「えっとさ、ちょっといい?」
マグカップをテーブルに置き体をこちらに向けながら尋ねてきた
「なんですか?」
私も手に持っていたマグカップをテーブルに置き彼の方を見た
「生きてもいいかな?」
「……」
彼からの質問に私は答えられなく、テーブルに置いてマグカップを手に取り下を向き彼からの視線をかわした。なるほど、これが彼の答えか。しばらくの間二人を沈黙が包んでいた。
「ごめん。」
その沈黙の空間を短い一言が響く。
私は混乱した。なぜ謝るんだろうか。意味が分からない。
「ごめんね。最低だよなこの質問は、」
彼はもう一度、謝罪の言葉を言う。
そして、マグカップに手を伸ばし一口だけ口にしてまた一言放つ。
「何でこんな事になるんだろうね。君は覚悟決めた?」
彼からの問いかけに私は小さくうなずいた。
覚悟はこの部屋に来た時点でしている。
服の下に隠し持っているものをぎゅっと握る。失敗はできない。
「そうだろうね。じゃなきゃ僕の部屋にはこないか。」
彼はそう言い、マグカップの中身を飲み干し席を立ち、後ろの戸棚から小さな瓶を取り出しテーブルの上に置いた。私はその小さな瓶から目を離す事ができなかった。
小さな瓶と私との距離は、腕を伸ばせばなくなるぐらいの場所に置いてある。
今なら一瞬の隙をついて瓶を奪いこの部屋から逃げる事が出来る。
幸いドアは私のすぐ後ろ彼が、ドアにまでいくには、このテーブルを迂回しなければならない。その距離なら逃げ切れる。自分の部屋に行けばみんなが守ってくれる。あの子が助かる。
「大丈夫、本物だから。」
彼の言葉に私ははっとした。私が目を離さずに見ていたのを、彼は私が偽物じゃないかと疑っているように見えたみたいだ。彼には私がこれを奪い逃げるという考えは浮かばないのだろうか。もしかして何か罠でもしかけられているのだろうか。彼の顔を見つめる。けど読み取ることは出来ない。
「あげるよ。これ」
彼のこの一言は理解出来なかった。これは彼の命を繋ぐものだからだ。
「なんで」
私はこれだけの事をいうのが精一杯だった。彼は穏やかな、いや何かを決意した表情をしていた。
「あの子に比べたら僕は3倍は生きた。それに発病時の痛みを僕は知っている。あんな小さな子が耐えれるもんじゃない。」
私は彼の話が信じられなかった。本当にくれるつもりなんだろうか。
「君が疑うのも無理ないか。でも信じて。」
彼の言葉を聞き私は、恐る恐る瓶に手を近づける。
『ガタ』
音がした。一瞬、手を止めて音がした方を確認する。彼が席を立った音だった。
彼はカップを手に取りテーブルからはなれ窓から外を見ていた。
この距離なら絶対に手に届く、邪魔されることもない。
恐る恐る近づけて止まっていた手が無意識のうちに瓶を握っていた。
そのまま振り返りドアまで進み私はあの子と仲間が待つ部屋まで走った。
彼女が出てったドアが開く
「よかったのか」
窓越しにドクターの姿が写る。
そして、ドクターは入った瞬間にそう聞いてきた。
「ああ」
僕は振り向かずその声に答えた
ドクターは何も言わずに僕の後ろまで近づいてきた
そして後ろから抱きしめられた
「本当に馬鹿だよアンタは」
ドクターが泣いているのがわかった
またこの人を僕は泣かせてしまった
「ドクター……」
「バカ、こんな時ぐらい名前で呼びなさい。」
振り返り彼女の耳元で名前をよびそのまま彼女の唇を塞ぐ。
お互いに絡み合い求め続けた。二人が一つになるがごとく、
そしてゆっくりとお互いに顔を離す。
「今日、明日で終わる命じゃない。いつか死ぬ、みんなと一緒だよ。ただその長さが短いだけ。」
そう言うと彼女の顔は怒っていた。それでもじっと見つめながら話続ける。
「余生をゆっくり生きるよ。1年かな、2年かな。もしかするともう少し生きれるかな」
「バカね。1週間ももたないかもよ。考えなかった?」
彼女の顔はもう怒ってなかった。
「それは、考えなかったな。」
「後悔しても遅いわよ。」
「わかっている。」
そして、もう一度、僕は彼女を抱き寄せ唇を重ねた。
Fin
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「誰かが幸せになるってことは誰かは不幸になる。たぶんコレは、生きている人間の真理。人生において誰もが幸せ円満解決なんてことは起こりえないのか。」
設定世界は、特効薬は一つしかなく、しかもその特効薬は絶滅した植物から作られており、世界中にただ一つの存在。
しかし、それを必要とする人間は二人。こんな感じですかね
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