No.387991 そらのおとしものショートストーリー4th 強いられているんですっ!Ⅱ2012-03-07 00:20:35 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:3575 閲覧ユーザー数:3406 |
そらのおとしものショートストーリー4th 強いられているんですっ!Ⅱ
みなさん、こんにちは。智樹です。
突然ですが最近桜井家はとても物騒な事態に陥っています。
「……この世で最も尊い食べ物、それはスイカです!」
「何を言っているの? この世で最も尊い食べ物といえばリンゴ飴に決まっているでしょ!」
イカロスとニンフの争いごとがやたらと増えたのです。
「……アポロン発射」
「アフロディーテっ!」
しかもモノスッゴク物騒な武器を導入してマジバトルを展開しています。
冗談じゃなくて俺は今日にも死ぬんじゃないかなと思います。
「うぉおおおおおおぉっ!?」
ほらっ。2人の激突の余波の爆風が俺を上空へと放り投げてしまいましたから。
これで後地面に叩き付けられれば真っ赤なトマトジュースの出来上がりですね。
「短い人生だったなあ」
これまでの人生が走馬灯のようにグルグルと回りながら蘇って来ます。
沢山女子更衣室を覗きました。沢山女湯を覗きました。女子のプールも満喫しました。
我ながらエッチな欲望は全て満たして来た筈です。しかし、まだこの人生に物足りなさを感じていました。
この物足りなさは一体どこから来ているのでしょうか?
でも、その問いに答えを出す前にどうやら俺は地面に激突してこの世からオサラバするようです。
答えを出せなかったのが少しだけ心残りです。
「桜井くんっ! 危ないっ!」
もう少しで地面に激突。というタイミングで俺は誰かに後ろから支えられて地面への衝突を避けることが出来ました。
とても柔らかいクッションに受け止めてもらったおかげで全く怪我もありません。
一体、この命の恩人さんは誰でしょうか?
そして、この柔らかくて気持ち良くて幸せになれるクッションは一体何でしょうか?
顔を180度回転させます。そしてそこにいたのは……。
「風音が助けてくれたのか」
初めて俺を好きと言ってくれた女の子、風音日和でした。
「ええ。農作業中に桜井くんが飛んでいるのが偶然見えたから」
彼女は農作業スタイルで頭には手ぬぐいを巻いていました。
「助けてくれてありがとうな」
風音にお礼を述べます。
そして目線を彼女のとある一点に向けます。
「最高の感触もありがとうな」
俺の視線は風音の胸に釘付けでした。彼女の大きくて柔らかいおっぱいのおかげで俺は何のダメージも受けずに済んだのです。
「桜井くんの……エッチ」
風音はポッと頬を赤く染めました。でも、そこで俺を落としたりしないのが彼女の良い所です。ニンフだったら絶対に落としています。それ以前にニンフの小さくて硬い胸では地面に叩き付けられたのと同じだったでしょうが。
「さっ、ここにいてはイカロスさんたちの争いに巻き込まれてしまいます。とりあえず私の家に逃げましょう」
「すまないな」
俺は風音に抱えられたまま彼女の家へと避難しました。
風音に抱きかかえられて俺は彼女の家へとやって来ました。
そう言えば風音の家に来たのはこれが初めてです。というかそはらと会長の所を除いて女の子の家に来たのは初めてです。
ちょっとドキドキします。
ドキドキを紛らわせる為に客間の中を見ています。学校で一番可憐な少女と評判の風音の家はどんな感じなのでしょうか?
ジー……。
あれっ?
あのカーテン、つぎはぎだらけに見えるような?
「貧乏で恥ずかしいからあんまり見ないで……」
風音に怒られてしまいました。
「ご、ごめん」
慌てて視線を畳へと向けます。その畳も色が素敵なほど茶色と化しており、何年も取り替えられていないことがわかりました。確かに風音の家は裕福でないことがわかります。
そして先ほど着替えてきた風音はジャージ姿で戻って来ました。
家の中では楽できるようにジャージを常時着用している人の話はよく聞きます。だけど、風音の場合は何か違う気がします。
「せっかく桜井くんに初めてうちに来てもらったのに変な服装でごめんね」
風音は俯いて落ち込んでいます。
「今までのお洋服……胸の所がキツくなって着られなくなっちゃったの。それで、新しいお洋服を買い直す余裕がなくて……」
「そ、そうか。それじゃあ仕方ないよな」
言いながら僅かに首をひねります。
エンジェロイドって成長するんでしたっけ?
