華琳の視線がこちらに向く
「一刀・・・・・」
次の瞬間
秋蘭の矢が華琳に放たれた
至近距離で秋蘭の矢を左胸に受けた華琳の体が後方へ舞い上がると、ストンと地面に落ちる
「・・・・・・予定変更だ。いくぞ明命」
秋蘭は何事もなかったように部屋を出た
「か・・・・・かり・・・・ん・・・・」
何も出来なかった
声も出ない、体も動かない
華琳が矢を受け倒れる姿を見ていることしかできなかった
「華琳!」
最初に動いたのは白蓮だった
「ウッ・・・・・」
「華琳しっかりしろ!おい!」
華琳は白蓮に抱きかかえられた
「一刀・・・・一刀はどこ」
俺を呼んでいる
華琳の声を聞くと一気に覚醒した
「華琳・・・・華琳!!!!・・・・・俺はここだ。ここにいる」
白蓮から華琳を受け取り抱きかかえる
呼吸をするのも苦しそうだった
「聞きなさい一刀・・・・・・・・大局に逆らうな、逆らえば身の破滅・・・・・・・・・・今のあなたならその意味が分かるはずよ」
「分かってる。大局は現実の俺のことなんだ。現俺は、実の死を受け入れられなくて、だから世界がおかしくなって、だから」
華琳が小さくため息をつくようなしぐさを見せる
「バカ・・・・・全然分かってないじゃない」
「え」
「大局はあなたのこと・・・・・・だけど・・・・・・・・・本当のあなたは死んでなどいない」
俺は・・・・生きてる?
「正確に言えば、現実の一刀は重症を負い生死の狭間にいる・・・・・・一刀がこの世界に囚われ続ければ・・・・・・・・・・現実の一刀の身は滅ぶ」
「そ、それって」
「私が道化を演じた意味・・・・・・・やっと理解できたかしら」
「それじゃ、許子将は」
「あなたを・・・・・現実のあなたを救うため・・・・・・この世界と決別させたかったのよ」
「そ、そんな・・・・・・」
華琳の手が俺の手を握る
「後は、あなた次第よ一刀」
「・・・・・・・・・・・・」
「白蓮・・・・・・まさかあなたに一刀のことを頼むなんてね」
「・・・・・北郷殿なら大丈夫だ。私など必要ないさ」
「そう・・・・・・・・・・春蘭、秋蘭、流琉、明命・・・・・・・・やっと謝ることができる・・・・・・・・・・・ごめなんさい」
華琳の目が閉じていく
「一刀・・・・・・・あなたに会えて・・・・・・・・・・・・」
「華琳・・・・・・君に会えて・・・・・・」
『襄陽 魏蜀連合軍本陣』
場内のいたるところから火の手があがり、城の兵達も疲弊しきっていた
風は遠く許都の方向を眺めていた
(お兄さんは間に合いませんでしたか)
「さて、どうしましょうかねー」
風の横には子の荀諶を抱く桂花がいる
「桂花ちゃんはどうしますかー」
桂花は少し逡巡した後荀諶を見た
まだ1歳と少しの荀諶は無邪気に笑っていた
「この子を連れて逃げる・・・・・と言いたいところだけど、それももう無理ね」
「蜀も呉も本国の戦いで精一杯でしょうから援軍は期待できませんし、進退窮まると言ったところでしょうか」
絶望感が漂っていた
「だめ、もうもたない!」
蒲公英が飛び込んできた
「おねえちゃんも限界だよ。あなた達軍師なんでしょう何か策を言ってよ!」
風の襟を掴む蒲公英は完全に冷静さを失っていた
けれど、それを静止する人物もいなかった
「・・・・・・・」
「なんとか言ってよ!お願いだから・・・・・・」
沈黙が流れる
次に入ってきたのは恋とねねだった
風は二人を見ると
「恋ちゃん・・・・・出れそうですか」
「ん・・・・・・ねね・・・・・・・いこ」
「・・・・・恋殿お待ちくだされ!!」
「ん?」
ねねは考えていた
恋一人ならここから脱出できるのではないか
しかし、その提案は恋に仲間を裏切れと進言すること
「ねね」
「は、はいなのです!」
「恋は、強い?」
