No.395274

仮面ライダーディージェント

水音ラルさん

第34話:Nの襲来/楓の回想

2012-03-20 20:20:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:344   閲覧ユーザー数:344

港から少し行った所にある工場跡地では、ディージェントとディバイドが突如襲来して来た謎のドーパントと戦闘を繰り広げていた。

 

ディージェントが左ストレートを放つが相手は片手で易々と受け止め、その隙をついて斬りかかって来るディバイドの上段切りを、掴んだディージェントを盾にして防いだ。

 

「グッ…!」

「あ、ワリィ……」

『ヌンッ!』

「ナファッフォ!?」

 

盾にして防いだ後、ディージェントを蹴り飛ばしてディバイドの方へと吹き飛ばす事で、謝ろうとしていたディバイド諸共(もろとも)巻き込んで工場の中から外へと吹き飛ばした。

 

「あのピエロ、意外とつええなぁ~」

「しかもあのドーパント…常にジャミングを発し続けてるから動きが読めない……」

 

眠たげな声色ではあるものの、窮地に立たされている事を察しているディバイドに追従する形でディージェントは続けた。

 

アレにはワールドウォーカーに近い能力が備わっている。敢えて名付けるならば、疑似次元移動能力と言ったところだろうか?

元から備わっていたとは考え難いし、そんな能力付加が出来る人物も一人だけ知っている。

 

(また神童さんの細工か……)

 

恐らく神童があのドーパントにジャミングの能力を付加させているのだろう。

ヴァンが感じ取ったのはそのジャミングの気配だ。

 

二人が立ち上がると、ドーパントが帽子を被り直す仕草をしながらこちらに歩み寄って来るのが見えた。

 

とにかく、このままでは劣勢になるばかりだ。

相手のスペックは大したことはないのだが、肉弾戦能力に於いてはディージェントよりも高い。

ここは遠距離からの攻撃で仕留めた方がいいだろう。

 

そう結論を出したディージェントは「ブラスト」のカードを取り出しながらディバイドを見た。

 

彼のアタックライドのカードには「ブラスト」が存在しない。

あくまで剣での接近戦のみに主軸を置いたDシリーズなので遠距離戦能力は皆無だ。

 

なのでここは自分が何とかするしかないだろう。そう思ってカードの効果を発動させると、ディバイドが自分の肩をトントンと軽く叩いてきた。

 

[アタックライド…ブラスト!]

 

「なぁ、ちょっといいかぁ~?」

「ん?」

 

ディバイドの方を振り向くと、彼はブランク状態のカードをスリットへ装填してディージェントに振り被り……

 

「ちょっくら我慢しててくれよぉ~」

「ウグァッ!?」

 

突然ディージェントに斬り掛かった。

ディージェントはその行動の意味を理解してはいるのだが、流石に急にやられると心の準備が……。

 

彼が斬りかかって来たのは別に自分を敵と思ったからではない。彼の能力はこうしなければ発動できないのだ。

そして今、その能力が発動したことを告げる認証音声がディバイドライバーから発せられた。

 

[カメンライド…ディージェント!]

 

その音声と共に、ディバイドの腹部に設けられているバックルのディスプレイに写されたディバイドのライダーズクレストが消え、代わりにディージェントのライダーズクレストが浮かび上がった。

 

ディバイドの能力は“分割”。

ブランクカードを装填した状態で対象を斬り付けることで、その対象の能力を半分奪う事が出来るのだ。

 

そのおかげで、ディージェントの身体能力を除いた空間把握能力やカードの性能は半減してしまうが、ディバイドは一時的にそれらの能力を使う事が出来るようになるのだ。

 

「へぇ~コイツは便利だなぁ~。周りの状況がよく分かる」

「それでも半分程度なんだけどね」

「……これで半分とか、お前マジで何モンだよ?」

 

ディバイドが仮面の奥で呆れた顔をしているであろう声色で訊ねて来るが「ただのディケイドの代理だよ」とだけ答えてドーパントに向かってエネルギー弾を乱射した。

 

「ハッ!」

『グッ!?ヌウゥゥゥ!』

 

初弾を当てることには成功したが、その後に続くエネルギー弾を曲芸師の如くバック転やサイドステップ等で華麗に避けて行く。

そのまま徐々にこちらとの距離を詰めて来るが、撃って来るのは自分だけじゃない。

 

[アタックライド…ブラスト!]