でもおっぱいは正義です。風音のおっぱいが大きくなるのは何の問題もありません。
それに風音の胸が大きくなったおかげで俺は怪我をせずに済んだのですから万事オーライです。おっぱいが大きいことはとにかく良いことなのです。
「さ、桜井くん。恥ずかしいからあんまり見ないでよぉ」
「す、スマン」
また風音の胸を凝視してしまいました。
そはらやアストレアの胸を凝視しているとぶん殴られて終わりなのである種楽です。ですが、風音のように両手で胸を隠して恥ずかしがられると対処に困ります。
「うえ~ん。桜井くんにもっと可愛い服装を見てもらいたかったのに……」
そして風音は涙ぐんでしまいました。女の子を泣かすなど男として許されることではありません。
ここは、風音の良い所を誉めるべき時です。
「風音はさ……働いている姿がすげぇ綺麗なんだ。だからそのジャージ姿もとっても可愛いぞ」
俺の言葉に嘘はありません。
風音は物静かで恥ずかしがり屋です。ですが一生懸命な姿がとても魅力的に見える輝いている女の子なのです。
幼い弟たちの為に家の中でも一生懸命働いている彼女のジャージ姿が綺麗でない筈がありません。だから俺は本当のことを言ったのです。
「桜井くんに誉めてもらえて……嬉しいよぉ」
風音の顔が真っ赤に染まりました。
「俺は本当のことを言っただけだ」
そんな彼女を見ていると俺まで真っ赤になります。
この子めっちゃ可愛いです。
でも、とても可愛いのでどう対処したら良いのか俺にはよくわかりません。
間が持ちません。
「その、やっぱり生活大変なんだよな」
そしてつい変な話を切り出してしまいました。
桜井家も居候が2人もいて財政は火の車です。でも、そのお金は世界のどこかを放浪中の両親からもらっています。
自分で弟たちまで養っている風音に比べてると大変でも何でもありません。
「うん。最近……日照不足でお野菜が全然育たなくて収入がね……」
風音の表情がまた沈みました。
「日照不足? でも空美町は毎日のように晴れ渡って……あっ!」
その時俺は瞬間的に閃いたのです。風音が日照不足だと言ったその訳を。
「イカロスとニンフの戦いで巻き起こっている爆煙が太陽を遮っているのか!」
風音は無言のままコクンと頷きました。
空美町の農家を、そして風音を窮地に追いやっていたのがうちの家族だと知って大ショックです。
「す、すまない。何てお詫びをすれば良いのか……」
俺は風音に何てとんでもない被害をもたらしてしまったのでしょうか?
自分が情けなくて死にたいです。
「桜井くんのせいじゃないよ。桜井くんも戦いに巻き込まれて死に掛けた被害者なんだし」
大罪人の俺を風音は首を横に振って許してくれました。
「けど、イカロスたちの戦いのせいで風音たちの暮らしが……」
以前の風音はここまで困窮してはいなかった筈です。イカロスたちの戦いを止められなかった俺の責任は重いのです。
「確かにイカロスさんとニンフさんは桜井くんの家に住んでいて裕福な暮らしをしている。それなのにあまり重要でない思想をぶつけ合って争ってばかりいます」
風音が悲しそうにぎゅっと唇をかみ締めました。そして俺はとても珍しい瞬間を見たのです。
「私たちはそのシワ寄せでこんな生活を…………強いられているんですっ!」
いつも朗らかで笑みを絶やさない風音が感情を爆発させたのです。
でも、そんな珍しい彼女を見て俺が抱いた感情。それは……。
「綺麗だ……日和」
俺は彼女の美しさに心奪われていました。
「えっ? 綺麗って? 日和って?」
日和はすぐに戸惑った表情を見せました。
でも俺の脳裏は、彼女の綺麗な顔をもう焼き付けてしまっていました。
「これからは……俺が日和を守るからっ! 日和も弟たちも俺が養うからっ!」
俺は自分の心の奥底から湧き出た願望を大声で口にしていました。
「あ、あの……桜井くん……それって……」
体を震わせながら潤んだ瞳で日和が尋ね直して来ました。
俺はそんな彼女の手を握って、体の中を駆け巡る熱い衝動を言葉にしました。
「俺は日和のことが好きなんだぁっ!」
日和とは色々あり過ぎて、思えばあの時の告白の返事さえもしていませんでした。
その答えを今口にします。もう遅過ぎるのかもしれませんが、言わずにはいられませんでした。
「さ、桜……と、智樹くん」
俺に手を握り締められながら日和が全身を真っ赤にしています。
こうなったらもう、全部の想いをぶちまけてしまおうと思います。
「俺と結婚してくれ日和~~ぃっ!」
俺はこの子と一生を共に歩みたい。そう思いました。
沈黙が室内を支配します。
果たして、日和の答えは?
