9月21日
士季が中央官僚試験を受け、なんと警護部に大抜擢された。
呂布殿、周泰殿のような一刀様の傍近くで務める警護ではなくその外郭となる歩哨担当だが、呂布殿に察知能力及び回避能力を高く評価されたとのことだ。
文官試験を受けろと言っておいたはずなのにどうなっているのか。
妹の叔達は見込み通り文官試験に合格した。天の知識の文書化に携わりたいと言っていたが、おそらく希望通り文書局に配属されるだろう。
9月25日
各国の事務方と如何にして一刀様のお好みに合わせて後宮整備が出来るか再協議した。
私からは一刀様の御回答と、それが各寵姫をお気遣いになってのものだろうと思われると意見を添えて報告した。
しかし相変わらず傾向さえ掴めない、特に重臣の方々のご寵愛の賜り方の情報が得られない。
多方面の情報源を駆使して情報収集を行うことを確認した。
10月14日
一刀様より直々のお呼び出しを受けてお部屋に参上したところ一人の娘を紹介され、この娘を預かってくれないかと御依頼頂いた。
庁外で泣いていた所を警邏中の一刀様がお見かけになり事情を聞いたところ、今回の試験を受けて汝南の典農部から王都の典農局へ転勤したのだが、急には馴れぬ仕事と生来の吃音の為上司に厳しい言葉を浴びせられ田舎に帰ろうかと思っていたという。
吃音と聞いてピンと来た、この娘は先の地方文官向け勉強会で一刀様の御目にとまった娘だったのだ。
一刀様もこの娘を覚えており、君のような俊才が退官しては勿体無い、良い先輩を紹介するので是非思いとどまって欲しいと御説得され今此処に至ったとのことだ。
一刀様の御信任に応えないという選択肢等当然私には無い、当面士季と同じく住み込みの弟子として預かる事とした。
それに一刀様の御目にかなう娘であればいずれひとかどとなることに間違いは無いだろう。
娘の年のころは士季とほぼ同じで名は鄧艾、字は士載と名乗った。
10月18日
士載は知識こそ少ないが理解力と考察力は非常に良い、流石は一刀様の御慧眼だ。末は良い官吏になるだろう。
御指導の日に一刀様に何故私に彼女を預けようと思われたのかを伺ってみたところ、なるべく優しそうな人と思って秋蘭か稟か仲達さんかと考えたけど先の二人は忙しそうだし
仲達さんが一番優しそうだったからとお答えになった。
仲達さんが一番優しそうだったからとお答えになった。
一番優しそうだったからとお答えになった。
夏侯淵様や郭嘉様にそんな暇ある訳無いじゃないですか消去法って御存知ですかとのたまった士季は久々に吊るした。
11月1日
公達様より、袁紹殿の旧配下の多くを登用出来たので配属を検討するようにとの指示があった。
そのうちの多くは袁紹殿と一刀様が親しくご説得なさったとのことだ、一刀様の御骨折りの賜物だ。
また高覧の説得には張郃が協力したらしい。
田豊と沮授はいずれ太守か州牧も視野に入れた幹部候補として考えている、また審配は優秀だが何を考えているのか分からない所があるので顔良・文醜殿付きとするようにとのことだ。
田豊殿・沮授殿らとは近く面談を行おう。
11月4日
袁紹殿の旧配下の面々との面談の前に張郃、顔良殿、文醜殿らと情報収集を兼ねて飲んだ。
張郃にどのように高覧殿を説得したのかと聞いたところ、
『始めは一刀様と普通に飲みながら王都とか最近のあたしの仕事とか今後の冀州の話とかしてたんだけど、なんとなく済し崩して三人で雑魚寝で寝酒しながらもっとお話しましょうって感じに持ち込んだのよ。で、あいつ押しに弱いし一刀様のことも満更でもなさそうだったし一刀様も雰囲気作る天才だから、あとは酔いにかこつけて添い寝だけ、抱っこだけ、口付けだけって感じで煽ればあら不思議』
翌朝にはもう身も心も完璧よ、あたしにも遂に義妹が出来たわと親指を立てる彼女の話には開いた口がふさがらなかった。
同じように呆れている様に見えた文醜殿らが
『でもお前、あたいらじゃないんだから初めてが三人でってのはちょっと可哀そうじゃねぇか?』
『大丈夫、事が始まる寸前にあたしは抜けてあげたから。勿論事後はあたしの番だったけど』
