No.395072

迷子の果てに何を見る 第五十三話

ユキアンさん

私は、私が行くべき道を選んだ。
その選択に後悔は微塵も無い。
私が愛したのが零樹で本当に良かった。
byアリス

2012-03-20 15:09:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2744   閲覧ユーザー数:2585

修学旅行 三日目 その3

side 関西呪術協会所属の巫女

 

 

昼過ぎに真っ正面から侵入して来た東の者を捕縛した所、荷物から親書らしき物があるという事でとりあえず釈放して謁見させてみる事にする。今回の件でこちらに非は一切無いから謝罪せえへん事に使者であるネギが気を悪くしているのが分かる。こいつを使者として送って来る東の思惑がさっぱり分からない。まさか戦争を始めたいのか?あっ、親書を見て木乃葉様がキレてる。隣に居る長は内容に呆れ返っている。また、傘下に入れとか、こっちの言うことを聞けとか書いてるんだろうな。返事を書くから別室に案内する様にと言われたので案内します。案内の途中、また誰かが本山に侵入して来たのか爆発音が聞こえて来る。その音が気になったのか零樹様とアリス様が廊下に現れる。

 

「ふむ、また彼らのようですね」

 

「何を考えているのやら。おや、君は確か」

 

「なんでここにアリ「名前で呼ばないで下さい。何回言えば分かるんですか」ご、ごめんなさい」

 

「はいはいアリスさん、落ち着いて。それで少年は何故ここに居るんだ。ちなみにここは僕と姉さんと木乃香さんの生家で、彼女は姉さん達と同じ班で招待されたからだ」

 

「!!なんでテンリュウ先生がここに」

 

「うん?ああ、父さんと勘違いしているのか。僕は君が勘違いしている天流・M・零斗の息子の零樹だ」

 

「じゃあ、テンリュウ先生も魔法使いなんですか」

 

えっ!?零斗様の正体を知っていないって、本当に魔法使いなんやろか。

 

「……どうなんだろう?」

 

「どうでしょうね。魔法が使えるかと聞かれたらYESですが魔法使いかと聞かれたらNOの様な気もしますし」

 

「あれかな、何でも出来る教授っていうのが一番ぴったりかな」

 

「それが」

 

本山の結界を何者かが抜けて来たのが分かる。

 

「ここは良いから、迎撃に向かって構いません」

 

「よろしいので」

 

「問題ない。少年、君もここから動くな」

 

零樹様から許可も降りたので迎撃に向かわせてもらう事にします。数は7、いや今8に増えた。舐め過ぎですね。既に他の方も迎撃に出ているので援護に回る事にしましょう。

 

 

side out

 

 

 

side 零樹

 

 

「はあ、本山の護衛相手に全滅ってどうゆう事だよ」

 

「……師匠が関わっただけでこれだけ歴史が変わるんですね。実際ならこれ位の強さのフェイト一人に本山が落とされるというのに。少し前にフルボッコにしたアレもこれ位の強さだったんでしょうか」

 

今、目の前ではアーウェルンクスシリーズの8体が本山の警備をしている巫女さんや陰陽師に破壊されている。

 

「う~む、フェイトと同じだとは思えない位あっさりと終わったな」

 

「そうですね」

 

「死ねー」

 

「おっと」

 

「ほい」

 

「がはっ」

 

明らかに不自然な水たまりから出て来た人形の攻撃をかわし核が備わっている心臓部に腕を突っ込み引き抜く。

 

「おっ、結構良い宝石使ってるみたいだ」

 

「そうみたいですね。勿体ない、別にこれほどまでのランクの宝石を使わなくても性能を引き出す事が出来るというのに。折角ですから私達で有効に使わせてもらいましょう」

 

「……して」

 

「「ん?」」

 

偶々襲撃時に居合わせた赤毛の少年(後で聞いたらこいつがネギらしい。見た目以外まったくナギさんに似ていない)が震えながら何かを呟いている。

 

「どうして人を殺して笑っていられるんですか」

 

「えっ?」

 

