No.382641

【改訂版】真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 五章:話の五

甘露さん

今北産業
・天才と演者
・仮面と素顔
・つまりどっちも常人では理解できません(笑)

2012-02-24 18:46:20 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4943   閲覧ユーザー数:4266

人とは元来、自分だけは例外だと考える生物である。そしてそれは、迷惑極まりない事にいかなる場合でも適用される。

たとえば火事。簡単に、ちょっとした拍子で起きる人災ではあるが、それを見聞きした人間は九割九分こう思う。

 

『まぁ、自分は大丈夫だろう』

 

その思いは、いざ火が燃え上がる瞬間まで変わりはしない。

 

『自分に限ってそんな事は無いだろう』

 

常にこう思い続けるのだから。

だから防災を呼び掛ける消防団の声も、バスの中で見かける火の用心のポスターもただの背景にしかならない。

自分には関係ない。自分はそんな目に合わない。そう思いたいから。

 

そして燃え上がったその瞬間に、人は初めて理解をする。

あの時、あの言葉をしっかり聞いておけばよかった、と。

 

 

そして、目の前に居るこの少女は、誰もが『まさか自分の代でそんな事が起きる訳が無い』と思っている事に対し警鐘を鳴らしている。

誰もが想像すらしない、絶対である天子が地に落ちる様。それを、知識で知った俺とは違い己で辿り着いたのだ。

 

それはつまり、文字通りの天才。本物の、俺なんかの紛いものとは格の違う天才。

口内が緊張の所為か、もう一滴の水分も感じない。

明らかに格の違う存在の所為か、手足が小刻みに震える。

 

「貴女も分かっているのでしょう? 四百年の長きに渡って続いたこの巨木が、もう限界を迎えている事を」

「ええ……そうよ。それで、アンタは何故ココに仕官してきたのかしら?」

 

この場合の何故が指差す意味。

彼女が俺を同等の人間だと勘違いしていると言う事を前提に置いて考えたのならば……。

それはつまり、『それだけの先見の明がありながら、何故北方の果てにやって来たのか』だ。

 

はてさて、何と答えるべきか。まさか官軍に追い立てられてなんて言う訳にもいかない。

傍目で見ればこの北の地は中央から遠く離された辺境でしか無く、その距離はつまり出世と名声に反比例している事となるが……。

仮に俺が天才の類だったとして……ならばこの娘の問いは、その天才を虚仮にするつもりなのか?

偽物ですら簡単な模範回答が思い浮かぶと言うのに……。途端にこの人物の厚みと器が分からなくなったな。

まあ……分からないならば逆に敢て此方の札を晒してみるのもありか。

 

「まさか貴女の様な智を持つ人がするとは到底思えない御質問ですね。

 それはつまり、暗に私の事を虚仮にしていらっしゃるのでしょうか? それとも非才といえど、この身をその程度で試しているお積りなのでしょうか?」

「気を悪くさせたのなら謝るわ。そして勿論、アンタを虚仮にする気も無いわ。でも答えて頂戴。アンタを見極める上で、これは必ず必要なのよ」

 

態度が答えの全てだった。つまりは、なにやらこれへの答えが彼女には至極重要な様だ、と言う事しか分からない。

それを問う彼女の真意は……。駄目だな、ヒントが少な過ぎる。

何故彼女がそれに括るのか。最早能力的な試験はパスしたに等しいのに、あえて足されたこの問いの意味。

……もう少しで分かりそうなのに、分からない。酷くもどかしい。

そして、それが凄く楽しい。

 

まあ、それはいい。

最早及第点は決まった様なこの面接なのだから、ここは深く探る事も読み解こうとすることもせず、思いついたままの定型文で済ませるとしよう。

 

「……分かりました。では卓越ながら申し上げさせて頂きます。

 この涼州で粛清を敢行し、なおも人心離れぬ董卓公は、二つの利を既に得ておられます。

 それ即ち地の利、遥か北方であるが故の、且つ羌や胡が間近に存在するが故の、そして中央より遥か北に存在するが故の地の利であります。北の大地は天候を以てして董卓公の兵を鍛え抜き、羌や胡に接した地であるが故に兵は精強となり得ます。そして中央より遥か彼方であるこの地は、権力から最も遠いからこそ、大木が倒れようとしている今、権力に最も近いと言えます。理由は……まあ言うまでもないでしょう?」

「なるほどね。それで、二つ目は?」

「はっ。二つ目の利、それ即ち人の利でございます。

 生憎ながら、私は董卓公をこの目で見、人柄を見極めた事は御座いませぬ。しかし、そうするまでもなく、古の数多の先人程に雄弁に、そして実に素直にものを言う存在が御座います。民と商人です。民はより良い暮らしをすればする程活気付き、商人はより良い商いの場を見つけることで、砂糖に群がる蟻が如くその場に集まります。

