No.37084

星の声が聞こえる(エアリス)

FFVIIエアリス小説。

2008-10-23 01:37:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1327   閲覧ユーザー数:1301

星の声が聞こえる

 

 

その音に名前を付けるとするならば、どんな音になるんだろう。

 

ミッドガルドを形成する為に組まれた鉄鋼の間から、ほんの僅かに

覗くことが出来る星空を見上げながら、エアリスは考えていた。

いつものように育てた色とりどりの花をかごいっぱいにいれて。

 

きらきら?ちかちか?それともしゃららん?

 

どんな名前が似合うのかなあ。でも、どれもしっくりこない。

…不思議。静寂の夜空に、月の様に自分を強調しすぎずに、

静かに光を放っている…小さな星。

 

「この星も、他の星から見たら、あんな風に見えるのかな。」

 

…見えるよ。

 

…きっと、そんな風に光っているんだ。

 

…ううん、見えないかもよ。

 

小さな声なき囁きが、エアリスに話し掛けた。

「えー見えないのかなあ。それって、ちょっと、光れる星はずるいよね」

知らない人が見たら女の子がたった一人で、

ぼそぼそと見えない空と喋っているように見えるだろう。

 

 

うふふ、でもね、本当はどっちでもいいんだ。この星が綺麗なら、それで。

 

 

エアリスは心の中でそう言って微笑んだ。

彼女にとって、それ―見えない囁きと会話をすること―は

生まれたときからごくごく当たり前のことだった。

彼女の家の周りにある、土と水と小さな花畑で。

五番街の教会にある、僅かに柔らかな太陽が射す場所で。

ウォールマーケット近くの、小さな公園で。

そして…大切な人が行き来する、スラム街の駅で。

様々な場所で、様々な時に、エアリスは言葉を交わす。

…この星と。

 

 

他の人はそんなことできない。小さい頃にはわからなかったけれど。

こんな事ができるお陰でお母さんと離れ離れになったり、

悪い人たちに力を狙われることもたくさんあった。

そんな人たちから隠れるように、隠してもらうように。

エアリスは、もう何年もこの空の見えない牢獄で暮らしていた。

 

 

育ててくれるお母さんは優しいし、スラムの人たちもいい人ばかり。

不満とか、不幸とか、そんなことはちっともないけれど…―それでも。

やっぱり、切なくなってしまうことはあるの。

本当のお母さんの行方、今のお母さんの旦那さんの生死、

それから―ほんのちょっとだけ、憧れてた。あの人の消息―。

 

 

思い返しても、どうにもならないけれど。だけど、このままじゃダメ。

私は、いつか―……。

 

 

「いつかまた、あの空の見える場所へ行けるのかな」

 

 

答えはない。エアリスはふう、と短く溜め息をついて立ち上がった。

お花、売らなくちゃ。

 

 

いけるよ。

 

「え?」

 

連れ出して、空を見せてくれる人。

 

君と一緒に、この星を、救ってくれる。

 

ほら、きっと、もうすぐだよ。

 

 

「星や空、見える場所、いけるのかな」

鉄鋼の狭間から、わずかに見える小さな空。

そこには先ほどと変わらずに、星が、優しく瞬いていた。

 

 


 
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