「はあ?」

 

「人を殺すのは悪い事なのに、それなのにどうして笑ってられるんですか」

 

「逆に聞くがどうして人を殺す事が悪い事なんだ」

 

「当然の事じゃないですか」

 

「……スプリングフィールド先生、あなたは現実をちゃんと見ているんですか」

 

アリスさん、どうしたんですか。もの凄く怖いんですけど。少年は気付いてないのか。

 

 

side out

 

 

 

side アリス

 

 

腹が立つ。

 

「何が言いたいんですか」

 

何も分かっていない。

 

「あなたの夢は何ですか」

 

「えっ?」

 

「早く答えて下さい」

 

「父さんみたいな立派な魔法使いになることですけど」

 

やはり何も分かっていない。

 

「なら人を殺さなければならないですね」

 

「何でですか」

 

見ていて気分が悪くなる。

 

「あなたの父親であるナギ・スプリングフィールドは人を大量に殺した事で立派な魔法使いよ呼ばれる様になっているからです」

 

「そんな事嘘です。立派な魔法使いである父さんがそんな事するはず無いです」

 

なぜ、こんな奴の妹として産まれてこなければならなかったの。

 

「事実です。あなたの父親は戦争で敵を大量に殺し、裏で戦争を長引かせていた組織を壊滅させた事で英雄になった存在です。そして、その後2年間の間に自分が生み出した孤児を助けたり、暴れている盗賊共を殺した事で立派な魔法使いと呼ばれる様になったのです。本人は立派な魔法使いと呼ばれる事を嫌っていますがね」

 

「そんなわけない。魔法使いはみんな立派な魔法使いを目指すものです。そう呼ばれるのが嫌だなんて思うはずが無い」

 

私を殺してこの世界に転生させた神と愚兄がダブって見える。

 

「実際に嫌がっているのですよ。それをあなたも聞いた事があるはずです。そしてこうも言われているはずです。『昔のオレみたいな魔法使いには、世間で言われている立派な魔法使いにはなるな』と」

 

「そんなことはありません。父さんはそれを誇りに思っていました。母さんだって」

 

反射的に手が動いた。意識していなかったから魔力や気での強化がされていなかったがそれでも鍛えた私のビンタで愚兄は壁に叩き付けられた。そこでビンタを放った事に気がついた。自分が涙を零している事にも気付いた。思っていた以上にこの世界での両親を愛しているのがよく分かった。だから今度は自分の意志で。そう思ってもう一発殴ろうとしたら零樹君に後ろから抱きしめられる。

 

「アリスさん、落ち着いて」

 

「…………」

 

「気持ちは分かる。でも少しやり過ぎだ」

 

「……私は落ち着いています」

 

「少なくとも無意識に咸卦法で強化している時点で落ち着けてないよ。それに気を失っている状態で殴ればさすがに死ぬと思うしね」

 

言われてから気付いたけど確かに咸卦法を使っていた。

 

「泣いている気持ちも分かる。この後も全部姉さん達に任せて今日はもうゆっくり休みましょう」

 

「…………はい」

 

「それじゃあ、僕の部屋の方に行きましょう。姉さん達は既に追撃に出てるみたいですしこれは先程の部屋にでも放り込んでおくとしよう」

 

零樹君があれの首根っこを持ち適当に部屋に投げ込む。一応首を折ったりしない様にはしているみたいだった。

 

「行きましょう」

 

「……はい」

 

部屋に着くまで何も話さず、部屋に入ると胡座をかいた上に座らされてまた抱きしめられます。また沈黙が訪れ、どれ位の時間が経ったか分かりません。

 

「………………私は前世で私は家族とある約束を交わしました」

 

「…………」

 

「家族を絶対に裏切らない。そんな約束です」

 

「……そうか」

 

「当時、叔父が犯罪に手を染め、それが原因で親戚間で不和が生じ私達の家族は一家離散の危機に陥りました」

 

「……それで、どうなったの」

 

「父と母は自分たちの家を捨てて一家で逃げました。そしてその時に約束をしました」

 

