルギー弾の弾幕を紙一重でかわしつつ、ライアードーパントに迫りながらカードを二枚取り出すとバックルに挿入した。
[ツールライド…アンチ・キル!]
[アタックライド…チャージ!]
二枚目のカードを発動させるとディージェントの右拳に藍色のノイズが集中し、ライアードーパントの眼前に辿り着いた瞬間に右腕を後ろへ構え、そして……
「ハァッ!」
『ぐあぁぁぁぁ!!』
渾身の右ストレートをその顔面へ放ち、ライアードーパントは爆散した。
爆炎が晴れるとそこには一人の小太りの男性と、壊れた無骨な形状のガイアメモリが落ちているだけだった。
ディージェントが使った「チャージ」のカードは簡単に言えば即席のファイナルアタックライドだ。
本来の物よりパワーは低いが、全アタックライドの中では一番の殺傷力がある。
更にそれを「アンチ・キル」を併用させて使う事で一撃必殺の威力をそのままに、マキシマムドライブ相応の効果を発揮する事が出来るのだ。
だが倒したのを確認したところで何かの気配を感じた途端、ディージェントは何かに突き飛ばされる様にして吹き飛んでしまった。
『やってくれんじゃねぇかよ。でもオレのスピードについて来れるかな?』
そのディージェントを吹き飛ばした存在は、先程高速移動で逃げ出したと思われたコックローチドーパントだった。
どうやら怖気づいて逃げ出そうとして高速移動を使った時に、自分にはこの能力があるんだから何て事はないと思ったようで、コックローチドーパントはそのスピードを生かしてディージェントを弾き飛ばしたのだ。
「……だったら、僕とスピードで戦ってみるかい?」
[アタックライド…ダッシュ!]
すぐに別のカードの効果を発動させ、コックローチドーパントに超スピードで迫り一瞬で背後を取る。
『な!?そんなに速く動けたのかよ!?』
「悪いけど、すぐに終わらせるよ」
『ちっ!させっかよ!!』
ディージェントの抑揚のない言葉を挑発と受け取ったコックローチドーパントは、すぐさま高速移動してディージェントから距離を取ろうとするが、ディージェントはそれに苦も無く追い付き、そのまま高速で大展望台広場を駆け廻りながらの攻防戦へと持ち込まれる。
しかし、それも僅か3秒ほどの出来事で、二人の動きが止まった頃にはディージェントが倒れ伏したコックローチドーパントの背中を踏んで抑えている光景だった。
[アタックライド…チャージ!]
更にそこからディージェントは止めを刺すために「チャージ」を発動させ、コックローチドーパントを踏みつけている右足に藍色のノイズを集中させる。
「…フンッ!」
『げぎゃあぁぁぁぁ!!』
右足に更に力を加える様に強く踏みつけると、コックローチドーパントもまた断末魔の悲鳴を上げながら爆散し、素体となったメガネを掛けたヒョロッとした男と、砕けたメモリだけがそこに残った。
『ヌオォォォォ!!』
そこへ高速移動で翻弄されていたトライセラトップスドーパントが迫り、棍棒を振り下ろす。
しかしディージェントはコックローチドーパントだった男を掴んで即座に回避し、振り下ろされた棍棒はディージェントと男がいた場所に大きな穴を開けていた。
『グゥゥゥ、ヨケ、タカ……』
忌々しげに片言で呟いたトライセラトップスドーパントは、ゆっくりとこちらへ振り向いてきた。
味方ごと倒そうとしていたことから、どうやらメモリによる精神汚染が激しいようだ。
『ヌゥゥン!!』
ディージェントが考察をしている間に、トライセラトップスドーパントが棍棒を大きく振り回してこちらへ攻撃してこようとするも、それをバックステップで回避して壁際に掴んでいたままの男を寝かせて「チャージ」のカードを発動させる。
[アタックライド…チャージ!]
