「…素晴らしいな、ここまでの盛り付けと装飾を一晩でこなしたのか」
私は目前の大広間に広がる光景に、思わず感嘆の声をあげてしまうほどの衝撃を受けた。
輝石できれいに磨かれた床には真紅色の絨毯が規則正しく敷詰められており、新調されたであろうしわ一つ無いシルクのテーブルクロスの上にはいくつもの豪華な食事が取り揃えられていた。
最初に目を引いたのが、大皿から湯気を放つスープのそばにこんがりと焼かれたパンが添えられ、様々な種類で盛り付けられた果物と木の実の数々。
そしてなんと言っても中央に置かれた、何人分あるのかも分からないほどに巨大で胡椒の香ばしい匂いがするこんがりと焼けた肉。
他にも熟成された果実酒の柔らかな渋みを含む匂いや、丁寧に切り分けられている甘いお菓子の匂いが入り交ざって夢のような世界を醸し出していた。
一晩でこれほどまでに多彩な料理を作れるものなのかと思う程に、食欲を彩るような配置に置かれたメニューの数には確かに目を見張るものがあった。
「私とマリネで取り掛かり無事、式に間に合わせることが出来ました」
私の隣に佇む専属メイドのシエルがにっこりと微笑みを浮かべ、これで旅人を迎える準備は完了ですと呟いた。
王国の食事を担当しているだけあってマリネが作った料理は、色、配置、見た目どれを取っても申し分無い出来栄えだった。
マリネは真っ白なコックエプロンを羽織い、それぞれのテーブルの前で両手をぴたりと合わせて全ての料理を確認するように何度も頷いている。
そして全てのテーブルを回り終わったと思いきや、私の肩を一度軽く叩いて、自信有りげな表情で言い切った。
「よしっ、料理のセッティングは全て終わったよ。後は食べるだけさ!」
「…悪いな、ここまで準備してもらって、すまない」
するとシエルが笑みを浮かべながら私を見た。
「何をおっしゃいますかローディン様、大切な日なのでこのぐらいは当たり前です」
「…そうだな、ありがとう。おかげで無事に式を迎えることが出来そうだ」
私は一度、深いため息を吐いて深呼吸する。
「それでは、私は旅人を迎える準備をしてまいりますので、失礼します」
「あぁ、頼んだ」
シエルは静かに踵をかえしながら、落ち着いた足取りで兵舎へと向かって行った。
凛と伸びた姿勢でマリネはそれを見届けると、私の顔を覗き込みながら呟いた。
「いよいよご対面ね。どれほどまで戦力になる人たちなのかしら」
「…私にも予想は出来ない。しかしいずれも勇気がある方々だろう」
私がそういい残すと彼女は「そうね」と簡素に呟いて、前を向きなおした。
「きっと皆がまた街を変えてくれるわ。活気があったころのように」
「そうだな、私達も頑張ろうではないか」
湯気がゆらゆらと空中に舞いあがっていく様子を見つめながら、私はぐっと掌に力をこめた。
城内の日時計がちょうど真上を刻む頃、大広間は人で溢れかえっていた。
団結式は街中の住民の参加も許可しており、昼時という事もあって皆それぞれ料理に手を付けていた。
食器と金属が擦れる音や乾杯し合う無機質な金属音に、人々の楽しそうな声が反響する。
お祭り騒ぎと化している大広間を私は巡回しながら、新しく兵舎の要員として入ってきた者を一人ずつ確認していた。
『ふむ…』
予めシエルから受け取った皆の面接時の書類に目を通しながら、私はそれぞれの特徴を掴んでいく。
食事を取る者や談笑する者で様々だったが、どうやら楽しんでくれているようだ。
私も軽い食事を済ませた後に各々方に会いに行き少々談笑して、深く交流の場を保っていた。
最初は皆も緊張しているのか警戒しているのかあまり口を開かなかったが、時間が経つにつれて次第に糸が緩んだように話が弾むようになった。
しかし談笑しているうちにやはり話題として出たが、荒廃した街並みに疑問を持つ者が多いことは当然のことだった。
その件を"ドラゴンの襲撃"と伝えると驚愕の表情を浮かべる者や表情一つ変えない者まで様々だったが、中には予測していた者まで居た。
だが話していて分かったことがあった。皆に共通していた部分があり、恐れを抱いている者は誰一人としていないという点だった。
『実に頼もしい方々ではないか』
それは素直な印象でもあり、また、一番強く感じた部分でもあった。
普通はドラゴンという名を出しただけでも畏怖の念に駆られるものだが、皆の場合は逆に好奇心として興味を持ったようだった。
元傭兵という職業を初めとして医者や鍛冶師など、戦力になる者ばかりで私は益々、頼もしさを感じた。
『この策は成功だったかもしれんな』
王国の興亡を賭けた辛苦の末の秘策は、どうやら好調なスタートを切ったと言ってもいいかもしれない。
これほどまでに精神が屈強な方々が集まるとは予想も出来なかったこともあり、私は心から嬉しく思った。
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ぎゃー!すみません、盛大な遅刻をしてしまいました!
まさか5人集まるのがこんなにも早いと思いませんでした…。
気付けば10人突破していたので手が震え(ry
今回は国王視点で、簡単な結団式の様子です。
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