「……そうなんだ」

 

「その約束は私が知る限り破られた事はありません。それを私は誇りに思っていました。だからこそ、その誇りを胸に私は生きています。そしてその誇りを私はあれに対しても何回も話しました。それなのに、それなのに」

 

「……あれにとってアリスさんは家族じゃなかった。いえ、あれにとっての家族は空想の中にしかいないのでしょう」

 

「私は間違っていたのでしょうか。もっとあれと正面から話し合いを続けていた方が良かったのでしょうか」

 

「今となっては答えは出ません。だから今日、この場で決めてしまいましょう。アリス・スプリングフィールドはネギ・スプリングフィールドをどうしたいのかを。理屈や計算なんかは全部捨てて、感情で決めてしまいましょう。どんな答えでも僕はアリスさんの味方です」

 

理屈や計算を捨てて、感情に全てを委ねるなら答えは一つしか無い。

 

「私は、私はあれと縁を切りたい。たとえ私がスプリングフィールドの名を捨てる事になっても」

 

もう耐えられない。あれとあれの周囲を取り巻く環境に。

 

「もう嫌だ、神に命を弄ばれて、兄に振り回されて、もう嫌だ。私は、私は幸せが欲しいだけなのに」

 

「うん、全部吐こう。今まで溜め込んでいた分を全部。全部受け止めてあげるから」

 

一度感情が爆発するともう止められなかった。今まで生きてきてずっと溜め込んできたものが全て溢れ出す。それを零樹君は、ううん、零樹は全て受け止めてくれた。おかげで決心がついた。私はあれとの関わりを捨てる。私は私の幸せの為に生きる。私は零樹の隣に居る。それだけを考えて生きよう。だから、今はこのままで居させて下さい。

 

 

side out

 

 

 

 

side リーネ

 

 

(姉さん、ごめんだけど人形の相手を任せきっても良いかな?)

 

打ち合わせ通り本山が襲撃されると同時にあの部屋に居た四月一日以外のメンバーで本山北東にある湖に向かう途中に零樹からそんな念話が届く。

 

(何かあったの)

 

(ちょっと説明しにくいけど、とりあえずアリスさんが精神的に戦える状態じゃない)

 

精神的にということはあのガキがまた何か感に触る事を言ったのでしょうね。それにしても戦える状態じゃないってどれだけ酷い状況なのよ。

 

(分かったわ。だからちゃんとアリスのケアをしてあげなさい。恋人なんでしょ)

 

(もちろんさ)

 

零樹との念話を切り、他のメンバーに伝える。それが終わると丁度間者と接触する地点にたどり着いた。それから少し待つと。

 

「お待たせしてすみません」

 

「別に構わないわよ。千草さん」

 

人形共の情報を集める為に自ら汚れ役を買って出てくれた千草さんが現れる。

 

「それで敵の人数は?」

 

戦闘中の様に思わせる為に適当に魔法をバラまく。

 

「一人、もしかしたら本人にも知らされてないのがもう一人位居りそうやね」

 

千草さんも適当に式紙を放ってくるが刹那とチウちゃんが撃ち落とす。

 

「ああ、だから要石にラインが二本流れてるんだ」

 

「ウチが向こうに到着した時には既にラインは繋がっとったから、後10分かそこらで封印は解けそうや」

 

「ならここで準備をしていた方が良いわね。佐久間はここら一体に結界を張る準備を、刹那と茶々丸は神機の準備、木乃香とチウちゃんは出鼻を挫く一撃の準備」

 

指示を出しながらも適当な戦闘は続いている。

 

「そういえば零坊はどうしたんや」

 

「あのガキが面倒事を起こしたのよ。ただでさえ不安定になっていたアリスのペルソナを壊してくれたのよ。精神的に戦闘不能になる位にまでね。まあこれで零樹との仲は更に深まるわ。そこだけはこの茶番劇をやったかいがあるわね」

 

「自分は見つけんでええの」

 

「私は見つけているわ。ただ絶対に振り向いて貰えないわ。だから見ているだけ」

 

