No.395240

仮面ライダーディージェント

水音ラルさん

第32話:ドッペルK/風の吹く街

2012-03-20 19:43:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:285   閲覧ユーザー数:285

その女性は深夜の街中を必死に走り回っていた。

まったく見覚えのない道。まったく見覚えのない何本も建っている風車。そして…何が起こったのか全く覚えていない自分。

彼女は気が付くと見知らぬ場所にいたのだ。いや、もし知っていたとしても恐らく何も分からないだろう。自分の名前すら覚えていないのだ。

しかし、今どうして必死に走っているのかは分かる。

 

「は…っ!は…っ!は……っ!!」

『待てえぇぇぇ!!』

 

先程から追いかけて来る火の塊から逃げる為だ。

その火の塊には、まるで岩石の様な下半身が備わっており、それを人と同じように動かしてこちらに迫って来る。

更に炎の中心には人を思わせる顔が形作られており、その眼光はまっすぐ自分を捉えている事くらい、後ろを振り向かずとも容易にイメージできる。

 

「きゃあああぁぁぁ!!」

(何で…何で追いかけられてるの!?私!?)

 

女性は悲鳴を上げながら必死に足を前へと動かしながら自問自答した。

 

何故自分が追いかけられているのか皆目見当がつかない。

彼女が気が付いてしばらくしたのち、見知らぬ男がやって来て、そいつが「ドライバーを渡せ」と言い放った途端、メモリスティックを自分の腕に刺し、今追いかけて来る火の怪人になったのだ。

記憶が無くなる前に、何かしたのだろうか?

 

「は…っ!は……きゃ!?」

 

しかし今まで走って来た疲労が足に溜まって来たのか、足をもつれさせてしまって転んでしまう。

 

『よぉし…ようやく止まったなぁ……』

(誰か…誰でもいいから…助けて……!!)

 

このままあの火の怪人に捕まってしまえば、自分がどうなってしまうのか分からないが、少なくとも碌な目に合わないに決まってる。

女性は迫って来る火の塊から目を背けて、次に襲って来るであろうあの怪人の高熱を帯びた腕が自分に触れる瞬間に身構えた。

しかし、その手が迫って来る事はなかった。

 

『んん?何だお前は、俺の邪魔をするなあぁぁぁ!!』

「ハイハイ。随分とウルサイこってぇ。とりあえず、永久に眠っとけぇ」

(……な、何が起きたの?)

 

女性は恐る恐る目を開いてその怪人の方を向くと、そこにはエメラルドの様に輝く鎧をまとった戦士が自分と怪人の間に立ちはだかって間延びした口調で怪人に挑発をしていた。

 

 

 

 

 

その戦士が現れてから約半日たった頃……

 

亜由美と歩は、ファイズの世界から出たのち、いたる所で風車が回っている街中へ出ていた。

時刻は丁度昼ごろと言った感じで、春の温かい微風(そよかぜ)が何とも心地よい。

しかし白いスーツと白いソフト帽という、中々に渋いファッションを身に着けた歩の方は何やら不機嫌そうな面持ちで考え込んでいる様子だ。

 

(やっぱり、好太郎さんがした事が気に入らなかったのかな?)

 

亜由美には彼が何故思い悩んでいるのかの察しが付いた。

正幸との会話を一通り終え、美玖の見舞いに行く事になったのだが、その病院に行くと美玖はすっかり灰化の症状が治まっていたのだ。

 

章治の話によると、「好太郎が美玖の中のオルフェノクを消したことで、寿命が元の人間と同じ物になった」とのことで、歩はその話を聞くと「それでは僕たちはすぐに別の世界に行きます」と三人に告げてその場を後にしてしまったのだ。

それに慌てて着いて行く形でちゃんとしたあいさつも出来ずに、こうして別の世界まで来てしまったのだ。

 

やはり歩にとって一人の人間よりも世界の方が大事なのだろうか。

確かに下手に歴史を改変すれば何が起こるか分かったモンじゃないのは亜由美にも分かってる。

それでも、目の前の人を助けられるんだったら、その先何が起ころうが助けた方がいいのではないだろうか。

そんな思いを込めて歩に話しかけてみた。

 

「ねぇ歩。やっぱり、好太郎さんのした事って間違いだと思ってる?」

「……いや、そうは思ってない。でも……」

 

