No.360069

【改訂版】真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 四章:話の二

甘露さん

今北産業
・風
・からの思春さん
・と思ったところで明命ちゃん

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2012-01-07 23:01:28 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6084   閲覧ユーザー数:5316

 /一刀

 

 「はぁ? また配達かよ」

 

 霞と婚約した次の日。

 もはや書物中毒なんじゃないか、という位のレベルで読み漁る俺の元へ割と真面目そうな表情をしたオッサンが来た。

 

 「おう。今回は遥か南方の江賊様だ。今まであっちとは交流が無かったからな。

  いい顧客を増やす機会だ。しっかり頼むぜ」

 

 ニカッ、と一笑して見せるも、何となく笑顔に影がある様な無い様な。

 尤も、ソレはオッサンの問題であるから俺が口をはさんでいい領分じゃない。

 

 「あー、はいはい。前みたいに納期ギリギリな訳じゃないんだろ?」

 「おう、取引は四日後だ。安邑にゃ此処からなら三日だから大丈夫だろう。

  んで、取引が済んだ後は二日間、適当に休んで構わんぜ。その代わり今日、準備が出来次第直ぐに向かってもらうけどな」

 「へぇ……、そりゃまた急な。てか二日も休暇貰えるのか。こりゃ帰って来てからが怖いね」

 

 理由がイマイチ掴めない早急な予定に首をかしげつつ、わざとらしく肩をすくめるとオッサンはにんまりと笑った。

 

 「がっはっは、分かってるじゃねえか。帰ってきたら扱き使ってやるからな、向こうで精々体力回復しとくこったな」

 「ういうい、ったく、人使いが荒いお方で」

 「立ってる者は親でも使え精神だからな。おっと、但し嫁と娘は除くぜ」

 「……マジで尻に敷かれてんな」

 「おうよ、いいか坊主、兎々子の美巨尻は絶品でな」

 「黙れ色ボケ親父。手前の惚気なんざお呼びじゃねえぞ」

 「がっはっは、なぁにむくれてんだ儒子! どうせ手前も絞り取られた口だろ」

 「っ!? そ、そんなワケねぇよ!」

 

 図星だった。具体的には十二発くらいで、俺が打ち止め宣言をした。俺も大概絶倫だったけど霞はそれ以上だった訳だ。

 あと途中で起きていたっぽい風に散々罵られた。

 変態だの煩いだの安眠妨害だの見せつけて感じちゃう屑だのどうして自分も巻き込まなかっただのetc.

 もう止めて! 俺の硝子ハートの耐久力はもう零よ! 

 何て具合に俺を満身創痍させたら満足したのか、風は妙につやつやした感じでマジでつやつやした霞と談笑している。

 女性が性的に満たされると調子が良くなるってのがマジだったことにも驚きだが、それ以上に風が罵って性的に満たされている事が驚きだ。

 俺、割と普通な性的嗜好だと思うんだけど、こんなんで風を受け入れられるのかしら。

 

 「がっはっはっは、若いな儒子! 手前の尻が青い内じゃ俺ぁ負ける気しねぇぜ」

 「……くそっ、今にオッサンをぎゃふんと言わせてやるっ」

 「ぎゃふんぎゃふん、なんつってな」

 

 見るだけで人をいらだたせる様な、まるでピエロみたいな動きで俺を弄るオッサン。

 いつになく弄られてる気がしないでもないけど、言葉とは裏腹に悪い気分じゃ無かった。

 

 「くっそ、馬糞でも踏んで微妙に落ち込んじまえ!」

 「ぬぅ、それは微妙に嫌だな、がっはっは」

 「はぁ……ったく、何時に無く弄りやがって。今回も同じ面子でいいのか?」

 

 霞と顔良文醜、俺の四人だ。

 俺がそう尋ねると、オッサンはむむむと一考した後口を開いた。

 

 「そうだな、それでも構わんが、どうせなら仲徳の嬢ちゃんも連れてってやれ」

 「風も? いやでも現場連れてく訳にもいかないし」

 「真名を呼ばれた気がしたので、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、なのですよー」

 「お、おう」

 

 そんな死語ネタをどうして……いや、寧ろ未来超先取りか?

 

 「おやー、どうやらお兄さんのお気に召さなかったみたいなのです。という訳で霞お姉さん」

 「にゃははっ、呼ばれた気がしてトゥットゥルー、しあしぃやで♪ ……なぁ、風。これで良かったん?」

 「まぁ、外しては無いと思うのですよ」

 

 死語ネタの次は……えっと、どう反応したらいいんだろう。

 可愛らしくこてん、と首をかしげる風。

 いやいや、どう考えてもこの『な、何て言ったらいいんだってばよ…』的な空気は外した空気だろ。

 

 何となく不安そうにきょろきょろする霞も霞だけど。

 空気凍ってる事に気付いてください、とそんな願いを込めて霞の肩をぽんぽん叩く。

 

 若干涙目で振り返った霞に、俺はわざとらしく大きく俯いて首を横に振った。 

 

