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仮面ライダーディージェント 第18話:荒れ狂う恐竜とデルタ乱入

水音ラルさん

新ライダー・ディジェクトのバトルシーンです。

2012-03-20 12:02:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:605   閲覧ユーザー数:604

スマートブレイン…表向きは日本が誇る世界的に有名な大企業ではあるが、裏ではオルフェノクを統括する秘密組織である。

この組織の目的は、全人類をオルフェノクに統一させ、新たな人類として繁栄して行く事だ。

そしてそのオルフェノクを統べる為に生まれて来るであろう“王”を守るために造られたのが、この世界の仮面ライダーとも言えるファイズを始めとするライダーズギアと呼ばれるベルトだ。

その内のファイズのベルトの装着者でもある犬飼美玖(いぬかいみく)は、そのスマートブレイン本社にある社長室へ入り、スマートブレイン代表取締役である岸辺正幸(きしべまさゆき)に仕事の完遂とその最中に起こった不可思議な現象について報告していた。

 

「以上が報告になります」

「よろしい。下がっていいぞ」

「はい、失礼します」

 

そう言って踵を返して社長室を後にしようとした美玖だが……

 

「あぁ、そうだ。一ついいかね?」

「はい、何でしょうか?」

 

突然正幸に声を掛けられ振り返ると、その焦げ茶色の垂れ下がった前髪から覗く若々しい瞳を子供っぽく輝かせながら、先ほどとは正反対の言葉遣いで話しかけて来た。

 

「やっぱり二人っきりの時はこう言う話し方やめない?堅っ苦しくて疲れちゃうんだよねぇ」

「……ハァ、社長、何時までもそんな関係じゃいられないんですからしっかりしてください」

 

美玖と正幸は大学時代からの付き合いだ。

二人ともオルフェノクである事を隠すためにあまり人付き合いはしなかったのだが、ある事件をきっかけに互いがオルフェノクだと知り、妙に親近感が湧いたのが始まりだった。

それから暫くしない内にもう一人オルフェノクであった今のデルタが仲間に入り、一緒にこの会社に入社し、正幸はなんとその天性とも呼べる手腕で瞬く間に社長という重役にまで上り詰めたのだ。

そして美玖と今のデルタはその正幸の秘書としてこうしてオルフェノクが過ごし易い世界にする為にこうして活動しているのだ。

 

オルフェノクは元は人間だ。更に言えば次世代への切符を手にした新たな人類と言ってもいい。

しかし、そんな彼らはその異形極まりない姿から人々から疏まれ、恐怖の対象にされた。

それが原因で人を襲う様になったオルフェノクが大半を占めている。

何故こんな姿になったのか。どうしてこうも嫌われなければならないのか。

そんな苦悩が彼らの精神を蝕み、やがて心までもその姿に相応しい怪物にさせる……まさに「フランケンシュタインの怪物」そのものだ。

彼らは待っているのだ。いつか生まれて来るであろうオルフェノクの“王”の誕生を。そしてその“王”が全ての人類が共存できる世界を創造するその時を……。

 

「そうは言ってもねぇ、大学からの仲じゃない。あの頃はもっと燃え盛るような恋もしたって言うのにさぁ」

「あ、あの時の事は忘れろ!!」

「そうそう、そんな感じの美玖が一番似合ってるよ」

「う、うるさい!」

 

正幸の発言に顔を真っ赤にしながらつい昔の口調に戻ってしまう美玖を見て、正幸は苦笑と共にある一つの質問をして来た。

もう一人の仲間である、今のデルタの事だ。

 

「ところで、まだ章治(しょうじ)の事は忘れられないの?」

「………」

 

その言葉を聞いた途端、美玖の表情が険しくなった。

今のデルタ…三木章治(みつぎしょうじ)は自分達の前から突然姿を眩ました大切な仲間だ。そして美玖は彼とは恋人関係にあった。

彼が何故自分達の目の前からいなくなったのか分からない。だが、世間ではこんな噂が流れていた。

 

“黒いパワードスーツを付けた人物が灰色の怪物を倒して回っている”と……。

 

黒いパワードスーツというのは間違いなくデルタの事だろう。

そしてそのデルタが倒しているというのはオルフェノク達の事なのだ。それもスマートブレインに所属しているしていないに関わらず…だ……。

今まで一緒にいた彼が何故こんな奇行を始めたのかなんて分からない。

ひょっとしたらそのデルタは章治ではなく別の誰かかもしれない。

そんな淡い期待を抱いていた事もあったが、それでもし本当にデルタが章治だったら自分は耐えられるだろうか?耐えられるわけがない。

だから決めたのだ。章治を敵として…デルタを奪った反逆者としてこの手で倒すと……。

 

