三人の天の御使い外伝 二喬伝
一
(大喬turn)
朝目が覚めると、まだ見なれない寝台の天井が目にうつる。
隣には双子の妹の小喬ちゃんが安らかな寝顔でまどろんでいます。
わたしの名前は大喬。
小喬ちゃんと合わせて『江東の二喬』なんて呼ばれているらしいです。
あと、その・・・一刀さまの・・・愛妾?寵妃?・・・なんて言ったらいいんだろう?とにかくその内の一人にしていただいています。
わたしが一刀さまのお城に来て数日、今日はお仕事を教えていただく最初の日です。
「小喬ちゃん、朝だよ。ほら、起きよう。」
体をゆすってあげると小喬ちゃんがまぶたを開いてくれました。
ふふ、ねむそうな顔。
「おはよう、小喬ちゃん。」
「ふにゅう、おあよぅおねぇちゃん・・・」
「ほら、今日からお仕事だよ。早く起きて準備しよう。」
「あ、そうだった!」
飛び起きた小喬ちゃんはそのまま寝台も飛び出して手ぬぐいをつかむと扉まで走っていっちゃいます。
「お姉ちゃんも早く!洗面所に急ごうよ!」
「小喬ちゃん・・・せめてなにか羽織ろうよ。」
下着姿の小喬ちゃんは言われて初めて気がついたみたいでした。
「あはは・・・ちょっとハリキリすぎちゃった・・・」
小喬ちゃんの気持ちはよくわかる・・・わたしも同じだから。
北郷一刀さま。この大陸を新たに統一した晋の皇帝陛下。
『天の国から御使いとして降臨された三人の「北郷一刀」。
魏、呉、蜀の王を援け内憂を祓い、外憂を退け、大陸に平和をもたらし、
三国の王に奉られ三国の頂点に起つ。』
世間ではそう喧伝され、今ではその名を知らぬ者がいない方。
でも、わたしは数日前までただのおとぎ話のように思っていた。
わたしにはまるで関係ない別の国のお話。
そんな風にしか感じなかったのに、それが一刀さまを一目見たときから全てが変わった。
あの日、わたしたちは新しい都を見物しに建業からやってきて到着した翌日だった。
茶店で休んでいるとわたしの後ろに三人の一刀さまが座られて、お店中に歓声が上がって、わたしはつられて振り向いた。
そして一刀さまを見た瞬間にわたしは目を奪われてしまった。
はじめてお目にかかったのになぜか見覚えがあるような・・・そんな不思議な気持ちになり、体は身動きひとつ出来なくなっていた。
そして乱暴な男たちと一刀さまたちが争い始めたときも、逃げることもできなかったわたしを・・・
だ、抱きしめて守ってくださり・・・しかも、名前を呼んでくださった・・・。
あのときは混乱したまま小喬ちゃんに連れ出されて、宿に戻ってからも一刀さまのことが頭から離れなくて、これが一目惚れ・・・恋だと思い至ったら・・・急に悲しくなって泣いてしまった。
だって・・・わたしの身体は普通とは違う・・・このことを一刀さまが知ったら絶対気味悪がる・・・もし一刀さまがわたしのことを汚物でも見るような目で見られたらと思うと目の前が真っ暗になった。
でも、そんなことは全てわたしの杞憂だった。
わたしに会いに来てくださった一刀さまがおっしゃったこと、わたしが天人の生まれ変わりで、天の国にいたわたしも同じ身体だったと・・・そしてわたしをお城に迎えてくださるとおっしゃったとき、わたしはこの身体に感謝した。
この身体はきっと一刀さまがわたしを見つけるための目印だったに違いない。そう思えたから・・・。
(小喬turn)
顔を洗って髪を結いなおし、真新しいめいど服に着替える。
あたしもお姉ちゃんも昨日一度そでを通してるから迷わず着れた。
でも『めいど』ってなんだろ?天の国の言葉らしいんだけど、あたしもお姉ちゃんも天人の生まれ変わりのはずだけど天の国の言葉はまるで覚えていない。
でも、一刀さまがそういうものだって言ってたからいいや。
「「おはようございます。月さま、詠さま。」」
めいど長室に行くともうお二人が待機してた。
「おはよう、大喬、小喬。」
「おはようございます、大喬ちゃん、小喬ちゃん。お二人ともめいど服がよく似合ってカワイイですよ。」
「「あ、ありがとうございます。」」
お姉ちゃんは月さまと似ている裾の長いの、あたしは詠さまと似てる裾の短いの、いつも着てるお気に入りもいいけどこの服もカワイイから好き♪
「後で御主人様方にお礼を言うといいよ、お二人のめいど服は新たに御主人様が意匠されたものだから。」
一刀さまが?そんな才までお持ちなんだ。
ますますこの服が好きになっちゃた♡
「「はい♪」」
それからあたしたちは赤一刀さまの御寝所に向かった。
紫と緑の一刀さまのところには他の将軍や軍師の方が行くんだって。
「他のめいどの子たちは一刀さまを起こさないんですか?」
「そ、そんな危険なことっ・・・いえ、なんでもないわ。めいど隊には朝食の準備や掃除を始めてもらってるから大丈夫よ。」
危険?今、詠様危険って言ったけど、どういうこと?
