No.371544

屋上スピリチュアル(前)

漱木幽さん

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2012-02-01 21:54:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:390   閲覧ユーザー数:388

 

 昔、祖母が僕に言ったこと。僕は力が強すぎる、らしい。

 

「あたしはね。中途半端だからすぐにわかるのよ。『ああ、あのひとはそうなんだな』ってね。でも、ユウ君は〝特別〟だから。すごくはっきり視えちゃうの」

 

 たしか七歳くらいのころだ。十年前。

 盆に両親と共に帰省して、ひだまりのようなにおいがする家で数日を過ごした。祖母に関しての一番古い記憶はそれで、それ以前のものはどう頑張っても思い出せない。けど、それで十分だった。

 

 祖母は菓子を夢中になって食べる僕を相手に、ときおり不思議なことを語った。「ユウ君は〝特別〟だ」と僕の頭を撫でながら話してくれたのは―― 変な格好をしたオジサンが家の門の前に立っている、と話した時だっただろうか。祖母はそれが曾おじいちゃんなんだと教えてくれた。

 

「曾おじいちゃんは、戦争で亡くなったの。お盆だから帰って来たのね」

 

 変なオジサンが着ていたのは、今思えば軍服だった。階級は曹長だったらしい。その時はそんなこと言われても少しも理解できなかったけど。

 

「あたしには来てくれているのはわかるんだけどね。はっきりとは視えないのよ。ぼーんやりしてて、よくよく視てやっと誰だかわかるくらい」

 

 祖母が言っていることは、半分冗談に聞こえていた。なにせ、僕が視た曾おじいちゃんの姿ははっきりとしていて、まるで生きている人間のようだったから。そうしようと思わなかったけど、触れることだってできそうだった。生身の感触が、僕の手の中にあるような気がした。

 そのとき僕はまだ小学生の子どもだったから、その不満を祖母に正しく打ち明けることができなかった。でも、祖母は僕が言わんとしていることはわかってくれたらしい。僕の前に切り分けた栗ようかんを置いて、

 

「いいのよ。ユウ君は自分で視えるものを信じればいいの。他人の目にどう映ろうが、ユウ君の視えている世界はユウ君だけのものなのよ。ただ――」

 

 祖母は自分にも切り分けた栗ようかんをひと欠片口に入れた。僕はなんとなくそれにつられて、口いっぱいに頬張った。

 

「全部おなじにしてはいけないのよ。ユウ君には全部おなじに視えてしまうかもしれないけど、その中で〝特別〟を探さないといけない」

 

 遠い目をして、僕の理解が及ぶかどうかもわからないようなことを話す祖母は、どこか悲しそうだった。

 そして案の定、僕はその話の真意を理解しないまま、しかし鮮烈な記憶としていつまでも、厳しい夏の暑さと共に身に宿していたのだった。

 

 

 

 僕には死んだ人の魂が、ときおり生きている人さながらにはっきりと視えることがある。それはどうやら思いの強さに拠るらしく、あまりに薄弱な思いしか残していない霊はぼんやりと視えていた。

 

 僕の視る世界は他人には伝わらない。十年前、祖母だから理解してくれた話。

 祖母と話した後すぐに、当時の親友に同じような話をして疎遠になったことから、僕だけの世界という概念はより強く身体を支配した。

 僕だけの世界では、たとえば道ですれ違う人が生きている人間かどうか判断することもできない。当然「あれは生きている人間か」などと誰かに訊けるわけもない。そんな疑心に満ちた世界観の中で、僕の目は確実に腐っていった。

 視えているのに〝普通〟を装うのは想像以上に難しい。高校に入って一年半が経って、ようやく友人が何人かできたけれど、それにしたって僕は慎重すぎるほど慎重だった。言動の裏に言葉を隠し、長い時間をかけて探りを入れ、ようやく目の前の人物が〝普通〟だと知って、僕も〝普通〟を装って接する。

