初めましてコナミと申します。
この小説は転生者アンチ要素がふんだんに盛り込まれている為、不愉快な思いをする方はご遠慮ください。
「マジスか?!」
目の前の青年の言葉に俺は思わず声を荒げた。
いきなりだが、俺は既に死んでしまったらしい。工事中のクレーンが風に
まあ、よくある二次創作のテンプレ通り、神のいるとこに来て転生させてくれるという話になった。
「どんな世界が良い? 何処でも飛ばそう」
目の前の銀髪中世的な顔立ちで神々しい雰囲気の青年が、いわゆる神らしい。
口調は穏やか且つ威厳があって本当に神様っぽいな。
「そのような事はどうでもいいだろう。さっさと決めろ」
「あ、やっぱ心とか読めました? それじゃあ……ネギまの世界で!」
なんつーかナギさんカッコイイだろう。まあ、息子さんはアレだけど。
あの世界で一緒に無双とかしてぇな。
「死亡フラグが多いが、望む力はあるのだろう?」
「もちろん! まずはナギの魔力とラカンの気だろ。不死身性+瞬間記憶能力もつけて、スキマを操る能力に治癒能力、アニマルマスターと、あっFateの無限剣製とEXTRAの皇帝特権EXもつけて……あとは保身の為に
別に抑える気は無い。好き勝手にやらせてもらおう。
「ふむ。無限剣製と幻想殺しは難しいが……少し待て。―――――出来たぞ」
そう言うと突如力が漲ってきた。が、直ぐに治まる。馴染んだのか?
「早速だが、送ろうか」
「えっ、もう!? ―――神様。このチャンス無駄にはしません。本当にありがとうございました!」
「感謝は良い。礼を言いたいのなら、存分に楽しみ、存分に力を振るい
その言葉を最後に、視界が暗くなった。
「さて。アイツが行った事だ。こちらも存分に傍観するとしよう」
あの者は本当にお
私が殺したなど思いつかなかったとは。
まあここに至った以上暇な日があるのは覚悟しなければならないが、暇なものは暇だ。暇つぶしに大いに役立ってくれよ。転生者君♪
と、台座を用意して画像を見ようとした時、
ズドッと肩に何かが刺さった。十字架の形でそれぞれ先が尖っており一番長い柄の部分にリングの取っ手がついた剣のような物だった。
再生能力により痛みは薄い上に即座に解析しても何の神秘も無いただの時計の針……?
理解できない所に続けざまに時計の針が飛ばされてくる。
「流石というべきか」
生きてきた人生で聞いた事のない無機質な声。無機質な声自体は聞いた事はあるが、それはまだ生物らしかったし、ちゃんと矯正すれば治るぐらいだった。
だがこれは何だ?
まるで本自身が声を出して自身に書かれた文を読んでいるようではないか。
「
即座に投影したサーベルで時計の針を弾き、針が投げられた方向へ魔弾を飛ばす! 当たった様子は無い。身震いを感じ、直感で横に飛びのく。
自分がいた場所がクパァと空間が縦に裂け、ついに声の主が姿を現す。
私見は、12歳ほどの中性的な顔つきの少年。いや、もしかしたら性別自体が無いのかもしれない。少しダボついた服装でお世辞にも似合っていると言えない。冷や汗を掻くほどの感情のない瞳がこっちをジッと見つめていて、その小柄な手には丸みを帯びたひし形の時計の針が。
「一緒に巻き込まれれば良かった」
「っ、誰だ貴様はッ!?」
「私自身わかりません」
意味のわからない返答に思わず、はぁ!?と素っ頓狂な声を出してしまった。表情一つ変えずに侵入者は淡々と告げる。
「私には正式な名称はありません。ある者は神と呼び、ある者は破壊者と呼ぶ。ただそれだけ」
今の説明である程度わかった。
目の前の人間は転生者かその類。目的は私のような存在の抹殺!
「甘く見るな! 『重力×10』!」
自分の周り以外の重力を10倍にする。言わずもがなドラゴンボールのアレだ。
急に体が重くなった事に対応できずにガクンッと体制を崩したところに斬撃を叩き込む!