「あの・・・一刀さまは寝起きがお悪いのですか?」
お姉ちゃんが不安そうに質問すると、
「う~ん、不機嫌になったことは一度もないけど・・・しいていえばタチが悪いかなぁ。」
「え、詠ちゃん。それは御主人様に失礼だよぅ。」
「「???」」
なんだかよくわからないまま御寝所に到着して扉を開けると、一刀さまはまだ眠っているご様子。
「いまからボクが起こすからここから見ててくれる?いい、くれぐれも不用意に近づいちゃだめだからね。」
「「?・・・はい。」」
詠さまが寝台に向かい、それを月さまは苦笑して見てた。
すると・・・。
「ほらっ、さっさと起きなさいっ!もう朝よ!」
眠っている一刀さまの耳元で大声をあげた!?
「んあ・・・?・・・あ~・・・あと少し・・・」
「んなこと許すわけないでしょう・がっ!」
布団を無理やりはぎ取るつもりなのか手を掛けると・・・布団の下から飛び出した腕に・・・抱きしめられた?
「うわぁっ!なにすんのよ!このバカッ!!離しなさいっ!離せって言ってんでしょうがっ!このバカチOコッ!!」
ドスッと鈍い音が聞こえたあと詠・・・さまが立ち上がって一刀さまを蹴りはじめた・・・って、えええぇ!?
「ちょ、ちょっと何するのよっ!?やめてぇ!!」
あたしは無我夢中で一刀さまにしがみ付いていた。
「あれ?小喬、おはよう・・・あぁ、今日から仕事だったな。月と詠のいう事をちゃんと聞くんだぞ~。」
「え?ええぇ!?」
一刀さまさっきまであんなに蹴られてたのになんで普通のあいさつなの?
「だけど今朝はえらくサービスがいいなぁ、小喬は抱きついて起こしてくれるし詠がパンツ見せてくれるなんて・・・」
詠さまは足を振り上げた状態で止まっていた。
「そんなわけあるかっ!バカッ!!」
そのまま振り下ろされた踵は一刀さまの顔面にめりこんだ・・・。
「本当に申し訳ありませんでした・・・」
あたしは詠さにひたすら頭を下げるしかなかった。
頭に血が上ると誰かれかまわず噛み付く癖、早く直さないと・・・。
「ボクも説明不足だったから・・・でも、分かったでしょう。あいつら最近普通に起こしてもなかなか目を覚まさないのよ。」
「すぐに起こす方法もあるんだけどね♪」
「ゆ、月ぇ。それはまだこの子たちには教えないで。」
「時間の問題だと思うけど・・・ともかく明日からは大喬ちゃんと小喬ちゃんでがんばって起こしてあげてくださいね。」
「「はい。」」
でも、やっぱり詠様の一刀さまに対する態度は我慢できない。
あたしは身も心もすべて一刀さまに捧げてるから、一刀さまがあんなふうに扱われたらやっぱり頭にくる・・・・・・。
あはは、まさか自分がこんなになっちゃうなんて思ってもみなかったなぁ。
あの茶店で初めて姿を見たときに不思議な気持ちになったけど、お姉ちゃんの様子が変なのに気が付いてからはむしろ敵だとさえ思ってた。
祭様にお願いして会いに行ったのだって本当は宣戦布告のつもりだった。
なのにあんなに本気でお姉ちゃんを心配してくれる姿を見たら、この人たちならお姉ちゃんを助けてくれるって思うじゃない。
実際行動も早かった。
お姉ちゃんを探して街を走っているときの姿を見たあのときに・・・あたしも一刀さまに惹かれているのを自覚しちゃった。
一刀さまはお姉ちゃんを心配してるんだ、勘違いしちゃいけないって思ったけど。
あの「君たちは生まれ変わりなんだ。」「君たちさえ良ければ城に来ないか。」この言葉で一刀さまはあたしのことも見てくれていたことに気が付き、あたしは決意した。
受身の愛はお姉ちゃんにまかせて、あたしは攻めの愛で行くって。
あぁ、でもそのためにはこのお城を追い出されないようにしないと、一刀さまの愛妾って基本武将か軍師だからあたしたちも何かお役に立てるようにならないと!