 そんなものはがらすのようにいとも簡単に壊れる関係だ。そうわかっている。

 だから僕は同時に病弱を装って、出席日数ぎりぎりの登校をすることにした。装った〝普通〟の中に普遍的な〝特別〟を混ぜ込んで、本当の〝特別〟を覆い隠す。せめてもの抵抗。

 僕はそれを自分で『硝子の二重鎧』と呼んでは、ベッドの上でひとりで卑屈に笑っている。

 

 

「屋上に幽霊?」

 

 とある夏前の火曜日。登校日と決めた日。

 

「やっぱり知らなかったのかー。おまえあんまり学校来ないもんね」

 

 僕は楽しそうに話す友人の顔を見つつ、「屋上の幽霊」という言葉を何回も心の中で反芻させた。いかにも舌に馴染みやすい語呂だ。

 

「それって、よくある七不思議ってやつ?」

 

「違う違う。ホントの話だよ。ン十年前に女生徒が自殺して、そのオンリョウが今も屋上でうろついてるんだと。自殺の記録も残ってるらしいぜ」

 

「結局よくある話だね」

 

 本当に呆れるほどありふれた話だ。芸がないといえばそれまでの。

 ただ、彼の話は一部だけは本当のことだった。あとで調べたところ、たしかに十数年前に女生徒が一人自殺していた。それ以来屋上は閉鎖されている。

 

「まあ、よくある話だけどさ。実際グラウンドから恨めしそうに見下ろしてくるらしいぜ。ちょっと興味あるじゃんか」

 

 肝試しシーズン。彼の顔にはしかとそう書いてあった。あきれてものがいえない。余計なことを。

 彼らは自分が日に何体の霊とすれ違っているのかわかっていないのだ。僕はぼんやりと正体のない霊しか霊と判断することは出来ないが、それにしたって一体も出会わない、という日はない。目の前の彼に「おまえの身近に霊はたくさんいるよ」と言ったらどんな顔をするだろう。言わないけれど。

 

「実はさ、明日の夜決行するんだ」

 

「何を」

 

「屋上探索だよ。俺とあと三人。肝試しだな」

 

 馬鹿なことを。そう思ったが、口には出さない。仮に屋上に幽霊がいたとして、彼らはどうするんだろうか

 

「やめといた方がいいんじゃない」

 

「大丈夫だよ。ちゃんと準備はできてる」

 

 その準備とやらは、夜に学校に忍び込む準備なのか、それとも幽霊対策のことか。さすがにそこまでは聞き出せなかった。十中八九前者なんだろうけど。

 僕はおまえもどうだ、との誘いに丁重の断りを入れ、次の日は学校を休んだ。

 木曜日。友人たちが謹慎を喰らったという話を聞いた。どうやら屋上の鍵を壊したところで、見周りの警備員に見つかったらしい。

 僕はその話を聞いて溜息を吐いたが、それが安堵から来るものか憂いから来るものなのか、よくわからなかった。

 

 

 友人たちの謹慎がとけた一週間後、僕はついに気まぐれを起こした。

 昼休み、僕は食後のぼんやりとした眠気の中で『屋上の幽霊』の事を思い出していた。

 友人たちはもう幽霊の「ゆの字」も口に出そうとしない。さすがに肝試しと引き換えの謹慎は代償が過ぎたようだ。そんな中僕がそのことを思い出したのは、単純に外の天気がすこぶる良かったからに過ぎない。

 ――ああ、こんな日には外で居眠りでもしていたいな。そういえば、屋上は鍵が壊れたまんまだったっけ。屋上といえば、結局みんなは幽霊を見たのかな?

