No.361817

外史異聞譚~幕ノ五十一~

拙作の作風が知りたい方は
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2012-01-11 06:00:50 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2535   閲覧ユーザー数:1466

≪漢中鎮守府/文季徳視点≫

 

(あれ………

 斗詩が泣いてる………)

 

異常な喉の乾きを覚えて、あたいはうっすらと目を開ける

 

(あたいは確か、陥陣営とやりあって、そして……)

 

そうだ、あの時鍔迫り合いになったところで、あたいはあいつの武器にやられて、そのまま気絶したんだ…

 

(おかしいな……

 身体が動かないや…)

 

耐え難かった痛みは今は殆どない

苦労して首を動かして自分の肩を見てみると、添え木と一緒にがっちりと包帯が巻かれていた

 

(ああ、これじゃ動けるはずないな……)

 

「………ぅぁ…」

 

あたいは「水をくれ」と言ったつもりだったんだけど、乾きでひりついた喉から漏れたのは、力のない呻き声だった

 

「麻沸散が効いてくれたみたいだな

 本当はこんな高価い薬は使いたくはないんだがね」

 

いかにも“姐さん”って感じの短く髪を刈り込んだ女が、冷めた目であたいを見ている

血のついた手を用意していた水桶で洗っているのが見えるから、多分医者なんだろう

この女は洛陽で見た覚えがある

確か、張公祺って言ったっけか…

 

女は水差しをあたいの口に充てがうと、ゆっくりと水を飲ませてくれる

 

ちくしょう、あたいのドジで斗詩が泣いてるじゃねえかよ…

心配かけちまって、本当にすまねえ…

 

「ぶ、文ちゃん!

 よ、よかったようぅ……」

 

(泣くなって斗詩……

 ドジ踏んじまったけど、あたいは大丈夫だからさ…)

 

あたいは乾いた舌を潤すように、本当にゆっくりと水を飲む

 

あたいの手当をしてくれていたらしいその女は、泣いてる斗詩の方を見もせずにあたいに告げる

 

「麻沸散が効いているうちは楽だろうが、もうしばらくは喋るのは控えておくんだね

 どうせまともに喋れる状態じゃないとは思うけどさ」

 

麻沸散ってのが何かは解んないけど、言われなくてもそうするさ

本当は斗詩に声をかけてやりたいんだが、どうも上手く声が出ないしな

 

「公祺さん、そいつの容態は?」

 

「そうだねえ……

 本来なら三月は褥でじっとしてろって言いたい状態だね

 アタシと華陀の二人掛かりで手術に踏み切って、一刀が言う通り骨を繋ぐのに金を用いたとしても、多分完治はしない。武将としてどころか、まともに生活できるかも怪しいと思うね」

 

「そうか」

 

あたいが見れない方向から聞こえてきた男の声に、この女がすらすらと答えてる

 

ちくしょう、他人事だと思って好き放題言ってくれるじゃねえかよ

この程度の怪我なんてな、あたいの根性と斗詩の愛情があればすぐに治るんだっつーの

 

「そ、そんな………」

 

(だから斗詩、心配すんなって。こんな怪我なんざ気合で治してみせるからさ…)

 

「さて、もう一度問おうか

 お前たちはどんな目に合いたいのか、俺に教えてくれないか?」

 

この男の声には聞き覚えがある

天の御使いとかいう如何様野郎だ

でも、こいつ、こんなのっぺりした声で喋る奴だったかな?

 

「ひ…っ!!」

 

おいコラ、あたいが身体を動かせないと思って、あたいの斗詩をいじめてんじゃねえぞ!

 

流石に文句を言ってやろうと身体を動かして怒鳴ろうとしたんだが、ぴくりとも動きやしない

 

「おい、アンタが何を考えてるかは知らないが、高価い薬まで使ってわざわざ治療してやったんだ

 ただでさえ踏み殺したくて仕方がないってのに、治療したのまで無駄にしようってんなら、本気で殺すぞ!?」

 

女はあたいの髪を掴んで無理やり視線を合わせると、怒りに燃える目でそう吠えた

 

情けない事に、あたいは思わずびびっちまって視線を泳がせたんだが、そうすると女は「ふん!」と鼻息も荒く、でもゆっくりとあたいの姿勢を斗詩が見えるようにしてくれた

 

「文ちゃんお願い、無茶しないで……」

 

涙でぐしゃぐしゃになった斗詩に向かってあたいは笑って見せる

 

(……な?

