No.395219

仮面ライダーディージェント

水音ラルさん

第24話:道化師デルタ

2012-03-20 19:32:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:348   閲覧ユーザー数:348

歩が章治の気配を感じなくなる数十分前……

 

ホースオルフェノクに変化した正幸はミラーモンスターに突っ込んだがその巨大な翼で叩かれてしまい、章治の研究室からドアをぶち破って廊下に飛び出した。

 

「うわっ!社長!?どうしたんですか、オルフェノク態になって!?」

『早く逃げろ!襲撃だ!!』

 

丁度そこを通りかかった所員は、ホースオルフェノクに変化した正幸を見て、驚いた拍子に拭いていたメガネを落とし、狼狽しながらも訪ねて来るが今はそれどころじゃない。

 

『ギュアアァァァ!!』

「え!?うわあぁぁぁ!!」

『く、遅かったか…!!』

 

所員に避難するように命令を出すが、その瞬間ミラーモンスターが部屋から飛び出して所員を鉤爪で掴み、一瞬で所員が落としたメガネの中に吸い込まれるように消えて行った。

 

(まさか、本当に引き摺りこまれて…生きていると考えるのは難しいな…次は一体どこから……)

「社長!何ですか今の悲鳴は!?」

 

そこにまた別の所員が騒ぎを聞きつけて現れ、ホースオルフェノクは彼に指示を出した。

 

『襲撃だ!今すぐこの事を全員に知らせて非難しろ!!後誰でもいいからライダーズギアを!!』

「は、はい!了解しました!!」

 

少なくとも、オルフェノク態で戦うよりライダーになって戦った方が効率が良い。その為のライダーズギアだ。

現在オーガギアはメンテナンス中で使えないだろうが、以前ここに来た時に渡したカイザギアなら何とかなるだろう。

オーガより若干スペックは低いが無いよりはマシだ。

 

『キュアアァァァ!』

「え!?うわああ!!」

『く…!お前の相手はこっちだ!!』

 

ホースオルフェノクの指示に従ってきた方向へと戻る所員に再びあの不死鳥が襲い掛かるが、ホースオルフェノクはそのメガネから飛び出して来たミラーモンスターの両足を掴んで動きを止めようとする。

 

『ギュアアァァァ!!』

『は、早く行け!長くは持たない!!』

「は、はいぃぃ!!」

 

一時的に動きを止める事は出来たがどんどん引っ張られてしまう。ここでまた犠牲者を増やしてたまるか!彼らは…俺の大事な仲間だ!!

 

 

 

 

 

廃墟となったホテルの前ではディジェクトとデルタの二人のライダーによる攻防が繰り広げられていた。

 

「とりゃっ!おぉりゃぁっ!!」

「グゥッ!?ガアァッ!!」

「なっはっはぁ!そんなトロい攻撃なんて喰らうかい!!」

 

ディジェクトはデルタの体術で翻弄されて行く中で何とか反撃しようと拳を振るうが、デルタはそれをブリッジして軽々と避けた。

 

ディジェクトのバトルスタイルは全てを蹂躙するかの様な力押しの攻撃特化型。それに対してデルタはまるで踊っているかのように流れる体術によるトリッキー型だ。

スペック上ではディジェクトの方が圧倒していると言うのに、デルタのその独特なバトルスタイルの所為で中々こちらの攻撃が当たらないのだ。

 

「よっとっとっは!」

 

デルタはブリッジの状態から軽業師の様にバック転しながらデジェクトの攻撃範囲から離脱した。

その隙にディジェクトは一枚のカードをカードホルダーから取り出し、バックルに挿入させる。

 

[アタックライド…ファング・ショルダー!]