 きっかけはその程度のものだった。

 

「ねえ、結局見たの?」

 

「何が」

 

 慌ただしく弁当をかきこんでいた友人がこちらを向く。

 

「屋上の幽霊。見に行ったんでしょ?」

 

 友人は僕がそんなことを訊いてくるとは思っていなかったらしい。少しの間目を見開いて僕を見ていたが、

 

「あー、イヤイヤ。視る暇なんて無かったよ。鍵を細工して開けようと思ったら、なんか弾けるみたいに壊れちまってさ。……これ話したっけ?」

 

 僕は首を横に振る。

 

「針金で開けようとしたんだよ、鍵。でも全然開かなくてなぁ。もう少しやって開かなきゃ素直に職員室から鍵くすねてこようぜ、って話してたらいきなりパァーン、って派手な音立てて弾け飛びやがったんだよ」

 

「錠前が?」

 

「そうそう。古くなってたからだー、とか警備員のオヤジは言ってたけどよ。ありゃ間違いなくなんか良くないもんの仕業だぜ」

 

 肩を震わせるふりをして豪語する友人は、なぜか得意げだ。

 僕は適当に相槌を打ったあと、「トイレに行く」と言い残して席を立った。本当はトイレに行くつもりなどなかった。『弾ける錠前』が気になって、自分に「少しだけだから」と何度も言い訳をしながら屋上へと向かう。

 階段手前の廊下を人目を気にしながら歩き、期を見計らってこっそり階段を駆け上がる。

 古びた鉄製の扉にはたしかに錠前がかけられていた跡が残っていて、しかしその他の痕跡は一切残っていなかった。たぶん、用務員さんか誰かが片付けたんだと思う。でも、そのわりには新しい鍵がかかっていない。

 結局なぜ錠前が弾けたのかわからなかった。警備員さんが言ったように古くなっていたからかもしれないし、それ以外の要因かもしれない。ただ、僕はそこになんらかの意味があるように思えてならなかった。

 辺りにひとの気配がないか確認すると、扉の取っ手に手を伸ばす。屋上の様子を見たら、すぐにでも戻るつもりだった。

 この時なにもないことを願っていたのか、なにかあることを願っていたのか、正直覚えていない。ただ扉を開ける手が妙に逸っていたことだけは良く覚えている。

 

 重い扉を体当たりするように押し開ければ、目の前に青空が覗いた。

 

 前日、梅雨の最後の抵抗とでも言うべき雨が降ったからか、屋上は雨に濡れたアスファルトの、埃っぽいにおいでいっぱいだった。

 灰色の殺風景な箱庭のような空間で、夏が揺らいでいる。少しばかり歪んだ景色の奥に、僕は見つけてしまった。

 灰色と青色の境界に立つシルエット。うちの学校の制服。長く伸ばした黒髪が弱い風に靡いている。そのシルエットはちょうど友人の話に出てきたように、柵に手をかけて校庭を見下ろしているように見える。僕は思わず息を呑んだ。

 屋上の少女は僕の視界の中で、はっきりと像を結んでいる。それが生身の人間なのか強い未練を持った霊なのか、僕にはよくわからない。

 

 触れてみればわかるだろうか。話しかけてみれば――?

 

 今思えば僕は、ある程度そこで出会いがあることを予感していたのかもしれない。もしも本当にただの偶然で『彼女』に出会ったとしたら、僕はどうしていただろう。黙って背を向けたかもしれない。今となってはわからないことだ。

 僕はゆっくり気付かれないようにと扉を閉め、少女の方に向かって歩き出した。アスファルトの感触を靴裏に感じ取りながら、必要もないのに息までも潜めて。

 あと五メートル、というところまで来た時、不意に少女がこちらを向いた。僕はその丸くて大きい瞳に捉えられた時、心臓が跳ね上がって口から出ていくのではないかと思った。

 それは悪寒と胸の高鳴りのあいのこのような、冷たい衝撃。一瞬の間呼吸が止まる。

 

「私の他にここに来る人、居ないと思ってた」

 

 ぶっきらぼうな言い草。目は揺れている。もう僕を捉えていない。

 彼女は過去、僕が世の中すべてを敵に回した気になっていた時の目つきに良く似ている。世の中を見ているようで嫌っているだけ。実際は何も見ていない。見たくない。そんな目つきだ。