「絶対に振り向かへんか。ウチもそうやね」

 

「ああ、千草さんも同じ人か」

 

「難儀やね〜、諦めるしか無い恋をするんも。リーネ嬢にとってはウチ以上に辛い時間やろうね」

 

「そうね、不老不死の欠点はそこなんでしょうね。死ねないし変わらないからこそ囚われ続ける。普通の人ならいつかは割り切れるんでしょうけど私には無理そうね。千草さんはどうするの」

 

「ウチはそろそろ限界かもしれんね。もう疲れてもうたから。忘れようとは思わへん、けど諦めるしか無いわ」

 

「それを否定する事は私には出来ないわ」

 

「ん、あんがとさん。さて、そろそろ準備ができたんとちゃうんか」

 

皆を見ると準備は整っているようだ。そして、ちょうど封印の第一段階が解ける合図として魔力の柱が目的地に立ち、ウロヴォロスの影が現れる。

 

「佐久間」

 

「はいよ」

 

それを素早く囲む結界を構築させる。

 

「木乃香、チウちゃん」

 

「うん。大いなる守護獣よ、我が敵を灰燼へとなせ」

「任せとけ。ルビー、ブラスタービット。スターライトブレイカー」

 

大量の火符から成る朱雀と、ルビーとビットから放たれる5本の魔力収束砲がウロヴォロスを吹き飛ばし転倒させる。

 

「刹那、茶々丸。アレと人形を仕留めて来なさい。私は陰に隠れているのを仕留めてくるわ」

 

返事を待たずに感知していた魔力のラインから居場所を突き止めそこに影で転移する。そして目の前に居たのは誰がモデルになっているのか分かりやすい人形だった。

それが私の感に触ってしまった。

 

「ふ、ふふふふふふふ」

 

「な、何故ここが」

 

ああ、これほどまでに頭にきたのは久しぶりだ。

 

「あはははははははは」

 

人形師は何を思ってこの姿を使ったのだろう。

 

「くっ、排除させてもらう」

 

人形の手刀が私の身体を貫くが気にせずそのまま抱きしめる。

そしてとある魔法を発動させる。

 

「何だこれは。まさか、放せ」

 

「だ〜め。貴方は塵一つ残さずこの世から消し去ってあげる」

 

「そんな事をしたらお前も」

 

「ご心配なく。これでも真祖ですから」

 

この魔法を一言で表すなら『自爆』だ。魔法世界で遥か昔に滅びた国が使用した禁呪。周囲の熱や火の精霊をかき集め体内で合成、一気に爆発させるという自爆魔法。使用者はもちろん周囲も巻き込んで熱量のみで破壊する魔法。これには魔法障壁も物理障壁も意味も無くあるのは死のみ魔法である。

 

「ま、まっt」

 

「その姿で産まれて来た事を恨みなさい」

 

次の瞬間、音も無く莫大な熱量が放出され人形は宣言通り塵一つ残さず蒸発した。そしてリーネもまた共に蒸発するもリーネであった物が集まり増殖し、1分と経たずに元の姿で現れる。

 

「はぁ〜、お気に入りだったんだけどな」

 

一糸纏わぬ姿でだが。

 

「それにしても敵の人形師は良い趣味をしているわ。つい我を失う位衝撃があったわ」

 

影の倉庫から着替えを取り出し身に纏う。

 

「まさか、お父様の姿の人形を作るなんて」

 

しかも見てくれだけで能力はかなり雑。それがお父様を、私が愛している人を穢している様に思えて、ついやりすぎてしまった。

 

「向こうも終わったみたいだし、時間も良い位だし旅館に戻るとしますか。零樹とアリスは身代わりを用意すれば良いでしょう」

 

身代わりの事を零樹に伝え、今日はそのまま本山に残る様に伝え、後始末を千草さんに任せて旅館へと引き上げる。

 

 

 

 

 

余談だがあのガキは深夜近くに旅館へと戻り新田先生にこってりと絞られる羽目となった。

 

 

side out

 


 
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