「ロンドン塔の時計から拝借した指針。とても使い勝手が良い」
左手の時計針を右肩辺りに回して、一気に振り下ろした。10倍の重力をも飲み込む衝撃波が襲い掛かる。
が、そんなものは通じない。ここは私の空間だ。消し去る事など造作でもない。
衝撃波は無かったように霞に消え、
「……私を壊せません」
サーベルの一撃は当たった。その証拠にも
平然と針を構えるヤツに一抹の恐怖を覚える。早くヤツを排除したいが……。
「重力に重力を加えればどうなるか、貴様にはわかるよな?」
重力に重力を重ねる。その負荷は空間をも歪ませて非常に強い重力場を発生させる『孔』を作り出した。
その孔をブラックホールと呼ぶ。
光さえ抜け出せない渦から離れようとするが、遅い。
ズオンッと音も残さずに消えていった。
ふぅ、とため息を吐く。この数十年抱く事を忘れた感情がこみ上げてくる相手だった。
「感想。油断のしすぎかと」
耳元で聞きたくない声に身を固めてしまい、反応するのに時間がかかった。
ズドッ!と喉、肩、その他数箇所に時計の針が突き刺さった。
体も動かせない。何らかの力が働いているようだ。
「強大な
「ま、待て!! 俺は偉業を立てた、世界を救った!! その英雄を殺すだと!? 俺を転生させた神が黙っていないぞ!!」
「メッキが剥げましたね。貴方が介入しなくてもいずれ救われる世界だった。貴方はさらに混乱を招いた。何処が英雄なのか。さらに言えば貴方を転生させた異端者は私が処刑した」
絶望的な単語を聞き、口をパクつかせ、脂汗を浮かべて言葉を探す。
「おま、お前も、平和を願って、動いているのだろう……? だったら手を組もうじゃ―――」
「勘違いしないで欲しい」
ヤツの口から発せられる音はどう転んでも絶望ばかりだった。
「私が守っているのは平和ではない」
針を持ってゆっくりと無表情で寄って来るヤツを止める術は、ない。
「私が守っているのは、――――秩序です」
死神の鎌は、あっさりと振り下ろされた。
バクテリアのように自然に発生し、単純な行動だけをとり、世界の不純物を排除していき、自然に消えていく。自然に従い動くのが自分。
破損と再生を繰り返し、確実に
今更自分を変える必要も無い。コレだけの力があれば充分だ。
「……取り逃がしました」
自分が来る前に一人、また転生者を送り出したようだった。
前回の再生に比べてスペックはかなり
「新たな転生者を抹消せよ」
ブゥンと姿がブレて、肉と骨の塊に成り果てた『神を名乗る
新たな転生者は
物語の歯車は急速に動きだした。
「ふぁ~、やっと来れたぜネギまの世界へ!」
あの空間から出た俺がまず始めに叫んだ言葉は端から見れば変人に見られる、そんな単語の集まりだった。
まずはナギを探して
その時気付けなかった。
「………本当に、とるに足らない存在ですね」
あまりにも無機質な声に反射的に振り向いた。
背筋に氷を押し付けられた感触が全身を貫き、直後、脇腹に強烈な痛みを感じた。
「い……? ぎぁあああああああああああ!?」
渓谷に近いこの場所では俺の声はかなり大きく響く。
脇腹辺りを覗き見ると、自分の腕ほどの長さがある剣みたいなものが突き刺さっていた。痛みのあまり脇腹を押さえる。ジクジクした痛みは止まる事無くどんどん広がっていった。
振り向いた先にいる人物は、全く見覚えが無い、伏せ目気味で小柄で中性的な顔の人間。ゾッとするような感情の無い瞳がこちらをジロリと睨みつけている。
感情の無い機械的な音程が、そいつの口から漏れてくる。
「探しにくい次元に飛ばしたものです。まったく手間がかかる」
感情が無い音程で喋る―――いや、音を出すと言った方が正しいかもしれない―――に言い切れない恐怖を感じ、直ちに逃走を図る俺。
渓谷には民家は無く、助けを呼んでも来ない気がする
何故だ?
何故俺は逃げようとする?
あの神様からチートな能力をもらったのに?
「―――……そうだそうだよ! 今の俺はチートなんだ! お前がなんだろうと怖くねえ!」
ただの見栄っ張りだったかもしれない。だが、そう叫ばずにいられなかった。
対して、奴の反応はとても薄い。
「所詮自分で掴んだものでもないくせに」
「黙れ黙れ黙れ!! これは俺の力だ!
昔憧れたキャラクターの決め台詞を叫び―――
何も起こらなかった。
「はぁ!? まさかあの野郎手ェ抜きやがったのかよ!?」
「―――それがあなたの力……」
音域に高低はない。が、雰囲気的に見下されているかのようだ。
何で投影が出来ないのかわからない。けど、俺の能力はまだあるはずだ!