 

「僕も」

 

 少女は僕の言葉を待っていない。ただ突き放されたような冷気が一筋体の中を駆け巡る。それはやがて言葉という熱になって彼女が纏う冷気を焼こうとするが、結局は阻まれて力を失って散る。

 僕は「僕も」と中途半端な肯定のほか、何も口に出せなかった。少女が興味なさげに元の姿勢に戻ったのをとどめに、すごすごと屋上から退散する羽目になる。

 なんだ。「僕も」何だったんだ。僕もわざわざ屋上に来る人間なんていないと思った、と口にすればよかったのだろうか。でも、そう言ったらそう言ったで、きっと彼女は「そう」と一言で僕を切って捨てるだろう。

 硝子の二重鎧の中から発せられる僕の言葉なんて、誰にも届くわけがないのかもしれない。それが生きた人間であっても、幽霊であっても。

 彼女は僕の中身を見抜いたのか。そんな気がしてならない。

 結局僕はその日、屋上に居た不思議な少女の正体が、人間なのか幽霊なのか判断ができなかった。ただ、白い首筋や細くて頼りない四肢が脳裏に焼き付いて離れなくなてしまったことだけは確かだ。

 フラフラと教室に戻ってきた僕を捕まえて、友人が「屋上に幽霊は居たか?」と訊ねてくる。僕はまぶたの裏でちらつく少女の幻影に酔ったように、

 

「居たよ」

 

「えっ?」

 

 友人は浮かされたようになっている僕の顔を凝視する。

 

「居たよ」

 

 繰り返す。友人は何か言いたそうに口をパクパクさせていた。もしかしたら実際に何かを言っていたかもしれない。でも、僕はどちらにしろ聞いていなかっただろう。

 

 ――何を考えているんだ?

 問いかけても、「僕」は答えることをしなかった。

 

 

 

 また数日が経った。

 あの日、屋上で少女とあったときから、僕の言葉は凍りついたままだった。

 日差しはますます強くなり、蒸し暑さは増すばかりだ。それにも拘わらず僕の心は冬のかたくなさを持ったようで、まったく誰とも会って話す気にはなれなかった。

 それでも僕が学校に向かったのは、どうしてももう一度屋上に行ってみたかったからだ。

 理由はひとつ。あの子にもう一度会いたかった。会ってどうしようかなんて、考えていなかった。ただ一言でも二言でもいいから、僕の声を彼女に届かせてみたいと思った。

 友人たちは僕と距離を置いている。前回の事が、彼らと僕の違いを多少なりとも浮き彫りにしたのだろうか。以前、親友に距離を置かれたことに比べれば大した痛みではない。なぜなら例えそういう事態になったとして、必要以上の苦しみを感じないように振る舞ってきたからだ。

 

 ――表面上の付き合い。僕のそれは、人々のそれより少しばかり淡白なだけだ。

 

 昼休み、僕は教室を抜け出した。誰も何も言わないし、意図的に視線を向けまいとしているようだったから、僕としては楽だった。そうした扱いには昔から慣れている。

 屋上の鍵は取り替えられもせず、やはり壊されたままだった。

 新しく鍵がついていたらどうしようかと思ったが、案外と学校はのんびり構えているようだ。この間花壇の修繕はしたのに、こっちには金をかけないつもりなのだろうか。だとしたらお粗末な話だ。

 鉄製の扉の感触にはまだなれない。体重をかけて開け放つと、この間と同じく灰色と青色の境界線が広がった。吹き込んでくる風は生ぬるく、お世辞にも心地良いとは言えない。

 後ろ手に扉を閉め、僕は慎重に彼女の姿を探す。

 