発動させると同時にトライセラトップスドーパントの懐へ攻撃を掻い潜り一瞬で迫り、態勢を低く構えてシックスエレメントを充填させた右拳を握りしめる。
「…ハァッ!」
『グヌウゥゥゥッ!?』
両足をバネにして一気に跳び上がり、トライセラトップスドーパントの顎にアッパーカットを打ち込むが、相手は見事に耐え抜いた。
更にそこからトライセラトップスドーパントに変化が起きる。
『グヌヌヌヌ……』
「……?」
『ウガアァァァァァ!!』
「何っ……!?」
トライセラトップスドーパントが突然吠えたかと思うと、その巨体が更に巨大化して行く。
その巨大化して行く重量に耐えきれなくなった床が陥没し始め、やがて大きな穴を開けて巨体が落ちると、ディージェントまでも巻き込んで行った。
――――ドゴゴゴォォン……!!――――
階段を上っていたサイクロンとディバイドの耳に、下の階から何かが崩れる轟音が入り、一旦上へ目指していた足を止めた。
「何…今の音……?」
「さぁなぁ~。まぁ大方、代行者が騒いでるだけだろうよぉ~」
「ま、そうでしょうね」
今の轟音の原因は二人には大体予想が付く。ディージェントが下で何かやらかしたのだろう。
彼の実力は先程のドーパント達との戦闘の一部始終を見ただけで、かなりの手練(てだれ)だと言う事が充分に分かる。流石に劣勢になってると言う事はまずないだろう。
そう思い立った二人は再び階段を上り始めた。
「アイツ、ホントに何者だよぉ~……。ディケイドのバックアップとか言ってたけど、あの強さは明らかに異常だろぉ~……」
「ディケイド?何それ?」
「俺達みたいな世界を渡るライダーのボスみたいなモンだとよぉ~。そんでアイツはそれの代理だとさぁ~」
「よく知らねぇけどぉ~」と付け加えながら、欠伸をしているであろう仮面の奥に隠された開いた口を手で覆った。
Dシリーズとかいう仮面ライダーはみんな変わり者なのだろうかと変な解釈をしてしまっているが、古臭いセリフを行ったり、偶に変なテンションになったりするサイクロンも十分に変わってると言う事に本人は全く気付いていなかった。
そうしてしばらく上って行くと、先程の大展望台広場よりは狭いものの、それなりの広さを持つ空間に出た。
ここは第二展望台広場と呼ばれる場所で、大展望台広場よりも高い位置から街並みを見られ、尚且つ予約制である為に滅多に人の通らないセレブご用達の人気スポットだ。
「来たか、仮面ライダー」
そしてそこには自分達より既に来ていた先客の姿があった。
一人は先程外で会った石原健と言う男。そしてもう一人は、ボサボサの黒髪に白いシャツと黒いベストを身に着けた見間違う筈のない探し続けていた人物…西方駆が健に後ろから抑えられた状態でそこに立っていた。
「駆!!」
「楓…逃げろ…!コイツ等の目的は俺だけじゃなくてお前も入ってるんだ…!!」
「そう言う事だ。それとボスからの命令でな、お前とコイツを戦わせろとの事だ。コレを使ってな」
[ジョーカー!]