 

電子音声が鳴り響くと同時に、両肩に備えられているライドプレートが湾曲したブレードに変質し、それを掴んで投げ飛ばそうとするが……

 

「ハイッ!ここでリターンや!!」

「何っ!?グォッ!?」

 

デルタはバック転していたかと思えば突然態勢を低く構えてそこから飛び掛かる形でディジェクトにフライングクロスチョップを胸部にぶつけて来た。

その予想外の攻撃にはディジェクトも反応できず、吹き飛ばされてしまった。

 

(チッ!この道化が…!!)

 

その動きはまさに曲芸。更に言えば、道化師だ。

 

章治は本来それほど強いオルフェノクではない。しかし、それを補うために造ったのが自分専用の最初のライダーズギア・デルタギアなのだ。

正幸の“夢”には自分も共感している。だからこそ友として足手まといになりたくないと思ってライダーズギアを造ったのだ。

 

まあ、これを造るのにそれなりの理由として“王”を守るためだの、裏切り者を倒すためと言った理由を勝手にこじつけて正幸に許可をもらったのだが、自分がその両方になるとは何とも皮肉な話である。

 

「何やロン毛、強そうなのは見た目だけかいな」

「……フン、それはどうかな」

 

[アタックライド…リジェクション!]

 

デルタは挑発してくるが、それを簡単に受け流しながら吹き飛ばされながらも取り出しておいたカードをバックルに挿入し発動させた。

ここからが本番だ……。

 

「(今使ったカードはなんや…?まずは様子見しといた方が良さそうやな……)ファイア」

 

[バースト・モード]

 

「ホイっと」

 

デルタは相手がどう出て来るか見定める為に、デルタフォンをデルタムーバーと連結させた状態で取り外し、認証コードを唱えてフォトンブラッドで生成されたエネルギー弾をディジェクトに一発撃ち出した。

 

「……フォトンブラッドを拒絶する」

 

ディジェクトは撃ち出す直前を見極めてフォトンブラッドを拒絶対象として宣言し、自身に命中したエネルギー弾をデルタに跳ね返した。

 

「へ……?ウソン!?たっとっと、ヘブッ!?」

 

これはさすがに想定外だったのか、見事に跳ね返されたエネルギー弾に直撃し、装甲から火花を飛び散らさせながら踏鞴(たたら)を踏んで、思わず何もない所で躓いて不格好に倒れた。

 

(イッタァ~…流石は異世界のライダーズギア…何でもアリやな……)

 

デルタはエネルギー弾が直撃した右肩の装甲部分を擦ってどれくらいのダメージを受けたのか確かめた。

 

(……この損傷レベルからして、そのままの威力で反射するらしいなぁ。そして、あのロン毛は“フォトンブラッドを拒絶する”と言っていた。

……ってぇ事はさっき使っとったカードは“宣言した物を跳ね返す”能力を発動させる為のカードキーやったって事やな。

ホンッマにスゴイなぁ…あんなモン、この世界の文明レベルやと造れへんで……)

 

デルタは先程の現象を解析し、一瞬で「リジェクション」の効果を見抜くと、仮面の奥でニヤリと笑った。

 

(つまり、逆に言えば“宣言した物以外は対象外”って事や。やったらさっきみたいに接近戦でも十分イケるわな)

 

倒れてからそこまで考えるのに約2秒。デルタは下半身で反動を付けて起き上がると、デルタフォンを元の位置に戻して再び接近戦に持ち込む為にディジェクトに突っ込んだ。

それに対してディジェクトは佇んでいるだけで、どうせ反応できずに呆けているだけだと思いながらフェイントをかけつつ回し蹴りを側頭部へと放った。が……

 

「……物理干渉を拒絶する」

「へ?ってのわああぁぁぁぁぁ!?」

 

放った右足がディジェクトに触れた瞬間、デルタは錐揉み回転しながら吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

ファイズが研究所に辿り着いた頃にはその彼方此方から火の手が上がっていた。

その内部に入ると、火の手が回る中、オルフェノクではない者達は避難し、オルフェノクである者達はオルフェノク態や現在開発中だった量産型戦闘用特殊強化スーツ・ライオトルーパーと呼ばれるファイズを簡易化したパワードスーツを着用して暴れ回っているミラーモンスターの迎撃や研究所の消火活動を行っていた。