 

「こっちも忘れてんじゃねぇぞぉ~」

『ヌッ!?グゥアァァァ!!』

 

ディージェントが撃っている隙に、横へ移動していたディバイドが「ブラスト」を発動させてディバイドライバーを持っている反対の左手からディージェントと同質のエネルギー弾をドーパントに向けて単発式で放った。

 

『ヌグッ!グゥゥゥ……!』

「止めを刺すなら今だね」

 

[ファイナルアタックライド…ディディディディージェント!]

 

「そのようでっとぉ~」

 

[ファイナルアタックライド…ディディディディージェント!]

 

ディバイドの放ったエネルギー弾に直撃したドーパントが地面に転がるのを確認すると、互いにファイナルアタックライドのカードを発動させる。

 

『グァッ!?』

 

ドーパントが立ちあがった瞬間に、二人のビジョンが重なった状態で展開されてドーパントを磔にした。

 

例え二人同時と言ってもディージェント一人で放つ威力とさして変わらないのだが、やはり同じ種類の攻撃方法での同時攻撃が有効だとディバイドが判断したためか、ディージェントのカメンライドはそのままにした状態でディバイドライバーを構える。

ディージェントの右足に藍色のシックスエレメントが集まるのと同じく、ディバイドの持っている刀身にも同色のシックスエレメントが集約して行く。

 

「それじゃあトドメの……」

「レッツフィナ~レっとぉ」

「………」

 

ディージェントが何時もの決め台詞を言う前に先に向こうの決め台詞を言われてしまった。

その事に一瞬思考が停止するも、すぐに気を取り直して指を招くように動かしてビジョンをこちらに近寄らせる。

 

「フゥゥゥ……」

「………」

 

ディージェントは何時もの様に息を吐きながら構え、ディバイドは特に何もせずに迫りくるビジョンがこちらに来るのを見据えながら剣先を地面にコンコンと当てていた。

 

やがて攻撃範囲まで後数メートルとなった所で、突如左方向から数発の光弾がこちらへ降り注いで二人を吹き飛ばしてきた。

 

「クゥッ!?」

「オォウ!?」

 

それによってファイナルアタックライドは強制解除され、ビジョンが途中で消えてドーパントの身体が自由を取り戻してしまった。

 

「何だぁ、今のぉ~?」

『二対一でイジめるとは、正義の味方が聞いて呆れますね』

 

吹き飛ばされた二人が立ち上がってディバイドのぼやきに応じた前方にいるであろう声の主を見ると、それは青い騎士を模したドーパントだった。

 

しかも気を失っている麗奈を横抱き(所謂お姫様だっこ)に抱えている。

どうやら戦闘に気を取られて麗奈への配慮が無防備になってしまっていたようだ。

 

「チッ、しまった……!」

「……お前ら何モンだぁ?どうして麗奈を攫おうとする?」

『そうですね、では私の自己紹介だけでもしておきましょうか。何かと禁則事項が多いのでね』

 

そう紳士的な態度で前置きを置くと、その騎士のドーパントは自己紹介を始めた。

 

『私の名は井上(いのうえ)運河(うんが)。そして今の姿をナスカドーパントと申します。こちらのドーパントの人名は明かせませんが、とりあえずジョーカードーパント…とだけ言っておきましょうか』

 

ご丁寧に自分の本名まで明かしながら自己紹介をするナスカドーパントに、ディバイドは更に質問をぶつける。

 

「それで、そいつを連れてく理由はぁ?」

『生憎これ以上は私の口からは言えません。どうしても知りたいのであれば、我々のボスを探す事ですね。最も、どこの誰かも分からなければ探し様がありませんがね。アッハッハッハ……っと、失礼』

 

一々癪に障る口調で答えるナスカドーパントにディバイドは苛立ちを覚えながらも、今やるべき事を思い出した。

 

まずは麗奈を奪還しなければ……。

麗奈のDシリーズを使って碌でもない事を仕出かそうとしている事は間違いないだろう。

 

「悪いが、そいつは返してもらうぜぇ~?」

『ホォウ、残念ですがそう簡単に返すわけにはいかないのでね。我々はこれで失礼させて頂きますよ』

 

「では、御機嫌よう」などと呟いた途端、ナスカドーパント達の背後に次元断裂が現れてその中へと飲み込まれて消えてと行った。

 

「チッ、次元移動で逃げやがったかぁ。って事はアイツもワールドウォーカーかぁ……」

「一応どこに移動したかは彼女の気配で分かるから、ここは一先ず僕の連れと合流するよ」

「オイオイ、いいのかよぉ?このまま放っておいてよぉ」

 

