No.391243 おじさんは桜ちゃんの誕生日をどう祝おうか悩んでいます2012-03-14 00:29:50 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:2423 閲覧ユーザー数:2244 |
おじさんは桜ちゃんの誕生日をどう祝おうか悩んでいます
今日は3月2日。
1年にたった1度の桜ちゃんの大切な誕生日です。
桜ちゃんは今日という日をとても楽しみにしていました。
「おじさん……桜のお誕生日を今年はお祝いしてくれるかなあ?」
桜ちゃんは笑顔を見せてとても楽しそうです。
去年の3月2日、桜ちゃんは遠坂家でとても楽しい誕生日を過ごしました。
葵お母さん、凛ちゃん、当時はまだ綺麗ではなかった時臣お父さんと家族みんなに祝ってもらいました。
それは桜ちゃんにとってとても楽しい1日でした。
でも、今年は状況が違います。
今の桜ちゃんは間桐家の養女になっていました。
だから桜ちゃんは大好きなおじさんが誕生日を祝ってくれるのではないかと密かに期待しています。
おじさんは海外での仕事が忙しくて間桐家には滅多に帰って来ません。でも、今日は誕生日だからプレゼントを持って帰って来てくれるんじゃないか。
桜ちゃんはそう期待しています。
『桜ちゃんに誕生日プレゼントだよ』
想像の中で真っ白いタキシードを着たおじさんが桜ちゃんに青い小箱を手渡しました。
『開けてみていいの?』
『ああ、今すぐ開けて欲しいなあ』
桜ちゃんはたどたどしい指つきで箱を開きました。
すると中から光り輝くダイヤモンドが中央に鎮座する指輪が出て来たのです。
『おじさん……これって……っ』
桜ちゃんは目を丸く見開きながらおじさんに尋ねます。
男性が女性に指輪を贈る意味を桜ちゃんは知っていました。
『ああっ。エンゲージリングさ。桜ちゃん……俺と結婚してくれっ!』
おじさんは桜ちゃんの手を握りながら真剣な瞳で結婚を申し込んで来たのです。
『わ、わたしと結婚!?』
桜ちゃんはその突然の申し出に驚いてしまいます。でも、顔を真っ赤にしてとても嬉しそうに困っています。
『Fateの登場人物は全員18歳以上だから桜もおじさんと結婚できる年齢だけど……』
チラチラとおじさんの顔を伺います。プロポーズを受けるか考えています。
すると、おじさんは桜ちゃんを正面から抱きしめて来たのです。
『俺は桜ちゃんのことが大好きなんだ。愛しているんだ。だから、俺と結婚して欲しいっ!』
心の篭った熱い言葉でした。
こんなに熱心なプロポーズを大好きなおじさんにされては桜ちゃんの心はもう決まりました。
『桜もおじさんのことが大好き。だから……結婚して♪』
桜ちゃんはおじさんのプロポーズを受け入れました。
そして次の瞬間、2人は言峰教会で結婚式を挙げている場面に入れ替わりました。
『何でも良いからお前ら2人一生添い遂げることをマーボーの神に誓いなさい』
マーボー神父の立会いの下に式は着々と進んでいきます。
『誓います』
『誓います』
桜ちゃんとおじさんは神妙な面持ちで返事します。
『では、誓いの口づけをマーボーの神に捧げなさい』
『桜ちゃん……っ』
おじさんの唇が桜ちゃんに迫り、そして──
『おじさん……っ』
2人の唇が重なり、桜ちゃんとおじさんは正真正銘の夫婦になったのでした。
『おめでとう、桜~っ!』
『雁夜くん、桜のことをお願いね』
ヴァージンロードを歩いて建物の外に出ると、手をブンブン振りながらお祝いしてくれる凜ちゃん、満面の笑みを浮かべている葵お母さんの姿がありました。
『うぉおおおおおおぉっ! 雁夜~~っ! 桜を幸せにしなかったら許さんからな~っ!』
その隣には優雅ではなく涙を滝のように流している綺麗な時臣お父さんの姿がありました。
“桜……おめでとう”
綺麗なワカメも2人を見ながら微笑んでいました。
『2人の結婚、実にめでたいのぉ』
臓硯おじいちゃんも目や口から蟲を垂れ流しながら喜んでいます。
『桜ちゃんは俺が絶対に幸せにしてみせる。いや、2人で幸せになる』
『うん。わたし……おじさんと一緒に幸せになるね♪』
抱き合ってもう1度キスをする2人。
こうして桜ちゃんは誕生日におじさんと結婚し、幸せの第一歩を踏み出したのでした。
めでたしめでたし
「…………なんて展開になるわけないよね」
