This is not hero's story,
Tracks of revival of king who lost everything,Stories of people who carried out boast and belief.
【これは英雄の物語ではない
全てを失った王の復活の軌跡であり、誇りと信念を貫く者達の物語である】
―――Prologue―――
~side???~
時々、見る夢がある。
起きたその時には全て忘れてしまうが、その夢を見た時は直ぐに解るから。
内容は覚えていない筈なのに、何時も悲しい気持ちになって目を覚ますから・・・。
~side out~
その日、ある場所に一人の少年が忽然と姿を現す。
優しげな光に包まれ静かに身を大地に横たえられた少年は、見た目10代前半のまだ遊び盛りの年頃のように見える。
だが、その纏う白い着物のような装飾の服には痛々しい程の傷が刻まれており、明らかに普通の少年とは違うようだ。
そしてもう一つ、明らかに同じような年代の少年少女とは違う部分がある。
それはそのか細い手に握られた一振りの剣・・・刃の欠け方や光沢を見れば、それが玩具で無い事は直ぐに理解可能だ。
傷だらけで本物の剣を持つ、光に包まれて現れた少年―――これだけを垣間見てもこの少年は普通ではない。
すると、少年を包んでいた光が急に弱くなる。
その光は静かに輝くのが収まると、9つのそれぞれ色の違う珠に変化すると少年に吸い込まれていった。
すると、どうした事か。
傷だらけの少年の傷が塞がっていく・・・服についていた血糊もいつの間にか消える。
ほんの少しの間に少年は傷が塞がり、血の跡も消えていた・・・。
更に手に握り締められていた剣も姿を消す。
静かに、それで居て一定リズムで呼吸を始めた少年は、そのまま今迄の傷が嘘だったかのように寝息を立て始めた。
「いや~困ったな~」
「・・・だかラ、近道シヨウなんテ言わなきゃ良かったノニ」
そしてそこに近付く気配。
声から察すればどうやら女性、それも少女の声のようだが・・・。
陽気な声と物静かな声・・・二人の少女がこの正体の解らぬ少年と出会うのはもう間も無くだ。
そして・・・そこから遂に始まる。
多くを失った王の、長い長い復活と再生までの物語が・・・。
~side 美空~
「おっ、やっと出れたね。
あ~やれやれ、本当に近道だなんて思ってこんな森を通るんじゃなかったな~。
今頃、シスターシャークティがどれだけ心配している事か・・・ブルブル、やっべ~っすね~」
この少女の名は春日美空(かすがみそら)。
物語の舞台である埼玉県の麻帆良(まほら)市にある学園都市“麻帆良学園(まほらがくえん)”に通う華の中学生。
そして同じく都市にある教会で見習いシスターをやっているイタズラ好きの少女だ。
「・・・ミソラ、早く行こウ」
そしてもう一人、この大人しい喋り方の少女の名はココネ・ファティマ・ロザ。
同都市にある麻帆良学園の初等部に在籍する少女であり、美空と同じく教会で見習いシスターをしている。
どうやら美空とは違い、外国人だろうか褐色の肌をしている。
この二人は教会でシスターをしているシスター・シャークティと言う人物を師事している。
その為か共に行動する事が多く、今日は偶々シスターに頼まれた買出しに言った際に真っ直ぐ帰らなかった為に遅くなり、近道をしようとして迷ってしまったようだ。
まあ、それでも道の開けた場所に出られたのだから運が良いと言えば良いのだが・・・。
「そうだね、ココネ。
まあ、この辺まで来ればもう帰る道は解るから直ぐに着くよ。
あ~、でも、シスターにはどう言い訳すれば良いんだか・・・」
「・・・別ニ、アソンデタって素直ニ言えば良イ」
ボソッと呟くココネの言葉に顔を青くして首を降る美空。
彼女の師事するシスター・シャークティは大変母性に溢れ優しい人物だが一方では厳しく、怒ると誰よりも怖いのは美空自身が一番良く知っている。
「イヤイヤイヤイヤッ!?
ココネ、それは私に死刑宣告しているのと同じだって!! そんな事言ったら確実にお仕置き決定じゃんか!?
・・・って、聞いてるのココネ?」
シスターへの言い訳を必死に考えていた美空。
だが不意に、近くに居た筈のココネの気配を感じなくなり辺りを見渡す。
すると、ココネは何かを見るように座り込んで大木の下の方を見つめていた。
いや違う、大木ではなくその下にある“何か”に視線を向けていたのだ。
「どしたのココネ、何かそこにあるの?」
そう言って近付く美空。
ココネの見ている視線の先に居たのは、先程現れた白い着物のような服を着た少年だ。
・・・と言っても、外見的には歳は美空とさほど変わらないだろう。
「うわ、もしかして行き倒れ?
・・・にしては随分と汚れも何も無いけど、もしかして迷子かな?」
「・・・解らなイ。
ケド、寝てるミタイだヨ・・・」
そう、少年は状況も何も気にしないまま眠り続けている。
このような少年をそのまま此処で寝かしておく訳にもいかないだろう、美空は少年の肩を揺らして声を掛けた。
「お~い、こんな所で寝てると風邪ひくよ~?
