No.395036

迷子の果てに何を見る 第四十六話

ユキアンさん

人を愛するということはこう言うことなんだろう。
なるほど、心地良いな。
by零樹

2012-03-20 13:48:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3538   閲覧ユーザー数:3357

デート

side レイト

 

 

洗い物が終わりそろそろ風呂に入ろうかと考えていると零樹が二人きりで相談したいことがあるというのでオレの別荘に移動した。別荘と言ってもダイオラマ魔法球ではなく現実世界にある本物の別荘だ。太平洋赤道直下に浮かぶ小さな島を丸ごと買い取って別荘にしてある。

 

「クー、いるか?」

 

「あぁん?おっ、マスターじゃねえか。どうしたんだ、いつもなら連絡の一つはするのに」

 

アロハを着た青い髪のブラザーズの一人でここの別荘を管理している一人だ。趣味は強い奴との手合わせと釣り。戦闘時は青いタイツで赤い槍で戦う。

クーフーリン?いいえクーです。決してアイルランドの英雄ではではありません。

 

「ちょっと零樹が相談事があるって言うからな。部屋使える?」

 

「それが仕事だからな」

 

「ありがとう、じゃあ少しの間近づかないでくれるかな」

 

「あいよ。裏で釣りでもしてるから帰る時に声をかけてくれ」

 

クーが釣りに見送ってから別荘に入る。そのままリビングに入りテーブルに向かい合って座る。

 

「それで相談事って言うのは」

 

あまり予想が付かないが頼られた以上力になるつもりだ。伊達に数千年も生きてないぞ。

 

「なんというか、最近好きな人が出来たというか好きだと自覚したというか、まあそれで今度デートというか買い物に行くことになったんだ」

 

「ほう、良いことじゃないか」

 

オレに似て奥手だからそういうことを相談されるのはもっと年を取ってからだと思っていたが良いと思うぞ。けど、真祖としての種族の差が痛いな。まあ、いざとなれば不老の指輪を譲っても良いだろう。

 

「それでこういうことは初めてだから色々とアドバイスが欲しいんだけど」

 

「なるほど、全て任せろ、と言いたい所だがオレも長いこと生きているが愛した女性は二人しか居ないし普通の恋愛と違ってお互いが自覚した途端に結婚だったからな。どうアドバイスして良いものか。とりあえず予定は?」

 

「昼前に原宿に出て昼食を摂った後に服や小物を買いに行く予定だけど」

 

「なら、とりあえずは服装だが普段着ているものと違った雰囲気のを着ていったらどうだ?オレもエヴァとのデートの時はそんな感じだし。けどあまり違いすぎるのもアレだな。派手なのも似合いそうに……なくもないが止めた方が良いだろうな」

 

「そうですね。じゃあ明るい色を避けてみます」

 

「鋭太郎みたいな私服ならイメージしやすいだろう。あいつのセンスは中々いいと思うぞ」

 

「悔しいですけどそれには同意します。あれで性格がまともならもてたでしょうに」

 

「本人が気にしていないならそれで良いんじゃないか。まあ次に出来るだけいつも通り自然体で居ることだな。初めてのデートだからって気負う必要は無い。無論これは相手にも言えることだから相手が緊張しているようならそれをほぐしてやれ」

 

「その辺は大丈夫…………だと思う。当日にならないと分からないや」

 

「ははっ、そりゃそうだ。オレも初めての時はそうだった。なまじ夫婦になるまでそういうことをしたこと無かっていざという時にどうすれば良いかさっぱりだった」

 

「母さんからはそんな話聞いた事無いけど」

 

「エヴァより前の方の妻だからな」

 

ああ、懐かしいな。アレからもう3000年以上経ってるのか。未だに記憶に残ってるってことは印象深いんだな。一日が終わってからお互いらしくなかったって言って笑っていつも通りただ傍に居るだけで良かったんだなって思ってたっけ。やめよう、これ以上振り返ってたら死に際を思い出してしまう。

 

「……その人のこと聞いても良い?」

 

「どうしてだ」

 

「父さんは長い間生きているのに妻に迎えたのって母さんとその人だけなんでしょ。だから気になるんだ。父さんがどうしてその人を妻にしたのかが」

 

「…………そうだな、どうして妻に迎えたのかと聞かれたら、彼女がオレを止めてくれて、受け入れてくれて、思い出させてくれたからかな」

 