ディバイドの呟きに変身を解除しながら答えるディージェントに、それは後でもいいのではないかと思い、優先順位を改めさせようとしたが、次に歩の口から放たれた発言に納得した。

 

「それなら問題ないよ。今僕の連れがこの世界の『基点』と一緒に行動してるからね。彼女の協力を仰げば何とかなる」

 

 

 

 

 

ディージェント達がジョーカードーパントと戦闘を始めた頃……

 

「はあぁぁっ!!」

『アメェんだよおぉぉぉぉ!!』

 

サイクロンとメタルドーパントも戦いを繰り広げていた。

 

河壁という男と亜由美から引き離す様に場所を遠ざけながら、サイクロンが身軽さを武器にヒット&アウェイを繰り返していたのだが、メタルドーパントの堅牢な肉体には今一つダメージを与えられないのだ。

 

相手の使っているメモリ・メタルメモリは「闘士の記憶」を内包しており、一撃の破壊力と見た目通りの鋼鉄の如き防御力を兼ね備えたメモリだ。

今の自分が変身しているサイクロンではパワーが足りず、とてもではないが歯が立たない。

 

「クッ…硬い……」

『軽い!軽すぎるぜ仮面ライダーさんよおぉぉぉぉぉ!!』

 

そんなこちらの事情を相手が組む筈もなく、メタルドーパントは渾身のロッドの一撃を加えようとしてくる。

一度距離をとってから痛む拳を振りながら痛みを和らげていると、メタルドーパントは大音量で叫びながら突っ込んできた。

 

「チッ、さっきからウルサイ…!」

 

棍の一振りをバックステップでかわすと、サイクロンは黄色いガイアメモリを取り出してスイッチを押した。

 

[ルナ!]

 

「相手が硬いんだったらこっちはその逆よ!」

 

サイクロンはドライバーに挿したサイクロンメモリと黄色いガイアメモリ・ルナメモリを入れ替えて起動させた。

 

[ルナ!]

 

ガイアウィスパーが鳴り響き、ルナメモリの効力によってサイクロンの体色をライトグリーンから黄色へと変化させ、その姿を仮面ライダールナへと変化させた。

 

『色が変わった所で何になるってんだあぁぁぁ!!?』

「そう思うならやってみなさい」

 

メタルドーパントが再び此方へ迫って来るのを余所に、ルナはその場に佇んで攻撃を仕掛けて来るのを待った。

 

『おらぁ…って何じゃこりゃあぁぁぁぁ!!?』

 

メタルドーパントの攻撃がルナの横腹にヒットした瞬間、その身体はゴムの様にグニャリと曲がった。

その捻じ曲がったルナの見た目と、ロッドから伝わる感触に驚嘆の声を全力で上げた。

 

「これが仮面ライダールナの特性よ。ハァッ!」

『どぅわああぁぁぁぁぁ!!?』

 

ルナは落ち着き払った態度で答えると、右足を文字通り伸ばしてメタルドーパントの腹を蹴りつけた。

 

ルナメモリは「幻想の記憶」を宿したガイアメモリだ。その特性は肉体を自在に伸縮させる事が可能で、使い勝手が非常に良いメモリだ。

楓が変身するライダーの中ではスペックが一番低い為、大してダメージは与えられないだろうが、これで相手との距離を離す事が出来た。

 

「さて、次はこれね」

 

ある程度蹴り飛ばした後に伸びた右足を元の形状に戻すと、今度は赤いガイアメモリ・ヒートメモリのスイッチを押してドライバーに挿し換えた。

 

[ヒート!]

 

「アッツイのかますわよ!!」

 

[ヒート!]

 

ヒートメモリを挿してスロットルを斜めに傾けると今度はその装甲を赤く染め上げ、仮面ライダーヒートへとその姿を変えた。

 

「熱き記憶」を宿したヒートメモリは装着者の闘争本能を高める効果があり、楓が持っているメモリの中で一番攻撃力が高い。

ヒートメモリの作用がドライバー越しにわずかに楓の中に入った事で若干テンションが高くなったヒートは左手にバレーボールほどの大きさの炎の塊を生成し、それを相手に向かってレシーブの要領で投げつけた。

 

「ハァッ!」

『ウグァッ!アッチイィィィィ!!?』

 

身体が金属なだけあってか、炎弾を喰らった右肩が真っ赤に熱を帯びている。

どうやらこちらの方が相性が良さそうだ。そうと決まればこのまま炎弾を浴びせ続ければいい。

 

次々と炎弾を放ち、やがてメタルドーパントの身体全体が真っ赤になった所で、ヒートメモリをスロットルから引き抜いて右腰に設けられているマキシマムスロットに挿し込んでその横を軽く叩いた。

 

[ヒート!マキシマムドライブ!]