「あはっ。智樹くんに結婚を強いられちゃいましたね」
日和は泣きながら笑っていました。
「それから私、意外と嫉妬深いから……浮気しちゃ絶対に嫌ですよ」
日和は右手の指で涙を拭き取っていきます。そして満面の笑みを浮かべて俺のプロポーズに返答してくれたのです。
「ふつつか者ですが……どうか末永くよろしくお願いします」
日和はプロポーズを受けてくれました。
「ありがとう、日和」
日和に向かって深々と頭を下げます。
こうして俺は地面への墜落死から一転、お嫁さんとその弟たちを守り養う身になったのでした。
俺は、この世界で最高で幸せ者になったのです。
日和との結婚が決まってから俺の生活は大きく変わりました。
俺は日和と彼女の弟たちを養っていけるように為にアルバイトを始めました。
毎日コンビニや工事現場で一生懸命働いています。
そしてバイト先ではカオスを養い始めたという守形先輩とよく一緒になります。
「ウッス。先輩。今日も良い天気ですね」
「そうだな。カオスを養い始めてから……空美町の空は綺麗になった気がする」
先輩はカオスを養い始めてから変わりました。昔は鉄仮面被った冷血漢そのものな感じでしたが今の先輩はとても良い顔をしています。
新大陸以外に何の興味も示さなかった先輩がカオスの為に一生懸命に生きているのはとても良い変化だと思います。
ますます相手にされなくなった会長はとても不満そうですが。
そして、日和に大きな迷惑をもたらしていたイカロスとニンフですが、俺がプロポーズした日を境にパタッと喧嘩が収まりました。
その理由については、アストレアが命を捨てて説得したからとも、もう争う必要がなくなったからとも言われていますが詳細は不明です。
「フンッ! 結婚おめでとう!」
「……シュン。ご結婚おめでとうございます」
日和との結婚を伝えた所、それ以来やたら不機嫌だったり落ち込んだりしていますが。
「さて、今日も頑張って新聞配達に行ってくっか!」
まだ夜明け前ですが、頭はすっきり爽快です。
最近は夜早く寝て朝早く起きる生活が習慣になっています。
日和たちを養う為ですから生活リズムの変化ぐらい何でもありません。
空美学園を卒業したら日和とは正式に結婚して一緒に住もうと言い合っています。
勿論日和の弟たちやイカロスたちも一緒にです。そうなるとこの桜井家は大家族になります。
俺も一家の大黒柱として一生懸命働かないといけません。
働くのは大変です。でも、その大変が今の俺にはとても嬉しいのです。
快調に自転車を飛ばしながら各家庭に新聞を届けていきます。
すると一軒の家が見えて来ました。
その家に新聞配達の予定はありません。ですが、その家の人はいつも俺が目の前を通り過ぎるのを優しく温かく見守ってくれています。
「智樹くん……今日もご苦労さま」
「日和も農作業頑張ってるよな」
結婚を約束した少女の前を軽快に通り過ぎていきます。
本当は日和と話し込みたい所です。ですが彼女は俺が手を抜かずに働いている姿を見る方が喜んでくれるのです。
そんな彼女が応援してくれると俺も気分が盛り上がって来ます。
本当、俺がこんな風に働き者に変わるなんてプロポーズ前には考えられませんでした。
「まったく……家族を一生懸命養うことを自分の心に強いられるとはな」
全てはアストレアの姿を見なくなったあの日を境に始まったのです。
もしかすると俺は、アストレアの代わりに生まれ変わったのかもしれません。
アストレアが大好きだった空美町の大空を見上げます。
真っ青な空のキャンパスにアストレアが集中線付きの笑顔でキメていました。
了
次回 生きるのって難しいね……
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今回のは次回と次次回への繋ぎの要素が強いかなと。
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