 ……この地は、民が生きております。それは果たして低い税率のお陰か、政を成す者の努力の賜物かは私には知る由もありませんが。兎も角、生きた民と、民に群がる商人。どちらも揃いそうして金が周り人が富むこの地を言い表すならば正しく人の利。そして、地の利のお陰で得た精強な兵はそれ即ち人の利」

「へえ、中々面白い考えじゃない。で、アンタはこの二つがそろっているココに仕官しに来た、そう言う訳?」

 

天・地・人の発想は中国由来だと思ってたんだが……、この人の反応を見る分にはどうやら違う様だ。

成程、まあこれでまたポイントアップしたと考えよう。さて、締めるか。

 

「いえ、それはあくまでもこの地を選んだ理由の一つに過ぎませぬ。最終的な判断を下した要因……それは、己の願望が故に御座います」

「願望?」

「はい。一つは最高の兵を、己の指一つで思うがままに動かすこと。そして来る天を獲る争いに勝ち残る事。

 もう一つは、もう拝見なさったやもしれませぬが、私の連れに張遼という者が居ります。彼女は、貴女と同じく天から才を賜った人間です。そして、私の中で唯一無二の存在でもあります。その彼女の名を、私は百世の後まで伝えとう御座います。それにはやはり、天下を一望するに最も近い董卓公の元が相応しい。そう思ったのです」

 

そこまで一息で言いきると、俺は頭を深々と下げた。

 

一つ目には純然たる我欲と野心を混ぜ込む。如何にも人間らしい、そして智を持った者らしい考えを。

二つ目には純粋たる願望と親愛を混ぜ込む。中華の人間が大好きな義と混ぜうやむやにして。

勿論その程度でこの人物が誤魔化せるとは思っていない。嘘臭く疑われるかもしれない。

だがそうなっても何ら問題は無い。今述べた願いは、真実を九割込めた中に、一割の嘘を混ぜたものだから。

嘘臭くてもそれは九割事実なのだから。

ああ、楽しい。決められた文章でもなく、既に知っているという反則的なアドバンテージからでも無く、己の想いを舌に乗せる事が楽しくて仕方ない。

 

「そう。アンタ……名前は?」

「はっ、高順北郷でございます」

 

まだ頭は下げたまま。俺にとっては運命の判決とも言える、この女性の一言をただ平身低頭待ち侘びるだけ。

舌を奮っている間忘れる事が出来た心臓の跳ね上がりと全身の緊張が再び俺を包む。

間延びした一瞬。すぅ、と小さく息を吸い込む音がし、一言、告げられた。

 

「高北郷! ……貴方を、ボクの補佐官に任命するわ」

 

その言葉が耳に届いた瞬間、俺の口元はニヤリ、と釣り上がった。

 

俺は、勝った。

この感情は、決して就職に成功して、出しぬけて、なんて誇大妄想から来るものじゃない。

恐らく目の前の少女には、俺は大敗を喫しているだろう。

天才を演じては見た。だが、それは完全じゃ無かった。本物を前にすると、確実に俺は霞んでいた。

だから俺は目の前の少女には大敗を喫している。何処まで理解されたか、あるいはどこまでが見とおされていたか。なんて、おぞましい言葉が浮かんできた。

口先と演技で生きてきた俺にとっては、四肢を捥がれたにも等しい惨状だ。

それは詰まり、見るも無残な惨敗である。だが、俺は勝った。この心中に漲る楽しさが、何よりの証拠だ。

 

俺はこの少女の、何かに触れる事に成功し、そして興味を持たせた。

そして、それが目に見える結果となって現れたのが補佐官と言う立場。

敗者にして勝者。実に分かりづらい。

だが、俺は勝った。

 

最後に一つほくそ笑むと、俺は出来る範囲の限界まで特徴を消し、一言絞り出した。

 

「有難き幸せ」

「さあ、着いて来て。董卓様に会ってもらうから」

「御意」

 

頭を上げた頃には、俺はすっかり抑揚のない張り付けた表情へと変わっていた。

これで、霞が生き残る事がまた少し可能になった。一瞬遅れその喜びが駆け巡った。

俺はその事に一人驚いた。

 

 

**

 

/賈駆

 

 

「御意」

 

深々と頭を下げ、そして上がったその顔はお手本になっちゃいそうな無表情。

何も感じ取れない、何も見えない。普通はそんなものを見れば不安を感じる筈なのに、でも何も感じな。

ああ、成程。華雄が不思議に思う訳ね。この、北郷からボクは何も感じないのに、それが普通だと思わされてしまう。

尤も、彼が月に即実速攻で何かしでかしそうな感じはしなかったし、働いてくれさえすれば構わないんだけどね。

 