もしも~し、こんな所で寝てちゃダメだってば~~」
しかし、幾ら揺らしても揺らしても少年は起きる気配が無い。
それどころか一定の寝息を立てたまま、眠りから覚める様子すらないのだ。
・・・仕舞いには声を出していた美空の方が疲れて来ていた。
「ミソラ、大丈夫?」
「ぜ~ぜ~、全く起きないね~この子。
どうしよっか、まあこのまま放って置いても誰かが見つけてくれるだろうけど・・・」
だが、それは拙い気がする。
これだけ服がボロボロになっていると言う事は、もしや何かに襲われた可能性もあるだろう。
生憎、血は流れていないようだが―――
その時、美空の脳裏に名案が思い浮かぶ。
上手くいけばこれだけ遅くなった事も誤魔化せるような、所謂“悪知恵”だ。
「そうだココネ、この子を教会に運ぼう。
シスター・シャークティならこの子の治療も出来るだろうし、教会なら何かに襲われるって心配も無いしさ。
うんうん、そうしよう!!」
「・・・ミソラ、本音ハ?」
ジト目で美空を見つめるココネ。
「そりゃあ勿論、遅くなった理由を有耶無耶に出来るじゃん!!」
・・・どうやら親切心もあるようだが、本音は怒られない様にする為の口実のようだ。
まあ本気で助けたいと言う思いもあるだろうし、五分五分と言った所か?
更にジト目で見るココネに、美空は急かすように言う。
「あ~、もうとにかくさっさと教会に戻ろう!!」
そう言うと美空は暢気に寝たままの少年に肩を貸しながらゆっくりと教会に向かって歩き出す。
そしてココネも美空の後ろに付いてゆっくりと歩き出した。
―――少女達はまだ知らない。
この少年が誰なのかを、そして後に何に立ち向かい、何を成すのかと言う事を・・・。
教会に帰った途端、怒声が響く。
「美空、何時まで油を売っていたのですか!?」
凛とした怒気の中にもどこか優しさのようなものを感じる声。
この声の主は美空とココネが師事している人物であり、麻帆良の教会でシスターをしているシスター・シャークティの声だ。
・・・まあそれ以外に肩書きもあるのだが、それを此処で説明する必要はあるまい。
「あ、シスター、お怒りはごもっともです! だけど今は先にこの子を見て頂けませんか?」
しかし美空も慣れたもの。
上手い具合にシャークティの怒声を流すと連れて来た少年を見せる。
この様子を見れば、美空が何時も怒られている事は容易に想像出来るだろう・・・。
「何方(どなた)ですか、その少年は・・・?
・・・!! 美空、直ぐに此方に連れてきて下さい、手当てをします」
まだ一言二言怒り足りなかったシャークティだが、少年のボロボロの姿を見て切り替える。
直ぐに奥に連れて行くと、傷の手当てをしようと着ている白い着物のような上着を脱がした・・・。
だが―――
「・・・これは?」
「えっ、どうしたんすかシスター?」
「・・・ドウしたノ?」
上着を脱がしてシャークティも美空もココネも目を疑う。
あれだけ傷だらけでボロボロになっている上着の割に、生身の身体の方には治療しなければならない傷が一つもなかったのだ。
変わりに夥しい程・・・下手しなくても一目で致命傷と言っても過言ではない程の古傷があちこちにある。
見た目はどう見ても少年だが、その傷の多さに流石のシャークティも言葉が出なかった。
少しの間、時が止まった後。
シャークティは静かに美空に言葉を投げかける。
「美空、この方は何処に倒れていらっしゃったのですか?」
「えっ・・・あ、え~と、教会の少し先にある森の開けた場所ですけど」
その言葉にシャークティは額に手を当てて考える。
しかし、色々な事を考えても納得のいく答えには巡り合わない。
此処“麻帆良”に関係のある事柄や己のシスター以外の教務と照らし合わせてもこの少年とは繋がらない。
・・・第一、この少年からは自分の考える存在だったとしたら感じる筈の“あるもの”を全く感じないのだから。
「(さて・・・学園長に報告するべきでしょうか?
この少年からは魔力を全く感じませんが、明らかにあの身体中の古傷を見れば一般人と言う事も無いでしょう。
取り敢えず命に別状は無いようですし、この少年が起きるのを待ってからでも遅くはありませんね)」
取り敢えず少年を使用していない部屋のベットへと寝かせ、起きるのを待つ事でこの日は終わった。
・・・いや、厳密に言えばそれでは終わっていない。
「さて・・・取り敢えず向こうの事は良いでしょう。
美空、何故少しの時間で終わる筈の買出しに4時間も懸かったのですか? 私が納得の行く説明が聞きたいですね。
それに私の頼んだ買出しの帰路にあの森を通る必要は無かった筈ですが?」
「ヒ、ヒイッ!? あ、あああああ、あの、その・・・そそそ、それは・・・」
―――この夜、少女の悲鳴が教会から聞えたそうだ・・・合掌。
~Side out~
少年は夢を見ていた。
何も見えない、何も聞えない唯真っ暗な道を只管(ひたすら)に。
行くべき場所がある訳ではない。
帰るべき場所に向かう訳でもない。
いや、それ以前に何故自分がこのような場所を歩いているのかすら解らないのだ。
自分が誰なのかも解らない。
この先に何があるのかも解らないし、興味も無い。
唯、機械仕掛けの人形のように意味もなく只管歩き続けているだけだ。
その行為に意味は無い。
何故、歩いているのかも解らない。
だが、不意に少年の視線の先が明るくなったように見えた・・・。
そこへ向かうべきだろうか?