それから少しだったかそれとも長時間だったか分からないが覚えているだけ零樹に話してやった。話し終えたとき零樹は何も言わなかった。ただ零樹は何かが分かった様な顔をしていた。ならそれで構わないか。

 

「ありがとう父さん」

 

「あまり役に立ったかは分からんがな」

 

「いや、そんなことないよ」

 

「そうか、ならそれでいい。エヴァにはさっきの話は内緒にしていてくれ。嫉妬でどうなるか目に見えているからな」

 

「……父さんは何も聞かないの」

 

「何をだ?」

 

「誰を好きになったのか、とか」

 

「聞いて欲しいか」

 

「聞いて欲しくないです」

 

「じゃあ何も聞かない」

 

聞きはしないよ。予想はつくし。さてビデオカメラの準備でもするか。

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

side キ(やめろ、何をすぎゃああああああ)エヴァ

 

部屋でのんびりしているとドアがノックされた。基本的にこの部屋には私とレイトしか入らないのでノックがされることはあまり無い。腰掛けていたベッドから立ち上がりドアを開けるとそこにアリスが立っていた。

 

「珍しいわね。どうしたの?」

 

「その、相談がありまして」

 

本当に珍しい。いつもならレイトに相談に行くのだが行き辛い理由でも、ああなるほど。

 

「いいわ、長くなりそうだから別荘に行きましょう」

 

最初に作った時から、つまり400年前から使っている別荘に移動し、フェブにお茶を用意させテーブルに向かい合って座る。

 

「それで何を相談したいのかしら」

 

「実は、好きな人が出来たと言いますか自覚したと言いますか、そんなことがありまして」

 

「なるほど、つまり今度デートかなにかをすることになったからそれについてアドバイスが欲しいと」

 

「まあ、そうなんですが。今更ながら三十路手前だというのに恋愛ごとに疎くて、前世でも付き合い出してすぐに死んでしまいましたし、好きな人のタイプも全然違うのでどうしたら良いか分からなくて」

 

「じゃあ、とりあえず下着から選ぼうかしら」

 

「下着から!?ちょっ、いきなり何を」

 

「エイプリル、全員を集めなさい。その時に倉庫から服ももって来なさい」

 

「イエス、マスター」

 

「エイプリルさんもそんなおもしろそうに走って行かないで~」

 

「良いことアリス。女は見えない所にこそ力を入れないといけないのよ。いざという時の為にね」

 

「だからっていきなり過ぎですよ」

 

「とりあえずサイズを計るから脱ぎなさい」

 

「ちょっと待って下さい」

 

「フェブ、オクト、ディス、アリスを捕まえなさい」

 

「「「イエス、マスター」」」

 

そのまま色々とサイズを測られ着せ替え人形にされること約半日。休みを挟みながらでしたがほぼぶっ続けで一人ファッションショーをやらされました。

 

「服はこれで良いわね。アリカに似ているから色々似合ってどれにしようか悩んだけどこれならバッチリのはずだから」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「それで他にアドバイスだけど、特にないわね」

 

「えっ?」

 

「それでも何か無いのかと聞かれたら、普段通りで居なさい。無理して演技する位なら、普段通りの自分を見せておきなさい。それで相手が離れるなら所詮それまでの男だったというだけね」

 

「はぁ」

 

「あまり分かっていないみたいから説明するけど、その人が好きということはその人と一緒にいたいというのは分かるわね」

 

「はい」

 

「ならその人の前で疲れる様なことを続けるの?」

 

「したくないですし、されたくもないです」

 

「だからこそ普段通りの自分を見せなさい。私が言えるのはそれと惚気話だけ。聞きたい?」

 

「いえ、いいです。あとは自分でなんとかしてみます」

 

「そう、なら頑張りなさい」

 

「……相手が誰なのか聞かないんですか?」

 

「聞いて欲しいの?」

 

「聞いて欲しくないです」

 

「じゃあ聞かないでおいてあげる」

 

どうせ聞かなくても相手は零樹でしょうし、レイトが色々とエスコートの仕方は教えているでしょうから問題は無いわね。さて、私もデートの用意をしておきましょうか。

 

 

side out

 

 

 

 

 

side リーネ

 

携帯に登録されていない番号が掛かってきた。不審に思いながらもとりあえず出てみる。

 

『リーネ・M・テンリュウさんの番号で合ってますか』

 