歩は好太郎のした事もある程度理解している様だが、やはりどこか納得がいかないのか口籠ってしまう。

歩にとっても、それが正しい行為だったのか分からない様だ。

 

亜由美はこれ以上話しても進展しそうにないし、歩にもまだ判別が付きそうにないと判断すると、別の話題を持ち出す事にした。

まずはこの世界が一体何の世界なのかと聞こうと思ったが、今日(と言うよりもファイズの世界)での正幸とのやり取りを思い出し、自分の代えの服が必要な事を思い出した。

そうと決まれば、まずはこの話題からだろう。

 

「それじゃあこの話題はおしまい!とりあえず私の代えの服欲しいからさ、一緒に行こうよ。と言っても私お金ほとんど持ってないから歩に買って欲しいんだけど、いいかな?」

「……服?」

「ほら私って、歩と一緒に旅する事になってからずっとこの制服しか来てないんだよ?女の子だったら着替えの一着や二着欲しがるもんだよ。だからお願い!買って…?」

 

亜由美は“服”と言う単語にキョトンとする歩に、手を合わせて懇願した。

 

毎回服装が勝手に変わる歩にとっては些細な問題なのだろうが、こちらにはそんな都合のいい能力なんて持ち合わせていないし、財布は元の世界に置いてきた通学カバンに入れっぱなしだったので、今の亜由美の所持金は、スカートのポケットの中に入れていた小銭入れに入っている500円くらいしかないのだ。

 

着替えが無いとなると女子にとってはぶっちゃけ死活問題。

 

それを理解したのか、それともこれ以上好太郎の話題をしない様に気を利かせたと思ったのかは分からないが、歩は一拍置いて「いいよ」と言って頷いた。

亜由美は心の中で小さくガッツポーズをし、歩の手を引いて早速目当ての洋服店がありそうな人が賑わう街の中心へ目指す事になった。

 

二人が通り過ぎた看板にはこの街のPRを兼ねた風車の形をしたマスコットと、来訪者を歓迎する“ようこそ!風の吹く街・風都へ!!”という宣伝文句が書かれていた。

 

 

 

 

 

都心から少し離れた桟橋の手摺りに凭(もた)れ掛かったまま眠ってた前髪の長い金髪の青年…ヴァン・アキサメは目を覚ました。

 

昨夜、劣勢になって逃げ出したマグマドーパントを倒そうと追っていたのだが、途中で見失ってしまい仕方なく諦めてここで寝る事にしたのだ。

常人であればこんな場所で絶対に寝ないであろうが、彼の場合はどこであろうがとにかく寝ようとする。

 

「……んぁ…今、何時だぁ?」

 

ヴァンは眠気眼で徐(おもむろ)にそうぼやきながら腕時計を見た。

時刻は既に12時を迎えており、彼が眠りについてから既に時計の短針が一周してしまっている。

 

「あぁ~もうこんな時間かぁ~」

 

そう呟きながら空を見上げた。

空にはうっすらと白い雲が薄く膜を張っており、青空を淡く染めている。

それをしばらくボーッと見続けていたが、やがて大きく欠伸をすると溜め息をついた。

 

(やっぱりここでもねぇ…ここでも“声”が聞こえる……)

 

ヴァンは随分前から不眠症だ。

一応浅い眠りになら就けるのだが、そこから更に深い眠りに入ろうとするとあの時の“声”がフラッシュバックしてしまう。

 

この力を手に入れてからは、何時か声の届かない場所に辿り着けるのではないかと様々な世界を渡って来た。

しかし自分でも分かっているのだ。例え世界の果てだろうが異世界だろうがどこまで行っても“声”は構わず追って来る。

この“声”は一生自分に纏わりつくだろうが、そんな運命なんてまっぴらゴメンだ。

 

(ま、ここで立ち往生しても仕方ねぇし、朝飯でも食いに行くかねぇ……)

 

手摺から身体を持ち上げてとりあえず遅めの朝食(と言う名の昼食)を手に入れる為に都心へと向かおうとした。が……。

 

「……何これホームレス?」

 

都心へと向かう進路方向に、どこかで見覚えのある人物がうつ伏せに倒れていた。

 