桜ちゃんは自分で張り巡らせた想像に対して冷めた見解を述べました。
「そもそもFate/Zeroは年齢制限付いていない。だからわたしも18歳以上でないからまだ結婚できないし」
桜ちゃんはとても冷めた瞳をしています。
夢見る少女であっても、女の子は一方でとても現実的なのです。
「大体あの鈍感なおじさんが指輪をプレゼントとかプロポーズとかあり得ないし。そんな勇気と気の利きようがあったら、あの蟲が湧いた似非優雅じゃなくておじさんが桜のお父さんになっていた筈だし」
桜ちゃんはどこまでもドライでした。
「おじさん相手に多くは望まない」
桜ちゃんは服の胸の部分をギュッと強く握りました。
「でも、おじさんに祝って欲しい。一緒に過ごしたいよぉ」
桜ちゃんは心配そうな瞳で空を見上げました。
そんな桜ちゃんを物陰から綺麗なワカメが心配そうな瞳で見ていました。
さて、桜ちゃんを散々心配させているおじさんはというと──
「あったあった。ここだ。最高級に美味しいケーキを提供してくれるケーキ屋さん、究極の美食倶楽部は」
ちゃんと冬木市に戻っていました。
基本的には甲斐性がないおじさんですが、流石に桜ちゃんの誕生日ぐらいは帰って来たのでした。
そしておじさんは今、桜ちゃんにこの世で究極にして至高の誕生日ケーキをプレゼントしようと思い評判のケーキ屋を訪れていました。
ケーキ屋の筈なのにやたら和風な店構えのお店に一歩入ると、陳列棚の奥の厨房で桜ちゃんと同い年ぐらいの少年が熱心にケーキを作っている姿が見えました。
その少年の顔を見た瞬間、おじさんは全身に震えが走ったのです。
「アイツは……敵だっ!」
何の脈絡もありませんでしたが、おじさんはそう呟きました。
おじさんは少年のネームプレートをつぶさに観察しました。
【味皇海原雄三の息子 見習い料理人 山岡士郎】
少年は士郎という名前でした。
「奴は、士郎だけは桜ちゃんに会わせちゃならない。桜ちゃんが士郎に近づくフラグは全部へし折ってやるっ!」
おじさんは士郎くんを見ながら目を剥きます。そのおじさんの脳裏にはとても恐ろしい光景が過ぎっていました。
『俺は……桜だけの正義の味方になるよ』
おじさんの想像の中で士郎くんは桜ちゃんを熱く激しく抱きしめていました。
『うん……』
対する桜ちゃんは体を士郎くんに預けてうっとりとした表情で素直に頷きました。
そこで画面がパッと切り替わります。
『何でも良いからお前ら2人一生添い遂げることをマーボーの神に誓いなさい』
マーボー神父の立会いの下、2人の結婚式が行われていました。
まだ幼いながらも桜ちゃんはウエディングドレス姿がとてもよく似合っています。
その桜ちゃんはとても幸せそうな表情で白いタキシード姿の士郎くんを見つめています。
『では、誓いの口づけをマーボーの神に捧げなさい』
士郎くんの顔がゆっくりと桜ちゃんに重なっていきます。止めたいのにおじさんにはその光景を見ているしかありません。
そして、遂に2人の顔は完全に重なってしまったのです。
それはおじさんにとって悪夢としか言いようがない光景でした。自分を好いてくれている女の子が他の男に盗られてしまったのです。男としてこんな悲しいことはありません。
更に悪夢はまだ続くのでした。
『おじさん、わたし……士郎くんと幸せになるね♪』
桜ちゃんは最高の笑顔でおじさんにそう誓いを立てたのです。
桜ちゃんのそのピカピカした笑顔はもはやおじさんが桜ちゃんにとっての一番でないことを雄弁に物語っていました。
おじさんの心は、パキンと音を立てて折れてしまいました。
「お前だけは絶対に許さんぞ……山岡士郎っ!」
おじさんは血の涙を流しながら憎しみを篭めた表情で士郎くんを睨んでいます。
士郎くんを桜ちゃんに近付けては桜ちゃんを盗られてしまう。桜ちゃんの一番が自分ではなくなってしまう。
それはおじさんにとって耐え難い苦しみでした。
だから、おじさんの出来ることはたった1つでした。
「畜生~っ! 覚えてやがれ~~っ!」
捨て台詞を吐いて泣きながらお店から駆け去ることだけでした。
おじさんはプライドを捨てて士郎くんの魔の手から桜ちゃんを守ったのです。
士郎くんも桜ちゃんもまだ子供だからなんて甘いことは認めませんでした。
大人のおじさんは全力で士郎くんを敵と認め、むしろ勝てないと認めて全力で逃げ出したのです。