恋の強さを恋自身から初めて問われた。こんなことはいままで一度もなかった
倒すことが出来ない春蘭との戦いに思うところがあったのかもしれない
それでも、ねねは恋に認められた感動で心の振るえを止めることができなかった
「恋殿は天下無双ですぞ!!」
「いこ」
「はいなのです!」
(恋殿、どこまでもついて行きますぞ)
二人が戦場に向かう
戦場は本陣の目と鼻の先、最後の城壁の目の前だった
晋軍ははすぐそこまで来ていた
「恋殿、まずは周囲の敵を蹴散らしてしまうのです」
「ん、わかった」
恋の方天画戟が舞い踊るたびに晋の兵が吹き飛んでいく
竜巻のような圧倒的武力の前に晋軍が下がる
「呂布が出たぞ。全軍、呂布と距離を取り弓矢で応戦せよ!」
晋の兵は呂布の武力を熟知しておりまともに戦おうとはしない
呂布や関羽が出たらまともに応戦せず弓矢で体力を奪う
その戦法は徹底されていた
「恋殿、一度下がってくだされ!」
「くっ」
ねねの指示を受け今度は恋が後退する
弓矢の雨を方天画戟で振り払う恋はきつそうだった
その身は満身創痍で体力をかなり消耗していた
その恋の後退にあわせなぜか晋の前線部隊も後退を始めた
「な、なんなのです」
恋が下がったなら晋は前進するはず、それが後退した
ねねは嫌な予感がした
すると、敵軍の後方に新しい砂塵が上がった
かなり大規模な砂塵だった
砂塵を確認した本陣も慌しくなる
桂花が報告の兵に聞く
「砂塵の旗は!?」
「は、旗は青、青州兵と思われます。数はおよそ10万」
青州兵
かつて黄巾党を名乗り猛威を振るった熱狂的張三姉妹信者
その後、沙和らにより徹底的に鍛えられ、魏の主力を担ってきた最強部隊だ
報を聞いた桂花の顔が青ざめた
「決着をつけようってのね」
本陣の防衛は限界だった
その上、青州兵10万が相手では太刀打ちできない
「あのバカは何やってんのよ!」
桂花の怒号が響き渡る
荀諶も泣いていた
「ねね、策は」
「恋殿・・・・・」
恋の表情は諦めていない
「恋殿の武をてこに全てを立て直します!恋殿は私と敵前に立ちはだかり・・・・・恋殿の武を敵味方に見せ付けてやるのです!!」
「ん、いこ、ねね」
「はいなのです!」
二人は青洲兵の大軍に向かい正面から立ちはだかった
「蜀軍所属、第六師団師団長、呂奉先、目的、迫り来る晋軍の殲滅、だから、全員、ここで死ね。ねね」
「はいですぞ」
「旗を」
「御意ぃーーーー!」
ねねは深紅の呂旗を掲げた
「遠からん者は音にも聞け!近くばよって目にも見よーっ!青天に翻るは、血で染め抜いた深紅の呂旗!
天下にその名を響かせる、蜀軍が一番槍!悪鬼はひれ伏し、鬼神も逃げる、飛将軍呂奉先が旗なり!
天に唾する悪党どもよ!その目でとくと仰ぎ見るが良いのです!」
深紅の呂旗を見た青州兵の動きが止まる
「深紅の呂旗・・・・・・」
ざわめき始める青州兵達
「「「「「「「「「「「ほあああぁああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」」」」」」」」」」
「???」
「こ、これは一体」
呆然とする二人
二人の前で青州兵達は兜を放り投げた
兜の下にあったのは深紅の頭巾
「俺達は荊州で呂将軍に面倒みてもらった者達です!」
「俺達は決めたんだ。これからは呂将軍のために生きるって!」
「そうだ、俺達は、紅巾党だ!!!!!」
「「「「「「「「ほああああああああああああああああああ!!!!!!!」」」」」」」」」
黄巾党改め、青州兵改め、紅巾党結成
そして、彼らの快進撃が始まった
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華琳と一刀
連合軍の運命