二
(大喬turn)
赤一刀さまが朝食をこの五人で一緒に召し上がりたいとおっしゃったので、食事を運び込んで食卓を囲みました。
ふふ、一刀さまったら食事中ずっとにこにこしてごきげんだったな。
朝食を終えた一刀さまは政務へ向かわれ、わたしたちは食事の片付けとお部屋の掃除を始めました。
「大喬ちゃん、お掃除上手なんですねぇ。」
「あ、ありがとうございます。母が躾けのきびしい人なので、わたしも小喬ちゃんも家事はみっちり仕込まれました。」
「ふふ、いいお母さんですね。」
「はい、おかげでこうしてお城で働けます。」
わたしと月さまはにこにこと会話をしながらお掃除をしていく。
「そういえば月さまと詠さま、いつもは一刀さまの政務をお手伝いなさっておいでなんですよね、なんで『めいど』の仕事もなさってるんですか?」
「今も本職は『めいど』なんだよ。でも今は御主人様をはじめみんながこの新しい国の基礎を固めるために忙しいから私みたいな経験者が補佐しているの。」
「え?経験者って・・・月さまはどこかの太守様だったんですか?」
「え・・・?」
わたしの質問にこんどは月さまがびっくりして言葉をつまらせました。
「だ、大喬。どうして太守だと思ったのかしら?ほら、もっと小さな県とか邑の官吏とか思わない?」
わたしたちの会話が耳に入ったのか詠さまが訊いてきた。
「その・・・一部の兵隊さんが月さまのことをお嬢様って呼ばれていて、その軍装が魏呉蜀のものではなかったです、袁家の物とも違いましたので・・・。」
(すごいよこの子、詠ちゃんどうしよう?)
(この子なかなか鋭い観察眼を持っているわね。だけどあいつらの忠誠心が仇になろうとは・・・。)
「どうしたの?お姉ちゃん。」
「あ、小喬ちゃん。なんでもないよ、早くお掃除終わらせよ♪」
「うん、あたし桶の水かえてくるね♪」
そういって小喬ちゃんは桶を持ってお部屋を後にした。
「・・・大喬ちゃん?」
「すいません、さっきの話は無かった事にしてください。誰だって秘密はありますものね。わたしだって・・・。」
「あ、うん。そう・・だね・・・。」
「わたしが聞きたかったのはそういうことじゃなくて、わたしと小喬ちゃんがこのお城で暮らしていくために『めいど』のお仕事以外にも何かしたほうが、できるようになったほうがいいと思ったのでその相談がしたくて・・・。」
お二人は始め驚いた顔をしていましたがすぐに優しい笑顔で言ってくれました。
「あせらなくても大丈夫ですよ。なにができるのか、なにがしたいのか、それが見つけられるようにお勉強をすればいいんですから。」
「まったく、あいつらの言ったとおりね・・・陛下たちからもそのことを頼まれてるから準備してあるわ。ここの掃除が終わったら『先生』のところに行くから、楽しみにしてなさい。」
「一刀さまがそんなことを・・・はい!よろしくお願いします!」
はあぁ・・・一刀さま、ありがとうございます。
会話を中断して、掃除を再開しはじめて少しするとお部屋の外から声が聞こえてきました。
『・・・ちょい待ちぃっ!』
「この声は霞ね・・・なんか言い争ってるみたいだけど・・・。」
『いや、待てんっ!張遼、貴様も私の忠誠心を知っていよう!』
「この声っ!詠ちゃん、もしかして・・・。」
『そら分かっとるっ!なにも会わさんって言うとらんやろっ!ただちょっとだけ待て言うとるだけやっ!』
『だから私も待てんと言っているっ!義理を果たし、恥を忍んで主君のお目に掛かる意を決したのだっ!この決意、何人たりとも私を止めることは出来んっ!!』
「まさか・・・。」
『まったく、相変わらずのイノシシやなぁ・・・って、だから待ちぃや!華雄!!』
「「華雄!」」
なんだかお二人はすごいびっくりなさってまいす。
『な、なんなの!?ちょっとあんた!霞様が止まれって言ってるでしょっ!こっち来ないでよっ!!』
「しょ、小喬ちゃん!?」
わたしは慌てて廊下に出ると小喬ちゃんが桶をかまえてて、その視線の先を見るとそこに怖そうな女の人が立ってました。
「どけっ!童女、私はその奥におられる方に用があるのだっ!」
「こ、こどもじゃないわよっ!あたしたちはれっきとした一刀さまの愛妾なんだからっ!!」
「・・・な、なんだと・・・噂には聞いていたがこんな童女にまで・・・。」
「だからこどもじゃないってばっ!!」
言い争っていた小喬ちゃんの前を人影がさえぎりました。
「華雄、久しぶりですね。元気にしていましたか?」
