閉じていた眼をゆっくりと開けてみると、そこは森だった。空は雲一つ無く、綺麗な三日月だけが森を照らしていた。
「ここは……一体?」
あの少年が言ったことが本当なら、ここは異世界ということになるのでしょうか?
……まあ考えても仕方ない。まずは状況把握ですね。
「おや?」
ふと、顔に違和感を感じる。
本来【ハサン・サッバーハ】になる人物は称号を受け継ぐために、鼻や皮を削ぎ落とし素顔を無くすのが普通だ。というよりも、そうしなければ、顔を見られた場合どうしようもない。
しかし、仮面越しではあるが、今の私の顔には鼻や髪がはっきりとあるのがわかるのである。
……私の心の隅っこで考えていた、【自分の顔が欲しい】という願いに反応したのだろうか?ということは漆塗りデスマスクや黒曜石のダガーももしかしたら……
いや、それよりも気になったのは……
「私の腕がない?」
別に腕が本当にないわけではない。200㎝を越えていた身長は180㎝位まで縮み、体が受肉しているところまではよい……しかし、私の象徴でもあった精霊シャイターンの腕が普通の腕になっているのだ。
「ダガーがあるからとりあえず何とかなるものの……少々困りましたね」
そう、あの腕が無ければ、私の宝具である【妄想心音(ザバーニーヤ)】が使えないのだ。
願いを叶えてもらった以上文句は言えないのだが、今この状態でサーヴァントに襲撃されたらたまったものではない。
「さて、これからどうしま――っ!!」
小規模であるが、気と魔力の衝突を確認した。場所は……さほど遠くないですね。
「戦闘になるかも知れませんが、この世界の住人に接触できるのなら安い代償です」
私は気配を消し、戦いが行われているであろう場所へと向かった。
*
――少数だと思って油断した。
桜咲刹那(私)は木にぶつかった時にそう感じた。
数でいえば10人程度でどれも中級の鬼なのだが、一体だけ上級の鬼が隠れていたのだ。
結果としてこのザマだ。神鳴流に泥を塗ってしまうとは……。
「もう終わりかいな嬢ちゃん? あんたちぃとも強うないなあ?」
私を剣で吹き飛ばした鬼がコチラへ来る。
「くっっ!!」
私は相手を睨み付けたが、そんなものは相手には通用するはずがない。
「いいねぇその目付き……ゾクゾクするわ」
「お頭、この小娘どないします?」
後ろにいる鬼が聞く。
「ワイは飽きたから、殺すもよし、慰み者にするもよし、お前達の好きにしな」
お頭と呼ばれた鬼の答えを待っていたかのように、後ろの鬼たちは邪な笑みを浮かべ騒ぎ出した。
「そんじゃ、嬢ちゃんに恨みはないが……死んでもらうで」
一体の鬼が私に近づき、手にした棍棒を振り上げる。おそらく、それを降り下ろした瞬間私は死ぬだろう。
……約束を守れなくてゴメン、このちゃん。
私は眼を閉じた……が、いつになっても攻撃が来ない。
私は不安げに眼を開けると、さっきまで私の前で立っていた鬼が倒れていた。その額には一本の短刀が刺さっている。
「女子供に大人数とは、貴様らに誇りは無いのか?」
「お頭、急に仲間がやられッグァ!!」
「こっちも全め……ア゛?」
連絡をしにきた鬼どもも、額に短刀が刺さったり、首ごともっていかれたりして倒れていく。そしてあっという間にお頭だけとなった。
「何処や!? 何処に敵がおるんや!?」
――シュッ
「ッは!!」
死角から飛んできた短刀を鬼は剣を使って弾き返す。しかし、弾くのに使った剣は二つに割れていとも簡単に破壊されてしまった。
「ほう、アレを弾きましたか……貴方は他とは違うようですね。ですが、これであなたの得物は無くなりました」
特徴の無い男の声が森に響く。
「姿を見せい、卑怯も……ナガ!?」
そう言い放った鬼の頭が突然後ろから出てきた手によってワシ掴みにされ、ミシミシと音をたてながら潰れていく。
「オマエェ……いつの間ニイ!!?」
「ならば……何もわからぬまま死んでいけ」
「ッッッイ!!?」
男の呟きと同時に鬼の頭がトマトを潰したかのように破壊され消滅した。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
第二話