 大丈夫だろ?)

 

すると、あたいの視界からだと腰から下しか見えない位置から、男の声が再び聞こえてきた

 

「希望はなし、か

 なら仕方がない、こちらの流儀で話を進めるとしよう」

 

その声を機に斗詩の顔から血の気が引いていく

 

そしてあたいはようやく理解した

 

 

あたい達は完全に失敗したんだって事に

 

どうしてここまで頭がぼやっとしてるのかは理解できないままだったけど…

≪漢中鎮守府/北郷一刀視点≫

 

懿を含め、みんなの表情が固い

これは多分、俺のせいなんだろうな

 

とはいえ流石に今は許して欲しいと思う

 

正直な気持ちを言えば、俺はこの二人を細胞の一片まで引き裂いても飽き足らないくらいに憎くて仕方がない

 

色々な気持ちを押し潰した結果、みんなには今の俺がとても不安なんだろう

 

大丈夫、心配はいらない

私怨に駆られて憎悪のままにこいつらをどうにかする、なんて事は絶対にしない

誰が簡単に楽にしてやるものか

 

「さて、天律ではこういう場合は何に該当するんだったっけ」

 

令則さんにそのあたりの事を任せっきりだったため、俺も天律の概要は覚えているが細かい量刑に関してはあやふやな部分がある

俺の記憶ではよくて公開斬首だと思うのだが、ここは懿や公祺さん、忠英さんや儁乂さんの言葉を聞いておくべきだろう

 

すると、この中では令則さんに次いで律に詳しいだろう、懿と公祺さんが異口同音に同じ事を口にした

 

「天律の範囲で捌くのでしたら、公開処刑となるかと思います

 基準としては賊の中でも特に性質の悪いものに該当すると思いますので、恐らくは磔刑か車裂きになるかと」

 

「そうさなあ…

 悪いが楽に死ねる方法で処刑ってのはないだろうね

 磔刑・車裂き・水牢…どれにしても公開処刑ってのは変わらんと思うよ」

 

「ひっ!!」

 

喉の奥から押し殺した悲鳴をあげる顔叔敬だが、それだけの覚悟があってやったのだろうと問いかけたくなる

多分聞くだけ無駄だろうが…

 

これに補足を加えたのは儁乂さんだ

 

「全てを正直に話せば、場合によっては罪一等を減じる、という事もありますな

 とはいえ死罪は免れぬでござろうが…」

 

みんなの言葉を聞きながら、俺は天律の抜け道を模索している

 

なぜなら、俺はこの二人を殺して楽にしてやる気が全くなかったからだ

 

ちなみに、国営娼館に放り込むなどという、天の国の欲求不満な男子中学生のような発想は俺はもっていない

あれは、その場所にあって正気を手放すことすらできない人間であればこそ有効なのであって、この二人を放り込んでもどこぞのエロゲやAVよろしく、おかしくなるだけなのが簡単に予想がつくからだ

 

そんなくだらない事をやって俺達の評判をわざわざ落とす気は全くない

 

「過去に賊の首魁で苦役で収まった判例はあったかな?」

 

俺がそう呟くと、懿を除いた全員…周公謹を含めてだが、みんなの顔が驚愕に染まる

懿はと言えば、まるで悪い予感が当たった、とでも言いたげにそっと目を伏せていた

 

「おい一刀!

 お前まさか、こいつらに温情かけようってんじゃないだろうな!」

 

公祺さんが思わず、といった感じで怒鳴るが、そう勘違いされても仕方がないといえば仕方がない

なので俺は、胎に対流している、このドス黒いものを吐き出すかのようにみんなに告げた

 

「……温情、だって?

 一体何を言っているんだ?