月さまでした。その後姿はとても落ち着いて・・・なにか威厳すら感じるほどでした。
「と、董卓様ぁっ!お久しぶりでございますっ!この華雄、汜水関で敗れ、傷を受け、気が付けば董卓様が討ち取られたと知らされ・・・いつか敵を討たんと北郷一刀を狙っておりました!」
「ちょ、華雄!なに物騒なこと言ってるのよっ!」
「そ、そうよ!あんた・・・」
詠様と一緒に『華雄』さんを攻めようとした小喬ちゃんを霞さまが制して、わたしたちをこの場から離しました。
「月、賈詡っち、この二喬ちゃんにはうちから説明しとくで。」
「あ、ちょっと待って霞!その二人、魏の勉強部屋に案内してあげて。ごめんね二人とも、こんな状態だから案内してあげられなくて・・・。」
「いえ、わたしたちのことはお気になさらないでください。」
「うん、ありがと・・・じゃ、霞おねがいね。」
「了解。そっちもイノシシのこと頼んだで。」
わたしと小喬ちゃんは霞様に連れられこの場を後にしました。
あ、ぞうきんと桶もってきちゃった。
(小喬turn)
「月が董卓っちゅうこと城内だけの秘密や、他人に言うたらあかんで。」
霞様が廊下を歩きながらあたしとお姉ちゃんにそう言って口止めした。
「「はい。」」
月さまって真名しか教えてくれなかったから変だなって思ってたけど・・・まさかそんな名前が出てくるとは・・・。
「特に袁家には気ぃつけてな。まぁもっともあいつらの方が忘れとると思うけど・・・。」
そっか、美羽は知らないんだ、このこと。
「でも、さっきの華雄に向かってく姿は勇ましかったでぇ、膝が笑っとったけどな、あははは。」
「し、霞様!笑わないでくださいっ!」
うぅ、あのときは必死だったから・・・はぁ、武術もやったほうがいいかなぁ。
お母さまからは才能がないって言われたけど、そうも言ってられないよねぇ。
「お、ここやな。お~い、二喬ちゃん連れてきたでぇ!」
そう言って扉を開いた霞様、その先で待っていたのは、
「「華琳様!紫一刀さま!」」
「へえ~、華琳直々に教えるんか~。めっちゃ贅沢やなぁ、感謝しぃ二人とも。ところで一刀はなんでおるん?華琳が教えるんやったらすることないやろ。」
「今日の俺は華琳の助手、兼監視役だよ。」
「大喬、小喬、いらっしゃい。霞、あなたが二橋を連れてくるなんて、月と詠はどうしたのかしら?」
「あぁ、そのことで報告もあってな・・・華雄が来よった。」
「華雄?・・・そういえば華佗の報告にあったわね。では華佗も戻って来たのね。」
「なんや、興味なしかいな。」
「そうじゃないわ、月と詠が来ないということは華雄が今二人の処に居るのでしょう、ならばあの二人に任せて報告を待ったほうが早いわ。」
お話のじゃまにならないようにおとなしく聞いてたけど・・・華琳様ってほんとにすごい頭の回転が早い。
「とか言って、本当は大喬小喬とすごす時間を削られるのが嫌なだけだろう。」
紫一刀さま、いくらなんでもそれは・・・
「あら、当然じゃない。」
ええええぇ!?
「ほら、あなたたち、こちらに来てお掛けなさい。」
「「は、はい。」」
あたしとお姉ちゃんは慌ててすすめられた卓についた。
「ほんならうちは又イノシシの相手しに行くとするわ。」
「霞、ご苦労さん。ありがとな。」
「そう思うてるなら今度うちに付き合うてな・・・あ、そうそう。」
「何かまだあるの?」
「その二喬ちゃん結構度胸あんで、あの華雄に立ちはだかったんや。」
「あら、それは・・・。」
「ほんじゃあなぁ、しっかり勉強せいよ。」
そう言って霞様は行っちゃった。
「あの猛将華雄に立ち向かうとはねぇ、ふふふ。」
「そ、そのなんか無我夢中で・・・怖くて震えてましたけど・・・。」
「わたしも小喬ちゃんのそばにいるのがやっとでした。」
「二人ともあんまり無茶するなよ、ここには強い武将がたくさん居るんだ。みんなに頼るんだぞ。」
「一刀、あんたはもう少し鍛錬なさい。頑丈なだけじゃ敵は退けられないんだから。」
「え~?なんで矛先が俺に向くの?」
うふふ、一刀さまったら。
「ところで、何故桶を持ってきたのかしら?」
あ・・・。
三
(大喬turn)
「では大喬、小喬。勉強を教えるにあたりあなたたちの事を知らないと教えようがないわ。」
そ、そうですよね。いきなり難しいことを教えられても理解できないですし。
「そこでこれから幾つか質問をするので答えなさい。」
「「はい。」」
「まずは今身に付けている下着の色を・・・」
「かりーーーーーん!!」
「「は?」」
え?いま華琳様なんておっしゃいました?