 

「ハァァァ……」

 

両手を胸の前に翳してその中心に、先程の比ではない高温を秘めた炎弾を生成して行く。

やがて火球の高温が太陽の如く白く発光するほどに高くなった所で、野球ボールほどの大きさに圧縮してピッチャーの如く投げつけた。

 

「ヒートストレート!!」

『ウゴガアァァァァ!!』

 

プロの野球選手顔負けの豪速球は見事にメタルドーパントの腹部に直撃し、爆発を起こした。

 

爆炎が晴れるとそこには横たわった黒金と、メモリブレイクによって黒金の身体から排出されたメタルメモリが落ちていた。

 

ヒートはすぐさま変身を解除してメタルメモリを拾い上げると、それを見据えながら黒金へ問いかけた。

 

「アンタ、このメモリどこで手に入れたの?」

「ボ、ボスに…渡されただけだ……」

「ボス?それじゃあそのボスってどこのどいつよ?」

「それは、教えらんねぇなぁ…ハハッ、ハハハハハハ………!!」

「ッ!?」

 

それだけ答えると、黒金は高笑いを上げながら塵の様に崩れ去って行った。

この現象は十年前にも見た事がある。駆がNEVERと呼んでいたヤツが、メモリブレイクされた時と同じ現象だ。

 

(まさか、コイツもNEVER……一体何者なの?それに、父さんと母さんが殺された理由ってもしかして……)

 

楓はこの十年間の間にそんな仮説を何度も思い付いていたが、そんなことはあり得ないで済まして来た。

ただ認めたくなかったのだ。

両親が、人の身体を使った実験をしていたなんて……。

 

(まだよ!まだそうと決まったわけじゃない…!)

 

そう心に訴えかけながら本来駆の所有物であるメタルメモリを握りしめながらあの出来事に思いを馳せた。

もしあの時、無理にでも着いて行っていたら、駆がいなくなる事はなかったのだろうか……。

 

 

 

二週間ほど前、西方探偵事務所のポストに駆宛の依頼の封筒が届いているのを楓は見つけた。

その封筒は普通の物とは違ってそこらじゅうにイニシャルの模様が施されている白い封筒だった。

 

『駆~、依頼の手紙入ってたわよ』

『おうサンキュ。それで、差出人は?』

『それが差出人の名前が書いてないのよ。何か怪しくない?』

 

楓は訝しみながらも駆に手紙を渡すと、駆はその封筒を見た瞬間、その表情は険しい物になった。

 

『楓、俺がこれ読み終わるまでの間、ちょっと席外しててくれないか?』

『え?なんで?』

『これは俺一人でやれっつう依頼人からだ。しばらく来てなかったんだがな……』

 

駆は最近生やし始めた顎鬚を撫でながら神妙に呟いた。

三十過ぎてからは渋く決めたいとか言ってきてから始めたのだが、意味がイマイチ分からない。

まあカッコイイからいいんだけど……。

 

『それって、私も付いて行っちゃ駄目なの?』

『今回ばかりは相手も相手だからな……。まぁそんなに気にするほどじゃねぇさ。それに、お前一人でも今なら問題ねぇだろ?』

『まぁ、それはそうだけど……』

 

確かに今の楓なら並みのドーパントくらいは余裕で倒せる実力を持っている。しかし今回駆に来た依頼は少なくとも難しい物であることは間違いない。

いくら何度か受けた事のあるクライアントだったとしても、かれこれ十年越しの依頼だ。自分も一緒に着いて行った方がいい。それを駆に伝えた楓であったが……

 

『ダーメーだ。これは俺一人じゃないと解決できない。ホラ、分かったらとっとと出てった出てった』

 

「シッシッ」と手で払われながら言われて、仕方なく所長室から出て行った。

 

しばらくして読み終わったのか、駆が白いソフト帽を被りながら所長室から出て来ると、ソファで寛(くつろ)いでいた楓に帽子に手を添えながら告げた。

 