 どうしてこいつらを“殺して楽にして”やらなきゃいけないのか、と俺は思ってるんだよ」

 

『…っ!!』

 

一斉に息を呑む一同に向かって、俺はむしろ淡々と続ける

 

「天律で拷問を廃止しておいて本当によかったと俺は思ってるよ

 俺が“王”でなかったのもね。もし専制君主で好きなようにしていいのなら、俺は今頃正気でいられたか全く自信がない」

 

「一刀、あんた…」

 

忠英さんが喘ぐように呟くが、俺はそれに斟酌せずに言葉を紡ぎ続ける

 

「単に苦しめて苦しめて、死にたくとも死ねない状態でいさせようと思うなら簡単さ

 手足を切り落とし舌を引き抜き目を刳り貫き耳を殺いで、一生芋虫のように生き永らえさせればいい

 さぞ不愉快な生き物が生まれる事だろうさ」

 

呂太后の手により、人豚として凄絶な末路を迎えた戚夫人の例もある

言うまでもなく、こういう発想自体が不健全極まりないもので、人間として唾棄すべき最低最悪の発想でしかない

だから俺は本当に感謝している

一時の感情でこのような思考を実行に移せるような立場にならないよう、律を定めておいて本当によかったと

 

「俺は思うんだ

 こいつらを殺すなら、苦しみ抜いて己のやった事を心底後悔して、そして“生きたい”という状態でなければ意味がないとね

 ………ああ、誰が簡単に殺してなどやるものか

 袁紹に殉じたと自己陶酔に浸っているうちに殺してやるなど、俺は絶対に認めない」

 

過度の憎悪は呪いにも似ている

それを吐き出したところで誰が楽になる訳でもなく、ただただそれに染まっていくだけだ

 

それが証拠に見てみるといい

 

顔叔敬は恐怖で顔を真青にし、既に歯の根があわず、カチカチと歯を震わせながらその場にへたりこんでいる

文季徳も圧倒的ともいえる俺の憎悪に当てられてか、その瞳には恐怖と驚愕しか浮かんではいない

 

公祺さんと忠英さん、そして周公謹も、俺の負の感情に当てられたのか、むしろ呆然としている

 

儁乂さんはこの中にあっては唯一冷静……とも言えないか

あの目は俺の正気を疑っている目だ

儁乂さんの気質を考えたら、この場で殺されてもおかしくないかも知れないな

それだけの暴言を、俺はこの場に吐き出している

 

そして懿はといえば…

 

と、俺の頬に衝撃が走った

痛みはなく、ただ熱い

 

「我が君! 少し落ち着きなされませ!!」

 

じんじんと熱い頬を押さえながら懿の顔を見ると、人前だというのにその顔に微笑みはなく、目尻には涙が浮かんでいた

≪漢中鎮守府/顔叔敬視点≫

 

「民衆を巻き込んだ事を悔いる気持ちを、そのような下劣な感情に置き換えるような真似はお止しください!

 貴方は…貴方は!

 そうしてご自分のみならず、天譴軍の全てを貶め、汚泥の中に叩き落とすおつもりですか!!」

 

圧倒的な憎悪に曝され、恐怖でへたりこんでいた私からは、司馬仲達さんの背中しか見る事はできません

 

この場にいたみんな、官吏や兵士のみならず壁や空気に至るまでもが憎悪一色に染め上げられている中で、仲達さんの舌鋒はあまりにも清冽なものでした

 

「我が君……

 ご自分を責めるあまり、そのような事をお考えになるのはどうかお止めください

 お願いですから………」

 

その背中は徐々に震えながら小さくなっていきます

 

そして、能面のようだったあの男の表情が動きます

困ったような、嬉しいような、謝りたいような、そんな笑顔に

 

「…………うん、ごめん

 やっぱり俺はどうかしていたみたいだ

 この二人を苦しめ抜いたって、巻き込まれて死んだ人達は帰ってこないのにね」

 

そして、あの男は仲達さんの頬にそっと手を伸ばすと、信じられないくらい優しい声で囁きました

 

「ありがとう」

 

その言葉を機に、ずるずると崩れ落ち、差し伸べられた手にしがみつくように嗚咽を漏らしはじめた仲達さんの頭を、あの男が幼子をあやすように撫でています

 