「スキマよ開け!」
何も起こらない
「お前の能力は俺のものだ!」
何も起こらない
「命あるものよ! 俺に手を貸せ!」
何も起こらない
「光の精霊11柱 集い来たりて 敵を射て! "魔法の射手" 連弾・光の111矢!!」
何も起こらない
「ラカンインパクトォォ!!」
何も起こらない
「超かいふっ!?」
とっくの昔に傷ついているが回復の兆候が全く無い。
神から貰った力の全てを試したが全て結果は同じ。
何も、起こらない。
「……」
付き合っていられなくなったのか、無言で丸みを帯びたひし形の剣のような物を取り出した。
言葉にならない叫び声を放ち、俺は走り出した。
いやだ! 折角チャンスを貰ったんだ! ここでみすみす殺されてたまるか!
「……」
ズドっ! という鈍い音が、今度は右太ももから。
「なんだよぉ……、なんでだよぉ……、」
嗚咽が出た。きっと今の顔はぐしゃぐしゃになっているだろう。
何で俺はこんな理不尽な目に遭わなきゃいけないんだ。俺はただ『 』になってみたかっただけなのに。何かやる前にこんなとこで1人死ぬのなんてまっぴらだ!
「……」
奴が剣のような物を振り上げ、
「ぅわぁぁぁあああああああああああああ!!」
最後の抵抗となるだろう、無意味なのに手をバタつかせる。
その拍子に手が奴の剣のような物を持つ腕に軽くぶつかる。
そう。
べキッ! と悲鳴に似た音が、誰もいない渓谷に悲しく響いた。発音源は奴の片腕。
「……まさか、
片腕が無くなった所で、奴の音域に変化は全く無いが、
「抹消せよ」
何かが変わった。
奴は円盤を取り出し……、いやあれは時計盤じゃないか? 一体何をする気か目を見張る。
……って、そういう場合じゃない! 速く逃げないと殺される!
俺の唯一の武器は右手だけだ。リーチも短い。威力も無い。弱点も多すぎる。良い所無しも良い所だ(冗談じゃないぞ冗談では)。だけど、今の俺にはとても心強い武器になる。本当に保身になったな。
「『せめて時を動かす
聞いた事がない呪文を口にした瞬間、時計盤はバラバラに崩れ、パーツの一つ一つが分かれる。
そのバラバラのパーツは宙に浮いたままで留(とど)まり、あろうことか奴はそれを投げつける。パーツの一つ一つが小さく、当たるとチクチクした痛みが襲う。
そして、俺がパーツ群の中心に迫った時、事は起きた。
パーツが時計の逆再生のように戻っていく。その中心は俺……!
「こんなのありかよ!? でも……っ」
適当に手を振り回せば右手にパーツがピシピシと当たってポトンと力なく地面に落ちていく。当たり漏らしが体のあちこちにめり込んでいるが、被害が少ない分それでよかっただろう。
「無駄な抵抗。しなければ楽になりましょう」
無意味かもしれない。楽になれば良いかもしれない。
けど、
「それでも、俺は諦めたくない!」
俺の言葉は全く理解できていないだろう。ただ無言で手に持った剣のような物で突き刺そうとする。
その時、視界の端っこで光り輝く何かが迫ってくる。
「あぶねぇ!?」
「―――」
音がかき消され、視界は真っ白になり、体中にピリピリした痛みが走る。
「おいおい随分と物騒な世の中になっちまったなぁ。だが一方的なんじゃねえか、こりゃ?」
「―――はは」
視界が晴れてきた時、始めに目にしたのは、
赤い髪色。木の幹のように曲がった形の杖。
あの青年は―――
「まっ、目の前で弱いものいじめが起こってんだ。そいつよりもナギ・スプリングフィールド様と相手した方が楽しいぜ?」
「―――貴方の相手をする『時間』は無い」
ナギの名乗りにも、熱くも冷たくも無い平坦な音程で返した。
無視すんなコラ! と遠くから聞こえてくるがそれも無視し、片手に掴む剣のような物を振り降ろそうとする。今度こそ殺されるだろうが、
その運命は一瞬で打ち砕かれた。
グキャ! と凄まじい打撃音がした後、奴は消え去ったのだ。
「大丈夫ですか? ……どういう戦い方をすればこうなるんです?」
ナギと奴の目で追えないバトルを、呆然と眺めていた俺の真上からローブで顔が見えない人間が降りてくる。たしか、アルビレオ・イマだったか。
「動かないでください。今治療します」
「止めてくれ。まだ俺にはやらなきゃいけないことがある」
立ち上がる俺を見て、慌てて治療魔法を掛けるが、
バキン!と
構築された術式が壊された。
「なっ!?」
驚いているが今はどうでもいいことだ。
ナギが雷の暴風を奴のどてっ腹に叩き込んだのに、直ぐにビデオの逆再生のように修復してしまった。
……奴の力は一体何なんだ?