聞こえてきたのは何処かで聞いたことのある声の男からだった。

 

「ええ、合っているわよ。それであなたは誰?」

 

『何回かお目にかかったことがあると思いますが改めまして、私は佐久間鋭太郎と申します』

 

「佐久間、確か零樹の親友だったかしら」

 

『ええ、その佐久間です』

 

「それで私に何か用かしら」

 

『はい、実は最近零樹に恋人に近い存在の女性が居ることが判明いたしまして数日前から微妙に、本当に微妙にそわそわしている感じがするのです』

 

「奇遇ね、私の知り合いの中にも数日前から急にそわそわし出した娘がいるのよ。そういえばそっちも修学旅行は京都の方らしいわね」

 

『はい、そして明日は修学旅行前の週末。ここから導かれる答えは』

 

「『デート……覗くしかない』」

 

「色々と準備しておきなさい。カメラとかはこっちで用意するから、小道具は任せるわ」

 

『了解です。待ち合わせは世界樹の天辺で良いですかね』

 

「それ位離れるのは当然よ。じゃあまた明日」

 

『はい、お待ちしております』

 

明日が楽しみね。とりあえずカメラの容易をしましょうか。

 

 

 

 

 

 

翌日、アリスが今までに見たことのない位気合いを入れていた。服は今までもっていなかった物、センスからしてお母様の手作りでしょうね。お母様のことだからおそらく下着も勝負下着の様な気がするわ。ここまでしてまだ付き合ってないのよね。どっちもヘタレね。

 

「じゃあ、行ってきますね」

 

「はいはい、朝帰りしても良いわよ」

 

「しません」

 

顔を真っ赤にして部屋から飛び出して行くのを見送ってから認識阻害の結界を纏い世界樹に向かう。

 

「お待ちしてましたよ」

 

そこには白いスーツに縁の一カ所が破れているソフト帽を被った佐久間が待っていた。

 

「何なの?その格好は」

 

「まずは形から入ってみようと思いまして。尾行と言えば探偵だろうということで同士から借りてきたのですよ」

 

一体どこの誰がこんな目立つ服を渡したのかしら。軽くめまいが起こったが零樹が言うには親友はそこらのMM魔法使いにしてはまともな考えを持っていて実力もあるがオタクで一切の自重(本気で嫌がられることは自重する)をしない迷惑児だそうだ。

 

「まあ良いわ。付いて来れないようなら置いて行くから」

 

「分かっていますよ」

 

魔力を追跡していると、どうやら待ち合わせは現地だと思われるので飛んで行く。もちろん気付かれない様に認識阻害と魔力遮断の結界を纏いながら。佐久間も同様の事をして追って来る。そこそこのスピードで飛んでいるけどまだまだ余裕があるようだ。零樹が言っていた通り実力はあるようだ。

しばらく飛んでいると目的地は原宿であることが判明したので先回りして覗き見の準備を始める。認識阻害と魔力遮断の結界の上に更に隠蔽の結界を張りカメラを用意する。駅の改札に、こちらも普段と違う服装の零樹を発見したので私達の予想が合っていることが判明した。ご丁寧に魔力遮断と隠蔽の結界を張って辺りを警戒し始めましたが。

 

「佐久間、これを使いなさい」

 

影の倉庫からとある物を2つ取り出し1つを佐久間に渡す。

 

「これは“ダンボール”」

 

「お父様が作った特製のダンボールよ。被れば表面に記された細かい文字によって簡単な暗示をかける優れものよ」

 

「くっ、スーツの下にスニーキングスーツを着て来るべきだったか。せめてバンダナだけは巻いておくべきか」

 

「ネタは良いからとっとと被りなさい。零樹に気付かれるわよ」

 

自分の分を被り、佐久間も同じ様に被って少し待つとようやく警戒を解いた。

 

「時間的にそろそろ相手であると思われるアリスが来るわよ」

 

「ちなみにどのような容姿で?」

 

「“災厄の魔女”アリカ女王よ」

 

「っ!?まさか彼女の」

 

「娘よ」

 

「公式記録では元老院共々処刑されたとなっていますが」

 

「ケルベラス渓谷の刑は落とされるまでが刑なのよ。つまりそこに飛び込んで助けた馬鹿が居たのよスプリングフィールドって言う馬鹿が」

 

「とんでもない真実を知ってしまいましたね。では彼女とあの野菜は姉弟で?」

 