「……忘れられるわけがないだろ。それでも私は奴を倒して、デルタを取り戻す。それが最優先事項だ」

 

そう言って美玖は今度こそ社長室から出て行った。

その後ろ姿を見届けた正幸は「やれやれ」と言った感じに苦笑して椅子に凭れかかった。

 

「それにしても“突然消えた人の気配”、か……。今日で二件目だよ、それ……」

 

正幸は先程美玖から聞いた不可思議な現象と美玖が来る前に報告があった内容を重ねていた。

 

この社内でトイレに行った社員が何故か何時まで経っても戻って来ず、不思議に思ったその社員の友人が様子を見に行ったのだが、どこにも見当たらなかったのだ。

一応、この会社には殆どの場所に監視カメラが設置されている為、それでその社員が入ったトイレの入り口のカメラを確認してみたのだが、その社員の友人が入るまで誰も入っていなかったのだ。

その社員が何らかの能力を持ったオルフェノクならば話は別だが、彼は極々普通の一般社員だ。

当然この会社の裏の姿を知っている筈がない。

 

(一体、何が起きてるんだ…?)

 

そう考え込む正幸の後ろにある外の景色を一望できる窓ガラスには神童によってこの世界に迷い込んだゴルドフェニックスの姿が映っていた。

 

 

 

 

 

(気配が強くなった…という事は、変身した……?)

 

歩は路地裏を出来るだけ気配を消しながら走っていた。

Dシリーズであるという事は次元移動能力を持っているという事だ。

 

次元移動能力は人によって差があり、その性質が微妙に異なる。

例えば歩の様に特定の気配を感知できる者もいれば、亜由美の様に局地的な空間移動ができる者など様々だ。

歩はこの先にいるDシリーズが気配の感知に特化したワールドウォーカーであることを踏まえてこうして気配を消ながら進んでいたのだ。

やがて開けた場所の手前まで行き着くと、そこの物陰から顔を出して様子を窺った。

そこには刃物状のライドプレートを体中に突き刺した刺々しい印象のダークレッドのライダーと、それを驚きながら凝視している亜由美、そして猿の生態系を持った灰色の異形…モンキーオルフェノクがいた。

ダークレッドのライダーを見た瞬間、ディージェントドライバーから歩に新しい情報が送られて来た。

あのライダーに関する情報だ。

 

(仮面ライダーディジェクト…Dプロジェクトの際に障害を寄せ付けない為に造られた“アプローチアウトシステム”。しかし副作用が原因で実用が見送られたDシリーズ…か……。それだったら何故装着者が……)

 

ディケイドを除くすべてのDシリーズは、基本的にディケイドのサポートの為に造られており、それぞれに何らかの役割が与えられている。

例えばディエンドであれば、ディケイドが暴走した時に全ての情報を削除して再始動させる“データリセットシステム”であり、ディージェントであれば、ディケイドが万が一破壊された際にその代役としてDプロジェクトを完遂させる事を目的とした“バックアップエージェンシーシステム”である。

但し、後者の場合は後から付けられた(・・・・・・・・)物なのだが……。

 

(アレが味方なのかどうかわからないし…暫くは様子見だね……)

 

そう考えてそのディジェクトの戦闘を暫く見守る事にした。

 

 

 

 

 

『何だお前?新しく開発されたライダーズギアの装着者か?』

「……ウゥゥゥ」

 

モンキーオルフェノクの問いかけにディジェクトは何も答えずに、低く構えた状態で唸っているだけだった。

 

『オイ、何か言ったらどう……』

「ガアァッ!!」

『うおぉっ!?』

 

何の反応も示さないデジェクトに業を煮やしたモンキーオルフェノクはもう一度問いかけようとしたが、その低く構えた姿勢からロケットダッシュの様にディジェクトは突っ込んだ。

それに一瞬怯んで反応が遅れたモンキーオルフェノクを体当たりで壁に叩き付け、その壁には大きく穴を開けた。

 

「ガアッ!ガアァッ!!」

『ぐおっ!ぐえっ!?ク、クソ…!』

 

ディジェクトは止まる事を知らず踏みつける様に蹴りを入れて、モンキーオルフェノクを更に壁に埋め込ませる。

だがモンキーオルフェノクが悪態を吐くと、突如壁から灰色の鞭の様な物が突き出して来て、ディジェクトをシバいて怯ませた。

その隙にモンキーオルフェノクがディジェクトから距離を取る為に離れる。

その尻尾は異常なまでに伸びており、叩きつけられていた壁に突き刺さっていた。恐らくこの鞭はモンキーオルフェノクの尻尾が変質した物なのだろう。

 