ヴァン自身は眠気が増していたので覚えてはいないが、見覚えがあって当然だ。

何故ならその人物は昨夜マグマドーパントに襲われていた女性だったのだ。

 

後ろの髪を三つ編みにした長い茶髪で、その下に見える上の服は濃紺のカーディガン、下は白いショートスカートという誰がどう見ても女性と断言できる容姿だ。

 

何時からそこに倒れていたのか分からないが、少なくとも自分が寝ている間になんやかんやあって倒れてしまったのだろう。

 

そのなんやかんやと言うのが何か分からないが、ヴァン自身にも分からないのだから仕方がない。

ただの酔っ払いであればそのまま放置してもよさそうなのだが、こんな美人(推定)をこのままにしておくのは些か良心が痛む。

 

ヴァンは軽く後頭部を掻いた後、その女性の傍でしゃがんで肩を揺さぶった。

 

「お~い、起きろぉ~。もう昼だぞぉ~」

 

暢気な間延びした口調で声を掛けながら揺さぶり続ける。

するとやがて「うぅ……」と言う呻き声が女性から聞こえ、ゆっくりと顔を持ち上げた。

 

(おぅ…こりゃ美人だ……)

 

彼女の顔はどこかでモデルをやっていてもおかしくないほど整っており、自分より二つか三つほど年上のクール系なお姉さんと言った感じだ。

最初は目の焦点が合っていなかったが、徐々に意識をハッキリさせていく事と比例して目に意識が宿って行く。

 

「……貴方は?」

「ん、俺?ヴァン・アキサメ。アンタは?」

 

ようやくヴァンの存在を認知出来たのかそう訊ねて来たので、簡単に自己紹介をして今度はこちらから彼女と同じように名前を訊ねた。

 

「私…は………分からない」

「……はい?」

「何も…思い出せない……」

「おいおい、今時記憶喪失ネタとか古いぞぉ……」

 

女性からの予想外の返答に、誰にでも無くぼやくヴァンであったが、彼女をこのままにしておくのも何なので、まずは彼女の持ち物から調べる事にした。

 

「まぁまずは自分のポケットにあるもん全部出してみ。免許証とか入ってるかも知んないしぃ~」

「あ、はい」

 

そんなやり取りをしながら立った葵は、まずカーディガンのポケットに入っていた財布を出して中を開くと、三万ほどの所持金と大型二輪の免許証が入っていた。

そして免許証の名前の欄には「来栖(くるす)麗奈(れいな)」と記されていた。

 

「来栖麗奈…らしいです……」

「ふぅ~ん、そうかい。それで、何でこんな所で何時の間にやら倒れてたんだぁ?」

「それは…見覚えのある物を見かけて…それを追いかけている内に気を失ってしまって……」

「見覚えのある物?なんだそりゃあ?」

「……すいません、それ以上は言えないです。それに関する記憶もないんですけど、そう簡単に人に教えてはいけない様な気がして……」

「あっそ。まぁ身元も分かったわけだし、俺はこれで失礼させてもらうぜぇ~。面倒事嫌いだしぃ~」

「あ、はい。ご迷惑をおかけしました」

 

その会話で打ち切りにし、ヴァンは朝食を食べに都心へと歩みを進めようとしたが……

 

『ヨッシャアアァァ!見つけたぜええぇぇぇ!!』

 

その絶叫と共に桟橋の下にある水中から何かが飛び出し、麗奈の後ろに降り立った。

その外見は一言で言えば巨大な古代エビだった。

大きな黒い目を持ち、ある種の愛好家に愛着を抱かせそうな瞳をしているが、その下にある甲殻類独特の口がまた不気味さを醸し出している。

 

その謎の生き物の名はアノマロカリスドーパント。昨夜逃がしたマグマドーパントの同族である。

 

『さぁ、お前の持ってるドライバー(・・・・・)を寄越しなぁ!!』

「きゃああ!!」

「ゲッ、気色悪いの出たぁ……」

 

麗奈がパニックに陥っているのを余所に、ヴァンはアノマロカリスドーパントの容姿を見てテンションが駄々下がり状態だった。

しかし、麗奈を放っておくわけにもいかず、仕方なく一人と一体に駆け寄り……

 

「気色悪いんだよ変態」

『ぐべっ!?』

 