 ――居た。前回とほとんど同じ場所で、彼女は柵に手をかけて立っていた。今日は下を覗きはしていないようだった。ただ黙って、風に髪をなびかせている。

 僕は大きく息を吸うと、彼女に向って歩き出す。緊張していた。こんなにも体のこわばりを感じたのは、いつ以来だろうか――

 あと五メートル。前回と同じ距離まで来た時、彼女は計ったかのようにこちらをくるりと振り向いた。端正な、だけどちょっとだけ生気の薄い白い顔。

 僕がいざなにを話そうかと口を開きかけたとき、彼女の口から驚くべき言葉が発せられた。

 

「逃げることなかったのに」

 

「えっ」

 

 僕は間抜けにも、吸ったばかりの息をすべて吐き出してしまった。

 

「わたしは少し話してみたかったんだけど。逃げられちゃったから、もう来ないと思ったわ」

 

 まったく予想外の言葉だった。

 話してみたいと思った、だって――?

 てっきり僕のようなかたくなな人間だと思い込んでいた彼女から、そんな言葉が飛び出してくるとは。

 

「ごめん」

 

 なにも用意していなかったうえに軽めのジャブを喰らってしまった僕は、それだけを口にした。その一言は僕の言葉とは思えないほど、強い響きを持っていた。皮肉なことに。

 

「君ってアレかな。流行りのコミュ障ってやつだ」

 

 少女は無表情のままで、そんなことを言った。からかわれているのか、本気で言われているのかわからない。

 

「そうかもしれないね」

 

「相手の言動に合わせた返答しかできないんだって。なんかの雑誌で読んだよ」

 

「…………」

 

 いきなり主導権を握られた気がした。

 なにか言い返す言葉はないかと選んでいると、不意に風が吹いて、背後で扉が音を立てて閉まった。息を飲む。今の音で他人にばれるとまずい。

 少女は僕のようにびくりとはしなかったが、閉まった扉を数秒間見つめると、

 

「気をつけてね。センセが来ると面倒だよ、キミ」

 

 まるで自分は関係ないけどね、とでも言いたげな口調だ。

 

「次は気をつけるよ」

 

 後ろを警戒しながら僕がそう言うと、彼女は無表情をフッと歪ませて、

 

「次もあるんだ?」

 

「え?」

 

 とっさに聞き返したが、彼女は僕から視線を外して空を見上げていた。幽霊話のように下を見下ろすでもなく、上を。僕は少しの間返答を待ったが、それきり彼女は何も言わなかった。

 ――ああ、これは今日はもう終わりなんだな。勝手にそう思い込んだ。

 僕もそれっきり何も言わずに、黙って屋上を去った。去り際に何回か振り返ったが、彼女はこちらを見もしなかった。

 扉の閉まった音は、誰にも聞かれなかったようだ。二階まで歩いて降りて来た後、僕は妙な感触をわだかまらせていることに気付いた。

 なんだったのだろう。あの会話は。……会話と言っていいのかどうか、微妙なセンではあるけども。とにかく不可思議だった。

 もう続くこともないだろうと思っていたことが続き、続いていたものが突然終わりを告げる。いちいち結果の予想をつけて行動している僕にとっては、彼女の話し方は苦手なものであると言える。

 けども、不快感はなかった。別段感動もなかったが。

 一言で言ってしまえば、「かみあわない会話」だった。ただ、なんと言うべきだろうか。奇怪な小説でも読み終えたような心情だった。謎は残っているものの、妙に腑に落ちたというような。よくわからない。

 

 彼女が指摘したように、僕はまた「次」に屋上へ行くのだろう。

 

 なんで、ともし訊かれたら、答えようがないんじゃないか。特に理由もないのに、陽の思い切り照っている屋上に通うなんて、正気のサタとは思えないけども。

 それでもまた行くんだろう。とりあえず、自分で何をしたいのかを自覚するまでは。

 

 そんなことを考えながら歩いていた僕は、いつのまにか教室のある階を過ぎて一階に立っていた。

 その日は、早退した。

 

 


 
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