「落ち着け!華琳!欲望が暴走しかけてるぞ。」
「ありがとう一刀・・・気を付けるわ・・・」
「「・・・・・・・・・・・」」
「それでは改めて・・・・・・・身体検査を」
「華琳・・・今日はもう止めようか?」
「だ、大丈夫。冗談よ、冗談・・・・・・チッ」
・・・いまのは聞こえなかったことにしよう・・・。
「今度こそ本当の質問。あなたたちが勉強した書を教えなさい。」
「はい、まずは・・・・・・・・・。」
わたしたちがお勉強した書を思い出せるだけお教えしました。
「へぇ、私の予想より勉強してるわね。」
「ああ、こりゃ驚いたな。下手すると俺より読んでるんじゃないか?」
「そ、そんな・・・全て理解してる訳ではないのでまだまだです!」
「あたしなんかお姉ちゃんより更に理解してないですよ!」
「それでも大したものだわね・・・・・・そうね、ひとつ試験を思いついたわ。」
華琳様が目を細めあたしたちを見ました。
口元は笑っていらっしゃるのに背筋に冷たいものが走りました。
「あなたたち、月の姓名は聞いているかしら?」
「えぇ・・・あの・・・先ほど『かゆう』さんが呼んでいました。『董卓さま』と・・・」
「それで・・・どういう事か分かるかしら?」
「あの・・・『董卓』は洛陽を支配し悪政を行ったため連合軍に討伐されたと、わたしたちは聞いていました。討ち取ったのは桃香さまの軍と聞いています。ですがそれは月さまを助命し、身を隠すための方便だったと推測します。そして何故そのようなことをしたのか・・・」
わたしは先ほどの掃除のときの月さまとの会話で感じたことを思い出して言いました。そして続きを小喬ちゃんが言ってくれます。
「あの当時の宦官と何進の権力争いは泥沼だって祭様から聞いています。たぶん月さまは黄巾党討伐のあと洛陽にいるうちにそれに巻き込まれた。一方あの連合軍結成時、一刀さま三人がいました。たぶん秘密同盟を結んで、そして一刀さまは天人の力で月さまがどのような方か、今どういう立場にいるのか、ご存知だったに違いありません!」
「一刀さまなら月さまを助けるっておっしゃると確信してます。」
わたしたちは華琳様と紫一刀さまに「どうですか?」と目で問いかけます。
「そうね・・・八十点といった処かしら。」
「おいおい、判定が厳しいな。別に間違ってないと思うけど・・・」
紫一刀さまは点数に不服があるみたいですけどわたしたちは推測が正しかったこと、一刀さまたちが素晴らしいかたであることを再確認できたのが嬉しくて手を取り合って喜びました。
「減点なのはあなたたちが一刀達のことを特別視しすぎるってところよ。」
華琳様がため息混じりに言われました・・・はうぅ。
「情報解析は相手の感情を読み、自分の感情を抑えて行いなさい・・・それでもたったあれだけの問いにここまで答えてみせたのは素晴らしいわ。」
あの華琳様が笑顔でほめてくださいました。
「「あ、ありがとうございます!」」
「呉はもったいないことをしたわね、こんな宝石の原石を野に埋もれさせていたなんて。ふふ、雪蓮の悔しがる顔が目に浮かぶわ。」
「良かったな大喬、小喬。華琳から合格が出て。」
紫一刀さまがわたしたちの頭を撫でてくれました。はふぅ、しあわせですぅ。
(小喬turn)
「それじゃあ学問の方は大体分かったから・・・」
華琳様がそう言うとなぜか一刀さまがぴくりと反応した。
「あなたたち料理は出来るかしら?」
一刀さま明らかに安堵してるけど・・・どうしたのかな?
「はい、家事は一通りこなせますけど・・・」
「あたしもお姉ちゃんも大きなお鍋を扱えないからあまり量は作れません・・・」
「そう、それじゃあ今から場所を厨房に移すわ。付いていらっしゃい。」
「「は、はい!」」
あたしたちは華琳様の後について部屋を出ると一刀さまが話しかけてくれました。
「華琳が特級厨師だってのは知ってるか?」
「はい、建業でも有名ですよ。ほら以前華琳様が建業に来たときに屋台で・・・」
「あ~、そういえば建業でもアレやらかしたもんなぁ。」
「でも華琳様はあたしたちの料理の腕を確かめてどうするつもりでしょう?」
「たぶんいざという時に助手ができるか確かめたいんだろう。華琳だって忙しいからな、料理する時間をいつ取れるかわからないし、取れたときに助手をできる人間が仕事で遠方に出てることも結構あったから、一人でも多く助手がほしいのさ。」
「そんなにお手伝いが出来る人少ないんですか?」
「みんなの料理の腕って極端なんだよ・・・普段華琳の助手は秋蘭・・・って今許昌に行ってるから会ったことないか、と流琉がやるんだけど、この二人の料理は美味いぞ。後、魏で料理ができるのは・・・二人ほどいるけど諸般の事情で助手が出来ない。他のは・・・・・・・・・・・・・・まあ、食べる専門だな、あはは。」
なんか、すごい間があったけど・・・。
「一刀さま、呉では料理の出来る方はご存知ですか?」
「う~ん、まあ祭さんが出来るのは知ってるよな。」
「はい、あたしたちも祭様からいくつかお料理習いましたから。」
「後は・・・蓮華と小蓮は修行中だし・・・雪蓮って料理作れるのか?穏もわからんなぁ、あっとそういえば冥琳が結構できたっけ・・・亞莎は胡麻団子以外作ってるの見たことないし・・・明命と思春って江賊だったから魚料理はできそうだが・・・ごめん、こんど赤に聞いておく。」
「い、いえそんな・・・じゃ、じゃあ蜀のみなさんは?」
「え~と、朱里と雛里は料理も上手いけどお菓子作りの方がすごいな、紫苑も結構な腕前だし、あと月と・・・・・・料理の腕はいいんだがむちゃくちゃ偏ったのがいたな・・・桃香と愛紗は努力してるけど・・・まあ、いつか上手くなる・・・と思う・・・あと白蓮・・・も今は成都に行ってるから会った事ないよな、白蓮の腕は・・・普通だな・・・後は良く分からないのとやっぱり食べる専門だな。」
「ふ~ん、なるほど・・・そういえば七乃は結構料理できるんですよ、知ってました?」
「え!?そうなの?」
「はい、美羽に作ってあげるから上達していったみたいです。」
「ああ、そうか。美羽と七乃が旅してるときも作るのは当然七乃だもんな。」
「一刀、私の助手で大事なのが三人抜けてるわよ。」
華琳様が歩きながら振り向かずに言いました。
「え?あと誰かいたっけ?」
「あなたたちよ、一刀。」
「お、俺ら?」
「まあ、包丁の使い方すらまだまだだけど、天の国の料理の話は私の創作意欲を十分刺激するわね。」
「すごいです!一刀さま。」
「華琳様のお手伝いってそういう意味もあったんですね。」
お姉ちゃんがそう言うと一刀さまがあたしたちの耳元で囁くように言いました。
(それもあるけど、今は華琳の監視が目的なんだ。)
華琳様の監視?