おじさんは走りながら沢山泣きました。
でも、泣きながらちょっと誇らしい気分になりました。
強大な敵から桜ちゃんを守ったのですから。
何か人として大事なものを捨ててまで大事な大事な女の子を守りぬいたのですから。
おじさんはこの瞬間、桜ちゃんだけのヒーローでした。
おじさんは結局士郎くんのお店でケーキを買うのを諦めて普通のケーキ屋さんで買いました。
さて、後はプレゼントを買えば桜ちゃんに会いに行けます。
「誕生日プレゼント……何をあげれば桜ちゃんは喜ぶだかなあ?」
女性と縁がなかったおじさんは桜ちゃんにどんなプレゼントをあげれば喜んでくれるのかよくわかりません。
「そういえば桜ちゃん、この間会った時は確か……大人っぽく見られたいって言っていたような?」
何週間か前のことを思い出してみます。
『わたし……もっと大人っぽく見られるようになりたい。おじさんと、釣り合えるような大人の女の人に見られたい』
桜ちゃんは潤んだ瞳でおじさんを見上げながら確かにそう言っていました。
「なるほど。桜ちゃんは背伸びしたいお年頃なんだな」
おじさんは桜ちゃんが何故大人っぽく見られたいのか深く考えることなく結論だけ述べました。
この辺がおじさんがいまだに結婚できない理由でした。
「よしっ。なら、誕生日プレゼントは桜ちゃんを大人っぽく見せるアイテムに決まりだな」
おじさんは頭を捻ります。
捻ります。
捻ります。
でも、何もアイディアが浮かんできませんでした。
女の人とまともに付き合ったことがないおじさんは、どうすれば大人の女を演出が出来るのかまるでわかりません。
「よし。俺が知っている綺麗な大人の女性を参照にしよう」
おじさんは自分が知っている綺麗な大人の女性を思い浮かべてみました。
葵お母さんしか浮かびませんでした。
でも、それで十分でした。
「葵さんはそのままで十分、いや、十二分に魅力的ですっ! 何か特別な工夫は要りませんっ!」
おじさんは鼻息荒く自分の想像の葵お母さんにそう話し掛けました。
……何の参考にもならないことだけが判明しました。
「えっと、こういう時はアクセサリー。アクセサリーだよな!」
慌てて代案を述べて誤魔化します。
おじさんは思春期男子程度の女の子の理解力でそう判断しました。
「え~と……アクセサリーの定番と言えば……イヤリング、かな?」
おじさんの拙い知識で大人の女性のイメージの一番に上がったのはイヤリングでした。
「でも、幾ら何でも桜ちゃんにはまだ早すぎる気がするし……それに、桜ちゃんの耳に穴を開けるようなものなんて贈れないよ」
おじさんは自分で喋っていて鳥肌が立ちました。
「え~とじゃあ……指輪は、うん却下だな。そういうのは結婚する相手から貰うもんだ」
おじさんは桜ちゃんが最も欲しがっているものをいとも容易く却下しました。
こんなだからおじさんはいまだに結婚できないのです。
「え~と、後残っているのはネックレスか?」
おじさんには女性のお洒落アクセサリーとして3つの選択肢しかありませんでした。
こんなだからおじさんはいまだに(以下略)
でも、方針は決まりました。
「よしっ! 早速ネックレスを買いに宝石屋さんにゴーだっ!」
女の子と一緒に街を回ったことがない非リア充なおじさんは、ネックレスと言えば宝石店にしかないと考えています。
そんな自分の不確かな知識に従っておじさんは宝石店へとダッシュしていきました。
「すみませんっ! 誕生日プレゼントに贈るネックレスをください」
おじさんは店の中に入るなり、店員の若いお姉さんに向かって大声で叫びました。
「奥様へのプレゼントですか?」
お姉さんは笑顔で尋ね返してきました。
「いえ、俺、独身なもので……」
おじさんのテンションがちょっと下がります。世間的には結婚していておかしくない年齢なのにやっぱり結婚していないとちょっと寂しく感じます。
「では、恋人さんへの贈り物ですね」
「ええと……」
おじさんは答えに困りました。桜ちゃんとの関係をどう説明するのか迷っていました。初恋の人の娘と答えるのは流石に変だとおじさんにもわかりました。でも、他にどう説明すれば良いのかわかりませんでした。
「とにかく俺はこういうのに疎いんで、アドバイスをいただけると嬉しいです」
おじさんは手を頭に乗せながらお願いしました。
