No.392144

繁栄の光か、それとも灼熱の太陽か

rahotuさん

第十四話投稿

2012-03-15 22:24:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2937   閲覧ユーザー数:2879

トレノフ・Y・ミノフスキー

 

後の物理学会に革新を起こすこの男は、当初科学者としては無名であった。

 

彼が長年の研究の末安全で安定した核融合炉を確立する理論、ミノフスキー物理学を提唱するが、従来の定説を覆すそれは学会に受け入れられず、さらに実際にミノフスキー粒子が未発見であった為、彼は「現代に蘇ったエーテル理論者」と揶揄され学会を追放され挙句の果てに研究論文さえも抹消された。

 

失意の中、細々と研究を続けていた博士に転機が訪れる。

 

ある日、突然黒塗りの車に乗った男たちが彼の家に来てこう言った。

 

「地球連邦の科学アカデミーに参加しないかと。」

 

私は、最初疑っていたが、男たちが示す条件の破格さと何よりも書類にサインしてある地球連邦首相ヨハン・イブラヒム・ゴップの名が決めてとなり、私は祖国ロシアを捨て、遠く南半球オーストラリアへと旅立った。

 

 

 

 

そこで私を待っていたのは、当の本人さえ困惑するほどの歓迎振りであった。

 

こうして、私は南の暖かい地で、無制限とさえ思われる研究資金に大学一個分の敷地に相当する研究施設と大勢の助手達、更に極め付きは研究機関の制限はとくには設けないという点だ。

 

私は、ここで今まで碌に出来なかった研究を心行くまでする事が出来、優秀な助手たちが熱心に私の声に耳を傾け、何よりも時間を好き放題使えるとなれば、ここは正に研究者達の天国。

 

それに溺れる私は、一心不乱に研究に全精力を傾けた。

 

だが、私は研究に行き詰ってしまった。

 

連邦に来て二年、ここには潤沢な資金もある、最高の設備に優秀な研究者もいる、だが足りないものがあった。

 

そう、核融合炉の燃料として期待されるヘリウム3だ。

 

嘗て米国が世界最大の産出国として莫大な量を貯蔵していたが、二十一世紀後半には全てを吐き出し、その後のヘリウム3の値段はうなぎ上りだ。

 

私は、幾ら契約で時間は無制限とはいえこのままでは研究が立ち行かなくなるのではと恐れたが、しかし、それは杞憂に終わった。

 

ある日、研究所に大量に届けられたヘリウム3に私たち研究者は沸き立った。

 

一体これほどの量を何処から?

 

誰もその疑問には答えられなかったが、兎に角是で研究が続けられる。

 

後のことは怖いくらいに進んだ、もう何もかも不足しなくなり実際に核融合炉の実機を作る段階まで足掛け二十年はかけたが、そのうちの十五年間は祖国ロシアでの基礎研究に費やした。

 

此処ではいくら失敗してもいいが、今回はモノが違う。

 

最悪、漏れ出した放射能や核融合炉の暴走によって地球に穴が開く危険性すらあった。

 

融合炉に火を入れる前日は、私は恐怖にうなされ満足に眠ることさえ出来なかった。

 

何度も何度も爆発の恐怖に怯え、地球が破滅するのではと幾度となく想像し、そのたびに実験を中止しようかと何度も迷った。

 

が、研究所の所長からの答えは、予定通りのやることと当日は地球連邦首相自らも足を運ぶとうことだけだった。

 

そうして、実験当日、多くの研究員や政府高官らが見守る中、ゴップ首相も姿を見せたときは心臓が止まるかと思った。

 

だから、私は管制室には戻らず、作業着を着てずっと融合炉に張り付いていた。

 

「実験開始カウント入ります......五秒前。」

 

アナウンスの放送が入っても、私はじっと五重の格納容器の中に入った核融合炉の本体を、窓からじっと覗き込んでいた。

 

何か異常があれば直にでも実験を中止するつもりで様子を見守っていた。

 

