ミラーワールドに存在する隔離空間……
この隔離空間はミラーワールドであるにも関わらず、どの鏡からも入る事の出来ない空間。
ここに入る事が出来るのは、ミラーワールドの原理を理解しているこの世界のライダーシステムを作った神崎士朗(かんざきしろう)とその配下であるオーディンだけだ。
暗闇の中である筈なのにそこに存在する無数の鏡が視認でき、その鏡は無限に広がっている。
そんな空間でオーディンと薄茶色のロングコートを着た無表情の男・神崎はその無数にある内の一枚に映し出されているライダー・リュウガを見ていた。
仮面ライダーリュウガ…もう一人の龍騎とも呼べる存在で、神童と言う男がミラーワールドに存在するもう一人の「城戸真司」に存在確立の演算処置を施した結果、生まれたライダーだ。
「ふむ、確かにこのイレギュラーの力は凄まじいな」
「そうであろう。この力があればお前の望むものもすぐに手に入るであろう」
神崎の目的は神崎の妹である神崎優衣(かんざきゆい)に新たな命を与える事だ。彼女は十年も前に事故で死んでいる。それをミラーワールドに存在する神崎優衣と融合させた事によって今は何とか生き返らせる事が出来たが、それも一時的なものであり彼女の命の灯火が消えるのも時間の問題だろう。
神崎は人の欲望をミラーワールドへ溜め込む事によってその欲望をミラーワールドに最後に残った人間の好きな形に変えて実現させる事が出来る事を発見した。
そしてその欲望の塊・“願い”を作り出す為にミラーワールドに人間を介入させるライダーシステムを開発し、人が最も欲望を再現させる方法である“戦闘”をさせる為に「ライダーバトル」を行わせた。
その“願い”を利用し、神崎優衣に新たな命を与えようとしたのだ。
「しかし、これでは駄目だ」
「何?」
「この『ライダーバトル』はそのライダー達の強い欲望によって成り立っている。それも純粋な……。その中に歪んだ欲望を加えてはこの『ライダーバトル』は成り立たない」
「歪んだ欲望…だと?」
神崎には判る。あのリュウガがこの世界の法則とは別のベクトルで存在している事が。
そんな異端分子をこの世界に放り込めばまるで紙に水を注いだように世界の構成力が非常に脆くなり、やがて崩壊するだろう。
「そうだ。しかもこの歪んだ欲望はミラーワールドどころか現実世界までも歪めてしまう程の異端分子だ。神童と言う男もそれを解っていてリュウガに存在確立の力を与えたのだろう」
オーディンは神崎のその言葉に驚愕した。善かれと思ってやったことがこうも裏目に出るとは思わなかったのだ。
「だが…その異端分子がなければ別の世界から来たという“悪魔“にこの世界を破壊されたのかもしれないのだぞ?」
「アレはむしろ歪みを感知してこの世界に来た、と言った方が正しいな。リュウガを存在確立させなければアレもこの世界に来る事はなかった筈だ」
「ぬうぅぅぅ……!」
オーディンは仮面の奥で歯軋りをした。自分がこの男の為にやった事は無駄だったのかと……。
「ならば、この『ライダーバトル』は、終わると言うのか……!?」
「いや、そうでもないだろう」
「何だと?」
神崎はリュウガの映った鏡から目を離し、別の鏡を見た。
そこには王蛇と戦っているナイトとゾルダの他に、もう一つのイレギュラーとも呼べる存在が映っていた。
「俺はこのイレギュラーに運命を賭けてみようと思う」
「運命を?」
「俺はこの別の世界から来たという“悪魔“を信じる事にする。この世界の歪みを消す…とな」
そう言って神崎はこの鏡越しから戦いを見守る事とした。
現在、歩達はそれぞれのライダーに変身してミラーワールドへ介入しそのままミラーワールド内の喫茶店から飛び出して人気のない繁華街で激闘を繰り広げていた。
[ソードベント]
[ソードベント]
「はああぁぁぁ!!」
「うおらあぁぁぁ!!」
ナイトと王蛇が同時に「ソードベント」を発動させ、互いに手に持った剣で剣劇を繰り広げた。
「ハッハアァァ!どうしたぁ!?もっと俺を楽しませろぉぉ!!」
「ぐっ……!」
ナイトのソードベント・ウイングランサーは剣というより槍と言った方が正しく、一撃の重みは王蛇のベノサーベルより上であるが、王蛇の猛攻によって徐々に劣勢になり始めて行った。
「あっちの援護をお願いできますか?こちらは自分で何とか出来るんで」
「良いけどホントに大丈夫?こんなデカブツ相手で……」
ディージェントとゾルダは王蛇の契約モンスター・ベノスネーカーと戦っていたのだが、ナイトが劣勢になり始めたのでゾルダにナイトの援護を頼んだ。
「大丈夫ですよ。まだカードを一枚も使ってないんで」
「おぉ~そりゃ頼もしいね。それじゃあ遠慮なくあっちに行かせてもらうよ」
ゾルダが援護に向かったのを見送っていると、ベノスネーカーがディージェントに咬み付こうとして来たが、それを既に予想し、ディージェントドライバーを展開させ、一枚のカードを挿入した。
[アタックライド…ダッシュ!]