そしてその中には、紫色の円にΧ(カイ)のラインが入った大きな複眼に、黒地のボディスーツとファイズより少し派手な銀色の胸部装甲。

そしてその装甲や四肢に黄色いフォトンストリームのラインを走らせたライダー・カイザがいた。

 

「避難の方はどうなってる!?」

「はい!ほぼ全ての非戦闘の者達の避難を完了させました!!」

 

そのカイザの声には聞き覚えがあった。どうやらあのカイザの変身者は正幸の様だ。

恐らく、オーガギアがメンテナンス中の為、代わりに以前メンテナンスを頼んだカイザギアがあったのでそれで変身したのだろう。

 

「そうか!ならお前達も早く避難しろ!!」

「そんな!?社長一人を置いて逃げる事なんて出来ません!!」

「お前達では戦力外だ!他の者達にもこの事を伝えて逃げろ!!」

「………」

 

その言葉を聞くと、ファイズはゆっくりとカイザにツカツカと近づいて静かに言い放った。

 

「それは出来かねますよ社長」

「美玖!?何故ここに!?」

「襲撃があったと連絡が来たんです。それよりも前を見てください社長!来ますよ!!」

『キュアアァァァァ!!』

 

ファイズはカイザに近寄って上司の言葉に反した。

カイザはここにファイズがいる事に驚くが、ミラーモンスターが鏡面化した機材の中から飛び出し、こちらに迫って来た。

それを寸での所で横に跳んでかわすが、何人かの社員がそれを避けきれず、その大きな嘴と鉤爪に捕らえられてしまった。

 

「ぐあぁぁぁ!!」

『こ、コイツ…放せ!!』

 

そのライオトルーパーとトビウオ型のオルフェノク・フライングフィッシャーオルフェノクの抵抗も空しく、すぐに別の鏡面化した機材の中に飲み込まれてしまった。

既に何人かの社員達はああやって鏡の中に引きずり込まれている。

 

「く、またやられてしまったか……」

「社長、もしかして悔やんでいるのですか?」

「当たり前だろ、俺の力が足りない所為で……」

「……社長、こちらを向いてください」

「え……グッ!?」

 

ファイズはカイザの仮面を思いっきり殴った。大して痛みはないだろうが、その予想外のファイズの行動にかなり動揺している。

 

「な、何を……!?」

「彼らは確かに戦力外かもしれませんし、社長が彼らを守るためにそう仰っている事も重々承知しております。ですが、彼らは貴方を守るためならその命を捨てる覚悟を持ってるんです。それを無碍にしないでください」

「美玖……」

 

ファイズの説教に、他の社員達もそれに同意を示して頷いてきた。

 

「俺達はこの命を全部社長に預けてるんです。ここで社長の為に死ねるのなら本望ですよ」

『そうだぜ、もしアンタがいなかったら俺達はもうとっくの昔に死んでたんだ。もしここで死んだとしても俺達は絶対に後悔なんてしない』

「みんな……」

 

ここにいる…いや、スマートブレインのオルフェノク達はみんなその異形と呼ばれる姿の所為で人々から除け者にされた者ばかりだ。

そしてそんな彼らを迎え入れたのが正幸なのだ。

 

正幸には夢があった。この世界をオルフェノク達の暮らしやすい世界にする為に……。

そして、人間との共存も……。

その為に自分達に存在を知り、蔑もうとして来た人間を仕方なく殺す事もあった。それによって更に人に疎まれるだろうが、それでも自分達は人間だったのだ。彼らとまた一緒に生きて行きたい……。

その正幸の強い意思…“夢”に共感を覚えたここにいる者達はこうして強い絆で繋がれている。それは失踪してしまった章治だって例外じゃない。

 

