No.395267

短編 魔王様修行中

ぽんたろさん

攻略キャラが全て魔王な乙女ゲームをそろそろ真剣に作ろうと思うので練習がてら甘いのかきたいなぁ。あ、短編は別に甘くも抑揚もありません。

2012-03-20 20:15:50 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:388   閲覧ユーザー数:374

闇よりも尚暗い空間だった。

そこには青年の他人影一つしかない。物音一つない、世界の果て。

「よくぞここまで来たものだ。褒めてつかわそう。」

青年の額にある第三の眼が開き、笑い声が広間に響き渡る。

「くははははははははあ!!!!我が前に跪け!!矮小なる人間どもよ!!!!」

彼が両腕を降ると背後の壁に無数の青い炎がともる。

 

「はいカットー」

ぱんぱんと手を叩く音がして部屋が明るくなった。

「やっぱり、僕このキャラでやっていく自信が無いよ…」

青年はがっくりとうなだれ両手を床についた。

「何をおっしゃられる。陛下。あなたがやらずに他の誰がそこに立つというのです」

眼鏡をかけ耳の尖った男が溜め息をつく。

と、両際からわらわらと異形の生き物が青年に駆け寄る。

「陛下ー。素敵でしたよ」

「そうですよーがんばってください」

「陛下。おつかれさまです」

「うう。ありがとう、スライムくんたち。僕、ちゃんとできてたかなぁ?」

魔王陛下14歳。花も恥じらう思春期の夏である。

 

「先代の陛下がみまかられてから早数年、そろそろ次の勇者が組織される頃でございます。陛下には彼奴らをきちんと返り討ちにしていただかねば」

「だからってこの恥ずかしい演技指導まで必要なの?」

男。側近は魔王の頭を丸めた台本でぽこんと叩いた。

「雰囲気というのは大切なのです。陛下」

魔王は眉根を寄せた。長い説教が始まる前兆である。

「良いですか?勇者達がココで全滅したとしますでしょう。そうすると我々が虫の息の彼奴らを国の端まで運搬して教会に回収させる訳です。ここで一つトラウマでも刻んでおかなければ彼奴らは何回も陛下に挑んで来るのですよ?害虫のように(略)徹底的に、残忍に(略)というわけです」

魔王は途中で側近の話をまじめに聞くのをあきらめた。

青年が魔王に即位して3ヶ月、毎日この演技指導(+側近の駄目だし)と戦闘指南は続いているが果たして役に立つのかは受けている彼自身にも分からない。

 

演技指導はこの通りただの羞恥プレイだし、戦闘指南は可愛いぼっちゃんに傷などつけられませんという担当のドワーフの一存でスポンジ製の剣でぱこぱこ殴り合うだけだ。

「こんなので本当に勇者に勝てるのかなぁ」

「ご心配なく、陛下までたどり着かせませぬとも」

ばぁんと大きな音を立てて半馬の男が部屋に入って来る。側近が受け流していた説教を止め、男を睨む。

「うるさい馬男。」

「はっはっは。側近。貴様の説教が長たらしいものでな。我が輩が陛下をお助けに来たまでよ」

男は魔王を軽々と掴み上げ背中に乗せた。

「後で○○ス。」

「ははは。物騒な。陛下、参られようぞ。」

この半馬の男はこの城の四天王の一翼である。かなり強い魔物だが鷹揚な人?柄で誰にでも親切なため、毎年数回勇者を案内してしまい軍法会議にかけられる問題児である。

魔王は側近にむかって馬上から叫んだ。

「殺し合いするときはちゃんと回復役と毒薬用意しておけよ」

側近はアンデットなので回復薬を浴びると最悪即死する。しばらくするとまた復活するが時間がかかるので毒薬を飲んで回復した方が効率的だ。

馬男は魔王を乗せたまま城をかける。

そろそろ教養の授業の時間か。

城に差し込む夕日に魔王は眼を細めた。

「いつか、僕たちがみんな勇者に倒されたらこの国はどうなるのかな」

「む。」

馬男が立ち止まった。

「…陛下。弱気を召されるな」

魔王を振り向いてにかっと白い歯を見せる。

「我々は常に勝つことのみを信ずる」

「でも僕はまだぺーぺーだし」

「皆最初は幼子ですぞ」

 

馬男は少し考え込み、魔王を降ろした。

「陛下。」

「…なn」

ゴッと固い音を立て魔王は吹き飛んだ。

首が壁に埋まり亀裂が走る。

「臆するは魔物の恥にございますぞ!!某は陛下にお父上、亡き先代陛下に代わり男の教育という奴を」

「なにやっとんじゃアホたれ」

馬男の頭に本が食い込んだ。

「む」

そしてゆっくりと倒れる。

「陛下がいくら丈夫つったって死んじゃうでしょう?馬鹿男」

人間の頭程の厚さのある本を片手で降りながら女が現れた。

魔王はなんとか自力で首を引き抜き、血まみれの顔で礼を言う。

「ごふっありがとう…蛇女さん」

女の半身は蛇になっており、動く度に床と擦れざりざりと音を立てる。四天王の蛇女だ。

「もう。本当に馬鹿なんだから」

蛇女は倒れ伏す同僚にしっぽの一撃を叩き込むと魔王の手を引いて図書室へ歩?を進める。

「途中から聞いておりましたが陛下は負けたときのことを考えても仕方がありません。先代様のように誰にも終わりは来るものです」

先代魔王は手ずから釣ったフグを食べようとして捌き、毒に当たって死んだ。

「う…ん。ありがとう。そうだよね。」

「陛下の全力をもって破れたなら我らも本望。どこまでも、ついていきますから。そんな不安そうな顔をしないでくださいまし」

蛇女はにっこりと笑った。

「みんなみんな生きているんですもの。どうしたっていつか負けます。」

「蛇女さん。なんでそんな負ける前提で話しw」

「さぁ、今日もお勉強ですよ。立派な魔王様になって下さいませ。今日は敗北の美学のお勉強ですよ」

「…うん。僕、がんばるよ」

 

色々引っ掛かることはありつつも、こうして魔王様の一日は今日も平和に流れていくのでした。

 

おしまい


 
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