「・・・そうだわ、大喬、小喬、これからあなたたちの料理の腕を見せてもらうけど、作るものは以前一刀から聞いた料理にするわ。」
「て、天の国の料理を!?」
「あ、あたしたちがですか!?」
「なになに?何を作ってくれんの!?」
「焦らない。何を作るかは厨房に行ってからのお楽しみ。でも、あなたが普通に食べていたものにするつもりよ。」
「うわ~、期待しちゃう・・・あ、それなら赤と緑にも声掛けてやったほうが・・・」
「今日はあの二人もう先約が入ってるから無理よ。だから大喬、小喬、あなたたちが今から覚えて振舞っておあげなさい。」
「「うわぁ、はい!必ずっ!」」
一刀さまのための料理!絶対覚えるんだからっ!
「華琳・・・ちょっと照れくさいんだけど・・・」
「いいじゃない、このやり方が一番身に入るのよ。桃香と蓮華で実証済みだから間違いないわ。」
「あの二人の場合気持ちが先行しすぎてあらぬ方向に向かっている気がするんだが・・・」
「男なんだからそれぐらい笑って受け止めなさい。」
「うう、華陀にたのんで薬を用意しておかないと・・・」
桃香さまと蓮華さまってどんな料理作るんだろ・・・?
四
(大喬turn)
厨房に到着して中をのぞくと流琉ちゃんが下準備をしてくれていました。
「こんにちは!流琉!」
「こんにちは、流琉ちゃん。よろしくおねがいしますね。」
「はい!こんにちは、大喬さん、小喬さん!華琳さま、兄さま、調理器具と材料の準備終わってますよ。」
「ご苦労様、流琉。それでは今日の御題を発表します。『喝丼定食』よ!」
「おおおおおおおおお!カツ丼!ついに再会できるのかっ!!」
???かつ?丼は麺の器だし・・・定食っていうことは他に湯と香の物かな?
でも一刀さまがあんなに喜んでいるんですもの、がんばらなきゃ。
「二人のために説明するわ。まずは『喝』これが今回の料理の肝になるわけだけど、簡単に言うと揚げ物よ。但し、つける衣が最大の特徴。この『麺麭粉』をつかいます。」
「ぱんこ・・・ですか?不思議な粉ですね・・・ざらざらしてて、あ!砕けちゃう!」
「これは小麦粉を練り、釜で焼いた『麺麭』を乾燥させ削った物よ。」
「『麺麭』だけでも美味しいのに、それをさらに食材に加工するなんて天の国
の発想はすごいですね、兄さま。」
「そしてこの衣をつける食材は豚肉!豚の喝だから『豚喝』、そうよね一刀。」
「あ?ああ、豚以外でいろんな肉や魚介類、野菜なんかも美味いんだけど、詳しくいうと混乱するから今は『喝』で統一しておこう。」
この後一通り作り方を教わり実際調理をはじめました。
「お米の炊き方、包丁さばき、手際、どれも合格点だわ。」
「ほんと、お二人ともお上手です。」
「でもやっぱり問題はあなたたちが言った通り腕力の無さね。」
「はい・・・」
「すみません・・・」
「大丈夫ですよ、ちょっと修行すればすぐに力はつきますよ!」
「いや流琉・・・それをおまえが言っても説得力ないから・・・」
「うまっ!これぞ俺の求めていた『カツ丼』!うぅ、涙が出てきた・・・今なら何尋問されても素直に答えてしまいそう!」
「何言ってるの一刀?」
「いや、天の国のお約束だから気にしないで・・・でも、ほんと美味い!ありがとう、華琳、流琉、大喬、小喬。あ~、赤と緑に申し訳ないなぁ・・・」
出来上がった『喝丼定食』を一刀さまは本当においしそうに食べてくれました。
でも、同じ物を作るにはこれだけの最高の食材と特別な醤が必要になるから普段は作って差し上げられないなぁ。
「あの・・・どうしました?大喬さん。」
流琉ちゃんが心配しそうに訊いてくれます。
だめだな・・・みんなで楽しくお食事してるのに暗い顔しちゃ・・・。
「大喬、小喬。二人ともこの厨房を今後自由に使ってもいいわ。ここにある醤も蔵にたくさん貯蔵してあるから好きなだけ使って大丈夫、まあ食材は鮮度の問題があるから事前に申請しておきなさい。」
「よ、よろしいのですか?」
「こんなにすごい厨房を使えるなんて、ありがとうございます!」
「今までこの厨房を使う許可を出したのは流琉、秋蘭、月、朱里、雛里だけよ。全員で使っても余裕があるから安心しなさい。」
「食材に関しては市で買ってきてもいいぞ、月はいつもそうしてるみたいだし。」
「はい、もっともっと天の国の料理を覚えるので教えてくださいね、一刀さま。」
「ああ、俺たちも作ってほしい料理はたくさんあるからなぁ、期待してるよ。・・・ところで華琳、ここを使う許可って祭さん、紫苑、星には出さないのか?」
「酒飲みを入れるとここが宴会場になるからだめよ!特に星はだめ!」
「?・・・前はメンマ造りやメンマ料理で盛り上がってたのに・・・」
「だ・か・ら・よ!危うくこの厨房がメンマに埋め尽くされる所だったわ。あなただって三食毎度メンマの主菜を食べたくはないでしょう。」
「・・・・・・・ありがとう、華琳。俺は今心の底から感謝してる。」
メンマ?