「逆の兄妹よ。お父様の修行でダイオラマ魔法球を使ったから成長しているだけよ」

 

「……失礼ですが実年齢は?」

 

「二人とも三十路間近だったはず。ちなみに私はもうすぐ四十路よ」

 

「三十路同士で初心な対応をされるとこっちが恥ずかしいですね」

 

「私達不老不死だから年齢ってあんまり関係ないから別に恥ずかしいとは思わないわね。とか話しているうちにアリスが来たわね」

 

 

 

side out

 

 

 

 

side 零樹

 

誰かに見られている様な気がしたけど気のせいか。まさか誰か付いてきてないよな?父さんと母さんはデートに出かけるって言ってたし、刹那姉さんは木乃香さんと一緒に図書館探検部に参加しているし、鋭太郎は朝早くに出かけていたから違うだろう。リーネ姉さんは、まさかついてきてるのか?いや、そもそも姉さん達が知っているはずないし思い違いか。そんなことを考えているとよく知っている魔力が近づいてくるのが分かった。

 

「待たせてすみません」

 

「いえ、別にほとん……ど、待ってませんよ」

 

「…………やっぱり似合ってませんか」

 

「いや、普通に見惚れてた。もの凄く綺麗ですよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

うん、言葉の通り見惚れてしまった。正直なところかなりドキドキしてるのが分かる。顔には一切出ていないとは思うけど。今までに見たことのない服を着ていて髪もサイドに上げていて、それが容姿とも合っていて本当に綺麗だった。周りの人もチラチラとアリスさんを見て、傍に居る僕に嫉妬の視線を送って来る。仕方ないことなので甘んじてその視線を受け入れる。

 

「そろそろ行きましょう」

 

「そ、そうです!?(零樹君、今明らかに変な魔力を感じませんでした?)」

 

「少し落ち着くまで待った方が良いみたいですね。とりあえずそこのカフェにでも行きましょうか。(ええ、感じました。ですが今までの転生者とは違うみたいですね。渡り人でしょうか?)」

 

「すみません。(とりあえずレイトさんに連絡しますか?)」

 

「いえいえ。(気付いていると思いますけど一応連絡しておきます)」

 

父さんに連絡を取ると、既に接触しているから任せていれば良いと言われたので、そのままカフェで軽く昼食を摂ってから、まずは服を買いに行った。

 

「こんなのはどうかな?」

 

「似合っていると思いますけど、アリスさんにはこっちの色の方が良いと思いますよ」

 

「そうですね、だとしたらスカートの方もこっちの方が良さそうですね」

 

「そうですか?今のでも合っているとは思うのですが」

 

「一応物は試しということで」

 

「そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

「ペアルックですか」

 

「父さんや姉さん達にからかわれる覚悟があるなら買いますか?」

 

「新年会で流されそうですからパスです」

 

「懸命な判断です」

 

 

 

 

 

「さて、さっきから僕らを尾行している人が居るんだけど心当たりは?」

 

「クラスメイトですね。少しお話ししてきます」

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

そのまま何も無く、日が暮れてきた頃。急に人が居なくなり始め、そして目の前に

 

「「で、何であなたがここにいるんですか?鳴滝さん」」

 

「私のことを知っているなら話は早い。貴様達をディケイドを誘き寄せる為の囮にするからだ」

 

ああ、昼頃に感じた変な魔力はディケイドのことだったんですか。

ふう、それにしても折角のデート?の邪魔をしに来るとは運がない。アリスさんのクラスメイトが尾行してたのはまあ良いですけど、ここまで露骨に邪魔をされると腹が立ちますね。

 

「だからなぜ僕達が囮になるんですか」

 

「何をとぼけたことを貴様はディケイド達と話していただろうが」

 

「残念ですが僕は彼女と買い物に来ているだけでディケイドとは会っていません。というよりあなた方が存在していたことに驚いているんですから」

 

「どういうことか気になるがそんなことはどうでも良い。ディケイドさえ倒せればな」

 

そう言って鳴滝が右手を上げるとオーロラが現れ大量の怪人達が現れる。

 

「わ~お、グロンギにミラーモンスターにファンガイア、ドーパントも混じってないか?」

 

「折角の休日だって言うのに、仕方ないですね。閉鎖結界を展開しますよ」

 

「お願いします。すぐに終わらせますのでどこかにケーキでも食べに行きましょう」

 