アノマロカリスドーパントの顔面に飛び蹴りを喰らわせた。

それには堪らず踏鞴を踏み、その隙に麗奈に逃げるように促す。

 

「お前はとっとと離れた方がいいぜぇ。後は俺が処理しとくから」

「そ、そんなことできません!第一、それは人の敵うものじゃありませんよ!?」

「大丈夫大丈夫。俺、こう言うヤツ専門だしぃ~」

 

そう言いながら次元断裂を展開させ、そこからエメラルドグリーンの刀身を持つ刀…ディバイドライバーと、更に一枚のカードもクラインの壺から取り出す。

 

「え!?」

『イテテ…ん?何時の間に武器なんか持ったんだ?』

 

目の前の不可思議な現象に麗奈は思わず驚嘆し、その現象を見ていなかったアノマロカリスドーパントは顔面に蹴りを入れた相手が何時の間にか得物を持っている事に首を傾げる。

 

「さてっとぉ……海老の活け造りでも作ってみますかねぇ~。食わないけどぉ~」

 

そうぼやきながらヴァンは、ディバイドライバーの鍔に設けられたスリットにカードを挿入した。

 

[カメンライド……]

 

「変身っとぉ」

 

電子音声が鳴り響いたのちに音声コードを間延びした口調で宣言して剣を虚空に振った。

 

[ディバイド!]

 

今度はカード認証音声が発せられ、剣を振った箇所にパックリと次元断裂が開き、それがヴァンヘと迫ってその身体をまるで布で覆い隠すかのように包み込んだ。

更に灰色の人型の形状になったヴァンに、次元断裂が展開していた場所に剣をふるった時に同じく出現していた二枚のライドプレートが縦回転しながら灰色のノッペリとした顔にV字に突き刺さる。

その瞬間そこからモスグリーンに身体全体が染め上がるが、すぐに鮮やかなエメラルドグリーンへと変色し、二つの赤い複眼が光ってその変化を完了させた。

 

黒地のスーツにエメラルドグリーンのシャープな装甲。腹部に設けられたそのライダーを示すクレストが映された画面が付いている無骨なバックル。

その真上から二股に別れた白いラインでV字を描いた胴体。その先端は肩にまで達しており、その辺りで丁度ラインが真横に曲がっている。

そして顔に突き刺さったライドプレートは顔に完全に埋め込まれる形で突き刺さっており、顎から頭頂部へ突き出している。それはさながら二本の触角に見えなくもなく、二枚のプレートの一角に青いシグナルポインターが付いていた。

 

その変化を垣間見た麗奈とアノマロカリスドーパントは呆気に取られるが、アノマロカリスドーパントは逸早(いちはや)くこの事態に復帰し、目の前の異形に疑問と驚愕の声を掛けた。

 

『お前、まさか仮面ライダーか!?』

「アンタの思ってるヤツとは多分別人だと思うけど、確かに俺は仮面ライダーだぜぇ。仮面ライダーディバイド…とでも呼んでくれぇ」

 

そのライダー…ディバイドは後頭部を軽く掻きながら、ヴァンと同じ口調でアノマロカリスドーパントに言い放った。

 

「仮面…ライダー……」

 

 

 

 

 

都心の中心部で目当ての物を一通り買い終え、亜由美はもう一つ重要な事を思い出したので、歩に訊ねた。

ちなみに荷物は全部歩が持ってたりする。

その理由は「僕が荷物持つよ。女の子には辛いだろうからね」という、歩からの直々の申し出があったからだ。

別に半分くらいなら自分が持つと言うのに、彼は頑なに全部持つと言ってのけたのだ。

そこまでしなくていいのにと思ったが、折角なので持ってもらう事にしたのだった。

 

「ねぇ歩、ここって一体何の世界なの?」

「ここは“サイクロンの世界”って言うらしいよ。それも、僕たちが渡るべき九つの世界とは無関係の世界だね」

「え?じゃあ、何でここに来ちゃったの?」

「渡るべき世界じゃないにしろ、ここに来たと言う事はこの世界に何らかの異常が起きてると言う事。それを放っておく事なんて、出来る?」

 

歩は分かりきっていて亜由美にそんな事を聞いている様だ。そんなの、答えは一つに決まってるだろう。

 

「出来ない。でしょ?」

 