でもこれって、作った彼の一面でしかない。

だってボクは確かに見た。あの語る時の、微かに見えた、ボクと同じ歓喜に彩られた表情を。楽しくて仕方が無い、とでも言わんばかりの笑顔を。

だからこそ不思議に思えるのよね。今の何一つ読めない表情が。

 

 

……一つ、分かった事があった。

彼は、天才じゃない。

面白い持論も、先見の明も持ち合わせている。だけど、彼は天才じゃない。

 

持ってないのだ。文で論を交わし合った遥か彼方の彼女達に感じた様な、言葉に出来ない何かを。

彼の持論は素晴らしい。月とこの地への評価も凡百の人間では到底たどり着けない領域の物だ。

だけど精々万に一人の秀才。その上の、ボクが切望した人間じゃ無かった。

中華一億の中で、十の指の中に収まる人間じゃないのだ。

 

でも……ボクの興奮は、興味は収まらない。

不思議と落胆なんてこれっぽっちも感じない。

あの何処かで聞きかじった様な違和感を感じさせた天下を語る口ぶりも、暗記した様に聞こえてならない地と人という発想も。

凡愚がそれを口にしたのなら、ボクの興味はとっくに消え失せて適当な役職を割り振って終わっていただろう。

だけど、彼はそれをボクにさせない何かがあった。

それは何か。ボクには分からない。だけど、彼の言葉には不思議な魔力でもある様な、そんな気がした。

 

聞きたくなる。その続きを口から紡いで欲しいと思わせられる。

それでいて、盲目的に肯定させる不自然さなど何処にも感じられない。

 

「あの、何か?」

「へ……? あ、ううん、何でもないわ」

 

無意識のうちに、ボクは北郷を見つめてしまっていた。

顔に答えが書いてあるとでも思ったのか、って少し前の自分に問い詰めたくなるくらい、真っ直ぐに。

何をやってるんだか、ボクは。

 

ぶるると頭を振って良く分からない思考を飛ばすと、少し冷静さが戻ってきた。

……そう言えば、華雄は言ってたわね。『あれが本性でない事は朧気に分かった』って。

つまり、この態度が本性では無いって事かしら。そう言えば義妹さんと話してる時は口調がもっと砕けてたけど……いやいや、時と場合に応じて言葉使いを変える位誰だって出来るし。

 

……あ、そっか。

だからボクは彼が気になって仕方ないのか。

仮の何かを被って、それでボクに万分の一の才を持ってるって思わせたから。

ハリボテな筈の側面しかボクは見てないのに、それでも凡人よりは遥かな高みに居るって感じたからか。

 

そして、作られた偽物なのに、あんなにも“無邪気に”願望と欲望とおべんちゃらを織り交ぜて、妄執にも等しい願いを嬉々として語ったから。

 

 

……ボクは見てみたいんだ。

あの何も感じさせない内側にある何かを。

ボクは聞きたいんだ。

あの不自然なのに自然な話術を繰り出す舌が何を言うのかを。

ボクは感じたいんだ。

秀才の仮面の向こうに居る、この北郷って人間の本当の姿を。

 

知っちゃったから、興味が止まらないんだ。

ボクは知りたいんだ。

彼を、彼とは何なのかを。

 

……はあ、気付かなきゃ良かった。

 

 

 

途中から言い回しが難し過ぎて自分で訳が解らなくなりました。

こんばんわ、甘露です。

 

これで連日投下はいったん終了です。恐らく霞と華雄姉さんのやり取りと月ちゃんとの出会いとをやったら5章終わりますwwwっうぇwwっうぇwww

 

どうしてこうなった

 

おかしい、おかしいぞ。5章で黄巾まで行くはずだったのに……。

アレですね、詠ちゃんと一刀君が勝手に喋り過ぎた所為だそうに違いない。

 

プロットには沿ってるんだけどなぁ…プロットでは1行で終わる筈のところが書き出してみると3話分くらい使うなんてザラなんですよね。

キャラが良く動くねやったね! と捉えるか、ご利用は計画的に(怒)と捉えるかは貴方次第。

 

大体5章が始まってから作内時間は24時間経ってないという恐怖。

 

・・・ま、いっか(オイ

 

ではではっ

 

 

アンケート

 

閑話扱いになりますが漸く所属が決まった事ですし、拠点の話って入れるべきだと思いますか?

 

1、入れる

2、や、ぁっ!? い、いれちゃらめなのぉっ!!

 

1の場合は誰がみたいかとかも添えてあるとありがたいです

 

 

追伸:皆様の多大なるご支援、御愛読のお陰で、甘露も非お気に入りがあと2で4ケタの大台に乗ろうとしております。そこで、何かお礼となる企画をしたいと思っております。

もし、何か御意見がありましたら是非一言下さい。

また、『俺1000人目だっちゃ』という方がいらっしゃいましたら、完全に自己申告になりますが、お知らせして頂けるとありがたいです。


 
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