「なぜ余裕なのかは知らんが大人しくしろ」

 

「なぜ余裕かって?こうゆうことですよ。来い、カブトゼクター」

 

叫ぶと同時に影から赤いカブトムシを模したゼクターが飛び出しそれを手に取りベルトを巻く。

 

「なぜ貴様がそれを」

 

「さあね、変身」

 

カブトゼクターをベルトの中央に装着する。

 

<<HENSIN>>

 

ベルトから女性の声が発せられ、全身がヒヒイロカネで製造されたマスクドアーマーが身に纏われる。それと同時にカブトゼクターのホーンを上げる。アーマーに電流が走り、全身から機械音が発せられアーマーが浮き始め、顔のアーマーが浮き上がった瞬間

 

「キャストオフ」

 

カブトゼクターのホーンを左から右に倒す。

 

<<CAST OFF>>

 

浮かび上がっていたアーマーがはじけ飛び、それに巻き込まれた何体かの怪人が爆散する。そして顎のローテートを基点にカブトホーンが立ち上がる。

 

「ワームを出さなかったのが敗因だ。クロックアップ」

 

ベルトの右部分を叩く。

 

<<CLOCK UP>>

 

電子音と共に超加速に移り、クナイガンをアックスモードにして滅多切りにしていく。そして限界まで続けた後クロックアップを解除する。

 

<<CLOCK OUT>>

 

現実時間で1秒経たずに全ての怪人が爆散する。しかし、ドーパントのみは倒れているだけで倒しきれていなかった。

 

「ちっ、マキシマムドライブじゃないとメモリブレイクできないか」

 

「ならばここは俺の出番ダーーー」

 

「鋭太郎?」

 

「そうだ、そして」

 

<<SKULL!>>

 

ロストドライバーを腰に巻き、ガイアメモリのスタートスイッチを押すとガイアウィスパーが鳴り響く。そして鋭太郎は被っている帽子を左手に持ち

 

「変身!!」

 

右手に持っているガイアメモリをロストドライバーに挿入して開く。

 

<<SKULL!>>

 

銀と黒を基調としたボディに骸骨に似た仮面と白色のボロボロのマフラー。額にある「S」の傷を隠す様に左手に持っている帽子を被り隠す。

 

「さあ、お前の罪を数えろ」

 

「何!?一つの世界にライダーが2種類だと、ありえん」

 

「ありえないということはありえない。この世界には君が考えている以上の技術を持つ男が居るということだ」

 

「鋭太郎、格好付けてもあとでO☆HA☆NA☆SHIだからな」

 

「勘弁して欲しいのだが。こうして助けに来たことだし」

 

「だが断る。第一、スカルを父さんから預かっている時点で前から準備してやがったな」

 

「さ、さあな」

 

「とりあえずとっとと仕留めろ。クロックアップで一方的に嬲るぞ」

 

「了解だ」

 

ベルトからメモリを取り出しスカルマグナムに挿入する。

 

<<SKULL! MAXSIMAM DRAIVE!!>>

 

「スカルパニッシャー」

 

まだ倒れているドーパントに対してスカルパニッシャーが叩き込まれメモリブレイクが行なわれる。どうやったのかは分からないがドーパントが居た場所にはブレイクされたメモリだけが残っていた。

 

「さて、まだ続けるのか鳴滝さん。できればこの世界から退いて欲しいんですけど。でないとアリスさんが本気であなたを消しちゃいますよ」

 

「そんなことしませんよ。精々ハプシエルが居るダイオラマ魔法球に放り込むだけですよ」

 

「「逃げろ鳴滝さん、本気で不味い」」

 

「あ、ああ。何か分からないが不味そうだ。ここは退かせてもらおう」

 

僕と鋭太郎の気迫が通じたのか大人しく鳴滝さんはオーロラを越えて逃げていった。

よかった、さすがにハプシエルに会わせたら人格が崩壊する。彼には彼の正義があるんだから、それは否定してはいけない。

そんなことを思っていると父さんと母さんが閉鎖結界を普通に通り抜けてきた。誰かがついて来れていないのか父さんが引き返してバイクに乗っている二人の男を連れてきた。

 

「怪我はないみたいだな」

 

「父さん、なんで鋭太郎にスカルを貸してるの」

 

怒っていることをアピールする為に少し睨む。

 

「スカル?オレが鋭太郎に貸したのはジョーカーだぞ」

 