「核融合炉の起動を確認、各種センサーに異常なし、経過良好、エネルギー上昇率想定の範囲内です。」

 

アナウンスの声が実験室の中に響くなか、管制室では各種の計器を覗き込む研究者や所長が落ち着きなく動き回っていた。

 

「炉心温度は。」

 

「今のところ予定......!?融合炉内のセンサー検出が不可能、故障かいや。」

 

「何事だ!!」

 

炉心内部を観察しいた研究者が突如として異常を発見したのを察知した、所長が近寄り、何事かと問い詰める。

 

「判りません、突然炉心内部のセンサー機器がシャットダウン。一部経路にも不安定な状態です。」

 

「一体なんが起こったんだ......。これを博士は?」

 

「博士はずっと炉心に張り付いているのでこちらの話は聞こえていません。内部に異常が確認されない以上博士が動くことはないはずですが.....。」

 

所長は額に落ちる汗を拭い、そのまま監視を続けろと研究者に小声で言って、何食わぬ顔でまた管制室をうろちょろし始めた。

 

管制室の会話を知らないミノフスキー博士は、ただただ窓から炉心に異常がないか見つめ、手元にあるブレイカー目を落とし、何時でも落せるよう手にかけた。

 

「炉心温度安定、各種センサーも正常の数値を示しています。」

 

アナウンスの声に漸く一息つけたと思った後に、直に所長が、

 

「これから核融合炉の最大出力を試す。皆辛いだろうが後一息だ、頑張ってくれたまえ。」

 

周りが気を引き締めて自らの仕事に再度励む中、ミノフスキー博士ただ一人が、じっとその場を動かず炉心を見続けた。

 

ふと、その肩をたたくものがあり、共同研究者であるイヨネスコ博士が、

 

「余り気を張るな。このまま行けば実験は成功するだろう、だが、君がそんな顔をしてどうする、それでは同じ研究者仲間も気を張って仕方がない。ここは、いつもの君らしく余裕のある態度でいてくれ。」

 

イヨネスコ博士はそういって肩を叩き、自分の持ち場に戻っていった。

 

......ありがとう、イヨネスコ。

 

そこで振り返ったミノフスキー博士が見たのは、皆拭えない汗を拭おうとして防護服の上から手で拭くものや、血走った目でモニターを見つめる研究員。

 

危ない足取りで作業を行う彼等を見ると、自分だけではないといった感情に包まれた。

 

そして、管制室の窓から覗くオペレーターや研究員の働く姿を見みて、ミノフスキー博士は、自分に活をいれ、名残惜しそうにしながらも炉心から離れ、実験室の指揮に当たった。

 

「炉心温度急上昇、出力上昇.....凄い理論値を大きく上回ってる。」

 

「これは....やったのか?しかし炉心内部の正確な情報が取れないのが痛いな。」

 

「!?更に上昇、従来の原子炉の三倍の出力です!!炉心温度上昇も停止、やりました実験は成功です!!」

 

その声に、研究者達は今までの苦労が報われたことを知り、互いに抱き合い、祝福し、中には泣き出すものまでいた。

 

生みの親であるミノフスキー博士も、実験の成功に今までの重荷が降りたのを感じ、ただ呆然と立っていた。

 

すると、イヨネスコ博士が前に来て、無言で笑いながら手を差し出し、それに答えたミノフスキー博士は互いにガッシリと手を掴み、実験の成功を祝った。

 

こうして、この日の実験は成功し、続けて行われた耐久試験や動作試験など様々な試験を行いその全てに成功を収め、此処に人類初の核融合炉が完成した。

 

その様子は、見ていたゴップ首相は所長と研究員等を満面の笑みをもって祝福し、人類史上に残る快挙だと褒め称えた。

 

こうして、彼等の偉業は歴史に残るのかと思われたが.......。

 

「納得いきません、学会の発表しないのですか!!説明をしていただきたい。」

 

念願かなって自分の研究成果を漸く世間に示せると思った矢先に、政府から公開に対してストップがかかったのだ。

 