不死性に時計を使った攻撃、それに何で俺の能力が使えなくなった?
だが、
「勝機はあるな」
どうなってんだこりゃ?
いくら攻撃しても直ぐに再生しやがる。新手の吸血鬼か?
それに表情も変えないし感情も見えない。移動もただ歩いてくるだけ。……攻撃を当てても一定の速度で迫ってくる。
なんつー不気味な奴だ。
「『長針』」
やけに短い詠唱の次に長い時計針が凄まじい速度で襲う。ただし直線的だから避ける必要も無い。杖で弾いた。……恐らくこれは伏線だったんだと後から後悔した。
チラッと目の端に映ったのは偶然だったのだろうか。奴の手にはさっきの針と同型の短い針が2本。
また投げてくるのか!? と身構える。
しかし、針は落とすように放られた。
「『短針、秒針、3本一対』」
放られた針は重力を無視して、真っ直ぐ俺に目掛けて飛ばされた。これも直線的で簡単に避けれる。
瞬動で距離を詰めて、もう1回腹に大穴開けてやる!
「……人間なら、
背中に鋭い痛みが走り、さっきの短い針も弾いた方向から襲ってきた。視界に入った瞬間に杖で弾くが、また浮き上がって矢のように襲ってくる。
「どうなってやがんだ?! こんな魔法見た事ねぇぞ!」
「ナギっ!!」
遠くから様子を見ていた詠春が俺の傍に寄って針を叩き壊してくれた。癪だが、協力しなきゃこいつから
「詠春、こいつかなり強ぇ」
「わかってる。始めから全力だ!」
そう言うと
神鳴流奥義 斬魔剣。
己の気を放出して物体をすり抜けて魔を討つ剣。だったか?
まあ時計針をすり抜けてザックリ斬られた訳なんだが、また逆再生して元に戻ってしまうんだよなぁこれが。
「(詠春。同時に行くぞ)」
「(了解!)」
ズボッと背中に刺さった針を抜いて、瞬動で奴の背後に周る。片手でまた出した針を回すが、俺は簡単に避けた。つーか時計の針を武器にするなんてどんな頭してんだ? 『突く』しか攻撃方法がねえだろ?
さっきの仕返しとばかりに針を脳天にブッ刺して、そのまま雷撃を流した。
雷の電流は桁が違う。刺さった針はひしゃげ、奴の頭は文字通り爆発する。……グロイ。
さらに念を入れ、詠春が最高に気を込めた雷を放つ技と俺の千の雷でフィニッシュだ。
もう奴のいた所は焦土と化し、塵が舞うだけの場所―――
「化物が」
奴は、まだ立っている。塵が集まって、人の形を取ろうとする。そう、まるで―――
「ビデオの巻き戻しみてえだな」
「あながち間違ってないようだぞ。見ろ、周りの地面も戻っている」
そう言われ注意深く観察すると、奴の立っている地面に草が生え、自然に枯れてまた草が生えるという現象を繰り返している。
「ナギ、俺の憶測でありたいんだが、もしかしたら奴は時を操る力を持っているんじゃないか……?」
「ありえねぇ、って言いてぇけどよ。今回ばかりは常識が通用しない相手だろうな」
驚異的な再生力―――その正体は『時間を巻き戻して怪我を無かった事にする』という反則技。時間を操る力はどんな力か知らない。とんでもない隠し球を持っているだろう。こんな奴、どうやれば倒せるんだ……?
「(ナギ、詠春。少しお話が)」
どう相手しようか頭を捻ってると、アルから念話が飛ばされる。何か秘策を思いついたのか?
「(ええ。簡単に説明します。『それ』が再生する前にこっちに投げ飛ばす事。それが秘策です)」
??? つまり、アルが止めを刺すって事か?
しかし、奴はもうとっくに復活してしまっている。だったら、
「もう1回壊れやがれェェェえええええええええええええええええ!!」
全力全開の千の雷を放ち、視界と音がかき消される。俺は直ぐに砂埃の中に突っ込んで、手探りで奴を探した。
「―――無駄。これでは効かない」
いた。
顔が半分以上無くなり、体の下半分が消し飛んだ状態でもなお動いている。
「
「うっせぇ。あいつが何モンなんてどうでも良い」
サウザントマスターなんて言われた事がないが、なかなか良い二つ名じゃねぇか。
わずかな抵抗を見せる奴の頭を鷲づかみし、大きく振りかぶって、
「どんな理由だろうと! 人間が食い潰されて良い道理なんて、ねぇんだよ!!」
アルのいる方向へ投げつけた! ……って。
「「アル!?」」
俺たちの仲間、アルビレオ・イマに投げつけた、奴の進行方向に誰かが立ちふさがっている。
傷が全く癒えていない『彼』が、右腕を突き出し待ち構えている。
剛速球に等しい奴の体を片腕で受け止めるなんて不可能。アルの奴何考えてんだ!?