『ジャオッ!?』
「ハァッ!」
『ジャアァァァッ!?』
ディージェントは一瞬でベノスネーカーの死角に回り込み、姿を見失って動きを止めたベノスネーカーの側頭部に跳び蹴りを浴びせた。
そしてその一撃が相当効いたのか、ベノスネーカーは地面に溶け込む様に姿を消して逃げた。
「アドベント」の効果で呼び出されたモンスターは、一定以上のダメージを受けると、その場から逃げ出すという特性を持っている。
それは倒されればライダーとの契約が解除されてしまう為のカードに備われている処置だ。
[シュートベント]
そんな電子音声が聞こえてナイト達の方を見ると、両肩に巨大なビーム砲・ギガキャノンを装着したゾルダが王蛇に砲撃を放っているところが目に入った。如何やら援護には成功したようである。
「そんなに楽しみたいんだったらもう一発喰らってみる?」
「ぐ、北岡ぁ…!」
「北岡さん、ありがとうございます!」
「礼はいいよ。それじゃあ先生、お願いしますよ?」
「だから先生って何ですか?」
ゾルダはキザッたらしく王蛇に挑発すると王蛇は低く唸りながら声を漏らし、ナイトの礼を軽く流すとディージェントの方を向いて追撃を要求してきた。何故先生なのかよく分からなかったが……。
取り敢えずカードを取り出して挿入しようとしたが……
[スチールベント]
王蛇がディージェントより一瞬早くカードを発動させ、ディージェントの手元にあったカードが王蛇の下に転送されてしまった。
本来Dシリーズの「ライドカードシステム」は「龍騎の世界」のライダーシステムと異なる為、「スチールベント」の効果は受け付けない筈なのだが、Dシリーズに備わっている“世界のルールに順じた能力を得る”機能によってこの世界のライダーシステムに適応してしまった為、「スチールベント」の影響を受けてしまったのだ。
そして「スチールベント」は相手の使おうとしたカードを奪い取るカードだ。但し、発動させる直前に使わなければならない為、使いどころがディージェントの「キャンセル」のカードよりも難しい。
それをいとも簡単に使いこなした王蛇の戦闘センスは驚異的と呼べるだろう。
「ほぉ~、『ブラスト』か……。遠距離からチマチマ攻撃するつもりだったかぁ?」
王蛇はディージェントのカードをチラつかせると、そのまま破り捨ててしまった。
破られたカードはその場で粒子化し、消えてしまう。
「あっ!」
「中々えげつない事やってくれるじゃない」
「いえ、そうでもないですよ」
ナイトがカードを破られた事の叫び、ゾルダが王蛇の外道っぷりに呆れを飛び越して感心するが、ディージェントは何て事もなく再び次元断裂を展開して一枚のカードを取り出すと、その絵柄を王蛇に見せた。そのカードは、先程王蛇が破り捨てたカード…「ブラスト」だった。
「チッ!もう一枚持ってやがったか……」
「いえ、少し違いますよ」
「何?」
カードシステムを使うライダー達は一度カードを使ったらもう一度変身しなおさなければ同じカードを使用する事は出来ない。それはDシリーズにも言える事なのだが、ディージェントの場合はカードの枚数が他のDシリーズより少ない為、それを補うために成長記録機能がその場で使用したカードを復元・再使用を可能とさせたのだ。
これは歩が2年間世界を渡って来た中で得た能力でもある。
「説明も面倒臭いんでここでは省かせてもらいますよ」
ディージェントはそう答えながら今度こそディージェントドライバーにカードを挿入・発動させた。
[アタックライド…ブラスト!]
