【まえがき】
天変地異、戦などによって、文明は滅んでは新たに作られていく。
時にはその痕跡が、地中や海底から発掘されることがある。
そういうことがなくても、数世代を超えて【正しく】伝えていくことは難しい。
言語は絶えず変化していくのだ。関心を持続させることもできない。
知的好奇心と闘争心が優先した結果、手に余る科学技術は多くある。
特に【負の遺産】(地下深くに埋められる核放射性物質や生物兵器など)というものが、
未来の人々にどのように伝わっていくのだろうか!?
皮肉をこめて・・・
『今朝4時半ごろ、奈良県天川村洞川の主婦相川良子さん47歳がウォーキング中、
〈キーン〉という異様な音を聞きつけて警察に連絡しました。直ちに地元駐在員が駆け
つけて周辺を調べましたところ、1990年に閉山となりました五代松鉱山から発信さ
れていることを突き止めましたが、その原因などの詳しいことは分かっておりません。
現在、専門家が調査に当たっております』
『午前7時過ぎ、熊本県阿蘇郡阿蘇町にあります熊本第一阿蘇鉱山において、出社して
きた社員が、坑内から〈キーン〉という音が発せられているのに気付き点検しましたが、
発信元と原因についてはつかめませんでした。また、長野県上水内郡信濃町の柏原鉱山
においても同様のことが起こっています。両方に共通するのは現在操業中であり、主に
鉄を産出する鉱山である、ということです。
ただ今入りました情報によりますと、岩手県釜石市にあります、1993年に閉山と
なりました釜石鉱山でも異様な音が聞きつけられております。釜石鉱山および最初に連
絡を受けた五代松鉱山共に、鉄鉱石を産出していましたが、現在は効率悪化により閉山
となったものです』
鉄鉱山で発せられている異常音は日本国内にとどまらず、世界各地で生じている現象
であることが次第に分かってきた。
坑内にある鉱物残滓の鉄成分が、何かに共鳴して発しているらしいことが分かったが、
その元になるものは不明のままだった。坑内から出された鉄鉱石や、鉄製品などについ
ては、そのような現象は認められていない。
またその音は、数時間で消滅している。
南アメリカ大陸の太平洋岸には、7カ国、7500キロメートルの長さにわたるアン
デス山脈が連なっている。
その中ほどペルー共和国にインカ帝国の遺跡、マチュピチュという空中都市がある。
標高2057メートル、東西が断崖となっており、40段の段々畑が3000段の階段
で繋がっている。
1440年ごろに、これより高い標高の山から花崗岩を切り出して運んで建てた『太
陽の神殿』があり、東側の窓から差し込む太陽光によって夏至・冬至を知り、暦を作り
出していたと推測されている。
マチュピチュなどの遺跡で観光ガイドをしているリカルド・モラレス・ガマラは、太
陽の神殿の中の地の下から発する聞きなれない音を耳にした。
そうしてマチュピチュの研究第一人者である、アメリカ・ジョージア州コロンバス大
学教授で、考古学者のウォレン・シュミットが率いる一団が現地調査に当たった。手持
ちのコンパスは、磁針がぶれて止まらない状態であることから、地質学者のボリー・イ
ノウエも急遽加わった。
太陽の神殿の地下は数日間にわたって慎重に掘削されていった。その間も時々異常音
は発せられた。
地面より5メートル下に、2メートル四方の空洞が発見された。その入り口は煉瓦造
りのような板でふさがれ、取っ手が付いていた。その板を動かすと空洞が現れたのであ
る。また、板の裏には明瞭に刻まれた絵文字のプレートが固定されていた。その絵文字
を写真に撮り、解読の専門家に送った。
一方調査団はロープを固定し、ヘッドランプを照らして、造られていた急傾斜の階段
を降りていった。
30メートル近く下りた所の中央部に機械のようなものが置かれ、それが稼働して大
きな唸り音を出している、ということが分かった。その周辺には拳大の石や土くれが散
乱しており、先年のチリ大地震によって崩壊したものが機械に当たり、衝撃となって作
動を始めたのだろう、と推測された。
機械とその周辺、部屋の中や壁を丹念に調べ回ったが、機械については何も分からな
い。分析しないと分からないが、金属ではなく、土を焼いた煉瓦のような物で出来てい
る。
いつ、だれが、何の目的で、何をするために?
コンパスは完全に壊れてしまった。そして1時間経過した頃には、ズキンズキンとす
る頭痛が始まった。
世界同時に確認されたのは、鉄鉱山での異常音だけではなく、活火山の活動が静まっ
たことである。同時に地熱にも変化がみられ、地下水の温度の低下が著しく現れだした。
それにより、温泉地が大打撃を受け始めたのである。
また地質学者は、プレートの動きが止まっていることを確認した。
様々なデーターを基にコンピューターが検出したのは、オーロラとの関連性である。
磁気嵐、つまるところそれは、太陽が放出するプラズマ粒子と関連付けられた。どのよ
うな過程によるのかは不明のままだが、鉄を主成分とする地球のコアとプラズマ粒子と
の間で、磁場が発生している、と考えられた。
また、世界のコンピューターを通じた科学者会議が開かれ、地球内部のコアが冷えつ
つあるのではないか、という推論が続出した。
それはなにを意味するのか。
地球は『死』に向かっている、というのだ。
マチュピチュのある山岳地帯には鉄鉱山はない。にもかかわらず、唯一ここだけが異
常音を発している場所として、また大きな磁場を作り出している場所として全世界から
注目を浴びていた。
宇宙人による地球侵略だ、などと言いだす者もいた。
未知なる機械を早く停止させなければ、地球は凍えてしまう、生命は絶滅するだろう、
と提言された。
次第に強力となりつつある磁場により、人は近付けなくなっている。磁場に影響され
ないロボットなどない。遠隔操作もできないので、結局は宇宙服に身を包んだ決死の人
選が行われた。
そうして機械は、作動を完全停止した。
1カ月ほど過ぎた頃、急いでいた絵文字の解読は、コンピューターの力を借りて完了
した。
未来を生きる人類へ
我々の科学技術の進歩は目覚ましい。
太陽が作り出すプラズマが地球の大気圏に突入すると、大気中の粒子と衝突して磁場が
発生する。それは地球のコアが作り出す磁場と作用しあって、電気を作り出す。
我々は電気を効率よく作り出す方法を発見し、発電機を作り出した。ここにある機械が
それである。
しかし我々は大きな間違いを犯してしまった。
これが作動することでマグマの流動性がなくなり、地球の熱源が失われつつあることが
分かった。
急いで機械を停止させたのだが、すると反動により1年後には、マグマの活動が一気に
強くなって火山噴火、地震が頻繁かつ大規模なものとなって発生し、多くの国が滅び、
多くの命が失われた。
くれぐれも機械を作動させてはならない。
何らかの原因で作動を始めても、決して急停止させてはならぬ。
我々は未来を生きる君たちに災いが生じないように、地下深くにこれを埋める。
この上には建造物を造らないでほしい。
念のため、文字にして危険性を伝えておく。
ロス・ピンチュドス国 チャチャポヤ
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マチュピチュの遺跡から発掘された機械は、磁場から電気を作り出す装置だった。