「ぐぅっ!」
楓と駆の会話に割って入って来た健がジョーカーメモリを取り出してスタートアップスイッチを押すと、駆の首筋にガイアメモリを挿入する為のコネクタが出現した。
そして健はコネクタに何の躊躇いもなくジョーカーメモリを差し込んで離れると、駆の苦しげな声と共にその姿が道化師の怪人へと変えて行った。
『……ヌンッ!』
やがて落ち着きを取り戻した駆だったものは、後ろへ回した状態にして手錠で抑えられていた両腕を無理矢理引き千切ると、駆が何時もやる癖である帽子を被り直す仕草をした。
「駆……」
『……ウアァァァ!!』
ジョーカードーパントへと変貌した駆は、サイクロンの問いかけにも応じずこちらへ迫って来た。
駆がジョーカードーパントである事は分かってはいたが、未だに認められない自分がいる所為で身体が急には反応できずにジョーカードーパントの拳がこちらに迫る。
「おっとぉ…待てよオッサン」
しかしすぐ横に居たディバイドがジョーカードーパントの腕を掴んで動きを止め、間延びしたものであるものの、若干苛立ちを孕んだ口調で話し掛け始めた。
「コイツはなぁ、アンタに会う為にここまで来たんだぜぇ。それを出会い頭にぶん殴るたぁ、どう言う了見だぁ?」
『ウゥゥゥ…ウアァァァァ!!』
ジョーカードーパントはディバイドの腕を振り解くと、彼の首を掴んで押し倒し、仮面を殴り付けて来た。
『ウゥ!ウアァァ!!』
「何言ってもダメかぁ……」
ディバイドは諦めたように殴られながらもそう呟くと、ディバイドライバーの柄頭でジョーカードーパントの鳩尾を殴って押し退けると、流れる様な手際でブランク状態のカードを一枚カードホルダーから取り出して鍔部分に設けられたスリットへ装填し、相手の胴体を斬り付けた。
[カイジンライド…ジョーカードーパント!]
電子音声がディバイドライバーから発せられると同時に、バックルのディスプレイがジョーカーメモリに設けられた“J”のマークが映し出され、相手の能力の半分を奪い取る。
「さてっとぉ、アンタはそろそろ悪夢から目覚めなぁ」
「待って」
ディバイドがそのままジョーカードーパントと戦闘を始めようとした時、サイクロンが待ったを掛けて来た。
何かと思いサイクロンへ振り向くと、彼女は目の前にいる変わり果てた相棒の姿をじっと見つめ、やがてディバイドにこう続けた。
「ここは私一人でやらせて。これは私とアイツの問題だから」
「……良いけどよぉ、勝てんのかぁ?少なくとも俺と代行者の二人がかりでようやく勝てる様なヤツだぜぇ~?」
「それでもよ。ここで私がコイツを助けないと、今まで探して来た意味がないじゃない」
彼女の決意が揺るがない事を確認するとディバイドは溜め息を吐いて後ろに下がった。
「ハァ…、分かったよぉ。それじゃあ俺はしばらく様子見させてもらうぜぇ。寝ながらな」
「それ様子見って言わないわよ」
「ああそうだな。それと、お前は俺と戦ってもらおうか。先程のリベンジだ」
ディバイドの余計な言葉にツッコミを入れると、健までも同意しながら白いガイアメモリを取り出し、スイッチを押した。
[エターナル!]
「ん?ディボルグドライバーはどうしたぁ~?」
「アレはボスに返した。代わりにボスのいらなくなったメモリを使わせてもらう」
ディバイドの問い掛けに簡潔に応じると今度はロストドライバーを取り出し腰に巻きつけた。
サイクロンはそのドライバーを見てアレも駆の物だと思い健に返すよう言い放った。
「アンタ!メモリだけじゃなくドライバーまで奪う気!?」
「何を言っている?これはボスが元々持っていた物だ。西方駆のドライバーはボスが既に破壊している」
「え!?」
サイクロンはその言葉に驚愕した。
ロストドライバーは本来、楓の両親が開発した物であり、両親がいない今、同じ物は自分と駆の分の二つしか存在しない筈なのだ。
そして、それ以前からあったと言う事は、ここのボスは両親と何らかの関係を持っていたと言う事になる。
「これは益々ここのボスに会って話を着けなきゃならないみたいね」
「会えるものならな。変身」
[エターナル!]