 「まぁ、て……。風が絶対や言うたでやったんに、これどう見ても盛大に外しとるやんけ!」

 「どうどう、お姉さん落ち着いて。お兄さんお兄さん、霞お姉さんに何か言ってやってくださいー」

 「お、おう。まあ、悪くは無いと思う、よ?」

 

 尤も。直前に霞に空気を悟らせた俺が言っても効果は無……あった。

 

 「そ、そう? えへへ、ならウチ、今度からこれ使おうかな……」

 「いや止めとけ」

 

 霞が傷つく前に止めてやるのも優しさだろう、うん。

 俺の速攻の反応に「やっぱ駄目やったんやん……風をホイホイ信じた一刻前のウチのバカ!」などと言いながら嘆いていたけど、うん。

 

 「まあ霞は置いといてだな。どうして風もなんだよ、危ないじゃん」

 「と、言ってるぜ。仲徳の嬢ちゃん」

 「なんとっ。朴念仁朴念仁とは日々思ってましたが、これほどとは……風も開いた口が塞がらないのです」 

 「いや飴で塞がってるやん」

 「霞お姉さんはお黙りやがれなのです。

  お兄さんは、偶の休暇を、風を除け者にして過ごす腹積りだった、そう言う訳なのですね」

 「あっ、えっと、そう言う訳じゃ」

 

 風が拗ねた様にじとー、と俺を睨んで漸く気付いた。

 風をここに置いて行ったら俺達が休暇を過ごす内風はお留守番になる、という事を。

 

 「じゃあどういう訳なのですか。そりゃあお兄さんは霞お姉さんとぬぷぬぷヤリたいかもしれませんが。

  だからと言って風を置いてけぼりにしてゆうべはおたのしみでしたね、なんてのは酷過ぎると思うのです」

 「うっ、えっと、その、なんだ……すまん」

 

 とりあえずぺこり、と頭を下げる。

 こちらの流儀じゃ頭を下げる程の事でも無いけどやっちゃうのは元日本人の性というかなんというか。

 

 「まぁいいんですけどねー。それで、風は連れて行ってもらえるのですか?」

 「……取引中は霞と一緒に待機な?」

 

 渋々、といった感じが俺自身でさえ感じる様な口調で答えると、風は満足げに一つ頷いた。

 

 『おうおう、俺と風に任せとけよ兄ちゃん』

 「なのですよー。って、宝慧、風の台詞盗っちゃ駄目なのです」

 

 なんとも締まらない、というより締まったことなんてあったっけ、なんて愚考しつつ、

 俺は満足げな風とその風に黙れ言われて絶賛体育座りなうな霞に背を向けると、如何にして文醜顔良の姦しコンビを上手く口車に乗っけるかに思考をシフトさせた。

 

 

 **

 

 

 /甘寧

 

 

 馬蹄の音が平野に響く。

 船と違い緩やかな上下の揺れでない事に酷く違和感を感じる。

 私の後に続く人は二人。

 古い付き合いで恩人でもある蘇飛と周泰だ。

 どちらも私と同じ褐色肌で、南方生まれだと一目でわかる。   

 尤も、共通点は肌の色だけで、明命は何処か小動物的に可愛らしく蘇飛は姉御肌の美人と言ったところであり、無骨な私とは大違いだ。

   

 「幼平、蘇飛。場所までは此処からあとどれ位かかるか分かるか?」

 「はいっ! あと二刻程もすれば安邑が見えると思います!」

 「しかし興覇よ、その男と私を易々と信じていいのかい?」 

 

 そう言い蘇飛は悔しそうにうつむいた。

 前回の取引相手は黄祖という男で、蘇飛の紹介で取り引きをするに至ったのだが見事に裏切られ結局部下を七人も失ってしまったのだ。 

 それに負い目と不安を感じているのだろう。

 

 「なに、私は恩人であるお前を信じるさ」

 「……そうか。ありがとうな」

 「礼には及ばん。前回は確かに紹介された男に裏切られたかもしれぬが、そこで私と明命を助けたのも同様にお前だ」

 「そうですよ。思春様と私の命の恩人なのですから! そんな人を信用しない訳がないのです!」

 「二人とも済まぬ。精々私は期待に答えられるといいのだがな」

 

 そう言ったきり蘇飛は黙ってしまった。

 此処で話しかけるのは野暮というものだろう、ソレくらいは私にも分かった。

 

 前回の失敗で、確かに蘇飛は紹介する相手を間違えたが、その後の襲撃から私と明命を救出したのもまた事実。

 囲まれた私と明命の元へ単騎で包囲を抜き救い出し、瀕死の明命を快復させたのもまた蘇飛なのだ。

 

  

 しかし……願わくば今回は成功して欲しいものだ。

 

 

 

 「思春様! 指定された場所に天幕が見えました!」

 

 大体二刻経っただろうか、という頃。

 明命が正面を向いて声を上げた。

 

 目を細め凝らし見ると……あった。

 相手方の指定通り、丁度雑木林と被り安邑の正面街道からは見えない場所に天幕が一つだけぽつんとあった。

 