「この通りここにいる社員達はみんな貴方に忠誠を誓っているんです。だから、逃げろなんて言わないでください…私達は貴方の身体の一部同然なのですから……その一部が欠ければ、私達にも貴方と同じ痛みが伝わるんです。私達は…貴方の“夢”を守りたいのです!だからこそ、貴方の傍で共に戦わせてください!!」

 

燃え盛る炎の中、ファイズはカイザに跪いて忠誠を誓った。それに付き従うようにオルフェノク達は次々とカイザに跪き始める。

ミラーモンスターがいつどこから襲ってくるかも分からないと言うのに、ここにいる者達はそんな事など範疇に入っていないかのように自分に跪いていた。

 

この時カイザはあの章治のあのファイルの一文を思い出した。

 

“私は王を目覚めさせる気は毛頭ない”

 

それはつまり“王”はやって来ないと言う事。ならば、一体誰が“王”になればいいのか…そんな事をここにいる者達に聞けば当然こう答えるだろう。

 

“貴方こそが我々の王です”…と……。

 

ならば、答えてやろうじゃないか。オルフェノク達の未来を守り抜ける…王に……。

それも、必要ならば全ての人間を滅ぼすしもするし、救いだってしてやろう。それだけの覚悟を持ってやる。

 

「よし!ならあの不死鳥を地に堕とすぞ!!」

『ハッ!!』

 

カイザのその号令にここにいるすべての者達が同時に返事を返した。

まるで軍人か何かみたいだななどと思わず仮面の奥で苦笑を漏らしながらも、全員の顔を見渡して行く。

みんなこんな自分の為に付いて来てくれる。自分の“夢”を叶えてくれるために共に戦ってくれる……。

そんな彼らの意思に答えてやりたい…その為なら、俺が全てを背負ってやる!!

 

 

 

 

 

(アッチャ~しもうたなぁ~…反射する対象を追加するって可能性があったのは思い付かんかったわ……)

 

デルタは廃ビルの壁に卍のポーズで逆さまに埋まった状態で今の現象の考察をしていた。

先程吹き飛ばされた際に壁に叩きつけられた結果、こうなってしまったのだ。これだけ見ると中々シュールな光景である。

 

「リジェクション」のカードは一度発動させてしまえば、後は自分の意思で解除するか、新たに別のカードを使わない限り常時発動し続ける。

つまり新たに別の対象を宣言すればその対象に上書きされ、それを拒絶・反射する事が出来るのだ。

 

「ガアッ!」

「いぃっ!?グボォッ!!」

 

自分の浅はかさに反省していると、ディジェクトが地面を蹴って一瞬で距離を詰めて未だ壁から抜け出せないデルタに突進を喰らわせ、壁を砕いて廃ビルの中へと吹き飛ばした。

それによって何とか身体の自由を取り戻したデルタは転がった状態から立ち上がろうとしたが……

 

「ガアアァッ!!」

「ぬおおぉぉうっ!?」

 

頭を踏み潰そうと足を上げていたディジェクトが目に入り、それを奇声を放ちながらゴロゴロと転がってギリギリで避けた。

転がりながらも視界の端に一瞬だけディジェクトの足が埋まっているクレーターが見えた。

もしあのまま踏み潰されていたら、首から上が潰れたトマトの様になっていたことだろう。そう思うとゾッとする。

 

「おぉぉうっとぉ!ファ、ファイア!!」

 

[バースト・モード]

 

転がってある程度距離を取ると、デルタフォンを引き抜いて慌てながらも認証コードを入力し、ディジェクトに向かって引き金を引いた。

 

(頼む!当たってくれや~…!!)

 

もしここでデルタの仮説が正しければ、こちらが有利になるが果たしてどうなるか……。

 

「ッ!フォトンブラッドを拒絶する!」

 

その宣言により放たれたエネルギー弾がこちらに跳ね返ってくるが、デルタはそれをバックステップで避けた。

 

(やっぱりや!どうやら反射出来るモンは宣言した一つだけみたいやな!これならまだ勝てる見込みがあるで!!)