『ったく、ナメたマネしてんじゃねぇぞ』

 

モンキーオルフェノクはそう言いながら尻尾をクネクネと動かすと、壁から突き出ていた鞭もその動きに合わせて引っ込んで行き、壁から尻尾が抜け出て元の長さに戻った。

 

「グウゥゥ……」

 

ディジェクトは対して効いた様子もなく、低い唸り声を上げながら右腰に備え付けられたカードホルダーーから一枚のカードを取り出し、それをトリケラトプスの横顔を模したバックル…ディジェクトドライバーの上部に設けられているカード挿入口に挿入して右手の甲で叩きつける様にトリケラトプスの角部分…ライドホーンを押し倒した。

 

[アタックライド…ファング・ショルダー!]

 

トリケラトプスの口が滑らかに動いて認識音声を発すると、両肩に突き刺さったライドプレートがマグマを彷彿とさせる灰色のノイズに包まれてその形状を大きな刃に変形させた。

それを腕を交差させるようして掴むと、モンキーオルフェノクに向かってブーメランのように投げ飛ばした。

 

「グァウッ!」

『のぐぉっ!?』

 

投げ飛ばされた二枚の刃・ショルダーファングはモンキーオルフェノクを斬り付けると、クルクルと回転しながらディジェクトの手元に戻って来て、それを掴むともう一度モンキーオルフェノクに向かって投げ飛ばした。

 

「フンッ!」

『クッソ!ナメんなよ!!』

 

モンキーオルフェノクは再び迫りくるショルダーファングを尻尾を伸ばしてまるで鞭の様に使って迎撃した。

弾かれたショルダーファングは地面にカランという乾いた音を立てて落ちると、ドロリとした灰色のノイズに包まれて消え、ディジェクトの両肩にノイズが現れてそれが新しいライドプレートの形成した。

 

(あの尻尾が面倒だな……だったらこのカードを使うか……)

 

ディジェクトは別のカードを取り出して発動させた。

 

[アタックライド…リジェクション!]

 

『ハンッ!今度は何をする気かシラネェがさせっかよ!!』

 

モンキーオルフェノクは何か行動を移される前に先手を打って尻尾をディジェクトに突き刺そうとした。

この尻尾は先程の様に、コンクリート製の壁を持つらぬくほどの貫通力を有している。そんな物をまともに喰らえば、いくら頑強な装甲でも一溜まりもないだろう。だが……

 

「……物理干渉を拒絶する」

 

そう呟くと、ディジェクトを貫こうとした尻尾がその身体に触れた瞬間、弾かれて明後日の方向へと向かって行き、何もない壁へと突き刺さった。

 

『な、何だ!?何で弾かれた!?俺に貫けない物なんて……』

「ガアッ!!」

『ヘ?ぐぼぁっ!?』

 

モンキーオルフェノクが言いきる前にディジェクトは地面を蹴って先程の比ではないスピードでモンキーオルフェノクに突っ込んで行った。

その体当たりを再び喰らうと、まるで反発した磁石の様に弾かれて壁に激突して再び跡を作っていた。

 

(な、何だ今の突進…!?普通じゃなかったぞ!?)

 

「リジェクション」のカードは宣言した一つの対象を一切受け付けなくする効果を持ったカードだ。

ディジェクトが“物理干渉”を宣言した為、今のディジェクトに触れた物体はすべて弾かれてしまうのだ。

 

『チイッ、クソ!』

「ちょ、ちょっと好太郎さん!危ないじゃないですか!!」

『……お?へへへ』

「っ!?しまった!!」

「え…?うわっ!?」

 

モンキーオルフェノクは舌打ちすると、すぐ横で亜由美が好太郎に文句を言っている事に気づいて悪どい笑みを浮かべた。

ディジェクトは亜由美に手を掛ける前にもう一度ショルダーファングを発動させようとしたが、やはり向こうの方が早く、その細い首筋に尻尾の先を向けた。

 

ディジェクトは変身時に発生する“周囲にいる人間を強制退場させる”特殊周波によって、今まで一般人を巻き込む事はなかった為に、何も考えずに何時も通りに戦っていた所為で近くに亜由美がいるのを忘れていたのだ。

 

「チッ!」

『へっへぇ~、動くなよ?少しでも変な動きを見せたら、コイツの首に風穴が開くぜ?』

「う……」

「クッ…!」

 