と、張儁乂さんが大きく溜息をついてから呟きました

 

「やれやれ、でござるな。どうやら最悪の事態は回避できたようでござる」

 

「全くだ

 自分がおかしくなってるのに気付かないままで、思考はいつもより回ってる一刀なんざ、危なすぎて手がつけられんよ」

 

高忠英さんもほっとした表情でゆったりと腕を組んでいます

 

「アンタらにも事情はあったんだろうが、これがアンタらがやった事の結果ってやつだ

 よーっく見ておくんだな」

 

張公祺さんがそう言うのを聞きながら、私はようやく思い当たりました

 

天の御使いと言われるあの男がどうしてここまで憎悪に身を浸していたのか

 

私は自分の命が狙われたからだと最初は思っていましたが、それは違いました

多分この男は、自分だけが狙われたのならここまで怒りはしなかった

他人を、無辜の民を巻き込んだ事に、どうしようもなく怒りを覚えていたんです

 

「あの鉄塊がそのまま命中してたら、アタシらは全滅だったろうがね

 アンタら、その後の事を少しでも考えたかい?

 アンタらがどうなるかじゃない、残された民衆がどうなるかをさ」

 

文ちゃんの目は「そんなの知った事か!」と言っていますが、私にはなんとなく理解できました

 

この人達は姫の最後やその後の扱いに関しては、多分何も感じていません

正確には感じていないのではなく、一切後悔はしていないと思います

 

それは私には絶対に許せない事なのは変わりません

 

だけど、私は文ちゃんをもっと別の意味で叱りつけなければならなかったんです

 

例えば、正面から堂々と一騎討ちを申し込みに来たとすれば…

 

(やっぱり姫はすごいなあ…

 『華麗で優雅に雄々しく』

 って、実はとっても難しくて、でも、一番いい方法だったんですね…)

 

「ふふ……」

 

涙は乾かないままで、まだ血の気が引いているのも自分で判るんですが、思わず笑いが漏れてきます

 

「おい、顔叔敬

 まさかアンタまでおかしくなったってんじゃ…」

 

張公祺さんがひいているのが判りますが、ちょっとこれは止められそうにないです

 

私は笑いながら答えます

 

「いえ、なんていうか、私達って馬鹿な事をしちゃったんだなあ

 と思って……

 そうしたらなんか可笑しくなってきちゃって…」

 

「確かに馬鹿な事でござったな

 ここまでの事を考えるのであれば、本初殿の首を賭けて呂奉先に一騎討ちを申し込むなり、気概の見せようはいくらでもあったでござろうに」

 

「はい、本当に……」

 

何を今更、と言う感じで呆れたような儁乂さんの言葉に私は頷きます

 

さて、なんかすっきりしちゃいましたし、後はなんとか文ちゃんを助けないといけないよね

 

私は、御使いさんに向かって声をかけます

 

「あの……

 いいでしょうか?」

 

御使いさんは、憑き物が落ちたようなすっきりした表情で私に顔を向けました

 

「なにかな?

 暴走していたのは認めるけど、あれも俺の偽らざる心情だ

 ただ、同じことはもう言わないけどね」

 

私はその言葉に首を横に振りながら質問をします

 

「最初に言っていた『私達はどんな目にあいたいか』という質問にお答えしようと思うんですけど、いいですか?」

 

周りのみんなや文ちゃんも驚いたようですが、私は気にせず続けます

 

「その答えは

“罪を償う機会をいただいてから処刑されたい”

 です

 ただ、是非聞いて欲しいお願いがあります」

 

御使いさんは私から視線を逸らして考え込んでいます

 

「………

 その“お願い”の予想はつくんだけど、相当に難しいというか、多分無理だと思うんだけど?」

 

いえ、文ちゃんには悪いけど、これなら大丈夫なはずです

ただ、文ちゃん怒るだろうなあ…

 

「敢えて申し上げますが、私はともかく文季徳は武人としても、多分一般人としても終わっています

 ですので、漢中に留め置き、一生蔑まれて暮らすのが一番の罰だと思うんです」

 

酷いこと言ってごめんね、文ちゃん

でも、二人共死んじゃったら、誰が姫を弔ってくれるの?