 

これでデルタの仮説は立証された。「リジェクション」のカードは強力ではあるが、その分対象は一つに絞られる。

後もう一つ仮説があるのだが、それはしばらくディジェクトの様子を見ていれば分かるだろう。

 

「とおぉりゃああぁぁぁ!!」

「ムン!」

 

ディジェクトは接近してきたデルタの回し蹴りを受け止めた。

 

「無駄だ!物理干渉を……」

「やってみ?」

「ッ!?」

 

ディジェクトは再びデルタの身体を吹き飛ばそうとするが、眼前に銃口を突き付けられ、動きを止めてしまった。

 

「ここでアンタがウチを反射すればその瞬間に撃つ。逆にこのまま反射しなければ、ウチの土俵で戦ってもらう事になるで。それに……」

「それに、何だ?」

「その能力ってある程度制限が付いとるんとちゃうか?例えばアンタのそのライダーズギア…さっきからバチバチしとるで?」

「なっ!?グガアァァァ!!」

 

デルタの言う通り、ディジェクトドライバーからは電流が漏れ出しており、それがディジェクトの身体を纏わり始めた。

その電撃による激痛によってデルタの足を掴んでいた手が緩んでしまい、その隙に手を振り払って蹴り飛ばされた。

 

「ほいっ、ハァ!!」

「グウゥゥゥ…!クッ……!!」

 

その蹴りによって数メートルほど後退し、その場で膝を突いてしまう。

思ったより電流のダメージが大きい。

 

「そう言う強力な能力ほど反動もデカイ。相当使っとったからな、装置がオーバーヒートでも起こしたんやろ」

「チィィッ…!」

 

デルタの言っている事は正しい。

 

「リジェクション」のカードはディジェクトドライバーから発せられる特殊周波を宣言した一点に集中させて、それを反射・拒絶する物だ。

しかし何度も酷使すればディジェクトドライバーの拒絶演算が間に合わず、今の様にショートしてしまうのだ。

それによってディジェクトドライバーが壊れると言う事はないが、その負担が装着者に電流という形で送り込まれる。

これもまた“アプローチアウトシステム”の副作用の一つであり、Dプロジェクトでの実用が見送りになった理由でもある。

 

「グゥゥゥ…!」

「もうええ加減諦めたらどうや?それ以上使うたら身体がもたへんのとちゃうか?」

「ググ…ガアァァァ!!」

 

ディジェクトはデルタの忠告など無視し、電流による激痛を堪えながらデルタに掴みかかろうと特攻した。

 

「ほっ!!」

「グァゥ!?」

 

デルタはディジェクトの腹部を蹴り付け、その反動で後ろへ下がりそうになるが、その右足をガッシリと掴むとジャイアントスイングの要領で振り回して地面に叩きつけた。

 

「なっ…!?」

「ガアアァァッ!!」

「グヘァッ!!」

 

ディジェクトは即座にデルタの背中に乗ってマウントを取ると、その頭を鷲掴みにしてある物を宣言しようとした。

 

「お…俺、は…グッ……!」

「ま、まさか、もう一発使う気かいな!?」

 

全身に走る激痛に堪えつつ言い切ろうとするが途中で途切れてしまう。

その様子にデルタは受けてたまるかと必死に抜け出そうとするが身動きが取れない。

そして遂に、ディジェクトの死刑宣告が下された。

 

「俺はお前の存在を拒絶する!!」

 

そう宣言した瞬間、デルタを中心にディジェクトのライダーズクレストの形にクレーターが出来上がり、デルタはその衝撃と共に自分の中から自分が消えて行く感覚に襲われた。

それと同時に、自分の中にいるアレが目覚める感覚も……。

 

(マ、マズイ…ッ!まだや!まだ、起きるな…!ウチにはまだ…やり残した事があるんや!!)