サイクロンの呟きに軽く答えると、健はロストドライバーのスロットルにガイアメモリを挿し込み、無頓着な声色で宣言し、スロットルを斜めに倒す。
すると健の周囲に一瞬蒼白い稲妻が奔り、塵が健の身体を包み込む。
やがて完全に塵に覆われると、そこには白い人影があった。
シンプルな装甲に身を包い、両腕に赤い炎を思わせる刻印を刻んだボディ。
頭部にはイニシャルの“E”を横に倒した形の角飾りと無限を意味する∞(インフィニティ)マークの形状をした黄色い複眼の怪人。
その姿はドーパントなどでは決してない。この街を影で守る者、またの名を…仮面ライダー。そう呼ばれる存在だった。
「そこの剣を持った奴は俺と一緒に来てもらうぞ」
「ぬおっとぉ!?」
健が変身した姿…仮面ライダーエターナルはそう言うや否やディバイドに掴み掛かり、街並みを映す窓をガシャンと派手に割ってディバイド共々下へ落ちて行った。
その様子を黙って見ていたサイクロンとジョーカードーパントは互いに向き直ると、それぞれ身構える。
「さて、二人っきりになった事だし、まずはアンタを叩き起こさせてもらうわよ、駆」
『ウゥ…ウアァァァァ!!』
サイクロンの宣戦布告を皮切りに、ジョーカードーパントは一直線にこちらへ突っ込んできた。
風都タワーの入り口付近まで落ちてしまったディージェントは難なく地面に着地すると、目の前で今も尚巨大化して行くトライセラトップスドーパントを見上げた。
『グゥゥ…グォアァァァァァ!!』
やがて巨大化が止まったトライセラトップスドーパントは四足歩行で地面をズッシリと踏み締め、獰猛な雄叫びを上げた。
「成程、メモリの暴走か……。随分と適合率が高かったみたいだね」
その様子を見たディージェントは、この世界の脅威となる存在の情報からそう解釈した。
ガイアメモリを使用する際には、メモリとそれを使う使用者との相性…適合率も必要になって来る。
適合率が低ければ拒絶反応が起きて強制的に体外へ排出されてしまうが、逆に適合率が高く、尚且つドライバーを介さずに使用すると今のトライセラトップスドーパントの様に使用者の自我とは関係なく暴走してしまうのだ。
しかも相手の使っているメモリはかなり癖の強いメモリで、太古の生物の記憶を内包した代物だ。
そう言った部類のメモリは暴走するとこの様にその生物本来の姿に近い姿へ変えてしまうのだ。
『グオォォォォ!!』
猛々しい雄叫びを上げながら突進してくるトライセラトップスドーパントを前にして、ディジェントは広い場所に出る為に一旦屋外へと走り出す。
「ダッシュ」を使ってもいいのだが、ここで使えば相手が自分が逃げたと勘違いし、風都タワーの中で暴れ回って倒壊させてしまう可能性が高い。その為、自身の身体能力のみで風都タワーの出入り口へと駆け抜ける。
その際にもトライセラトップスドーパントは至る所にある展示物やオブジェを撥ね退け、踏み潰しながらディージェントを追って来る。
そしてようやく風都タワーの外に出ると、振り返ってカードを一枚クラインの壺から取り出し、バックルに挿入した。
[アタックライド…ダッシュ!]
「ハァッ!」
『グゥオォォォォ!!?』
体躯に合わない入り口を突き破りながらこちらへ迫ろうとした瞬間、一瞬でトライセラトップスドーパントの右側へ回り、その巨大な顎へと飛び蹴りを放ち、脳を揺らしてバランスを崩させる。
「フッ!」
『グゴアァァァァ!!』
着地すると更に追い打ちを掛けるべく、今度はアッパーをかまして転倒させそこまで来てようやく止めの一撃に入るべく、ファイナルアタックライドのカードを発動させた。
[ファイナルアタックライド…ディディディディージェント!]
