篠ノ之束のハッキングからボリビアが解放され、漸く一息つけたのも束の間、突如としてボリビアの姿勢制御装置が働き、ボリビアはゆっくりと地球の大気圏へと落ちてゆく.......。
「まさかこんなことになるとは.....。」
「クソ!!テロリストめ。こんな事をすればどうなるか分かっているのか。」
首相官邸の特別対策室は沈痛な面持ちで衛星軌道ステーション、ボリビアの落下の報を聞いている。
やっと篠ノ之束を排除したら今度は衛星の落下。
まだステーション内には百名を越える人員が居り、システムの復旧が満足に出来ていない為脱出もほぼ不可能に近い。
それでもステーション内に取り残された人々の必死の努力により、その落下スピードは想定よりも抑えられているとはいえ、いぜん予断は許さない。
「ゴップ首相!!衛星の落下予測ポイントが判明しました。」
ずっと窓の外から空を見ていたゴップ首相は、振り返らずに手で続けるように合図した。
「当初の計算では落下予測ポイントはオーストラリア東部シドニーでしたが、減速により大きく軌道はそれています。このまま落下するにしてもサハラ砂漠中部の無人地帯になります。」
その報告に一先ず最悪の事態が回避されたことを知った関係閣僚は、ホッと息をついたが、しかし、その次の報告で再び顔を青ざめる。
「ですが、大気圏突入による破片は大きく拡散し、その多くが現在建設中の軌道エレベーター『ラ・トゥール』に落下します。」
軌道エレベーター構想は既に何世紀も前から提言されてはきたが、開発コストの問題と、そもそも技術的な問題で半ば机上の空論と揶揄されてきた。
しかし、地球連邦はゴップ首相のもと、拡大した経済と発展する技術力、さらに月面地下基地からの豊富な資源によって可能にしていた。
軌道エレベーターは赤道の三箇所に作られる事が決定し、そのうちの一つがアフリカビクトリア湖西の軌道エレベーター「ラ・トゥール」なのだ。
建造中の此処を破壊されれば=(イコール)連邦の宇宙開発の頓挫を意味する。
そうなれば無駄なIS開発競争に連邦も引きずり込まれ、あの篠ノ之束に膝を屈することに成りかねない。
対策は大きく二つに絞られ、一つが大陸間弾道弾による衛星の破壊、もう一つが複数の衛星を使ってステーションを引っ張るというものだ。
大陸間弾道弾案は、ステーション搭乗員の人命を無視した作戦だが確実性が高く速攻で使用できる利点があり、複数の衛星によるステーションを静止軌道に戻すという案は、成功率は低くとも、ステーション搭乗員の生命を守りまた彼等の助けも期待できるということで支持するものは多い。
が、どれもこれも一長一短であることは分かりきっている。
既にロシア、中国、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、などIS先進国といわれる国家が保有する衛星に動きが見られている。
また、ロシアのミサイル基地が衛星に照準を合わせたとの未確認情報もあり、事態は早急な解決策を求めていた。
結局これ以上の具体的な策を出せなかった対策室の面々はゴップ首相の決定をゆだねる。
ゴップ首相はただ一言、
「ギレンを呼べ。」
とだけ言い、それっきり口を噤んだ。
月面基地グラナダ
月の裏側に極秘裏に建造されたこの基地は、世界に知られること無くある兵器の実験場として機能している。
その、司令室ではここの責任者であるギレン・ザビ大将が態々本国のゴップ首相直々にとある指示を受け、
通信が終わり、ニヤリと口元で笑ったギレンは、既に準備が完了していた艦隊をグラナダから出撃させ、ステルス航行で衛星から発見されないようにしながら、進んでいく艦隊を見て、一人呟いく。
「ゴップ首相が漸く重い腰を上げたか.......面白くなるやもしれんな。」
刻一刻と落下する衛星の存在がついにネット上に暴露される。
何処からともなく流出したその情報は世界中を瞬く間にめぐり、各国メディアが挙って天文台からの映像や専門家達の発表を流していく。
人々はこの突如として降って湧いた事態に混乱し、驚愕し、固唾を呑んで見守り続けた。
この危機に、IS先進国は国家の範疇を超えた共通の危機として連邦に自国のISを展開させるようIS委員会に提案し、
さしもの委員会も、非常事態ということもあり、ISの出動が決まりかけたが、これに待ったをかけたのが他ならぬ連邦であった。
地球連邦はあくまで自国の問題とし、他国の介入を拒み自分達の力によって解決すると宣言。
そして、国連で非難の嵐が吹き荒れる中、地球連邦による救出作戦が慣行されようとしていた。
NASA
ISの登場で限られた予算しか与えられなかった国際宇宙センターはいま活気づいている。
地球連邦の宇宙ステーションボリビアが落下軌道に入り、刻一刻と地球に向け落下するということで、急遽召集された彼らは其々久しぶりの職場で各々の能力を最大限まで発揮している。
だが、突如して監視衛星にノイズが走り、それが段々と酷くなって遂には何も見えなくなってしまう。
この現象は各国宇宙センターでも見られ、ボリビア周辺宙域の衛星は全て通信不可能となってしまった。