『俺はしばらく留守にする。多分2~3日くらいで帰って来れると思うから、それまで事務所を頼む』

『ええ、分かったわ。でも気を付けてね、何だか嫌な予感がするから……』

 

楓が不安を表に出していると、駆は「ハハッ」を軽く笑いながら楓の頭に手を置いた。

 

『そんな心配すんなって。今までの事件に比べれば、大したことねぇよ』

『ちょ、何時までも子供扱いすんな!もう28なんだし!』

『おっとワリィワリィ。そんなちっさいナリしてるとついな』

『ちっさい言うな!!』

 

怒鳴って手を退かすと、駆はカラカラ笑いながら「じゃ、行って来る」と言って事務所から出て行った。

 

それが、駆と交わした最後の会話だった。

 

 

 

それから一週間ほど経っても未だに帰って来なかったので警察に捜査申請を出したのだが結局見つけられず、唯一発見されたのは海岸に打ちつけられていた今自分が被っているこの駆が愛用していた白いソフト帽だけだった。

 

普通ならこれで死んだとされて終わりだが、自分はまだ諦めたくない。今ようやく手掛かりを見つけたのだ。このまま黙っているわけにはいかない。

それにはまず、NEVERとは一体何なのかをもう一度調べ直す必要がありそうだ。

 

一先ず亜由美の所まで戻ろうと決めるが、その瞬間聞き慣れたガイアウィスパーが聞こえて来た。

 

[トリガー!]

 

「ッ!?今の音って、まさか!?」

『そのまさかだ』

 

背後から聞こえて来た声に振り向くと、そこには右腕がライフルの銃身になっている青いロボットの様な怪人がいた。

その怪人に見覚えはないが、何のメモリで変身しているかはすぐに分かる。駆が持っていたガイアメモリの一つ・トリガーメモリだ。

 

「まさか、トリガーまで…!?」

『このメモリはもう俺の物だ。お前の持っているメモリも、全部頂くぞ』

「チィッ…!次から次へと……!!」

 

ドライバーとサイクロンメモリを取り出して再び変身しようとするが、トリガードーパントは徐(おもむろ)に銃口を右へと向けた。

一体何なのだろうと思いその銃口の先を向くと、そこには亜由美が木陰に隠れて立っていた。

 

「亜由美ちゃん!?どうして!?」

「し、心配になって後を探しに来たんです…でも、何で別のドーパントと戦って…さっきの人はどうしたんですか…?」

『大人しくメモリを全部渡せ。そうすれば、見逃してやることを約束しよう』

 

ロックオンマーカーのみが付いた顔でそう言ってのけるトリガードーパントに、楓はある矛盾を感じていた。

 

最初に戦ったマグマドーパントは「仮面ライダーを誘(おび)き出す」事が目的で騒ぎを起こした。

そいつを倒したらすぐに黒金とかいう男が、メタルドーパントになって勝負を仕掛けて来た。

更にそれに続く形で、今度は目の前のトリガードーパントが……。

それに、黒金は「俺達」と複数形でマグマドーパントだった男に怒鳴っていた。

 

「俺達」…つまりそれはまだ次に控えている仲間がいた事を示している。

ならば何故二人がかりで襲って来なかったのか?

その答えはトリガードーパントにある質問をすればすぐに解ける。楓はトリガードーパントにその質問をぶつけた。

 

「……ねぇ、もしかしてジョーカードーパントってのもいたりするわけ?」

『ああそうだな』

 

返って来た答えは肯定。これで確信した。コイツ等の目的を……!

 

「成程……それでそいつに…駆に近づかせないために私をここで足止めしてるってわけね」

 

楓は導き出した結論はこうだ。

コイツ等は駆を拉致した後、ガイアメモリを奪ってそれで怪人に変身。

そして、その怪人の中には駆が変身したジョーカードーパントがいる。

メモリに何らかの細工を施せば、洗脳した状態でそのメモリを使ったドーパントを操る事が出来る為、今回はその前段階としてどこかで暴れさせているのだろう。

その為には自分と会わせて洗脳が解けるのを防ぐため、前持ってここで自分を足止めするためにこうして連続で襲ってきたのだろう。メモリの回収はその二の次だ。

 

『……察しが良いな。流石は探偵と言ったところか』

「何でメモリを奪ったのかとかいろいろ聞きたいけど、今はその子を見逃す事が先決よね」

 

楓の推理に感心するトリガードーパントを余所に、楓は自分の持っている4本のガイアメモリを取り出した。

 

「本当だったらここで投げ渡すのが定番なんでしょうけど、私って変身してないとノーコンなのよね。私がアンタに近づいてコレ渡すから、受け取ったらとっとと立ち去りなさいよ?」

『案ずるな。俺は約束は守る』

(アレ?意外と中身はイイ人なのかな……?)