『グォアァァァァ!?』
トライセラトップスドーパントの足元にビジョンを展開させて身動きを取れなくすると、ディージェントはその束縛から逃れようともがく巨獣を余所に右足にシックスエレメントを集中させながら大きくジャンプし、空中回転して勢いを上乗せしながらトライセラトップスドーパントの真上を陣取った。
「それじゃあ止めの一発、行くよ?」
お決まりの決め台詞を抑揚のない声で呟くと、今度は藍色のノイズに包まれた右足を真上に上げて一気に急降下して行き、そして……
「ハァァァ…タァッ!」
『ガァオォォォォ!!』
真下に居たトライセラトップスドーパントの胴体目掛けて踵落とし…「ディメンションドロップ」を隕石の如き勢いで叩き付けた。
トライセラトップスドーパントは断末魔の雄叫びを上げると爆散し、その姿を消すと柔道着を着た大柄な男がそこに横たわっているだけだった。
爆発した勢いでもう一度空中に舞い上がったディージェントは、後ろに一回転した後に綺麗に着地し、倒れた男を確認しながら両手のグローブを嵌め直す仕草をして一応の目的を果たしたのだった。
ディージェントがいる風都タワー入口の反対側では、ディバイドとエターナルが互角の戦いを繰り広げていた。
ディバイドが剣で一閃しようとすればエターナルが手に持ったコンバットナイフ型の専用武器・エターナルエッジで迫りくる刃を止め、逆にエターナルがナイフを首目掛けて突き貫こうとすればディバイドが身体を反らせて避け、更にその状態からエターナルに蹴りを入れてその反動で距離を取る。
先程ジョーカードーパントから肉弾戦技能を半分奪い取ったからこそできる芸当だ。
「ふんっ、やるな」
「そりゃどうも。俺もアンタがトリガーだったからてっきり遠距離戦しかできないんかと思ってたけど、そうでもなかったなぁ~」
「俺は生前、SWATに所属していたからな。銃撃戦だろうが接近戦だろうが粗方出来る」
「あぁそうかい。ま、なんにせよお前をとっとと倒して麗奈を助け出さないといけねぇからなぁ。出来るだけ早くやられてくれよぉ。面倒事は嫌いだからなぁ」
エターナルの生前の話を軽くあしらうと、ディバイドは剣先を相手に向けながら面倒臭そうにぼやいた。
コイツ等のボスが一体何をしようとしているのかは知らないが、麗奈を奪還するに越した事はない。ここで足止めを喰らうわけにはいかないのだ。
「俺をただの雑兵と一緒にしてもらっては困るな。あの時は不意を突かれたが、今度はそうはいかない」
「ふぅん、言ってろよっとぉ」
[アタックライド…インビジブル!]
スリットにカードを装填してディバイドライバーを振り抜くと、電子音声と共にディバイドの姿が消えた。
「不可視能力か……」
エターナルは大して動揺もせずに冷静に判断すると、仮面の奥で目を閉じて神経を研ぎ澄ませる。
こう言う類の能力は視認が出来なくはなるが、気配や音と言った別の感覚を用いれば簡単に打破できる。
そしてそれは、Dシリーズも例外ではなかった。
「そこだっ!」
「うぉっ!?」
気配の感じた左方向に向かってエターナルエッジを投げた。
ディバイドはそれに思わず驚きの声を上げながらディバイドライバーで何とか叩き落すも、その怯んだ隙を突いてエターナルが迫る。
「しまっ…!」
「貰ったぞ……」
一瞬で近づくと、その場に落ちたエターナルエッジを即座に拾い上げ、ディバイドの胸部装甲を切り上げて火花を散らせて更にその首元にナイフを突き立て、死刑宣告を下した。
「別の世界の仮面ライダー……」
ナイフが自分の喉を斬り裂こうと迫って来る中、ディバイドはやけに落ち着き払った心境に陥ってにこれまでの事を思い出していた。これが所謂走馬灯とかいうヤツなのだろう。
その中にはこのディバイドの力だって手に入れた時の出来事や、あの“声”が張り付いた時の事が蘇る。
そんな事を回想していると、自分に死を送り付けて来るであろうナイフが、自身に触れる感触がした。
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第37話:D無双!/迫りくるナイフと走馬灯