「ん……」
熱に浮かされ目を覚ます。そう言えば今日から8月だったか。
気だるい体を起こし、冷蔵庫に入っていた麦茶を飲む。何だか苦い、この時期のお茶の日持ちの悪さは本当に何とかしてもらえないものか。
愛莉がグラビア関係の撮影で南の島にロケに行っている間、私はひたすら自堕落に(バイトは行ってるし自主的にトレーニングも欠かしていない……ん、何でこんな事をしているのやら)生命を繋いでいた。
今日も何度か電話が来ているが、大抵美星からなので完璧に無視し、身だしなみを整えその辺に折り畳んであった衣服から薄めのTシャツとショートパンツを引っ張りだしドレスアップ、物が散乱した1Rにさよならを告げ外出する。
今日はこの前帰ってきたサキこと永塚紗季(ナガツカサキ)と会う手はずになっている。
奈良の大学に行ってしまったため(お好み焼きは関係ないと信じたい)高校卒業とともに疎遠になってしまった訳だが、久々会えるのだからこの機会を逃す手はない。
「ふう……危ない危ない」
噴水の前で一息入れる。時間は9:54ジャスト。これなら文句を言われることも……
「ふひゃっ!!!!」
「ちゃんと五分前行動守れるようになったみたいね、マホ」
「ちょっ、なにすんだよ!!?」
妙ちくりんな声を上げて振り返った先には爽やかに頬を緩める蒼髪の幼なじみのすgべしっ。
「とりあえずその幻想(微笑み)をぶち壊させてもらった」
「その読ませ方無理矢理じゃないの!? 何はともあれ……久しぶり、マホ」
「おう……久しいな」
最後に出会った時と比べてもさほど何かが成長しているわけでも無かったのだが、一年半と言う時は彼女を確実に大人にしていた。
先月の頭(7/1)に誕生日を迎え二十歳を迎えた彼女、その次の日に誕生日を迎えた自分だったが、一日とは思えない程遠く突き放された感覚をずっと拭えないでいた。それは今も変わらないまま、言いようのない感覚に支配されている。
彼女がくれたのは、私とサキ両方が大好きな飲み物『メロンコーラ』、とりわけ振ってもいないのにプルタブを勢いよく引くと飛沫(しぶき)がスプリンクラーのように噴き上がり弾ける。
「んくっ、んっ……っ、ぷはぁっ!!!!!」
「ふう、折角暑いんだもの、こういう粋な飲み物で一息つきたいじゃない?」
激しく同感だった。だがそれは此処まで走ってくるだろうと言うことを見越してのことだったのかと思うと少し腹が立つ。
いやいや、彼女の行為には素直に甘えておこう。これが皮肉だったら皮肉と分かっているけど甘んじて受けています的な何かが必要だと思うんだ。
「んで、動きやすい格好でって言うからそうしてきたけど、一体どうしたわけ?」
「まあ、久々会ったわけだけど……ほら、これ」
サキは水色のワンピースを着て、浅めのキャップを被っていた。ただそんな格好で走り回ったり跳ね回ったりしたら色々残念なものが見えると思うのだけれど。
と思って何かのチケットを受け取る。バスケの試合か、うちの県と隣の県のバスケチームの試合、公式の試合でも結果を出している二チーム……
「うおっとと、マホに預けると風で飛ばされるから私が持っておく」
「信用ねぇな私……ま、いいか」
今日は風が強い、責任はサキに全部押しつけるとしてだ。たまにはバスケを見る側に回るのもいいかもしれない。
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ある意味導入としては私らしいとも言える回です。