 

そう思っている内にもどんどん意識が遠のき、アレが自分を飲み込もうとしている。

そこから這い出そうと右手を必死に前に伸ばすが、その手は何もない地面すれすれを漂うばかり。

 

「み…く…ッ……!」

 

そう最後に最愛の人の名前を零すと、前に伸ばした手を地面に力なく落とし、意識を手放した。

 

 

 

 

 

ファイズは章治の声が聞こえた様な気がして、明後日の方向を見ていた。その方向は確かにデルタ…章治がいる所だ。

 

「どうした、美玖?」

「…ぇた……」

「え?」

 

ファイズの小さな声にカイザがもう一度聞き返すと、今度はハッキリと告げた。

 

「章治の声が…聞こえた…!」

「何だって!?」

 

その言葉を聞いた社員達は思わずファイズの方を向いた。

ここにいる者達は元々、章治の部下だった者ばかりだ。その言葉に反応しないわけがない。

 

『い、一体どこから聞こえて来たのですか!?』

「ったく、あの出不精ようやく戻ってきやがったか……」

『どこにいやがるんだ?取り敢えず一発殴っときたいからな』

「あ、それ僕も賛成です」

 

それぞれの社員が一斉に和気藹藹(わきあいあい)とファイズに聞き出した。

やはりここにいる者達も失踪した今でも章治を信頼している様だ。

しかし、ファイズは申し訳なさそうに答えた。

 

「すまない…聞こえたのはほんの一瞬だけだし、どこから聞こえて来たのかだってすごく曖昧なのだ…本当にそこにいるのかどうか……」

「でも、大体の場所が分かってるなら行ってきなよ」

「え…?」

 

ファイズは思わずそのカイザの言葉に聞き返した。

他のオルフェノク達もそれに同意するように頷いている。

 

「美玖は一番章治に思い入れがあるからね。俺にはそれが気の所為だとは思えない。ここは俺達だけでも十分だからさ…章治を迎えに行って来てやってよ」

『あぁ、それに…ここに主任が来れば百人力だしな』

「だよな、偶にはここらへんで思いっきしコキ使ってやろうぜ」

 

それに次々と賛同し始めるオルフェノク達……。

それだけ信じていたのだな、お前達……。私なんて、ずっと敵として倒そうとしていたのに……。

 

『キュアアァァァァッ!!』

 

そこで再びミラーモンスターが今度は天井に備え付けられていた窓から垂直に落ちながら迫って来た。

 

「全員退避!!」

 

そのカイザの号令に従い全員が散り散りに散会してそこから離れる。

その突進によって床には大きなクレーターが出来上がった。

ミラーモンスターはその中からゆっくりと顔を上げ、翼を大きく広げるとその金色の羽を辺りに鏤(ちりば)めた。

 

「こ、これは……?」

「全員、油断するな!!」

 

その怒号に近いカイザの号令が飛び出した瞬間、一枚の羽が機材に触れた。するとその羽は爆発を起こし、機材が炎に包まれた。

どうやらこの羽は爆弾の様で、次々に爆発して行く。それに触れたオルフェノクの一部もそのあまりのダメージに灰化を起こす者まで現れた。

 

『ぐがあぁぁぁ!!』

「オルフェノク態は一時撤退!ライオトルーパーを着用している物はオルフェノク態を庇え!」

「正幸!」

「美玖は早く章治の所へ!俺達は大丈夫だから!!」

『早く行って来てください美玖さん!!』

「こ、これくらい…何、と…か……」

 

一人のライオトルーパーを着用した社員が言い切る前にその装甲の隙間から灰が零れ出し、完全に装甲だけを残して灰の山になってしまった。

 

「く…みんな、すまない!すぐに連れ戻して来る!!」

 

そう言い残してファイズは研究所の外へと駆け出した。

大切な人を、迎えに行く為に……。

 

だが、ファイズ…美玖は知らない。章治はすでに消えてしまっている事に……。


 
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