「はい。では、贈り主さんの年齢とご職業を教えて頂けますか?」
おじさんは上を向いて桜ちゃんのプロフィールを考えました。
「ええと、確か……Fate/Zeroの登場人物は全員が18歳以上ということはなかった筈ですから、桜ちゃんは今日で7歳の誕生日を迎えて、職業というか学年は小学校1年生です」
おじさんは正直に答えました。
「このペド野郎っ! 死ねっ!」
お姉さんは唾を地面に向かって吐きました。
「こっちも商売だからよぉ。売ってやらないこともねえけど、さっさと選んで死ねっ!」
お姉さんは急に態度悪くなりながらショーケースの一角を指差しました。
そこには、動物やお花など、小さな少女がつけても似合いそうな宝石をあしらったペンダントが並んでいました。
「あっ。あれは」
その中の1つがおじさんの気を惹きました。
「あの、桜の花びらの形をしたペンダントをくださいっ!」
「そのペンダント、ダイヤを散らばめているからガキへのプレゼントにはちょっと値が張るぞ。ほらっ、5万円だ」
お姉さんがお金を寄越せと無造作に手を伸ばしました。
「うっ……」
おじさんは一瞬躊躇しました。
今5万円を支払ってしまうと、次の海外渡航費用が足りなくなってしまうからです。
冬木でしばらくバイトをしてお金を稼がないといけません。その間、当然ながら本来のお仕事の方はお休みになります。
おじさんはどうするのか目を瞑って考えました。
だけど答えは一瞬で出ました。
「はいっ。5万円です」
おじさんは代金を支払いました。
「そんなにロリの機嫌がとりたいのか、ペド野郎? 早く死ねっ!」
お姉さんは代金を受け取って桜の花びらをあしらったダイヤのペンダントをおじさんに渡しました。
「よしっ。これで桜ちゃんのプレゼントは確保できた」
お姉さんに唾を吐かれ激しく罵られながらおじさんは上機嫌で店を出て行きました。
桜ちゃんへのプレゼントを手に入れたおじさんは上機嫌で間桐家へと向かっていきます。
「このネックレスをあげたら桜ちゃん喜んでくれるかな?」
桜ちゃんの喜ぶ顔を想像しておじさんの頬がにやけます。
でも、そんなおじさんの前に強大な敵が現れたのです。
「間桐雁夜っ! 貴様、そのプレゼントで桜を誑かすつもりだなっ!」
「遠坂綺麗な時臣っ!」
蟲の力を得て綺麗になった綺麗な時臣お父さんでした。
「娘に下心を持って近づこうとする男はみんな殺すっ! とりあえず死ねっ!」
優雅さをログアウトして綺麗な時臣お父さんがワインボトルを武器に飛び掛って来ました。
「くっ! プレゼントのケーキとネックレスで両手が塞がっていやがる!」
おじさんは絶体絶命のピンチでした。
でも、捨てる神あれば拾う神もあったのです。
“桜の幸せは、僕が守る”
綺麗なワカメが大量の蟲を引き連れて路地裏から湧いて出たのです。
綺麗なワカメは綺麗な時臣お父さんの前に立ちはだかりました。
「フッ。綺麗なワカメくん。今の私に君の蟲は通じないよ」
“蟲が利かなくても……僕にはまだこれがある”
綺麗なワカメは、頭に生えているワカメに対して水を1滴掛けました。
すると、頭に乗っていたワカメが水分を吸ってにょきにょきと巨大化し始めたのです。
そうです。
綺麗なワカメの頭に乗っていたのは増えるワカメだったのです。
“桜の幸せの為だ。このワカメの海に飲まれて一緒に死んでもらうよ、綺麗な時臣”
もはや綺麗なワカメは自分の姿が見えなくなってしまうほどにワカメをにょきにょき増やしていました。
綺麗なワカメは自分の身を犠牲にしてでも綺麗な時臣お父さんを止めようとしているのです。
でも、そんな綺麗なワカメの決死の行動を見ても綺麗な時臣お父さんは動揺しませんでした。
「フッ。この程度のワカメなど、ワインのスナーキ(つまみ)に食い尽くしてくれるっ!」
なんと綺麗な時臣お父さんは綺麗なワカメの頭から増殖しているワカメに噛み付いてすごい勢いで食べ始めたのです。
「優雅を極めし者は満腹時の醜態など見せてはならない。故に決して満腹にならない修行を重ねているのだっ!」
綺麗な時臣お父さんの背後でセイバーライオンが吼えているように見えました。
綺麗な時臣お父さんは腹ペコ王の加護を得ているのです。
“たとえ、貴様が腹ペコ王の加護を受けていようとも、僕の無限の増えるワカメは負けないっ!”