そして、これから日常生活を送るのにすら苦労する文ちゃんと違って、私は見逃してはもらえないんだよ?

 

私の言葉に再び騒ごうとする文ちゃんでしたけど、公祺さんが文ちゃんの頭を上から押さえつけて黙らせてくれました

 

「いいから怪我人は黙って大人しくしてやがれってんだ

 次は本当に踏むぞてめえ!」

 

「………続けてくれるかな?」

 

先を促してくれる御使いさんに、私は頷きます

 

「刺客となった者が漢中で生き永らえながらも、罪を償い続けるというのは意味があると思います

 それがその時の怪我が元で日常生活すら困難であるなら尚更にです

 そして私は…」

 

文ちゃんが泣きそうな顔になっているのを見て、決心が揺らぎそうになります

でも、私はやっぱり文ちゃんには生きていて欲しい

 

「私は、漢中の人々が望む形で贖罪をし、その上で処刑されたいと思います」

 

これに応えてくれたのは忠英さんです

 

「なるほどね

 苦役を課した上で処刑か……

 天律では可能っぽいが、要検討ってところかね」

 

「そうでござるな…

 拙者らの一存で決める訳にはいかぬものですが、考慮の余地はあるかと思います

 ただ、顔叔敬」

 

儁乂さんは頷きながらも、私に声をかけてきました

 

「なんですか?」

 

「お主の申し出は、拙者が言うのもなんだが、文季徳共々すぐに処刑された方が遥かにましなものでありますぞ?」

 

つまり、多分私の要求は通る可能性が高いってことですよね

 

文ちゃんがものすごく怒って恨めしそうな目で見てるけど、ついでにいうと私だけ楽になっちゃう気もするんだけど…

 

ごめん、文ちゃん

 

「それで、これは厚かましいお願いなんですが、絶対に聞いていただきたい事があります」

 

みんなの視線が先を促すのを察して、私はそれを口にしました

 

「今すぐでなくていいんです

 お願いですから姫を、姫の首を還していただけないでしょうか!

 今となっては姫は河北に帰る事もできません

 だからせめて!

 せめてどこでもいいんです!!

 きちんと弔って差し上げたいんです!

 お願いします!!」

 

拘束されている私は、床に額を擦り付ける事でしか礼をする事ができません

 

そして、なんとなくだけど文ちゃんの雰囲気が変わって、なんか諦めたような感じになりました

 

本当になんとなくだけど、今の文ちゃんの言いたい事が解ります

 

(ちくしょーっ!!

 ずるいぞ斗詩!

 姫の事を言い出されたら、あたいはこれ以上我儘いえねえじゃねえかよ!

 この卑怯もーんっ!! 絶対一生死んでも許さねえ! けど愛してるぞーっ!!)

 

多分、そんな事を盛大に言ってる気がします

 

そして、御使いさんは、むしろ優しく私に語りかけてきてくれました

 

「確約はできないけど検討はしてみるよ。それでそうだな…もし君が言った案が受け入れられた場合は、袁本初の首を俺達が引き取る努力はしよう

 それでいいかな?」

 

「あ…

 あ……

 あ、ありがとうございますっ!!」

 

こうして私達の詮議は終わり、私と文ちゃんは評定の間を後にします

 

お薬が切れてきたのか、再び呻きはじめた文ちゃんを見送りながら私は声をかけます

 

「文ちゃん、無理しないで大事にしてね?」

 

すると、声が出ない状態のはずの文ちゃんの口から、声が聞こえてきました

 

「うっせ……

 あ、あたい、は…

 絶対、許さない、かん…な……

 この、馬鹿斗詩………」

 

「こんな所で真名で呼ぶな、この馬鹿文ちゃん」

 

「へ、へへ……へ…」

 

担架で運ばれていく文ちゃんを見送って、私は内心呟きました

 

 

(さよなら、文ちゃん

 私も文ちゃんが本当に大好きだったよ)


 
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