「えっ?」

 

鋭太郎の方を向くと単純に「S」と描かれているメモリと「J」が描かれている黒いメモリの二つを持っていた。そして父さんの手には骸骨をモチーフに「S」が描かれているメモリがある。

 

「ガイアメモリを作ったのか」

 

「オレもビックリだ。まさか解明されるなんて思ってなかった。間違いなくあいつは天才だ。MMからアリアドネーに来ないかな、あいつ」

 

今まで数々の魔法先生が解明しようとして挫折したライダーシステムを解明どころか量産するって、改めて鋭太郎の破天荒ぶりを認識してしまった。

 

「まあO☆HA☆NA☆SHIは逃れられないけどな」

 

いつの間にか鋭太郎の背後にアリスさんと母さんが拘束具を持って構えていた。鋭太郎がベルトを外し変身を解除すると同時に二人掛かりで完全に拘束する。もちろん魔力も封印する。それを見届けてから僕も変身を解きカブトゼクターとベルトを影に放り込む。

 

「そろそろ説明しろ。何でバラバラのライダーがいるんだ」

 

父さんが連れてきた二人の男の一人、門矢士がイライラしながら父さんに尋ねていた。たぶんからかってたんだろうな。

 

「なんだ?まだ根に持ってるのか。ちょっとした冗談じゃないか」

 

「父さん、一体何したの?」

 

「ディケイドに変身して目の前に現れて軽く襲いかかった。二対一で態とピンチになった後にエヴァがディエンドで奇襲して倒しただけだ」

 

「態々声まで真似てすることか」

 

「はっはっは、この世界では当たり前だ」

 

半分正解で半分間違いだよね、それ。正確には『この世界で父さんが影響を与えた人たちの中では当たり前』だ。

 

「まあ、見られたからにはちゃんと説明するとしよう。零樹達はどうする?」

 

「アリスさんはどうします。僕としては気になるのでついていきたいのですが」

 

「私も同意見です。あそこに転がっているのはあそこにだけ閉鎖結界を張って放置でいいでしょう」

 

なら決まりということで影からライドベンダーを取り出しアリスさんを後ろに乗せる。父さんもハードボイルダーを出して、母さんを後ろに乗せ門矢さん達に案内させ光写真館に向かう。光写真館に到着して一つだけ楽しみにしていることがある。それは背景ロールだ。あの背景ロールにはその世界を表す絵が描かれている。あれにこの世界はどのように描かれているのかちょっとだけ気になっていたんだ。そして、撮影室に入り背景ロールを見ると

 

「これは」

 

「ふ~ん」

 

「ほう」

 

「なるほどね。この絵じゃ、どんな世界かさっぱり分からなかっただろうな」

 

上から僕、アリスさん、母さんで父さんだ。

そして背景ロールには光り輝く大きな樹がある街に大きな岩が降り注ぐ中、赤髪の少年が禍々しい姿の竜と対峙している絵だった。

 

光り輝く大きな樹は世界樹

街は麻帆良

岩が降っている理由は不明

赤髪の少年はネギ・スプリングフィールド

最後の禍々しい竜は……

 

「お前達はこの絵が何か分かるのか」

 

「ああ、ここに描かれている街は麻帆良と呼ばれる場所で赤髪の少年はこの世界の主人公だったネギ・スプリングフィールドだ」

 

あえて竜に関しては何も言っていないということは喋るなということでしょう。

 

「だった?」

 

「そう、この世界にはモデルが存在する。モデル上ではアレが主人公だったんだが決定的な違いはオレという存在だ。オレはこの世界の人間ではない」

 

「オレたちと同じなのか」

 

「似た様なものだな。でだ、オレという存在が行なった行動でモデルとなった世界と異なることが多々ありすぎたために元主人公になった。ここまでは良いか?」

 

「ああ、理解は出来た。それでこの世界は何の世界なんだ?」

 

「そうだな、モデルの世界は『魔法先生ネギま!』だが、あえて別の名前をつけるなら『魔法革命記』かな」

 

「魔法がある世界なのか。じゃあライダーが居る理由はなんだ?」

 

「見れば分かるさ」

 

そう言って父さんがディケイドライバーとライドブッカーを門矢さんに投げ渡す。それを受け取った門矢さんは色々と見始める。

 

「オレのとは少し違う。模造品なのか?」

 