亜由美がその答えを導くと、歩は満足そうに微笑んだ。

やはり自分と同じ答えが返ってきて嬉しいのだろうか。歩は何時もよりテンション高め(傍目から見ると分からないが亜由美には何となく分かる)に次の行き先を告げようとした。

 

「そう言う事。じゃあ早速この世界の移住先に行って……」

「駆(かける)!やっと見つけた!!」

 

歩が言い切る前に突然背後から何やら聞き覚えのある女性の声が聞こえたかと思うと、その何者かが歩の腕を掴んでそちらへ振り向かせた。

 

(ん?なんだろ今の声、どっかで聞いた事がある様…な……)

 

亜由美もその人物を見る為に振り返ると……思わず口が開いて動かなくなってしまった。

 

「………ッ!!」

「あ…すいません、人違いでした……」

「いや、気にしなくていいですよ」

 

歩は普段通りに抑揚のない口調で接しているが、彼女の顔をよく知る亜由美にとってはそうはいかない。

一見すると男性が着ている様な白いYシャツの上に黒いベストを身に着け、歩と同じ白いソフト帽を被った小柄な女性…いや、少女だった。

癖の強そうな亜麻色の髪を肩辺りまで伸ばしており、ツリ目な印象があるが美人の部類に入る事は間違いない。

 

まさしくその少女は…藤原加奈その人だった。

 

「加奈!!?」

「え?あの…加奈って誰?」

「何言っちゃってんの!?あの時モゴガッ…!!」

「あぁ、すいません。この子の知り合いに似てたもので……」

「ンムゥーッ!!」

 

亜由美が言い切る前に歩がその口を塞いで黙らせた。

歩の手を振りほどこうと必死に暴れるが、まるで鋼鉄の如くビクともしない。

 

ヤバい…そろそろ窒息しそう……。

息が詰まり、意識が朦朧として来たその時……

 

「あの…そろそろ放してあげたらどう?苦しそうよ?」

「あ、ゴメンね」

「ブハァッ!!」

 

加奈らしき女性の言葉で、歩が亜由美を締め上げている事に気が付き、ようやく解放された。

あぁ、空気がおいしい……。

その様子を見ながら笑いを堪えた表情で加奈らしき女性は、亜由美に話し掛け始めた。

 

「私って、そんなにアナタの知り合いに似てるわけ?」

「……ウン。私の幼馴染に、大分……」

 

亜由美は息を整えながら話しかけて来る彼女を見た。

その姿は完全に彼女の生き写しであるが、話し方はまるで他人事の様であった。

いや、実際に他人事なのだろう。本物の加奈はあの時間の止まった世界でずっと止まったままなのだ。

つまりこの目の前の加奈は全くの別人。歩が言う所の異次元同位体なのだろう。

早くまた加奈や皐月に会いたいな……と若干ホームシックに浸っていると、その加奈らしき女性は亜由美の言葉を聞いてイタズラっぽく話しだした。

 

「あらそうなの?でも一応言っておくけど多分私、アナタよりずっと年上よ?」

「……ヘ?」

 

加奈らしき女性の突然の年上宣言に、思わず呆けた声が漏れた。そのチンチクリンな体型で一体何を……。

 

「……ねぇ今、すっごく失礼な事考えてなかった?」

「え!?いやいや!そんな事これっぽっちも考えてナイデスヨ!?」

「最後が片言になってるわよ……」

 

もし目の前の人物が加奈本人だったら間違いなく脳天チョップが襲い掛かって来ていただろうが、しかし彼女はそんな事はせずに深く溜め息を吐くと、諦めた感じでぼやいた。

 

「ハァ~……。確かに私って子供みたいな体型だからそう思われるのもしょっちゅうだけどさぁ……流石に28にもなってこれはねぇ……」

「28!!?」

 

いくらなんでも歳離れ過ぎでしょ!!そう叫ぼうとしたが、亜由美が28と反芻した時点でちょっと睨んできたので叫ぶに叫べなかった。

正直、加奈より怖かった。

 

「それで、貴女の事は何と呼べばいいんですか?」

 

先程から黙って見物していた歩がこの空気を打破すべく(単に空気読んでないだけかもしれないが)話題を彼女の名前にすり替えた。

 

「あ、そう言えばそうですね。何て名前なんですか?」

 