綺麗なワカメの背後におしゃもじを持って山盛りのご飯茶碗を差し出すアーチャーが映りました。
2人の壮絶なぶつかり合いが続きます。
おじさんはそんな2人の争いを黙ってみているしかありません。
そしてそんなおじさんに背中で語ったのはやはり綺麗なワカメでした。
“ここは僕に任せて先に行って!”
綺麗なワカメは綺麗な時臣お父さんの口に湯水のようにワカメを突っ込みながら熱く背中で語ったのです。
“僕のワカメが尽きてしまう前に……”
「わかった」
おじさんは争いを避けて間桐家に向かって走り始めました。
“桜……良い誕生日を過ごしてくれ”
綺麗なワカメの頭のワカメの増加量がみるみる減っていきます。
「どうやら、髪ワカメが尽きたようだね」
遂に全く増えなくなったワカメを見ながら綺麗な時臣お父さんはニヤリと笑みを浮かべました。
“本当の勝負はこれからさ”
綺麗なワカメは蟲を沢山呼び寄せました。
「フッ。今更この私に蟲が通じると思っているのかね? な、何だこれは!?」
綺麗な時臣お父さんは綺麗なワカメの周囲に群がっている蟲の種類がいつもとは違うことに気付きました。
“この蟲たちは臓硯が改造を施した、男をこよなく愛する男たちを呼び寄せ、いやんなことをさせる特殊フェロモンを発する蟲。その名もオトコ蟲だ”
「馬鹿なっ! そんなものを使えば君も……」
“兄とは……妹の幸せの為ならば、全てを投げ打てる存在のことを言う”
綺麗なワカメはニヤッと笑いました。
そしてその背後から多くの男たちが2人に向かって走って来るのが見えました。
ムキムキのマッチョから、耽美で細身の美形まで様々です。
でも、その瞳が爛々と輝き、綺麗な時臣お父さんと綺麗なワカメを、特にお尻を見ているのは間違いありませんでした。
“さあ、綺麗な時臣。僕と共に堕ちよう”
「まさか世界最高峰の魔術師であるこの私が、“兄”の執念に後れを取ることになるとはな」
綺麗な時臣お父さんは取り乱すのをやめて、赤い液体の入ったワイングラスを優雅に揺らしました。
そして間もなく2人は男たちの暑苦しすぎる波にさらわれ……裏路地へと消えていったのでした。
おじさんは綺麗なワカメを犠牲にしながら懸命に駆け抜けました。
そしてようやく、間桐家の門の前まで辿り着いたのです。
でも、そこはゴールではありませんでした。
悪夢の始まりだったのです。
「お母様。雁夜おじさんが間桐家に到着してしまいましたわ。どうやら綺麗な時臣お父様はしくじったようですね」
「綺麗な時臣は遠坂家の中で一番の小物。討たれた所で何の不思議もないわ」
門の前に待っていたのは葵お母さんと凛ちゃんでした。
「えっ? 葵さん? 凛ちゃん? どうしてこんな門の前で待っているの?」
おじさんには訳がわかりません。
もう、だから結婚できないんです。
「雁夜くん、桜にプレゼントをあげるんでしょ?」
「はい。そのつもりですけど」
言われるままに答える雁夜おじさん。美女を前に自主性の欠片もありません。
「何をあげるの? それは幾らなの? 正直に答えて。雁夜おじさん!」
「えっと……桜の花びらをあしらったペンダント。ダイヤが散りばめられているとかで値段は5万円です。はい」
凛ちゃんの勢いに押されてつい正直に答えてしまいました。残念ながらヘタレ極めています。
「「ダイヤっ!? 5万円っ!?」」
葵お母さんと凛ちゃんが一斉に驚きの声を上げました。
「これはもう決まりね」
「ええ。決まりですね」
葵お母さんと凛ちゃんは頷きあってからおじさんへと振り返りました。
「雁夜くん。そのネックレスをこちらに渡して頂戴。さもなければ……貴方は死ぬわ」
「えっ? 死ぬって、何で?」