突然の事態に混乱する各国を他所に、地球連邦による救出ミッションが極秘裏に始まる。
周辺宙域にミノフスキー粒子を散布した連邦軍救助部隊は、落下軌道にある宇宙ステーションボリビアを立て直す為にまず乗員の救助活動を開始する。
外部から強制解放された通路から、内部へと入った救助部隊が、まだエアの残っている区画を探して人員を救助し、いきなりの救助に戸惑う彼等を尻目に無言で救助活動を続ける。
スモークが降ろされたバイザーとノーマルスーツ。
その姿にステーション司令はある答えにたどり着く。
まさか!!宇宙軍が動いたのか。
だが、彼にはそれを止める術も権限も無い。
ただ、救助指示に従い列のに並ぶ彼は、今後の宇宙が宇宙軍の独占になるだろうと予想した。
ボリビアから生き残った乗員を救助した後、急ぎ救助船がステーションから離れていく。
既に大気圏突入ギリギリのところで、今からミサイルを撃ち込んでも破片が散らばって特に外部装甲の大型のものはその大部分を残したまま大気圏を突破するだろうと予想される。
救助された彼らは、ただその様子を見るしかなく、地球に落下しようとするステーションに......突如として幾筋もの光芒を煌かせた人型が何十機も飛びついていく。
最初彼らはISかと思った。
しかし、ISにしては一目で大きすぎると感じた彼らは、シャッターで窓が閉められるまでずっと窓の外に風景に噛り付いていた。
「此方アローヘッド。全機聞こえるか?MSの初のお目見えだ、気合入れていけよ。」
編隊を組んでボリビアを目指すMSジムの群れは、他の幾つもの部隊に別れ其々割り振られた場所へと向かっていく。
と、途中先頭を行く隊長機の肩と接触してミノフスキー粒子下での通信方法である所謂触れ合い通信で部下の一人が、
「隊長。ミノフスキー粒子のお陰で誰一人として見てはいませんよ。」
そういって肩をすくめて冗談を言うと、もう一機が僚機の手に触れて、
「なに、おれたちゃ何れ地球に降りるんだ。その時の予行演習と思えばいいんだよ。」
と言って笑い、他のパイロット達の緊張感を解きほぐしていく。
「よし全機、いい感じに力が抜けたな。それではポイント4-1-3から侵入。所定のポイントに作業を開始しろ。」
「「了解!!」」と小気味良い返事が返ってくるときほど指揮官としてうれしいことはない。
こうして始まった宇宙ステーションを静止軌道に戻す作業は、MSの汎用性と活動時間とで無事に成功し、彼らは誰にも知られること無く撤収していった。
この事件で、突然衛星と通信できなかった訳は、太陽のコロナの爆発という事で一先ず片付いたが、しかし、連邦も彼等の予定を早めなければならなくなった。
篠ノ之束
ボリビアのハッキングの初めの目的は、連邦が開発した量子コンピューターの奪取と開発している新兵器の情報を入手しそれを世界中に暴露して連邦の(具体的にはゴップの)権威を失墜と国際社会での地位低下、さらに宇宙開発に歯止めをかけるつもりだった。
でも、この二つは失敗し、事前の策として用意していたものを使わなければならなくなった。
本当は近くの衛星にぶつけ、連鎖的に発生させることによってケスラーシンドロームを引き起こし恒久的に人類を地球に閉じ込めるつもりだったけれど、勿論束さん特製のISがあればそんなのすぐに解決できる。
でも、連邦が以外に粘って、私が仕掛けたトラップのうち起動したのは半分以下。
仕方なく軌道を変更して地球に落下させることによって連邦の宇宙開発の拠点を潰そうとしたけれど、これも失敗。
やっぱり最後まで束さんが見ていないといけないね。ゴーストなんかにやらせるからこうなるんだ。
軌道は宇宙ステーションが燃え尽きる角度ではなく、このままでは地球に衝突してしまうかもしれない。
ま、軌道計算でアフリカに落下することは分かったから気にすることはないけど.......。
何だこれは!!如何して通信も何もかも出来なくなったの?
あの後、束さんが前もって準備していた情報をネットに流して世界中の目が宇宙ステーションに釘付けになるように仕向けた。
ここまではいい、衆人環視の元、連邦の宇宙開発の象徴が墜ち、連邦の宇宙開発は大きく後退せざる終えない。
だから放って置いたんだ。
けど、行き成り何も写らなくなった。まるで不可視の何かによって遮られているかのように.....。
何をやっても回復しない、ISを飛ばそうかと考えたけど、何があるか分からない以上下手にISを使うことも出来ない。
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それから暫くして、ボリビアが奇跡的な努力によって無事静止軌道に戻ったというニュースが報道されたけど、私はそんなの信じない。
いや、世界中の誰しもが不審に思ってるはずだ、連邦は何かを隠していると。
.....今回は殆ど収穫が無かったけど、でも連邦に対する不審の芽は蒔いた。
後はどうやって発芽させるか.....。
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第十八話