ミノフスキー博士はこれを不服として、研究者なら誰でも思い浮かべる自らの成果を世界にしらしめたいと思う心を踏みにじられたと思ったのだ。

 

だが、実際は違った。

 

「まあまあ、落ち着きたまえ。私とて君達とお同じ研究者の端くれだ。だがこれはトップオーダーなのだ、我々では逆らえん。」

 

所長は今日何度目にかになる突き上げにウンザリとしながら、ため息を吐いた。

 

「だから、どうして政府が我々の自由を拘束するのか、それを説明して頂かない事には、私にも考えがあります。」

 

ミノフスキー博士は、彼と意を同じくする研究者と共に書いた連盟の辞表を取り出した。

 

「......本気なんだな?」

 

所長が探るような目つきで博士を見る。

 

「ええ、本気ですとも、少なくとも私はきちんと説明を頂かないことには、此処を出て行きます。」

 

「本気でそれが出来ると思っているのか........仕方がない、特別に君だけに教えよう。ただし他言は無用だ。」

 

無言で頷く博士に、所長はある書類を取り出して博士に見せた。

 

「これは.....。」

 

無言で読み進めたるよう所長が目で促し、手にとってめくったそれにはこう書かれていた。

 

『ISコア同士のネットワーク構築の有無に対する見解』

 

......IS研究所?たしか連邦は公のIS研究機関は存在しないはずだが....。

 

無言で読み進めるなか、部屋の中には書類をめくる髪の音だけが響いた。

 

そうして、最後まで読んだ時、私の心のうちにあったのは驚愕と嫉妬だった。

 

「その書類には何が書かれているのか君ならわかるな?」

 

無言で呆然とする私に、所長は言葉を続ける。

 

「ISコアは各国でも研究が進んでいるが、実際にコアを解体し解析するという研究を行っているのは連邦だけだ。まあ、そうだろうな、他所の国にとっては金よりも価値のあるコアだ、下手に傷をつけることなんかできん。その点連邦は容赦のかけらもなくコアを解体して研究資材に使ってしまったがね。」

 

所長はポケットからライターを取り出すと、胸のポケットからタバコケースを取り出し、「君も吸うかね?」と差し出すが、博士は首を振って断ったので、一本だけ加えて火をつけた。

 

.......暫く部屋の中をタバコの煙の臭いが漂った。

 

「研究の結果、まあ日本から接収したデータもあり解析は順調に進んだが、その中でIS間どうしを繋ぐ情報通信ユニットを発見した。解析してみた結果驚くべきことに世界中の全ISコアが並列で繋がっており、独自の通信網で情報のやり取りや互いに成長の促進を行っているらしい。」

 

そこではじめてミノフスキー博士が反応し、

 

「ISコアの成長ですか?しかもコア同士の情報のやり取り.....まさかISのコアには独自の意思があるのですか。」

 

「そこまではまだ判らん。だが従来のAIなどでは説明のつかんことをやってのける以上その可能性も否定は出来ん。問題は此処からだ、我々でさえコアどうしのネットワークを発見することまでは出来たが、肝心の内容が未だに解析できん。どうも特殊なプログラミング言語を使っているらしくてな、従来の解析ソフトでは解読でできんのだ。そしてな、コアネットワークを追って行くと、必ず情報が一点に集中することを発見した。」

 

所長は言葉を切り、タバコの灰を灰皿に落としてから、再び鼻から息を吸い込んだ。

 

「我々はそれをクイーンと名づけた。ISコアの頂点に立つという意味でだが、こいつはどうもしょっちゅう場所を移動していて唯でさえ解析不可能なのに、場所も特定不可能なのでは手が出せん。だから、連邦情報局とIS研究所が共同でダミー情報を複数コアネットワークに流し、居場所の特定を図ったが、そのうち幾つかがクイーンに届き、居場所を特定する寸前までいって....突如としてコアネットワーク通信の形態が変わり、従来のシステム、アクセス方法では情報を送れなくなった。再度方法を変更して送っても、類似のニセ情報は直さま排除され、結局居場所の特定は出来ず、より困難な状態になったのみだ。.....だからこれは可笑しいと考えた。幾つかの実験で情報を流しクイーンに伝わった情報が最低でもネットワーク全体にフィードバックされるのに最低でも一週間ほどの時間がかかった。しかし、今回のニセ情報はクイーンに届いた瞬間対処がされ、尚且つ同じ手が通じないようにより複雑化したネットワークの構築。これ等の構築まで僅か二時間だ。故に情報局は、クイーンに直接アクセスでき、尚且つ情報の真偽が特定可能でコアネットワークの情報解析、及びその改変が可能な人物を探し出し、一人の人物を特定した。」