おじさんはとても驚きました。
そんなおじさんに対して凛ちゃんはしれっとした表情で回答しました。
「嫉妬に狂った私たちがおじさんを無慈悲に残忍に殺しちゃうから」
凛ちゃんが言葉を終えた瞬間、2人から強烈な殺気が放たれ始めました。
「えぇえええええぇっ!? 何でぇ~~っ!?」
おじさんは今にも腰を抜かしてしまいそうなほど怖がっています。
葵お母さんたちの殺気の鋭さ、激しさは先ほどの綺麗な時臣お父さんの比ではありません。おじさんはもう漏らしそうになったぐらいでした。
「さあ、雁夜くん。命が欲しかったらそのネックレスは私へのプレゼントに替えて頂戴。2人の婚姻の証としましょう」
「何を言っているの、お母様? そのネックレスは私への婚約指輪代わりのプレゼントになるんです」
2人の夜叉がおじさんに向かって手を無造作に伸ばして来ます。そんな2人の手に対しておじさんはネックレスが入った袋をしっかりと抱きしめました。
「こ、これは駄目です。桜ちゃんへのプレゼントに買ったものだから葵さんたちにはあげられません」
おじさんはとても恐怖を感じましたが、それでもプレゼントの引渡しを拒みました。
「そう」
「そうですか」
2人はとても悲しそうな顔をしました。
そして、次いで怒りと殺意の波動をおじさんへと向けたのです。
「私のものにならないのなら……死んでもらうわ!」
「死んで下さいっ!」
葵お母さんの手と凛ちゃんのツインテールがおじさんを絞め殺すべく伸びて来ました。
「うわぁあああああああぁっ!?」
おじさん絶体絶命のピンチ。
その時でした。
「やあ、僕聖杯くん。桜ちゃんが楽しく誕生日を過ごせるように参上」
桜ちゃんが呼び出せば実は割といつでも現れる本物の聖杯でした。
「桜ちゃんはおじさんが来るのを首を長くして待っているよ。ここは僕に任せておじさんは先に行って」
今回聖杯くんは桜ちゃんを悲しませないように自分から出て来たのです。
「ありがとう、聖杯くんっ!」
葵お母さんたちに命を狙われるのはご勘弁だったので、おじさんはさっさと屋敷の敷地内へと逃げ込みました。
「たかが魔力の塊の分際で私と雁夜くんの蜜月の刻を邪魔しようとは良い度胸ね」
「まったく、こんな黒いタコさんウインナーみたいな物体風情が私たちが止められると思っているなんて本当にお笑いよ」
おじさんに逃げられて葵お母さんたちの怒りは聖杯くんに向けられました。
「桜ちゃん……僕はもう君に会えないかもしれないけれど、幸せに暮らしてね」
聖杯くんは間桐屋敷の桜ちゃんの部屋を見ながらそう呟きました。
「I am the bone of my magic,,,」
そして聖杯くんは大好きな桜ちゃんの為に一世一代の大勝負に打って出たのでした。
絶対に勝てないとわかっている大勝負に。
*****
おじさんは間桐の家の中を桜ちゃんの部屋を目指して懸命に駆けていきます。
グズグズしていたら第四、第五の遠坂が現れて妨害して来ないとも限りません。あの人たちだったら平然と何の謂れもない2Pキャラとかを登場させて来そうです。
遠坂の真の恐ろしさはそういう無茶苦茶を平然とやって来ることです。
それがわかっているからこそ、おじさんは必死に桜ちゃんの部屋へと急ぎました。
「桜ちゃんっ!」
おじさんはノックもせずに桜ちゃんの部屋の扉を開けました。
「あっ! おじさんっ♪」
部屋の中でうさぎのぬいぐるみを抱きしめて座っていた桜ちゃんはおじさんの顔を見るなりパッと瞳を輝かせました。