だが、人形のような少年にはそれ以外の道はない。
しかし不意にその明るい場所に進もうとすると足が重くなる。
そこに行こうとすると、無い筈の心が締め付けられる。
壊れた筈の心が、身体が、思考が、その光る場所に行くのを否定する。
そんな時・・・声が響いた。
『行けよ、○○。 こんな所で寝てたってしょうがないだろ?』
陽気で明るく、だが思い出せないその声。
更に続くように誰かの声が続けて響く。
『私達は・・・貴方と共に居ます』
優しげで、どこか儚くも聞える声。
『○○君、君は一人じゃないよ』
人懐っこい声。
『フン・・・私の認めた漢がこのような所で朽ちるなど許さん』
強く響き渡る声。
『○○殿、貴方はまだ死んではならない』
凛とした声。
『今の貴方なら大丈夫、自信を持ちなさいな』
聡明そうな声。
『我等もいずれ貴公と共に再び行く・・・それを忘れるな』
紳士的で誇り高き声。
『○○・・・だから、前を向いて』
物静かな声―――
そして・・・最後に響く声は・・・。
『○○・・・お前の道はまだ志半ばだ。
下を向くな、唯真っ直ぐに上を向け・・・そして、お前の護りたい者を今度こそ護り抜け。
俺達夫婦は何時でも・・・お前の幸せを願っている』
『貴方の選んだ道を後悔する事は止めなさい。
妾は貴方を残して先に逝ったけど・・・貴方を護れたのだから後悔は無いから。
今度こそ誰よりも、幸せになりなさい』
全ての声がそこで途切れる。
少年は静かに重い足を引き摺りながら歩き出す。
ただ・・・その先に見える光へと向かって。
そして遂に、光へと辿り着いた―――
気付いた時に見えたのは己を見下ろす褐色の肌の少女、ココネ。
少年が目を開けたのを驚き、小さく呟く。
「・・・起きタ」
慌てて走るようにドアの外に出て行くココネを視線で追う少年。
そのままドアを見つめていると、勢い良く扉が開いた。
ココネがシャークティと美空を連れて来たのだろう。
「良かった・・・あれから三日間も眠り続けていたのですよ?」
「んん? 三日間も寝てた?
そっか、三日間も俺寝てたのか~・・・って、誰だアンタら?」
起きて第一声が“誰?”とは無礼な少年である。
だがシャークティはそんな事など気にせずに自己紹介を始める。
「私はこの麻帆良の教会でシスターをしているシャークティと申します。
此方の二人はこの教会で見習いシスターをしている春日美空とココネ・ファティマ・ロザ。
・・・起きていきなりで失礼ですが、どうしてあのような森に倒れていたのですか?」
その言葉に少年は考えるような素振りを取る。
そして・・・答えは予想外と言えば予想外、想定内と言えば想定内の言葉だった。
「・・・はあ? 倒れてた?
嘘、俺が? と言うよりも“まほら”って何処だよ・・・?」
「はっ? 貴方、麻帆良を知らないのですか?」
シャークティが返した言葉に少年は返す。
「知らねぇよ、そんな地名。
・・・ん? そう言えば俺って誰だ?」
「えっ・・・ええっ!?
まさか、ご自分の事も思い出せないのですか?」
そう・・・何と少年は記憶喪失に陥っていたのだ。
記憶の無い様なこの状態では、彼自身の事を調べる事も不可能だろう。
困るシャークティ達を他所に、少年は然して困る様子も無く他人事のように返す。
「いや、名前は思い出せた。
あと、記憶喪失って奴だろうけど・・・名前以外が思い出せないだけみてぇだな」
そう言うと少年は無愛想に、それで居て不器用に笑いながら三人に名乗る。
「俺の名前は光明司 斉(こうみょうじ さい)ってんだ。
“しゃーくてぃ”に“みそら”に“ここね”だったっけか、アンタら? まあ、宜しくな」
記憶を失った一人の少年。
彼の軌跡は、今此処に始まりを告げたのであった・・・。
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この作品は『神羅万象チョコ』と言うトレカ入りウエハースチョコの作品の世界観を周到しつつ、『魔法先生ネギま』やら何やらを融合させた良いんだか悪いんだか良く解らない作品です。
端々に色々な作品のネタ、兄貴様の作品のネタなどが改造されながら入っております。
作品的には長いスパンのモノになると思いますので、どうぞごゆっくりお楽しみください。
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