(小喬turn)
食事を終え、後片付けをしたわたしたちはみんながいつも鍛錬に使ってる庭に移動しました。
「ではこれからあなたたちの体力を調べます。」
「「はい。」」
あたしたちは華琳様の前に並んで立っているんだけど・・・。
「あの・・・その前に・・・この服は一体・・・・・・」
「その服は一刀が意匠した女性用運動服『ぶるま』よ。」
「ちなみに下のことな、上はTシャツ。」
『てぃーしゃつ』・・・一刀さまってほんといろんなコト知ってるなぁ。
「この胸に大きく名前を書いた布を当てているのはどうしてでしょう?」
そう言ったお姉ちゃんの胸のところには「大喬」と書かれている。あたしのには「小喬」と書いてあった。
「様式美だっ!」
一刀さまが力強く言われるのであたしたちは納得しました。
「それでは流琉、お手本にこの鞠を軽く投げてちょうだい。」
「はい、華琳さま!」
流琉が鞠を手に取ると何か怪訝そうな顔で鞠を見つめてる。
「どうしたの、流琉?」
あたしが聞いてみると流琉が笑って答えてくれた。
「なんか不思議な鞠だなって思って・・・それにちょっと軽くて・・・」
「その鞠も一刀の発案よ、木の芯に糸を巻き、鞣した革で覆って縫った物よ。滑らなくて持ちやすいでしょう。」
「はい!兄さま、こういう物も知ってるんだ。」
「一刀さまってホントすごいよね!」
その一刀さまは計測係りとしてこれから投げる方向の離れた場所に立ってる。
「それじゃあ兄さまー!いきますよー!」
一刀さまが両手を振って合図してます。
「そーれっと!」
「ぐああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・」
え~っと・・・・流琉の投げた鞠?は竜巻を横にしたような土煙を上げ、一刀さまに向かって飛んで行き全てを飲み込んで・・・視界が戻ると一刀さまは元いた場所のはるか向こうで誰かを巻き込んで倒れていました・・・。
「流琉、軽くって言ったでしょう。」
「す、すいません。鞠が軽くて力の加減ができなくて・・・」
流琉ってホント怪力だわ・・・さっきも厨房で風呂桶みたいな鉄釜を軽がると持ち上げてたし・・・。
「って、一刀さま!」
「た、助けに行かないとっ!」
「お待ちなさい、二人とも!」
あたしとお姉ちゃんが慌てて走り出すと華琳様にとめられました。
「一刀なら大丈夫よ。掠り傷ひとつ負ってないでしょうから。」
「あ、あんなに飛ばされてるのにですか!?」
「そうねぇ・・・これも天人の力だと思ってちょうだい。」
そ、そんなに便利なものなのかなぁ?
倒れた一刀さまが動き出したけど、立ち上がらずにもぞもぞ動いて・・・一刀さまっ!
昼の外でそんなコトするなんてっ!言ってくださればあたしがお相手しますのにぃ!