そして、ゴギンっ!と人間が出すべき物ではない音が渓谷に響いた。
「ぅ、おおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
『彼』の腕は『奴』の頭に叩き込まれ、『彼』の右手が投げられたベクトルに負けて肩の関節が外れたかと思うぐらいに後ろに反る。
「……やはり、失敗……!」
「―――いや、成功だよ」
彼はボロボロ。俺たちはそこまで酷くはないがやはりボロボロ。
ここで奴が立ち上がったら完全に負けだ。
しかし、顔が砕けた奴はもう復活しない。
「無茶すんなぁお前。どうせなら俺達の仲間にならねえか?」
「えっ、」
「ちょ、ナギ!(どう見ても怪しすぎるだろ、さっきの奴といい、一撃で葬ったあれとか!)」
「(ナギ、詠春。その事で話があります)」
アルと詠春との間で念話をする。
アルの話を聞くと、
彼の右手にはある種の異能の力が宿っている。それはあらゆる異能の力を打ち消す力だと言った。
アルが出来る限り推理した結果、彼は珍しい力を宿した為に何者かに追われている身ではないか、と。
「(ならば尚更じゃないか。賞金稼ぎに狙われる生活なんてイヤだぞ)」
「(だけどなぁ)」
やっぱり俺はこいつを助けたんだから、救ったから後はご自由にさようならなんて間違っている。それに、こいつが俺たちに加わったら戦力にならないだろうけど、匿えば下手に手出しは出来ない。たしかに奴が言ったようにメリットは見捨てる以外にないらしいが、匿うデメリットも無い。だが、俺達のメリットは人を救えた事だろう。
「(……お前がそういうなら、俺は何も言うまい)」
「(フフフ、貴方らしいですね)」
詠春は渋々と、アルは不敵に笑って了承してくれた。
「もう一度言う。俺達の仲間にならないか?」
「あ、ああ! そうだ。自己紹介はまだだったな。俺は―――」
数十年後
火星
徐々に塵が集まりだし、形作っていく。
「……20XX、再生に『時』が経ち過ぎた」
全く感情が見えない音程で口ずさむそれは衣類を身につけず、作られたような不自然に健康的な肌色を惜しげもなく曝け出している。
「―――『我、時の流れに逆らう咎人となる』」
出した声に羞恥はない。感情が一切無いのだから。
詩のような詠唱の後にブゥンと体がぶれてそこから消え去る。
『魔法世界』跡地には、誰もいなくなった。
転生してからかなりの時間が経った。あれから奴は襲ってこなかった。
それと、自分の転生の特典能力について考えてみた。様々な能力を貰ったが、何一つ機能せず、唯一保身用に貰った
あれこれ考えたが、結局わからなかった。
「お~い! 早く行こうぜ~!」
考えにふけっていた俺を呼び戻したのはナギの呼ぶ声だった。
今、
俺も戦闘には参加した。始め皆は目立つからといって反対したが、何時までも足惑いになりたくないので、時間をかけて説得し、納得させることが出来た。
罪悪感とか背徳感とか沸く事は無かった。奴らは敵なんだし、今は戦争中だ。殺す殺されるのは当たり前だろう?
「―――っ! ……」
「どした? なんか忘れもんか?」
「……そうだな。ちょっと取りに行くわ」
ナギはそう言って元来た道へ戻っていく。ゼクトや詠春が訝しい顔になっていたのは何故だろうか?
お師匠との手合わせを終えて、また目的地へ進もうとした時、不快感に包まれる視線に気付いた。1人の人間として見てる視線ではなく、お芝居の登場人物を見ているような視線。
そう、不思議な手を持つアイツが俺たち以外の人間を見てる時がちょうどそれに当てはまる。
念話でお師匠達に少し離れることを伝え、アイツには誤魔化して街の中に入るフリをした。1枚80万の転移符を使って人がいない場所まで飛び―――
「随分と
と言った所で、奴の能力を思い出した。
伏せ目気味で小柄で中性的な顔の人間。
時間を操る術を持ち、俺達を圧倒した相手。
「あの異分子の事で話がありま―――」
奴が口を開き、異分子と言った瞬間に魔力を込めた拳を思いっきり顔面にぶち当てた。すぐに逆再生を始めるが知ったこっちゃ無い。もう一発腹部を殴ったら半分に砕けた。結構すっきりした気分になった。
「……いくら修復されると言っても、痛いものなのですが」
「知るか、俺の仲間を『異分子』呼ばわりする奴に遠慮はねぇ。つか、どん位粉々にすりゃいいんだお前?」
「ある世界の27人中第三位と第四位と戦った時の傷は修復不可でした」
「?」
表情は全く変わっていないが、ひどく疲れている雰囲気が漂ってるよう、な……?
