「この者が、『天の御使い』・・・・でございますか?」
「なんというか、想像していたのと違いますな」
「あ・・・・あの・・・・」
荊州、襄陽近郊。宣城にて。
城内の玉座の間にて、劉表は文官・武官から冷たい視線を向けられていた。
ビクビクと怯える劉表の隣には、気まずそうな顔の徐福と、呆れ顔の一刀が並んでいた。
「徐元直殿は「あの」水鏡女学院の学生だったと聞きますので、我々文官としては元直殿の仕官を歓迎します」
「軍師としても期待できる元直殿の士官は、我ら武官としても嬉しい限りであります」
「あ、ありがとうございます」
徐福はペコリと頭を下げる。が、素直に喜べる状況ではなかった。
彼女へ向けられる視線は喜びと期待を込めたものであったが、その隣に立つ一刀への視線は疑惑だけだった。
「劉表様、正直に言います。 この男が『天の御使い』だとは思えません」
「自分もそう思います。 こんな汚らしい男が『御使い』というのは信じられない」
「で、でも・・・・」
劉表は何も言えず、顔を俯かせるだけだった。
「劉表様!! どうしてこのような輩を『御使い』だと判断したのですか!?」
「ひっ・・・・!」
一人の武官の怒声に、劉表はブルブルと震えだした。
徐福はただ唖然としていた。
反論。
非難。
批判。
言いたい放題の家臣に、何もできずにいる主。
これが荊州の内政なのか。
「劉表様は何を考えておられるのですか!!」
「一目見ればこの男が『天の御使い』かどうか、わかるではないですか!!」
「ぐすっ・・・・えぐっ・・・・・ご、ごめ―――――」
ポロポロと涙を流す劉表が、か細い声で言いかけた時。
「劉表」
堂々とした一刀の声が、凛と響き渡った。
「うっ・・・・えぅ・・・・ほ、北郷様・・・・?」
「お前は、俺のことを『天の御使い』だって思ったんだろう? だから俺を連れてきたんだろう?」
一刀の言葉に、劉表は大きく頷いた。
「だったら謝ろうとするな」
「なんだ貴様!! おとなしく黙っておれ!!」
一人の武官が、一刀へ怒鳴り声をあげる。それに乗じて、何人もの文官と武官が一刀へ罵声を浴びせはじめた。
「薄汚い輩が!」「金目当ての畜生め!」「消え失せろ!!」などと言われ続ける一刀。
まさに暴言の嵐だ。
隣にいた徐福もカチンときたのか、目つきが鋭くなっていく。
もう我慢の限界だ。
いよいよ腰に差してある短剣に手を伸ばそうとしたその時。
「るっせぇぞ!!!!!!」
その場の人間全員を黙らせる轟声。
声の主は、北郷一刀だった。
「テメェらいい加減にしろよ」
「貴様、何様のつもりで―――――――」
「御使い様のつもりだよ」
そう言うと、一刀は眼前の武官へ向かって歩き出した。
ゴツ。ゴツ。と、一刀の軍靴の音が響き渡る。
「な、なんだ・・・!」
精一杯の睨みをぶつけてくる武官に、一刀は嘲笑で返す。
そして彼の額にパチン!と軽いデコピンをした。
「何をした!?」
「『呪い』をかけてやった」
「な・・・・ッ!」
驚愕する武官に対して、一刀はただニッを笑うばかり。
「なんの呪いを・・・・・!」
「死んだときに地獄に落ちる呪い」
「な、なんだと!? う、嘘をつくな!!!」
「だったら試してやるよ」
そう言って、一刀はコンバットナイフを抜く。
みるみるうちに顔が青ざめる武官。
殺気に満ちた一刀の睨みが、深く突き刺さる。
「永遠に苦しめ」
「ま、待て!!」
「待たない」
「すまない! 私が悪かった!! ごめんなさい!!」
「・・・・抵抗すらしねぇ、か」
ハァ。と、一刀はため息をつく。
ブルブルと震える武官に、「この腰抜けが」と言い放ってナイフをしまった。
「で、他に文句言った奴は誰だ?」
一刀の言葉に、他の文官武官は気まずそうに顔を俯かせる。
徐福の隣という最初の立ち位置へと戻っていった一刀は、腕を組んでニヤリと笑みを浮かべた。
「俺は北郷一刀。 劉表サマの言うとおり、天の御使いだ」
この一言以降、劉表の家臣は何も言わなくなった。
「申し訳ありませんでした・・・・」
「気にすんな。悪口にゃ慣れてる」
一刀はこれ以上は何も言わなかった。申し訳なさそうに頭を下げる劉表を叱りつけるようなことはせず、呆れた顔でため息を吐くだけだった。
そんな中、徐福は目をキラキラさせて一刀を見つめていた。
「北郷殿って呪術にも心得があったんですねっ! スゴイですっ!!」
「ありゃ嘘だ」
「・・・・へ?」
「『天の御使い』を信じている連中なら、地獄やらなんやらでも信じるもんだと思ったんだが・・・・。あそこまで本気にされるとは思ってなかった」
カハハ。と一刀は笑う。
一瞬で羨望を打ち砕かれた徐福は、露骨にがっかりする。
「気迫と自身がありゃ、嘘でもなんでも通るんだよ」
そう言って、劉表に目をやる。
「だから、何がどうあっても堂々としてろ。 絶対に自信を失うな」
一刀の言葉を、劉表はどのように受け取ったのだろう。
それは彼女にしかわからない。
だが、劉表は一刀に対して初めて柔らかな笑顔をむけた。
「はいっ!」
この日以降、一刀は城内の誰からも『天の御使い』と認識されるようになった。
後日。
「例の『呪い』を受けた武官なんですが、結局どうなったんですか?」
「あぁ、呪いは解いてやったよ。 半泣きで頼まれて気持ち悪かった」
「・・・・ヒドイこと言いますね。 どうやって解いたんですか?」
「金的」
荊州、夏江。
「敵襲!! 敵襲!!」
「賊か!?」
「いや―――――」
平穏を打ち砕く、血死の嵐。
轟号と共に押し寄せる、幾万もの侵略者。
「牙門旗を確認!!」
「なんだと!?」
「嘘だろ・・・・! 『孫』の牙門旗だ!!」
襲い来るは『江東の虎』。
「迎え撃つぞ!! 死んでも守り抜くんだ!!」
「劉表様に知らせろ!! 急げ!!」
「孫堅が攻め込んできた!!」
Tweet |
|
|
22
|
1
|
追加するフォルダを選択
はじめに、前作にコメントしていただいた方々にお礼を。
もう一人オリキャラ出すかどうかで迷ってる今日このごろです。
マジどーしよっかな。
続きを表示