 

「篠ノ之束ですね。」

 

ミノフスキー博士が搾り出すような声で言った。

 

その顔は苦渋に満ち、普段の彼らしくなく眉間に皺を浮かべていた。

 

「そうだ、ISの産みの親にしてコアの唯一製造可能な人間。篠ノ之束彼女以外に考えられない。そして是が何を意味するかというと、世界中の情報や出来事がISのコアネットワークを通して奴に伝わり、国家機密でさえも、篠ノ之束は容易に手にする事が出来る。いわば彼女は世界規模でカンニングをしているのだ。開発に携わった科学者達の努力を嘲笑い、その成果を知らぬうちに盗んでいく。だが、もっとも恐ろしいのは、奴が全ISコアに一定の指示を下せるという点だ。奴が一度命令を下せば世界中のISが人類に牙を向き、世界は奴に膝を屈するだろう。」

 

そこまでいい終える内に、すっかりタバコは短くなり、燃えた灰が垂れ下がり今にも落ちそうであった。

 

暫く所長室に沈黙が続いたが、ミノフスキー博士が、

 

「所長の言いたい事は分かります。私も同じ科学者として篠ノ之束にシンパシーを感じてはいましたが、今回の事で彼女が唯のテロリストで盗人だったという事が分かりました。しかし、それが一体全体どうして私の研究を公開しないことに繋がるのですか?」

 

「......今研究を発表すれば各国は挙って技術の公開を迫るだろう。年々厳しくなる地球環境にエネルギー問題を一気に解決する発明だからな、手段は選ばんだろう。そうなれば博士の身のも危険が生じるが、問題なのは国外に流出した技術がISコアのネットワークを伝わってクイーン、篠ノ之束に伝わってしまうことだ。そうなればどういう結果になるか......君には分かるだろう。」

 

「テロリストが核兵器を自在に製造し、それを使用できる。篠ノ之束程の天才ならば設備と資金さえあれば容易に完成させられるでしょう。製造に必要なヘリウム3は各国に貯蔵されている分を奪取すれば容易に足ります。そうなれば、ISを使った核特攻兵器の完成。世界は最後の審判を迎える.....それが連邦上層部のストーリーですか。」

 

「ああ、そうだ。連邦はテロリストに核に技術が渡るのを恐れている、いや、今以上にISが進化することを恐れているのだ。核融合炉が完成しなくても、その技術があれば今まで以上にエネルギーを得られ、大量破壊兵器の搭載も可能になる。そうなればお互い殲滅戦は必至だ、言うまでも無く地上にいる人類は死滅するだろうな。」

 

タバコは既に灰皿に押し付けられ、所長の口には新しいタバコが加えられていた。

 

「.....私が完成させなくても、時間があれば天災がいずれ完成させるでしょう.....。」

 

「そうなったときはその時だ。私たちにはどうすることも出来ん。さあ、全ては話したぞ、研究に戻りたまえ。」

 

所長に手で追い払われた私は、誰にも言えない秘密を抱えつつ、学会を追放された時のように、失意の中廊下を歩き続けた.....。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、幽鬼に取りつかれたかのように研究に打ち込み、核融合炉内に発生する特殊な電磁壁、ミノフスキー粒子を発見し、博士の提唱したミノフスキー物理学の正しさが証明された。

 

しかし、彼等の功績が報われるのには、長い、長い、時間を必要とした....。

 

 

 

 


 
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