『あ、それなら安心しました』
とやり取りしているのを見て、おかしいのは私の方だろうかと不安になった。
あるいは冀州は怖い所なのかもしれない。
11月7日
月末に『もでる』の仕事が入れられてしまった。
厳密には王や重臣の方々の私財で手当てが出されているものではあるがまあ仕事のようなものだ。
一刀様は高位あるいは草莽の頃からの寵姫の衣服や下着の意匠もなさっており、季節に一度くらいの頻度で茶会も兼ねて素案を展示され、寵姫の方々はそれらを見て気に入ったものを一刀様に報告する(要は強請る)。
御素案の試作品は公孫瓚殿以外は凡そ新人から中堅の文・武官達が『もでる』となって着用することで展示されるのだが、今回は伯達姉様の指示で私もやらされることになってしまった。しかも今回は下着の回だ。
姉様には辞退したい旨を申し上げたのだが、
『試作品は「もでる」がそのまま貰えるのよ?碌な下着も持っていないんだからこれを機会に感性を磨いてもう少しましな物を持つようになさい』
とお叱りを受けてしまった。
元直と子敬にこの話を愚痴ったところ、姉様と全く同じように怒られてしまった。
『要は仲達ってまだ頭でしか理解してないのよ。ためしに目を閉じて今から私が言う二つの言葉を一刀様が言ったと思って聞いてみて』
と元直が言うので言うとおり目を閉じ、
『「仲達さんの下着…、野暮った過ぎて正直ちょっと萎えるわ」』
『……次。「仲達さんの下着…凄く魅力的だ!今すぐ抱きたい」』
と一刀様に似せた抑揚で言われると、前者は絶望で死にたくなり後者は高揚で血が沸き立つように感じ、大変よく理解出来たので今後改める、と話した。すると彼女らは
『仲達…和むわぁ…』
『あー癒される…表情大して変わらないくせになんなのこの落差…』
などと言っていた。
11月9日
田豊殿、沮授殿と面談した。
二方とも軍事・経済ともに期待以上の見識を見せ、また人格も問題ないように思われた。
こちらからは凡その業務内容、いずれは幹部級を期待されている旨を説明し、当面は王都勤務を依頼した。
待遇その他概ねの質疑は速やかに終了し、打ち合わせを終わろうとしたところ両名より一点確認したいとの申し出があり何かと尋ねた所、勤務には一刀様の夜伽も含まれるのかという問いであり、
『麗羽様は「当然に含まれ光栄なことである、常に端下女の自覚を持ち御側近くでの業務がある場合は少なくとも下着は瀟洒なものを身に付け、その身は常に隈なく清めておくことが肝要である」と仰ったが一刀様はそのようなことはないと強く御否定されたが実際はどうなのか』
というものであった。
業務は政務・事務又は軍務であり御夜伽は含まれず、御寵愛を賜れるかどうかは貴殿らの御心掛けと一刀様のお気持ち次第である、但し一刀様のお近くで勤務する場合は当然に(一般常識として)隈なく身を清めて置くことは必要であろうと回答した。
また重臣の方々で、御寵愛を賜っていない方はいるでしょうかと聞かれ、少なくとも魏には結果的にいないと思われたのでいないだろうと回答した。
さらに田豊殿が『そ、その…隈なく、とは、不浄なところは一穴とても無きように、という意味でしょうか』
と頬を赤らめて再度問い直して来たので、その通りである、私も常にそのように(頭髪や皮膚の一穴とても不衛生でないように)努めていると回答した。
二人は顔赤くしたまま少し悩ませて下さいと言って帰っていったが帰宅後、士季にその話をしたところ
『はい仲達様変態確定ー!』
と言って呼吸困難に陥る程に笑い転げるので警護部見習いの為に稽古をつけてやったところ、泣きながら
『私が言っても信じないでしょうから子丹様とかに聞いて下さい、急がないとマジでやばいです、ってあだだだだだだ!折れます折れます折れますってば!見てないで助けて士載!』
などと言っている。
何かまずい説明があったのだろうか。今度お嬢様に会う機会があったら聞いてみよう。
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その後の、とある文官の日記です。