モンキーオルフェノクは亜由美を人質にとって脅して来た。

それに対しディジェクトは、あのオルフェノクの卑怯な手口と、不甲斐ない自分に悪態を吐いた。

 

 

 

 

 

「……そろそろ動いた方がいいかもね」

「動くな……」

「っ!?」

 

物陰からその戦いを観ていた歩は頃合いと見て、次元断裂を展開してそれでモンキーオルフェノクを弾き飛ばそうと空間演算を始めようとしたが、後ろから誰かに何か固い物を背中に押し付けられてしまった。

 

「動いたら即座にパーンやで」

「……誰ですか?あのオルフェノクの監視役ですか?」

 

そのエセ関西弁の声はどこか飄々としているが、恐らく本気で撃つ気なのだろう。

歩は今後ろに押し付けられているのが拳銃だと判断すると、この人物がスマートブレインの社員である事を推測した。

 

この世界の情報によれば、スマートブレインに所属しているオルフェノクが使命に順じた行動を取っているか稀に監視役を張っている事があるらしい。

しかも最近では、デルタがオルフェノクを殺して回っていることから、監視の目が厳しくなっているという。

もしこの後ろにいる男がその監視役であれば、デルタに対処できるほどの実力を有したオルフェノクという事になる。

 

「……その言い草やと、スマートブレインの事を知ってるみたいやな。ナニモンや?」

「僕はただ知り合いを探していただけです。丁度あそこで襲われているのを見つけたので何とかしようと思っていたんです。」

「……ほ~そうかい、そう言う事ならウチに任せぇな」

 

男は一拍置いて納得したのかそう言うと、歩の背中から堅い物を押し当てられた感触が消えた。

その人物の方を振り返ると、そこには赤いヘッドホンを首に掛けたパンクな格好で、明るい茶髪をカチューシャでオールバックに留めた糸目の男が、何やらアタッシュケースを開いてその中の物を取り出しているのが目に入った。

それはベルト状の黒い機械・デルタドライバーだった。

それを自分の腰に巻きつけると、ジーパンにねじ込んでいた拳銃のグリップの形状をした黒い携帯電話型変身ツール・デルタフォンを口元に近付けてある音声コードを呟いた。

 

「変身」

 

(デルタフォン…成程、この人が……)

 

[スタンディング・バイ……]

 

歩が考察している間に、男はデルタフォンが音声コードを認識した電子音声を発すると、丁度右腰に備われたデジタルビデオカメラ型マルチウェポン…デルタムーバーにデルタフォンを差し込んだ。

 

[コンプリート]

 

デルタフォンがセットされた事を認識して電子音声が鳴り響くと、ホルスターから白い光のライン…フォトンストリームが男の身体を幾何学模様を描く様に伸びて来て、やがてその身体を一瞬光に包み込まれた。

光が収まると、そこには黒いパワードスーツに身を包んだライダーが立っていた。

変身時に走ったフォトンストリームの跡が、その装甲の至る所に幾何学模様を描いており、鳥の翼を模した白いラインで描かれたショルダーアーマー。

橙色の円を三分割にし、その内の上の部分が逆三角形の白いラインで形作られた複眼のそのライダーはトトンと不規則なリズムで軽くステップダンスをすると、歩の方を向いて手を合わせた。

 

「この事は誰にも言わんこいてぇな。その代わり、あそこの嬢ちゃんを助けたる」

 

そう言うと右腰に付けたデルタフォンを軽く前に傾けてデルタムーバーごと外すと、拳銃のグリップの形をしたデルタフォンと連結して大型の黒い拳銃の形状になり、それを口元に近付けて「ファイア」と呟いた。

 

[バースト・モード]

 

その音声を認証したデルタムーバーをそこからモンキーオルフェノクに銃口を向けて引き金を引いた。

 

『どぅぐおっ!?』

 

その撃ち出されたエネルギー弾は寸分違わずにモンキーオルフェノクの背中に命中し仰け反らせ亜由美を解放した。

 

「危ないからそこで待っとってぇな、兄ちゃん」

 

命中したのを確認すると、その物陰から飛び出して、ディジェクトとモンキーオルフェノクの戦闘に乱入して行った。

 

(デルタ…この世界の『基点』となるライダーか……。でも、あの人はどこかおかしい……)

 

歩は口に出さずにあの黒い仮面ライダー…デルタを見てそう結論を出した。

確かにあのライダーなら何とか出来るだろう……だが、あの男からは何か得体の知れない物を感じていた。

それが一体何なのか、今の歩には分からなかった。


 
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