タイニーは退屈だった。
暇つぶしでドローア研究室の中を歩き回ってみたのだが、
どこを見てまわってもあるのはワケの分からない計器ばかり。
科学者たちは自分たちの研究に没頭していてタイニーの存在など見えてもいないのだ。
“危険物保管所立ち入り禁止!!”と、
あからさまに楽しそうな事の書いてあるドアに入ろうとすると、
こんどは警備用のガードマンロボットに摘まみ出される始末・・・彼は完全に拗ねていた。
「強そうな武器とかゴロゴロ置いてあると思ったのによー、つまんねー、つまんねー、ふざけんなってーのー」
固い床の上を転がりながら、誰が聞いているワケでもないのに悪態をついていると・・・
ゴトン、と彼の身体に何か硬いものが当たる感触がした。
「なんだコレ?」
いつの間にやらタイニーは部屋の端っこまで転がってきていたらしい。
部屋の壁に立てかけてあった大きな箱にぶつかったのだが・・・その箱はちょっと妙な箱だった。
一見するとそれはただの大きな長方形の箱なのだが、なぜか蝶つがいがついているのである。
衣服収納用ロッカーのようだと言えば分かりやすいだろうか
タイニーはなんとなく“人が隠れやすそうな大きさだな”と思ったのだが、
さっきぶつかった衝撃で偶然フタが(扉が?)開き、
その中からゴトリ、と鈍い衝撃音がしたと思った瞬間・・・
タイニーの目の前に、誰かの腕が落ちてきた!!
「じっちゃん!!ドローアのじっちゃん!!これ一体何なんだよ!!」
「うるさい!!そんなに叫ばないでもとっくの昔に聞こえておるんぢゃわい!!」
ドローア教授の実験室にドタバタと乗り込んできたタイニー、
新しい兵器の開発をしていたドローア教授の手には工具が握られていたのだが・・・
タイニーが入ってきた瞬間、勢い余ったドローア教授のドライバーは機械部品に突き刺さり、
教授の手でくみ上げられた機械はバキリ、と軽い音を立てて潰れてしまっていた・・・
「ワシの新作兵器がーー!!」
「なぁなぁ、そんな事よりさぁ」
「なにが“そんな事”ぢゃ!!大馬鹿者め!!三日間寝食惜しんで作っていた新作が台無しぢゃあ!!どう責任とってくれるつもりぢゃ!?」
「何でコレここにあるんだ?“天才”のじいちゃんなら知ってるだろう?」
天才、その言葉に老人はピクリと反応した。
ドローア教授は“自称”科学史の偉人である。
ただし道徳心など欠片も無いマッドサイエンティストである彼は、世間から認められてはいない。
むしろ忌避されているくらいである。
自らの自尊心を存分に満たしてくれるその言葉に、彼は途端に上機嫌になった。
「そうぢゃな!!天才のワシに分からない事など無い!!」
「じゃあ、コレのこと教えてくれよ、なんでシャークロイドがここにあるんだ?」
タイニーがわざわざ背中に担いで来たのはまだ起動していない一体のロボットであった。
青いサメ顔のロボット、シャークロイドは本来ドローア研究室ではなく、
別の悪の組織、ローゼン海賊団において使役されているロボットのはずだ。
タイニーもその辺りの情報は知っているため、直接ドローア教授に聞きに来たというわけだった。
「なんぢゃ、そんなことか・・・ローゼン海賊団の下っ端がの、ウチの研究員に依頼して来たのぢゃよ“報酬ははずむからシャークロイドを改造しろ”とな。何体かサンプルで寄越せと言ったら、こうしてシャークロイドが届いたというわけぢゃ」
「海賊と意外に仲が良いんだな、縄張り争いとかでけっこうギスギスしてると思ったのに・・・」
組織が二つもあれば自然と縄張りという括りが出てくるものだ。
各々が好き勝手にやっている悪人たちは特にメンツにこだわる連中も多い。
タイニーはこれまでどこの組織にも属していなかったから、
他の組織の縄張りに近寄れなかった事なんていくらでもあったのだ。
「不思議かの?ゴクセイカイとローゼン海賊団もよく取引をしているくらいぢゃ・・・このシャークロイドも、運んできたのはゴクセイカイ下請けの運送会社ぢゃからのう」
「ん~、じゃあローゼンとゴクセイが仲良くて、ゴクセイとドローアが仲良くて?・・・結局どうなってんだ?」
「聞きたいかね?」
「えっ、じゃあ聞きたくない」
話が長くなりそうだったのでタイニーは反射的に話を拒否した!!
だがしかし、その時ドローア教授の瞳が怪しく光った!!
ビリリッ!!ボンッ!?
ドローア教授のメカニカルな右腕の先で、機械部品が一瞬で消し炭になった!!
「よく聞こえなかったのぅ、もう一度言ってくれないかね?」
「ハイ、ヨロコンデ オハナシヲ キカセテイタダキマスデス・・・!!」
「そうかそうか、ワシの素晴らしい知識を披露して欲しいのぢゃな、その気持ちを忘れてはいかんぞよ?」
・・・そんな事言われなくても、タイニーは今の気持ちはきっと忘れないと思った。
このじいちゃんこえぇ!!