「本題に入ります。あの異分子を引き渡してくださ―――」
また異分子呼ばわりしたなコイツ。言い切る前に雷の投擲で胴体に風穴を開けた。
これだけの事をやっても奴は反撃一つしない事に少し疑問を覚えるが、あの時も致命傷を負わないような傷ばかりだったしコイツの性格も機械と変わらないから、極力人を傷つけない様にしているのだろう。もしくはそういう
「アイツは一応護衛対象なんだ。アイツを捕まえるっつぅんなら容赦しねぇぜ」
「元より、私に戦闘の意欲はありません。話があるだけです」
「そーいうのは昔から手っ取り早い方法があるんだぜ。『漢なら拳で語り合え』ってなぁ!」
俺が介入しても世界は変わる事無く本来の歴史どおりに進むと思っていた。
ナギの息子が産まれ、魔法学校卒業後に麻帆良学園で先生やって、ドタバタのコメディとかやって、京都で生涯のライバル的存在と出会って、学園祭で未来の子孫と戦って、魔法世界でラカンの弟子になってまた戦って、魔法世界の真実を知って、そして世界を賭けた最終決戦を行うと言う未来を俺は知っている。
だけど、この未来はこの世界の未来じゃない。
「は? ジャック?」
そんな事、考えたことも無かった。
「ちょっと触れただけでもこのザマか。俺様の気でさえ風船みたいに消すなんざ、対したもんだぜ」
この時点で原作キャラが死ぬなんて思いもしなかった。
ここは
「なんじゃ、これが噂の紅き翼の秘密基地か! どんなところかと思えば……掘立小屋ではないか!」
「仕方ないと思いますが……」
今は派手に動けねぇのにそんなに期待しないで欲しいもんだ。
いつもは騒がしい
……ジャック・ラカンが死んだ。
マクギル元老院議員との会合でハメられ、一戦交えた時、白髪の少年が地割れを作り、不思議な手を持つアイツを呑み込もうとした。
だが、ジャックは閉じかけた地割れに腕を突っ込んでアイツを引き摺り出したのだ。
その際に、つかんだ腕が、異能を打ち消す右手だった。
魔法世界の真実は聞いていたから,俺はそれを見てギョッとした。
そしてジャックは……死んだ。
アイツはジャックが死んだのは俺の所為だと言って1人遠くにいる。
だからこそ、納得がいく。
「おい」
「……ナギか」
弱々しい姿に問い詰める決心が鈍りかけた。
だけど、言わなきゃなんない事だ。
俺の神妙な面持ちに気付いて、体ごと俺のほうに向き合って、聞く体制になる。
胸の辺りが締め付けられる感覚に陥る。重い唇を動かして、言い放った。
「戦線から抜けてくれねえか?」
何を言われたか、わからなかった。
「―――……どういう意味だ?」
「そのままだよ」
「―――っ、仲間を消しちまうほどの力を操れない奴は役立たずって事か!?」
敵味方関係無く打ち消す力なんて両者共に脅威である事はわかってる! だけど、俺は皆の力になりたいんだ!
「そうじゃねぇよ」
「? じゃあなんで」
「この前、奴に会った」
『奴』
俺と紅き翼が出会ったあの不気味生物の事。
ていうか奴に会ったのか!? 何時!?
「ま、首を残して粉々にしたんだけどな」
軽い口調で言い放つナギに少し
「そんときに聞いたんだ。お前を狙う理由と、この世界の事」
それを聞いて俺は思わずドキッとした。
そんな俺の心を見透かしたのだろう、ナギやっぱりかという表情をした。
「それを聞いてさ、なんとなく合点が言ったんだよ。お前に対する違和感がな」
ふぅと息を吐き、
「この前の戦線で殺した奴らの顔を覚えているか?」
いきなり何を言ってるんだろうか?
今は戦争中だぞ? 殺した相手なんか一々覚えれるわけねえじゃんか。
「実を言うと俺もさっぱりだ」
胸を張って堂々と言える事じゃねえだろ!