 

トリガードーパントの意外と素直な一面を見て亜由美はそう思いつつも、楓がメモリを受け渡す事には気が引けた。

確かにこのまま渡さなければ自分の命が危ういのは明確だ。だが仮面ライダーへ変身する力を失ってしまえば、間違いなく良からぬ事が起きる。

 

何とか出来ないものかと思っていると、背後からポンッと誰かに肩を叩かれた。

 

「ヒャウッ!?」

「遅くなったね」

「あ、歩!?」

 

思わず驚いて奇声を放ちながら後ろを振り向くと、白いスーツとソフト帽を身に着けた歩が自分の肩に手を置いて立っていた。

 

『ん?誰だお前は?』

「この子の連れです」

「なぁ、それより早くズラかろうぜぇ~。眠くてしょうがねぇ~」

 

突如現れた白服の男に疑問の声を漏らすトリガードーパントに対して歩は簡潔に答えると、その後ろに何時の間にか突っ立っていた金髪の青年が、現状をまるで無視したように眠たげにぼやきながら大きく欠伸をした。

その青年の態度に亜由美は呆気にとられたが、確かに歩がいるんだったら逃げるのは今の内だろう。

 

『悪いがそう簡単には逃がさんぞ』

「あ、ダメ!撃つ……!!」

 

――――ドドゥンッ――――

 

逃走を謀っている事を理解したトリガードーパントが、どちらかの青年目掛けて引き金を引こうとしている事を察した楓が叫ぶも時すでに遅く、トリガードーパントの右腕の銃口から弾丸が二発連続で放たれた。

その二つの弾丸が二人の青年の脳天を撃ち抜く……事はなかった。

 

歩がそうなる事を既に予測し、次元断裂を自分達三人の前に展開したのだ。

弾丸はその壁に阻まれると、何の音も出さずにポトリと芝生に落ちていった。

 

『……何?』

「ヘ……?」

 

トリガードーパントと楓が呆気に取られていると、歩が楓に近づきながら言い放った。

 

「今もう一人の連れがナスカというドーパントに攫われたんです。大体の場所は突き止めているので付いて来てくれませんか?」

「アンタ、今の状況分かって言ってんの?」

 

歩の空気を読まない発言に楓は呆れながら、目の前のトリガードーパントを指差した。

今はコイツを何とかしなくてはならないのだ。彼の知り合いより先に、まずはトリガーメモリを取り戻さなくては。

アレは駆の物だ。絶対に取り戻す……。

 

その意図を理解したのか、歩はディージェントドライバーを取り出しながら楓に訊ねた。

 

「もしかしてあのドーパントのメモリは、貴女の物ですか?」

「違うわよ。でも私の相棒にとっては大事な物」

「……分かりました。手を貸しましょう」

 

歩がディージェントドライバーを装着しながらそう言うと、そのドライバーを見たトリガードーパントが歩に言い放った。

 

『……成程、ボスから聞いていたもう一人の“特別なドライバー”を持っている悪魔とはお前の事だったのか。しかしお前の話から察するに、俺の仲間がドライバーを一つ奪取したようだな……。悪いがそうと決まればお前と戦う義理はない』

「悪魔…という事はやはり神童さんが絡んでるみたいですね……」

 

トリガードーパントの発言に歩は、今回の事件にも神童が絡んでる事を察していると、トリガードーパントは銃口を此方へ向けながら撤退の言葉を告げた。

 

『俺一人では勝つことは難しそうだからな。ここは退かせてもらう』

「あ、待ちなさい!」

 

[サイクロン!]

 

楓がサイクロンメモリを起動させるも、次の瞬間にトリガードーパントは歩と楓、亜由美とヴァンの二方向の足元に硝煙弾を撃ち込み、煙幕を展開させた。

 

「ゴホッ」

「うわっ!?」

「うぉっ、ケムッ!」

「ゲホッ、ゴホッ…!クゥッ、変身…!」

 

[サイクロン!]

 

煙幕に咽ながらも何とか変身した際に巻き起こる突風を利用して煙幕を吹き飛ばすも、そこには既にトリガードーパントの姿はなかった。


 
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