「というわけで滅多に聞けない、ドローア教授の素晴らしき講義の始まりぢゃ」
「・・・ワ~イ」
ご丁寧に用意されたホワイトボードに、ドローア教授はまずクルリと大きな円を描いた。
その中にササっと丁寧な文字が書き込まれる。
ファンガルド・・・テラナー、ファンガー、ロボットが入り乱れて暮らす、
自分たちの居る星の名前がそこには記されていた。
「まずワシらの活動の舞台はもちろんファンガルド本星、これはわかるぢゃろう?」
「当たり前だろ、子供でも知ってるぜ?」
「ふふん、問題はここからぢゃ。それではローゼン海賊団の縄張りはこの中でどこかな?答えるのぢゃ」
ローゼン海賊団は色んなとこに現われて掠奪を繰り返している宇宙の海賊・・・
プラネットポリスが居る所にも平気で現われるからけっこう縄張りは広そうである。
「・・・でも海賊だし、やっぱり星の周りの宇宙か?」
「正解ぢゃ、ローゼン海賊団は宇宙戦艦を拠点にして居るから、わざわざファンガルド本星に降りてくる必要がないのぢゃな・・・では続けて問題ぢゃ、そのローゼン海賊団がどうしてもファンガルドに降りてこなくてはいけない時があるが、それがどんな時か分かるかな?」
「どうしても降りてこなきゃいけない時?」
さっき“ファンガルドに降りてくる必要がない”と言ったのにまるで真逆の話だ。
無い頭を振り絞って考えてみてもタイニーにはお手上げだった。
「なんだよ~、コレってひっかけ問題じゃないのかよ~」
「まったく、もっと頭を使わんか・・・いくらローゼン海賊団でも食糧や燃料の補給をしないわけが無いぢゃろうが」
「あ・・・そりゃそうか、海賊だって腹減るもんな」
宇宙に居る間の食糧、宇宙戦艦の燃料が必要なのはもちろん、
戦艦を修理する部品や生活雑貨だって入用だ、呼吸のための空気なんか最重要である。
略奪という手段はあるが、宇宙にいながらすべてを揃えるのはさすがに不可能だろう。
「わかったようぢゃな、ローゼン海賊団はどこかの星で必ず補給を行なうのぢゃが…しかしこれには少し問題がある。犯罪者のローゼン海賊団がどこから必要な物を買い付ける事が出来るのぢゃ?プラネットポリスに見つかればその場で捕まってしまうぢゃろう?」
「確かに、捕まるけど・・・アレ・・・?」
そういえばこの話って最初はローゼン海賊団がどうのって話だったっけ?
“どことどこが仲が良いか”って話だったハズだろ?
あ、何か思い出して来たぞ・・・
“このシャークロイドも、運んできたのはゴクセイカイ下請けの運送会社ぢゃからのう”
さっきのドローア教授のセリフを思い出した瞬間、タイニーはピンと来た!!
「わかったわかった!!ゴクセイカイがローゼン海賊団の必要な物を集めてるんだな!?プラネットポリスの網をかいくぐって取引するのはゴクセイカイの十八番だから!!」
やっとまともな答えを出せたタイニーにドローア教授は満足そうにうなずいた。
「そうぢゃ、ゴクセイカイはファンガルドに根付いて闇取引を一手に担っておるから、その程度の事は造作もないぢゃろう。付け加えるならローゼン海賊団は略奪した曰くつきの金品でそれを支払っておる、ゴクセイカイ相手なら非合法の品でも換金することが出来るというわけぢゃ。ゴクセイカイ側から見れば大口の取引相手の上に、商品の仕入れもしてくれる大事なお得意様ぢゃな」
「すげー良く出来たシステムだな」
「そう、ファンガルドの裏社会は深いところで根のように張り巡らされているのぢゃよ。そして奴らがそうやって後ろ暗い者たちが活動しやすい地盤を固めてくれているほうが、我がドローア研究室にとっても都合が良い、新しい試作品の実験台にも出来るのぢゃから、なるべく協力はしてやっているというワケぢゃな」
「そっか、そりゃ最高だな!!つまりこの星はオレたちの天国ってわけだ!!」
改めてファンガルドの裏に蔓延る悪人達の実態を知ったタイニー。
そして自分たちの優位性を感じると共に、
それに対抗しなければならないであろう・・・憎憎しい警察の連中に対して想いを馳せた。
(さて、どうする警察の犬ども・・・オマエらにオレ達が止められるかよ!?)
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K-9小説、タイニーの素朴な疑問にドローア教授が答える話・・・でも何か話しの内容がどんどん大きくなっていって・・・■K-9の設定を見ていて色々考えるところがあったので、ちょっと書いてみました。キャラの性格とか間違ってないかな・・・問題あったら遠慮なくご意見ください(礼)