「けど戦いの後思い出すんだ。死ぬ間際に俺を見て、殺してやるって、訴えかけてくるんだ。それで俺は人を殺したんだって実感する。だから、俺はあいつらの恨みの篭った顔を忘れないようにしてんだ」
「そんな事に何の意味があんだよ? この時代に情けは命取りになるんだぞ?」
俺の言葉にナギは押し黙り、少しして顔を上げた。
「情けねぇけど、俺はあいつらの顔を忘れられないんだよ。あいつらにも戦う理由があろうが無かろうが、俺達が連合の為に戦ってたように何かの為に命を奪ってた。だからその分、俺はあいつらの念っつうか、なんだろうな。まぁ、そういうもんを背負おうとしてんだ」
俺は言葉が出なかった。
原作を見る限り、ナギは楽天家で
俺はそう思ってた。
けど違った。
ナギはちゃんとこの世界の事も考えていたのか。
「奴からの情報で違和感がなんなのかわかった。お前は俺たちしか目に入ってないんだ。それ以外の人はただの人形としか見えてねぇんじゃねえのか?」
「それは違う! 俺だって世界の為に戦ってんだ!」
「今まで奴らを消してどう思った!?」
何とも思わなかった。
ナギに面向かって言えなくて、心の中でそう呟いた。
「―――じゃあ、ジャックを消して、どう思った」
ナギらしからぬ弱弱しい声で俺に問いかける。
もの凄く悲しかった。
ジャックを打ち消した時だけそう感じた。
「俺たちは始めは名を上げる為に戦争に加わった。けど今は戦争を止める為に動いてる。だから極力犠牲を出したくないんだ」
「俺の力はそのために邪魔ってことか? ……守る為の力を手に入れたってのに、なんて様だよ……」
「お師匠様が昔言ってた。『意思無き力は何も出来ない』って。お前からは人を救う『意思』が全く見れねぇ。誰かを守る事も、誰かのために戦う事も出来やしない。その右手はこの世界じゃ、死体すら残さない、ただの兵器だ」
ナギはそう言った後、何も言わずに俺から離れていった。
……間違ってるのか? 仲間を守ろうとする事が。
俺はなんとなく
何の変哲も無いただの右手。この手で何人もの人間を屠ってきた、この世界ではかなりチートであろう能力。
この手で人を殺した。
そう考えた瞬間、ドロリとした赤い液体が着いた手を幻視した。
オリンポス山に絶叫が木霊する。
俺たちは墓守り人の宮殿で
その後、オスティアが崩壊し、アリカは人々から『災厄の女王』と呼ばれ投獄された。
2年間も牢屋に入れられたアリカを思うと、頭の中がぐちゃぐちゃになって胸の下から溶岩が噴出すような感覚に陥った事もあった。
2年間待った甲斐があり、処刑直前にアリカを助ける事が出来た。アリカは処刑されたことになり、アリカは本当の意味で解放された。
……その間、あいつは俺たちに有益な情報を持ってくるだけで、あまり戦線に干渉しようとしなかった。……むしろ、その方が良かったかもしれない。
まっ、全てが終わってハッピーエンド、めでたしめでたし……、と言う事にはならないようだ。
俺とアリカは絶賛新婚旅行中であり、魔法世界と旧世界を行き来していたり自由な時間を充実していた時だ。
突然大きな地響きが魔法世界を揺るがした。
オスティアが堕ちた時よりも被害が大きい事が連日まほネットで知らされ、
俺たち紅き翼のメンバーもそこに加わった。
調査の結果、震源は墓守りの宮殿の奥部だった。当事者の俺たちはかなり驚いた。
まさか完全なる世界の残党が何か起こそうとしてるのか……?
辺りを警戒して奥へ進むと、そこには―――
「なんだこれは……」
『それ』を見た全員がそう呟いた。
光り輝く異形。女性的な造形をしていて、鼻や口などの器官は表面にすべすべした布を覆ったような感じだ。髪があるところには背中にかけて金の刺繍が入ったラッパ状に広がる布を空(くう)にたなびかせ、頭の上には輪が浮かんでいた。
「
誰かが叫んだ。俺たちはその声をよく知っている。
「ガブリエル……! まさか旧約聖書の天使だと言うのですか!?」
アルがご丁寧に解説した途端動揺が走る。天使って架空のモンだろ!?