これが桜ちゃん高校生バージョンだったら『いや~ん。おじさんのエッチ』という安易なお色気シーンで男性読者を馬鹿にしつつゴマする所です。ぶっちゃけエロいシーンを混ぜるほどに男性読者の閲覧数が上がるという単純な原則は脅威です。エロくすることを強いられているんだ!なんです。この辺が読者の大半が男性が多数を占める作品だと難しい所です。多分、この原作ではあまり心配する必要がない話ですが。
ですが、桜ちゃんは小学生なのでそんなことはしません。小学生の桜ちゃんにそういうシーンを期待する人はノータッチの原則を死ぬまで守ってください。
話がだいぶずれました。
おじさんは桜ちゃんに無事に会えたことをことのほか喜びました。
「桜ちゃん。プレゼントを持ってお祝いに来たよ♪」
おじさんは満面の笑みを浮かべながら桜ちゃんにネックレスの入った箱を差し出しました。
「はいっ。良い子の桜ちゃんにおじさんから誕生日プレゼント」
「ありがとうっ」
桜ちゃんはプレゼントを受け取って喜びながら包みを開けていきました。
そして、中に入っているネックレスを見たのです。
「おじさん、これ……」
桜ちゃんは光り輝く桜の花びらの形をしたネックレスをうっとりした表情で眺めています。桜ちゃんの人生の中でこんなにも綺麗なネックレスを見たのは初めてでした。
「ああ。キラキラ光り輝いているのは、その桜の花びらの金属にはダイヤモンドが散りばめられているからなんだ」
「ダイヤ……」
おじさんの説明を聞いて桜ちゃんはとても驚きました。
「このネックレス、凄く高価なんじゃないの?」
桜ちゃんは恐る恐る尋ねました。
桜ちゃんもダイヤの価値が凄いことは知っています。というか、宝石の金銭的価値にやたら煩いお姉さんの影響で桜ちゃんも詳しくならざるを得なかったのです。
桜ちゃんはおじさんが貧乏なのを知っています。それだけにこのプレゼントはとても無理をしたんじゃないか。そう考えました。
「桜ちゃんの誕生日なんだもの。これぐらいの出費、何でもないさ」
おじさんは白い歯を光らせながら爽やかに笑ってみせました。
しばらく日本でバイトしようと心に決めたおじさんにとって、幾ら払ったとか大した問題ではありませんでした。
そしておじさんのそんな男らしい姿を見てドキンと胸を高鳴らせたのが桜ちゃんでした。
全身が熱を帯びていきます。顔が茹で上がっていきます。
「おじさん、わたし……このネックレス、一生大事にするね」
ネックレスを大事に抱きしめながらしみじみと語ります。暖かい気持ちが、幸せが胸の奥底からこみ上げてきます。
「……おじさんからの婚約ネックレス。一生大事にするね」
「えっ? 今、何て?」
桜ちゃんはおじさんには何も答えずにネックレスを首から掛けました。
「ありがとう。おじさん」
桜ちゃんの首から下がったネックレスはとても綺麗に輝いています。でも、その持ち主である桜ちゃんはもっともっと光り輝いていました。
「今日は臓硯おじいちゃんがご馳走を沢山準備してくれているの。おじさんも一緒に食堂へ行こう♪」
桜ちゃんがおじさんの手を引っ張りながら促します。
「ああ、そうだね。今日からしばらく間桐家に世話になるからあの蟲じいさんにも挨拶ちゃんとしておかないとな」
おじさんは桜ちゃんに引っ張られながら部屋を出て行きました。
今日は間桐家で楽しい楽しいパーティーが行われます。
残虐行為を終えてすっきりした葵お母さんと凛ちゃんも加わって大人数でのパーティーです。
「桜……とっても幸せだよ」
こうして桜ちゃんは大人数に祝ってもらってとても幸せな1日を過ごしたのでした。
桜ちゃんの満面の笑顔を冬木の大空から散っていった綺麗な時臣お父さん、綺麗なワカメ、聖杯くんが笑顔でキメていました。
了
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