「「一刀さまー!」」
さすがに華琳様も今度は止めず、四人で一刀さまの所に駆けていきました。
「ご、ご主人さまっ!早く離れろよっ!」
「い、いや・・・俺も離れてあげたいんだけど・・・ボタンが絡まったり、銀閃が邪魔したりで・・・」
「ひやぁ!胸揉むなあっ!こ、こらっナニでかくしてんだよっ!」
「うわっ待て!いててっ翠!銀閃動かすな!穂先が俺の股間に!」
「だったら小さくすればいいだろっ!!」
「自分の意思ではままならない部分なんだよっ!」
「一刀さま、ずるい!あたしがお相手します!」
「わ、わたしも・・・」
「うわぁ、大喬!小喬!抱きつかないでっ!おしりが増えるっ!竿が二本になるーっ!!」
五
(大喬turn)
「まったく、何してるのよ。」
「事故だ、事故!」
「あたしはご主人さまが飛んできたから受け止めただけだし・・・」
「「すみません・・・」」
「ごめんなさい兄さま・・・私があんな投げ方しなければ・・・」
「いや、だから事故だって。誰も悪くないんだから謝らない。ところで流琉、さっきの球どうやって投げたか覚えてる?」
「は、はい。鞠に指が引っかかる感じで・・・こう・・・」
「やっぱりスクリューか・・・」
「は?透龍?また新しい言葉ね。」
「意味は・・・螺旋に近いかな?まあ、この話はまた今度。それより大喬と小喬の体力測定を始めよう。」
「なあ華琳、あたしも手伝っていいか?」
「あら、翠。鍛錬をしに来たのではないの?」
「なんか離れた所にいたらまたさっきみたいなことが起こる気がして・・・」
「それもそうね、ではお願い。」
そうしてわたしたちは体力測定をしていきました。
「二人とも、少し足を広げて腰に手を当てて、後ろに反って。」
「「はい。」」
「へえ、二人とも身体やわいなぁ。力さえ付けば武でも良い線いけるんじゃないか?」
翠さんがそう言ってほめてくれました。そ、そうなのかな?お母さまには才能無いって言われたけど・・・。
「一刀・・・この『ぶるま』・・・いい仕事だわ。」
「ふふふ、この布地を開発するのに苦労はしたが・・・その甲斐があったぜ。」
一刀さまと華琳様が真剣な表情であたしたちを見ています。頑張らなくっちゃ。
「じゃあ、次は足を閉じて、回れ右!膝を曲げないようにして上体を倒して、どこまで曲げられるか。」
「うわぁ、顔が足についちゃいましたよ!」
「すげぇ、あんなのはじめて見たよ。」
流琉ちゃんと翠さんにそんなにほめられると恥ずかしくなっちゃう。
「絶景だわ・・・・」
「絶景だな・・・・」
一刀さまと華琳様、ずっと腕を胸の前で組んで仁王立ちしながら何かお話してるけど・・・何話しているのかしら?
「次、その場に座って足を開いて、上体を前へ。・・・ねえ一刀、春蘭と秋蘭が今許昌に居るのは覚えている?」
「ああ、覚えてる・・・」
「桂花が交代のために昨日許昌に向け出発したのも覚えている?」
「ああ、覚えてる・・・」
「ではあなたがここにいる理由はなにかしら?」
「華琳の監視役・・・」
「次、上体を起こして、足はそのまま、上体を右に捻る。限界まで行ったら次は左、それを交互に合図が有るまで続けなさい。・・・それは誰に頼まれたのかしら?」
「桂花・・・」
「一刀は私と桂花、どちらの言うことを聞くのかしら?」
「桂花にはこの間のことで借りがある・・・・だがしかし!俺たちにも事情がある!」
「ふ~ん、それで?」
「なんのため霞にそれらしいことを言ったと思う?」
「ちゃんと役目を果たしているという既成事実を作るため、ね。」
「フッフッフッ。」
「ずいぶんと悪知恵が働くようになったわね。」
「俺には華琳という最高の師がいるんでね。」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。」
「あの、翠さん。華琳さまと兄さま、さっきから瞬き一つしないで仁王立ちのまま会話してるみたいですけど・・・なんか怖いです。」
「あぁ、すげぇ気迫を感じるな・・・それだけ真剣に大喬と小喬の事考えてやってるんだな。」
「はい!止め!ご苦労さま、大喬、小喬。」
「翠も流琉もご苦労さん。手伝ってくれてありがとうな。」
「気にすんなって、二人と仲良くなるキッカケと思えばお安いご用さ。」
「あたしもです。大喬さん、小喬さん、また一緒にお料理しましょうね。」
「うん!今度はあたしたちが先に一刀さまのお料理覚えて流琉に教えてあげるんだから。」
「はい、翠さん、流琉ちゃん。これからもよろしくお願いします。」
こんな風にみなさんとも仲良くなれるといいな・・・。
「私と一刀はこれから集めた情報を元に今後どうするか大喬、小喬と話し合うため移動するわ。流琉、今日はもう上がっていいわよ。」
「はい!華琳さま、失礼します。」
そう言って流琉ちゃんはわたしたちに手を振ってお庭を後にしました。
「あたしはここで鍛錬してくよ。」
「そうか、それじゃがんばってな、翠。」
わたしたちは翠さんに手を振って、一刀さまと華琳様に付いてお庭を後にします。
「一刀さま、華琳様、次に向かわれるお部屋はどちらなんですか?」
「ふふ、素敵な部屋よ・・・」
華琳様が笑顔で答えてくれました。
(これ以降曹操様、紫一刀様、大喬、小喬の姿は翌日の朝まで確認されておりません。報告書が提出されるまでお待ち下さい・・・・・・・・・・。)
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外伝 『二喬伝』 其の一をお送りします。
唐突に外伝となりましたが三人の一刀も普通に登場しますのでご安心ください。
主役は当然、大喬と小喬。一人称形式で語り手を交互に繰り返していきます。
第三部で赤一刀が外史の事を誤魔化すのに変な説明をしたため、二人は誤解したままです。ひどい話ですね。
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