心の中で歩にサムズアップしつつ、同じく女性に亜由美は問い掛けた。

 

「あぁ、私の名前は藤原(ふじわら)楓(かえで)っていうの。アナタ達は何て言うの?」

「私は須藤亜由美って言います。それでこっちは……ってアレ?歩?」

 

歩の方を振り向くが、そこには今まで歩が持ってくれていた荷物と何かの書き置きがあるだけで、その書き置きを読むと、走り書きでこう書かれていた。

 

“しばらくその人と一緒にいて。出来るだけ早く戻る”

 

「……ってまたですかあぁぁぁ!!?」

 

 

亜由美は龍騎の世界でのやり取りを思い出しながら、やり場のない怒りを心地好い風が吹く青空へと叫ぶ形でぶつけたのであった。

 

「何だか大変そうね……」

 

そしてそれを動物園にいる動物を珍しそうに見るような目で、暢気に楓は呟いていた。

 

 

 

 

 

(確か、この辺りで感じたね……)

 

歩はある気配に勘付いて、都心から少し離れた港まで来ると、あたりを見回した。

何故ならこの辺りで自分と同じDシリーズの気配があったからだ。

それも近づく毎に強さを増していき、更にもう一つDシリーズがこの世界に来ている事が判明した。

一つの世界にDシリーズが三つも来ている。しかもその内の二つが好き勝手に事象を弄ってしまう可能性は極めて大だ。

そうと決まればできるだけ早く接触して何かやらかす前に釘を打っておく必要がある。

 

そんな事を考えながら桟橋の方を見かけると、それはいた。

エメラルドグリーンのシャープな装甲に、顔にV字に突き刺さった二枚のライドプレート。

そして装甲と同色の刃を持った日本刀型の武器。

間違いなくDシリーズだ。

それを視認した瞬間、歩の中にそのライダーの情報がディージェントドライバーを通して伝わってきた。

 

(仮面ライダーディバイド…相手の力を分割し、一時的に取り込む能力を持った“アビリティディバイディングシステム”……。Dプロジェクトに於いて、相手の能力の半分を奪い、その場で分析させる事を目的とさせている…か……)

 

どうやらアレはサポート寄りのDシリーズの様だが、戦闘力はそれなりに高い。

現に今、ディバイドが戦っているアノマロカリスドーパントを圧倒している。

 

どうやら近くにいる腰が抜けてへたり込んでいる女性を守るために戦っている様だが、彼女もDシリーズであることもまた事実だ。

彼女が一体どんなシステムのDシリーズなのかは、変身した状態を見ていないため不明だが、少なくとも今は変身できないようだ。

 

(まずはあのドーパントを何とかするべきかな?)

 

ディバイドにはシックスエレメントを素体の状態のままで変質させる能力は備わっていない。

このままでは、中の人間も確実に殺してしまう可能性も高い。そうなればこの世界で本来死ぬはずのなかった人間が死ぬという事象が起きかねない。

そう思い立った歩は、その桟橋に無言で近づいて行った。

 

 

 

 

 

麗奈はディバイドと名乗った戦士とアノマロカリスドーパントの戦闘をその目に焼き付けていた。

アノマロカリスドーパントが口から何かを牙の様な形状の弾丸の様に吐き出して来るが、ディバイドはその手に持った剣を片手で振り回す様に動かしてその弾丸全てを叩き落すと、今度はこちらの番だとばかりにアノマロカリスドーパントに接近し逆袈裟に剣を振るって火花を散らさせた。

 

「あらよっとぉ~」

『ぐぉあっ!?』

 

緊張感のない掛け声にも関わらず、その一閃はなんの迷いもなくただただ敵を斬り付ける。

アノマロカリスドーパントはその斬撃に溜まらず踏鞴を踏み、さらなる追撃を許してしまう。

 

「も~一発っとぉ~」

『ぎがっ!?』

 

そんな圧倒的な戦闘を見ながら麗奈の頭の中である光景がフラッシュバックする。

 

深紅と黒のあの戦士に似たモノが苦しそうに何らかの施設で暴れ回り、それに必死に手を伸ばしながら駆け寄って行く自分……。

 

それ以降の事が何一つ思い出せないが、自分が仮面ライダーと呼ばれる存在と、何らかの関係がある事は間違いなさそうだった。

 

(私は…一体何者なの……ん……?)