「そう、オレが作った物だ。そしてオレたちがお前達のことを知っている理由はこれだ」

 

今度はDVDを投げ渡した。それを見た門矢さんたちは驚いていた。

 

「オレたちのDVDだと」

 

「そう言うことだ。で、この世界での門矢の役割は何なんだ?」

 

「……分からない。この世界での役割が無いのかもしれない」

 

「イレギュラーだから仕方ないかもしれんな。他の世界に移動は出来るのか?」

 

「いや、オレの役割を終わらせるまで移動は出来ない」

 

「なるほど、ならとりあえず職を紹介してやろうか?何時まで居るのか分からないが、とりあえず金は欲しいだろう?小野寺もどうだ?」

 

「良いのか?」

 

「こう見えてもオレはお前達みたいな世界を渡る者を観察、保護、場合によっては排除する役割がある。今回は観察、保護に当てはまる事象だ。遠慮する必要は無い」

 

「なら頼む」

 

「OKだ。まあ、一番金になって普段は楽でたまに大変な仕事を紹介してやろう。話はこっちで通しておくから数日後に連絡するよ。ああ、その職場に限っては変身することを許可するよ」

 

「良いのかよ」

 

「別に構わん、説明は明日にでも資料を届けてやるからそれでこの世界のことを理解してくれるとありがたい」

 

「分かった。それから、何かしてもらうばかりじゃ悪いから何か出来ることは無いか?」

 

「そうだな。なら写真を撮ってやって欲しい。オレの息子とその彼女との」

 

「父さん!?」

「師匠!?」

 

ははっ、やっぱりバレてたか。相談事をした数日後の休日に女性と一緒にいればそう思いますよね。というより相談した時点で分かってたと思うな。だって、もの凄く楽しそうな顔を、うん?視線がアリスさんの方に向いている。それを理解すると同時にアリスさんを背に隠す様に移動する。

 

「はっはっは、どう思うエヴァ」

 

「ふふふ、お似合いじゃない」

 

後ろでアリスさんが更に顔を赤くしているのが分かる。

それにしてもこの状況をどうしましょうか。周りのみんなが全員にやにやしているのが頭にきます。

転移で逃げようと思ったら転移阻害の結界が張られていて転移に失敗する。父さんの顔が更ににやけた所を見ると犯人みたいですね。

そろそろアリスさんが爆発しそうなのでどうしましょう…………仕方ありません。

 

「ちょっとだけ我慢して下さいね」

 

アリスさんを抱きかかえ、たまたま(・・・・)開けられていた窓から飛び出す。その動きに門矢さんが付いて来てシャッターを押していた気がしますが今は無視します。そのまま認識阻害の結界を纏い学園まで一気に空を駆ける。

アリスさんが羞恥から再起動するころには学園に戻って来ていた。世界樹の広場に降り立つ。

 

「あぅ……そ、そろそろ、おろしてくれませんか」

 

「少し残念ですが」

 

言葉の通り残念ではあるが素直に降ろす。降ろすと数歩離れた後そのまま立ち止まってしまった。どうしたんだろう?

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

side アリス

 

 

「そうだな。なら写真を撮ってやって欲しい。オレの息子とその彼女との」

 

「父さん!?」

「師匠!?」

 

あわわわわ、やっぱり気付かれてた。エヴァさんも面白い物を見つけた様ににやにやしているし、というより相談した時点で気付かれていた様な気がします。師匠も何か楽しそうに私のことを見てますし。えっと、こういう場合はどうすれば。

そんな風にパニクっていると零樹君が私を周りの視線から庇う様に前に出てくれるので落ち着く為にその行為に甘えて深呼吸をします。

 

「はっはっは、どう思うエヴァ」

 

「ふふふ、お似合いじゃない」

 

なななななななな、あああああああ、もう。

分かってて言ってるでしょ師匠達。門矢さん達もにやにやしないで下さい。こうなったら全てを吹き飛ばして、私は一体何を考えているんでしょう。これではあの愚兄と一緒ではないですか。だけどどうすれば。

 

「ちょっとだけ我慢して下さいね」

 

零樹君にそう言われた次の瞬間には私は零樹君に抱きかかえられて空の上でした。初めてのお姫様だっこで私の混乱は加速してなんとか落ち着いた頃には世界樹の広場まで戻って来ていた。

 

「あぅ……そ、そろそろ、おろしてくれませんか」

 

「少し残念ですが」

 

それは私だって残念ですけど、あれ?今なんとおっしゃいました?慌てて部屋に逃げ帰ろうとしていた足が止まり、思考が高速回転します。

 

「どうかしたのですか?」

 

零樹君が心配そうに訪ねてきた。これ以上心配させたくないし、こうなったら女は度胸!!

