第十九話 完全なる世界
side レイト
「ふむ、なかなかうまいコーヒーだ。良い豆だし、入れ方もうまい。90点だな」
「『教授』にそう言われると誇らしいけど残り10点はどうなんだい?」
「惜しむはここから見える景色だな。それが5点、残りは向上心を忘れて欲しくないという5点」
ここから見える景色は広大な荒れ地。景色としてはあまり褒められる所ではない。
「そうかい、なら今度は別の場所でごちそうさせてもらおう」
「そうしてくれ」
カップをソーサーに戻し今までの『教授』の顔から『形なきもの』顔にかえる。
「オレになんのようだ。完全なる世界」
話は数日前にさかのぼる。
いつもの様に元老院の所在を調べて襲撃に来たのだが屋敷には誰もおらず罠の可能性を疑っていた所に完全なる世界に所属しているという青年が現れた。そいつが言うにはオレが探し求めている物はこちらで確保しているから一人で引き取りにきて欲しいという事らしい。ここにいた元老院は既に目の前にいる青年が殺したらしい。そしてキティに怒られながらも一人で向こう側が指定した墓守り人の宮殿に来るとすぐにあのときの青年に残りの研究成果の所まで案内され、動作確認、修理、封印を施しダイオラマ魔法球に収納する。それから少し話したい事があるというのでコーヒーをごちそうになり現在に至る。
「できれば完全なる世界とは呼んで欲しくないんだけど」
「なら名前を教えろ」
「貴方なら知っているだろう」
「知っているさ、だが本人に許可を貰ってもいないのに呼ぶのは嫌だろう」
「確かにね、なら改めてフェイト・アーウェルンクスだ。フェイトでいいよ」
「レイト・テンリュウだ。好きに呼べば良い」
「ならレイトと呼ばせてもらおう」
「で、本題は。オレとしては目的も達したから旧世界で隠居でもしたいんだけど」
「へえ、どうしてだい」
「それをお前達が聞くのか?この世界を消そうとしているのに」
「レイトはこの世界の事をどこまで知っている」
「『箱庭』」
「言い得て妙だね。そうさ、そして壊れ始めている。限界が近いのさ。だから強引にでも新しい箱庭に移住させるのが僕たちの目的さ」
ここに来て新事実が判明してしまった。今まで完全なる世界が行おうとしていた事がまさか世界を救うためだったとは。いや、待てよ。
「ならなぜ戦争を起こす必要があった」
「『箱庭』に気付いているなら『人形』にも気付いているんだろう」
『人形』
この世界が箱庭である事を理解した時に気付いた魔法世界に住んでいる住人の事だ。
俗にいう亜人の事だ。
彼らはこの魔法世界と同じ物質で形成されておりこの種族が絶滅する事は決して無い。
なぜなら世界を安定させる為に存在するのだから。
よって戦争を起こす必要性は全く無く、むしろマイナスになる行為だ。
「それと何の関係があるんだ」
「新しい『箱庭』に来れるのは『人形』だけだからさ」
「なぜなんだ」
「今回の戦争が起こった表側の理由は知っているだろう。確かに戦争を焚き付けたのは僕らだが火種は昔からあった、それも原因は『人形』側には無い。奴らはこの世界に勝手に入って来て、勝手に荒し、勝手な理由で『人形』を滅ぼそうと考えているんだ。それをどうして新たな『箱庭(楽園)』に招かなければならないんだい」
「それには賛同できる。だが、なぜ戦争を起こす必要がある」
「簡単に言えば僕らは『人形』全てを強制的に移住させるつもりなんだよ」
「つまり人間と仲が良ければ会いたいが為に『箱庭(楽園)』に招く恐れがあるからか」
「その通りさ」
「お前らのボスはそれを行う意味を分かっているのか」
「もちろん分かっているし邪魔をする権利は誰も持ってはいないのさ。なぜなら彼がこの世界を作ったのだから」
「制作者で所有者だからこの世界を好きな様にする権利がある。全く持ってその通りだな。そして『人形』の幸せを考えている。為政者として間違った事は一切していないな。個人的には反対だけど」
「何故個人的には反対なんだい」
「オレはお前達のボス程人間に絶望してないからだ。じゃあな」
キティの元に帰ろうと席を立ちゲートを
「待ちたまえ」
開こうとした所でフードで顔を隠した男に呼び止められた。
「誰だ?」
「完全なる世界の首領だ。”造物主”とでも呼んでくれれば良い」
「レイト・テンリュウだ。それで何のようだ。お前達の邪魔をするつもりは無いし、巻き込まれるつもりも無いから旧世界にとっとと行きたいんだけど」
「......人間に絶望していないとはどういう事だ」
目の前にいる男は首領だと言うがオレには『人形』であると理解できてしまったが為にその問いには答えない。
「計画が失敗して、それでも諦めきれなかった時に会いに来い。その時に全て話してやる。それとうまいコーヒーの代金だ。赤き翼は搦め手に極端に弱い。真正面から戦うのは愚の骨頂だ。あいつらを鍛え上げたオレが言うんだから間違いは無いさ」
それだけを伝えてオレは墓守り人の宮殿を後にした。
side out
side 造物主
「私は間違っているのか」
「分かりません。ですが彼は『教授』です。ある程度の道を教えてくれる存在です。彼には別の未来が見えているのでしょう」
「私はどうすれば良いと思う。お前達と同じ『人形』である私は」
「......」
「......私は」
side out
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人として向上心を忘れてはならない。
それが心ということなのだから。
心が在ればそれは“人”と呼べるだろう。
byレイト