「…ハッ!」
「チイィィッ!」
ディージェントは掌時から藍色の光弾を連続で撃ち出すが、王蛇はそれを、ディージェントの周囲を回る様に走って避けた。
その光弾は地面に着弾すると小爆発を起こし、後には小さなクレーターが出来ていた。
王蛇は走りながら自分のコブラを模した杖型の召喚機・ベノバイザーを取り出し、その中に一枚のカードを装填した。
[アドベント]
その電子音声と共に、何かがディージェントに向かって飛来してくるが、それをブラストを一時中断し避けた。
そしてその飛来して来たものを見ると紅色のエイの様なミラーモンスターの様だった。
「あっ!あれって手塚(てづか)の……!」
「如何やら、倒した後に無理矢理契約させたみたいだねぇ」
「ふん…使わない手はないだろう……」
如何やらあのミラーモンスターは別のライダーの契約モンスターだったようだが、王蛇がそのライダーを殺して無理矢理奪ったようだ。
そのエイ型ミラーモンスターは旋回して再びディージェントに迫って来た。
もう一度ブラストを撃とうにも一度中断してしまった為、効果が切れてしまっているので仕方なくそれを受け流して何とかかわすが、再び旋回して襲って来た。
「これじゃあカードを出そうにも出せないね……」
ディージェントは無感情の声ではあるものの、内心では焦っていた。
ディージェントには確かに空間把握能力が備わっているが、あくまでその空間の状況が把握できるようになるだけだ。
それはその空間にいる人間や知能の高い怪人の思考も含まれた上で演算されている。
しかし、このミラーモンスターのように知能が低いとその動きを読む事が出来ないのだ。
「早く何とかしないとね……」
ディージェントは誰にでもなく小さく呟いた。
「チッ!中々当たらねぇな……だが、それでいい、もっと俺を楽しませてくれるならなあぁぁ!!」
「たくっ、本当にバトルマニアだねぇ、アイツ……」
「俺達も加勢しますよ、北岡さん!」
[アドベント]
王蛇の狂言に呆れながらぼやくゾルダを尻目にナイトがアドベントのカードをダークバイザーに装填するとナイトの契約モンスター・ダークウイングが現れエイ型モンスター・エビルダイバーに飛び掛かって言った。
それによってディージェントの拘束が解放されるが背後から王蛇が迫っていた。
「あ、歩!危ない!」
王蛇のベノサーベルがディージェントに迫るが、王蛇を一瞥する事もなく裏拳を王蛇の顔面に当てていた。
「ぐおっ!?」
「……え?」
「この姿になると周りの状況が詳しく解るようになるからね」
「それを早く言えっつうの!心配するだろうが!!」
呆然とするナイトを余所に淡々と説明するディージェントに思わずツッコミを入れてしまった。
「ぐう…ふざけ……」
「ハッ!」
「どぅぐぉっ!?」
王蛇が顔を抑えながら何か言いきる前にディージェントが王蛇の腹に掌底を入れて吹き飛ばすと、灰色の板を出現させて、その中からカードを二枚取り出してバックルに装填していた。
[ツールライド…アンチ・キル!]
[ファイナルアタックライド…ディディディディージェント!]
吹き飛ばされた王蛇が態勢を整えた瞬間、ディージェントのマークらしきものが描かれた光の壁が現れ、王蛇の身体に後ろから張り付いた。
「ぐっ!?何だ…これは…!?」
「それでは止めの一発、行きますよ?」
淡々とそう呟くとクイッと左指を招く様に動かした。するとそれに応じるかのように光の壁が王蛇を張り付けたままディージェントに近づいていく。
その際にディージェントの右足に藍色のテレビのノイズの様なものが溜まっていった。
「フゥゥゥ……ハァ!!」
「グガァァァァッ!!」
ディージェントの渾身の回し蹴り…ディメンジョンキックが決まり、爆音とともに王蛇はミラーワールドから姿を消した。
「や、やったな…歩……」
「そうだね」
ディージェントがグローブを嵌め直す様な仕草を取っていると、ナイトが近づいてきて称賛してきたが、何処かつっかえがある様子だった。
その気持ちは何となく分かる。ナイト…真司も自分と同じように人を殺したくないのだと……。
歩は自分の持っていた力の所為で自分の居た世界を破壊してしまった。それは研究者達が歩の力を利用したからに他ならないが、それでも自分がいなければ破壊されずに済んだ筈だ。
だから、もう誰も傷つけたくないのだ。自分の力で、破壊したく……。
「……やっぱり、人を殺すのは気が進まない?」
「う…あ、あぁ……」