 

そう思っていると、コツッコツッと言う靴を鳴らす音がこちらへ近づいてくる音が後方から聞こえて来た。

何なのだろうかと後ろを振り返ってみると、白い服と帽子を身に着けた紳士風の男がこちらに歩いて来ているのが目に入った。

その目はまっすぐにディバイドとドーパントの戦闘を凝視しており、それに何の躊躇いのない足取りで、コツッコツッと足音をを鳴らしながら、ただただその渦中へと近づいて行く。

 

「あ!来てはいけません!!」

 

麗奈はその男に警告を発するが、彼はそれを無視してディバイドとドーパントに近づいて行く。

 

「ん?何やってんだお前?今忙しいからあっち行ってろ…よっとぉ~!」

『ぐぇあ!?』

 

ディバイドもその存在に気付き、離れるように警告しながら日本刀型変身ツール・ディバイドライバーで迫りくるドーパントを片手で切り払う。

腹部から激しく火花を散らしながら仰向けに倒れ、その瞬間にドーパントもようやくそのイレギュラーの気配に気づく。

 

『あぁ!?見てんじゃねぇよゴラァ!!』

 

そうアノマロカリスドーパントは一喝すると、まるで唾でも吐き捨てるかのように、男に向かって口元に生えている牙を口から飛ばした。

 

「危ない!避け……ッ!?」

 

しかし、その牙の弾丸は男に当たる事はなく、目の前に突如として現れた灰色に濁った窓の様な物にぶつかってポトリと落ちていった。

 

「え……?」

「……ほぉ~う。なるほどなぁ」

『な、何しやがったんだテメ…ブフォ!?』

 

麗奈が呆気に取られ、ディバイドが間延びした口調で納得し、丁度立ち上がったドーパントが言い切る前にその灰色の窓はドーパントの前面にぶつかって貼り付いた。

 

『な、何だこの壁!?かてぇのか柔らけぇのかよく分かんねぇし身動き取れねぇ!!』

(な、なんか…ゴキブリみたいになってる……)

 

ドーパントは次元断裂から離れようともがくが、それは遠くから見ればゴキブリが罠に掛かってカサカサ動いている様な感じになっていた。

しかも麗奈はその裏面を半透明の壁越しに遠くから見てしまっているので、気持ち悪さが増大している。

 

「……君には少し離れた所にでも行っててもらおうか」

『ま、待て!俺はそこの女に用が……』

 

その紳士風の男はそう抑揚のない淡々とした口調でそうドーパントに言い放つと、ドーパントが再び何か言いきる前に窓の中に飲み込まれ、その窓ごと姿を消した。

 

 

 

 

 

歩はドーパントを人気のなさそうな場所まで転移させると、呆然とこちらを見ている女性の方へ振り向いた。

まぁすぐに帰って来れるだろうが、帰って来た頃にはここにはもう誰もいないだろう。

 

「ア、アナタ達は一体……」

「君の同類…とでも言っておこうかな?」

「おぉいそいつ、記憶喪失らしいからそんな事言っても分かんねぇと思うぞぉ~?」

「……成程ね。それで変身しなかったのか」

 

ディバイドは変身を解除しながらそんな緊張感の欠片もない口調で歩に話しかける。

歩もその内容に納得し、頷きながらその女性に近づいて手を差し伸べた。

 

「立てるかい?」

「あ、はい。ありがとうございます……」

「それにしても、アレを出したって事はアンタもひょっとしてライダーなのかぁ?それにその言い方だと、麗奈もライダーみてぇだが……」

 

ディバイドであった金髪の青年は、目を覆い隠すほどに長い前髪からチラリと見える半開きの瞳で歩とその手に捕まって立ち上がる麗奈と呼ばれた女性を見据える。

それが警戒している物なのか、それとも何とも思っていない物なのかは歩には断定できないが、少なくとも後者の可能性が高い。

 

「まあ、それは順を追って説明させてもらうよ。“アビリティディバイディングシステム”・仮面ライダーディバイド」

 

そう判断すると、歩は二人に自分の素性と目的を明かす事にした。

 

麗奈はその単語を聞いて頭を押さえながらその聞き覚えのある言葉を反芻した。


 
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