アレコレ騒いでいた所為なのか動かなかった天使が動き出す。
手を広げると、背中から氷のような翼が生えてきた。その光景を見た全員が息を呑み、魅せられる。
だが、すぐにそんな事を考えられなくなった。
ゴッッッ!!と音が消え去り、衝撃が体を貫く。
何が起こったかわからなかった。けど、辛うじて天使が何をしたのかを見る事ができた。
ただ、氷の翼を振っただけ。
ただそれだけで調査団を壊滅させた。紅き翼のメンバーと本当に実力がある奴らまでも手負いの状態だ。
圧倒的な力の差。
俺は正直勝てないと思った。
この俺でさえ、だ。
また天使が動き出す。
それを見た時、遠い地で俺の事を待っているアリカの姿が見えた気がした。
神聖な暴力が、俺達を襲う―――
「おらぁっ!!」
ガラスが割れたような音が聞えた。天使の攻撃の進行方向にアイツがいた。
ただし、右手首以外は傷が付いてない所は無い状態で。
「……何、やってんだよ……」
右手を伸ばしたままなにも答えない。不意に自分のポケットをまさぐって辺りに薄いものを撒き散らした。一枚80万もする転移魔法符を辺りに撒き散らした。
「早くそれ使って逃げろ。怪我が浅い奴は意識の無い奴連れてって行けよ」
さも軽い感じで言い放つと、残った調査団の奴らは軽く礼を言い、さっさと逃げてしまった。
「ナギ達も早く行け。ここは俺が食い止める」
「あの天使に立ち向かうと? 無茶を通り越して無謀です! あなたの右手でも―――」
「刺し違えてでもアレを止めてやる」
それを聴いた瞬間俺達はまた息を呑んだ。アイツの目は戦場で何度も見てきた。
……説得しても無理な話だろう。
「―――わかった」
「ナギ!?」
「だけどな、これだけは約束しろ! アレを倒して、ちゃんと生きて帰って来い! 約束破ったら
自分で言ったセリフに少し子供っぽかったかなと思いながら、俺は転移魔法符を発動させた。
『ちゃんと生きて帰って来い』
ナギはそう言ってくれた。こんな、俺にも。
ナギのああいう性格が周りを引きつけるんだろうか。
「……帰ったらみっちり話し合おうか」
詠春が少し怒った口調で言った。
「私は初めの頃の貴方を恐れていました。人を消滅させる事に疑問を感じない貴方を。ですが、今は戦う理由が出来たようですね。そこは評価しますよ」
アルビレオが珍しく厳格な顔をして、すぐにいつもの胡散臭い顔で言った。
「お前の事情なんざ知らんがな、皆の言ったことだけは守れよ」
ガトウがタバコの紫煙を吐いてハードボイルドっぽく言った。
ここにいるのは俺と
「俺さ、
瓦礫と化した足場を踏み抜く。
「無償で誰かを助けて、時には敵ですら手をさし伸ばして、不屈の心で立ち上がる、そんな奴にさ。でも思えばこの世界に来て、そんな事一度もやってなかったんだよな俺」
天使はまた翼を作って伸ばし、一気に襲い掛かった
圧倒的な力に、俺はただ走り出すだけ。
「最後ぐらいは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私の視点ですか。
この
あの異分子を自分の手で抹消する事は出来なかった。が、手間が省けたと言えるだろう。
……この世界の結末を知りたいですか。
―――私が伝える権利はないので想像に任せます。
この世界の役目は終わりました。後は自壊し、他の世界で私が生まれるのを待ちましょう。
私の心は無くなっているのだから、『気になる』という思考は存在しないはずなのに。
完
これでこの小説のプロローグは終わりです。
この主人公は……僕の考え得る限りの最低系オリ主なのですが、うまく伝わりましたでしょうか?
それでも最後ぐらいは改心したわけですが。
紅き翼介入モノで、たまに『ナギ達が人を殺すのを楽しんでる』という理由でアンチをするものがありますが、
そもそも、戦争に参加していてまともな神経をしている人はほとんどいません。
過去の戦争では恐怖を無くすために、覚せい剤を打って頭をおかしくさせたとかありますから。ナギ達もそうやって気を紛らわせるしか無かったと思います。
それと、抹消抹消言ってた奴。よわっちいクセにラスボスクラスの能力を持ってるキャラです。最低系チート転生者って大抵『漫画・アニメ全部の力』とかバカみたいな能力を持っているので、どうしても対等に戦えるキャラが必要です。それで、『球磨川みたいに時間を巻き戻すのって強くね?』といった感じで思い付いたわけです。
型月の大三位と第四位と言えば分りますでしょうか(4ページ目)
Tweet |
|
|
0
|
2
|
追加するフォルダを選択
第一部:人が死に、人ならざる者に出会い、異世界への生を与えられる。
自然の摂理に反した者が罰せられないのは間違っている。
第二部:紅き騎士は全てを消された上で異世界に放り出され、本来の主役は過酷な運命を課せられ、黒髪ツンツンは否応なしに巻き込まれる。
これは、狂いに狂った混沌とした物語。