今自分はとても泣きそうだってことを
何も言わずに誰かに伝えられたら
それはそれは楽だろう。
やさしいひとは僕を抱きしめてくれるだろう
厳しい人は叱ってくれるだろう。
ちょっとだけすさんだ気持ちを持った人は
知らぬふりで通りすぎていくだろう。
伝わることはとても楽で
僕はいつしか忘れてしまうんだ。
「助けて」の一言を言えなくなる。
それはとても怖いことで
誰もが同じように思ってしまったら
僕は泣きそうな人に「大丈夫?」と聞けなくなるだろう。
それは悪意ではない
それは善意でもない。
まず、押し付けてしまうやさしさが怖くなる。
見てみぬ振りも優しさなのだと誰かに教わる。
泣くことが意味を成さなくなる。
自分はつらくて泣くはずだったのに
涙を流す行動さえも事務的に行われて
いつしか気づくんだ。
ああ、僕はもう何年も本当には泣けていないってことに。
流れない涙が「助けて」を言わせなくなる。
助けてと言った言葉が
「泣きそうではないのに?」
と嘘のように響いていく。
あやふやな境界の上で誰かにこの声が伝わってないことを祈る。
******
結局感情は伝わりにくいほうがちょうどいい?
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今泣きそうな自分を誰かに伝えられたら楽だろう。
短いSSです。