 

「零樹君!!」

 

「な、何?」

 

落ち着け私。いくら何でも叫ばなくても良いでしょうが。とりあえず深呼吸を一回してっと。よし。

 

「零樹君は、その気付いてるんですか?」

 

「何にですか?」

 

やっぱり気付いてないのでしょうか……いえ、気付いていて遊んでますね。どうやったらからかえるでしょうか。

…………これしかありませんね。認識阻害の結界を私達だけを覆う様に張って、覚悟を決めます。

 

「私は零樹君のことが好きですよ。エヴァさんが師匠を好きな様に」

 

はっきりとそう言うと表面上はともかく視線だけが慌ただしく動いています。ええ、いざとなればヤンデレ化も辞さない覚悟はありますよ。

けど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいですね。世の中のバカップルを尊敬しますよ。

少しすると零樹君も落ち着きを取り戻しました。そして

 

「僕もアリスさんのことが好きですよ。ナギさんがアリカさんを好きな様に」

 

はっきりと言い返されました。自分でも言いましたがこれはかなり恥ずかしいです。ですが予想は出来ていたので狼狽したりすることはありま……すみません嘘です。あわわはわわ軍師並みに狼狽してます。零樹君も言われるよりも言う方が恥ずかしかったのか顔を赤くしていた。

 

そのまま二人の間に静寂だけが残されてしまった。

二人ともどう動けば良いのかが分からなくなってしまった。

気まずい空気だけが残ってしまった。

 

そこに一羽の鳩が私の頭に停まった。

 

「ぷっ」

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

「くくくくく、はははははは」

 

「〜〜〜〜〜笑わないで下さい!!」

 

私が叫ぶと私の頭に停まっていた鳩はまた空に舞い戻っていき、その場には先程までの空気はなくなっていた。

 

 

side out

 

 

 

 

side 零樹

 

 

ああ、父さんが言っていたのはこういうことか。

 

「お互いにらしくなかったですね」

 

笑うのを止めて本音でそう言った。

 

「……そうですね」

 

今日のデートは確かに楽しかった。だけど、何処かが僅かに歪で、しっくりせずに自らをも変化させ、それでも合わず、奇妙な感覚だった。

 

「ですが、先程言った様に僕がアリスさんを好きだというのに、いえ、正確にはアリスさんには僕の一番傍に居て欲しいという気持ちに偽りはありません」

 

そう、この言葉が一番しっくりくる。好きだという前に傍に居て欲しい。それが僕の本当の願いなのでしょうね。

 

「ええ、私も零樹君に、傍に居て欲しいです」

 

アリスさんも先程までと違い、いつもの様な柔らかい笑みを浮かべながら答えてくれた。アリスさんも何処か奇妙な感覚に囚われていたんだろう。そして、どちらが言うでも無く、歩きながらお互いに今日のことを振り返りながら笑い合い、最後に

 

「「本当にお互いらしくなかった」」

 

と締めくくった。

 

 

 

 

 

 

いつの間にか世界樹の下まで歩いて来ていたみたいで辺りには誰もいなかった。

 

「そろそろ姿を現したらどうだ」

 

そう、居ないはずだった。何せここには父さんと母さんが共同で極秘に強力な結界を張っており、この学園においてある一定以上の力量を持つもの以外は入って来れない様になっている。

だが、僕達の背後には黒いローブで正体を隠している男が立っていた。

 

「驚いた、いつから気付いていた」

 

「「お前が麻帆良に侵入した時から」」

 

この答えにはさすがに男も驚いたようだ。だけどそんなこと(・・・・・)はどうでもいい。その正体も目的も背後関係等も全てがどうでもいい。

こいつはさっきまでの良い雰囲気に水を差した。

その事実だけで十分だ。

つまり何が言いたいかと言うと

 

「「少しは空気を読め、このボケが」」

 

今まで着ていた服から戦闘用の服に転移で交換する。アリスさんも同じ様にして戦闘態勢を整える。さあ、一方的な殺戮を始めよう。

 

 

side out

 


 
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