ディージェントが訊ねてみると、ナイトはバツが悪そうに頷いた。やはり人を傷つけたくない様だ。
「大丈夫だよ。別にあのライダーは死んでないから」
「……え?」
ナイトはディージェントが何を言っているのか分からない様で、呆けた様な声を漏らした。
「ど、どういう事だよ…あいつ、確かに歩の一撃喰らって……」
「このカードを使ったからね」
そう言いながら先程使ったカードを次元断裂から取り出した。そのカードの名は…「アンチ・キル」
「アンチ・キル」のカードはどんなに致命傷を与える攻撃をしても、決して決定打とならなくなるカードだ。喰らっても精々気絶する程度で済むようになる。
「え、何で…?お前、確かにあの時倒すって……。それに、浅倉はどこ行ったんだよ」
「確かに“倒す” とは言ったけど殺すつもりはないよ。僕の目的はあくまで『歪み』の修正だけだからね。後、王蛇だったらあそこの窓にぶつかって現実世界に戻ったよ」
そう言ってディージェントは王蛇が突っ込んで行った洋服店らしき店の窓を指差した。
「そ、そうか…よかった……」
「ちょっとちょっとぉ、どう言う事よ、生きてるって」
ナイトはそう小さく呟くと安堵の息を吐くと、ゾルダが文句を言いたそうに問いかけて来た。
「僕の目的はさっき居たとおりです。それ以外の行動をとるつもりはありません」
「あのねぇ、何で俺が君達に付いてると思ってるわけ?ハァ…こりゃとんだはずれクジだな」
「どうします?あちら側へ戻りますか?」
「分かってて聞いてんの?だとしたらアンタ、相当タチ悪いよ?」
自分の取った行動に後悔しているゾルダにディージェントが淡々と訊ねると、軽く毒を吐いてきた。
今さらあちら側へ戻っても裏切り者として始末されるだけだろう。
つまり、ゾルダのとる行動は一つしか残されていなかった。
「漁夫の利を狙っていた人とそう大差ないと思いますけどね」
「ハハッ、それもそっか。こりゃあ自業自得だな」
それを更に言い返すと、ゾルダは苦笑するしかなかった。
「ここまで来ちゃったらもう後戻りできないし、最後まで付き合ってあげるよ」
「よろしくお願いしますね」
「期待して…いいんだよな……?」
ナイトはこの共に戦ってくれる二人に不安と期待を混ぜ合わせたなんとも形容しがたい言葉を呟いた。
「ぐうぅぅぅ…クッソォ……」
浅倉は繁華街のど真ん中で仰向けに倒れていた。
あの時、青黒いライダーが「ファイナルベント」に近いカードを使う前に使っていた「アンチ・キル」とか言うカードのおかげで死なずに済んだ様だが、それは自分にとって屈辱でしかない。
「ぬうぅぅ…うがあぁぁぁぁ!!」
浅倉は痛む身体を怒号と共に無理矢理起き上がらせた。周りにいる野次馬がこちらを奇異な目で見ているが知ったこっちゃない。
幸いカードデッキは壊されていない。もういっその事ここで変身して周りの人間を片っ端から殺して行こうか……。
――――キイィィィィン……――――
そんな考えを巡らしていると、聞き慣れた耳鳴りが先ほど自分がミラーワールドから出て来た窓ガラスの方から聞こえて来た。
「あ゛ぁ?」
浅倉はその窓を見ると、そこには城戸真司が平然と(・・・・・・・・)立っていた。
「お前…城戸か……?」
浅倉は違和感を覚えていた。浅倉の知っている城戸は常に落ち着きがなく、騒がしい男の筈なのだが、目の前に立っている城戸と思しき男は自棄に落ち付いており、普段の城戸からは想像できないような冷たい目でこちらを見ていた。
何より、変身もせずにミラーワールドにいる時点で不自然だ。
そしてその城戸はニヤリと冷たい笑みを浮かべた。
『来い、遊んでやる』
そう言うと城戸はガラスの奥へと歩いて行き見えなくなった。
そんな城戸の不自然な行動な素一切気にも止めず、浅倉は凶悪な笑みを浮かべた。
「いいぜぇ…お前が誰だろうがどうでもいい…俺を祭りに連れてってくれるんならなぁぁ……!」
そう狂言を吐きながら王蛇は移動して行く耳鳴りを追って繁華街を後にした。
後ろで見ていた神童の気配にも気付かずに……。
「そうだ。その調子でライダーを消せ。そしてディージェントとか言う悪魔…いや、人形もな」
そう言い残すと誰にも気付かれる事もなくに次元断裂を展開してその場を後にした。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
以前投稿していたサイトでは「VS王蛇」でしたが、気分を一新させようとこちらのタイトルに変更させて頂きます。