 「どうやらアレの様だ。二人とも、武器だけは直ぐに抜けるようにしておけ」

 「言われんでも分かっとるわい。ふむ、少なくとも我らよりずっと先に来ておるみたいだな」

 「遅刻をしないだけでもちょっとは信用できそうですね!」 

 「まあ、最低限の礼節はあるのだろうな」

 

 だからと言って、信用に足るという訳ではないが、なんて言って無暗矢鱈に蘇飛を傷つける事は出来ない。

 私と明命くらいは恩人である彼女を信頼するべきだ。

 

 なんて考えているうちに一里も無いところまでたどり着いていた。

 私は慌てて二人に声をかける。

 

 「よし、止まれ。馬は林の反対側に止めて歩いて向かうぞ。明命は荷物を、蘇飛は警戒を頼む」

 「はいっ!」

 「承った」

 「では行くぞ。明命、着いてこい」

 「わわっ、待ってください思春様っ」

 

 慌てる明命にどこか子犬の様な印象を受ける。

 本人は断然猫派なので指摘すると落ち込みそうだが。

 

 「思春様、今回は何を取引するんですか?」

 「ああ、酒だ。密造酒とでも言えばいいのか」

 

 尤も、全く酔える気のしない馬乳酒を酒と呼ぶには聊か抵抗があるが。

 それでも貴重な酒類には変わりがない。

 

 「お酒? どうしてお酒なんかを?」

 

 明命は私の言葉にこく、と首を横に小さく傾げた。

 そういえば明命は全くと言っていい程酒を飲まなかったな。

 

 「酒税だ。塩、鉄と続き官は酒にも高額な税をかけ始めたんだ」

 「なるほど。それで買い取りまた商人さんに流すんですね!」

 「そう言う事だ。安く良質な酒を求めた先に蘇飛が見つけたのが今回の取引先だ」

 「ふむふむ。ですが蘇飛さんは何処でそんな方と知り合ってたんでしょうかね?」

 

 一通り納得した様な明命は一瞬だけ悩みが解けた所為かぱっ、と笑顔を輝かせた。

 だが、それも一瞬で引っ込めると再び眉間にしわを寄せむむむと悩みだした。

 笑ったりしかめっ面をしたりと百面相の如くくるくる変わる表情が面白い。

 

 「知らん。アイツは異常な程に顔が広いからな」

 「蘇飛様ってそんなにお顔が大きいのですか?」

 「いやそうではなくてな……」

 

 何とも天然な返答に苦笑いの様なモノが浮かんだ。

 明命と会話するとどこか緩んでしまう。……うむむ、しゃきっとせねば。

 

 

 ** 

 

 「おや、旅の御方。

  どのようなご用件で?」

 

 天幕へ向かった先に現れたのは、私と同年代の朗らかな少年だった。

 一見しただけでは何処かの商隊の丁稚位にしか見えないが、雰囲気が何か違和感を感じさせる。

 

 「いや、火が見えたのでな。

  もうすぐ夜になる故、同席させてもらえぬかと」

 「そうでしたか。大したもてなしはできませんが、此処で会ったのも何かの縁でしょう。

  私共で宜しければ火に当たっていって下さい」

 「忝(かたじけな)い」

 

 雰囲気の違和感が拭えないまま、私は少し不安を感じた。

 何と言うか、この男は、普通に模範的な良識人過ぎるのだ。

 まるで違和感が無く、人混みに紛れられたら一瞬で姿を見失いそうな。

 

 普通すぎて、何処も怪しいところが無さ過ぎて、それに感じなくても良い違和感を感じる。

 取引の相手は本当にコイツなのか。もしかしてまた罠なのだろうか?

 

 「……ところで、ご婦人。

  今年の黄河の様子はどうだかご存知でしょうか?」

 「っ……」 

 

 恐らくは……どうやらコイツが今回の取引相手の様だ。

 明命は突然の質問に首をかしげているが、私は理解した。

   

 「……あ、ああ。今年は穏やかだ。未だ嵐はやってこない。安邑の様子はどうなのだ?」

 「ええ、五度程嵐に見舞われましたが至って平凡です」

 

 良かった、応答は正しかったようだ。

 

 そして、間違いない。

 コイツが安邑馬賊団、今回の取引相手だ。取り決め通りではあるが、コイツの用心深さが窺えるな。 

  

 「ふぅ……ではお喋りもそろそろ終わりにしましょう。ようこそ安邑へ。江賊の皆様を我々は歓迎しますよ。

  もちろん、敵対しない限りですけどね」

 

 先程までの良識的過ぎ普通すぎる良識人と同一人物とは思えない表情でにやり、と笑った。

 

 それは言うならば、普通の賊過ぎる盗賊の笑顔だ。

 法を犯す行為をすることに慣れている人間の表情だ。

 尤も、そんな連中が雌と見れば分け隔てなく投げかけてくる薄汚れた獣欲塗れの嫌悪感を感じる視線とは何かが違う辺り、コイツの性根を表している。

 

 「喰えない奴だな。だがその方が信用における」

 

 そんな胡散臭い男を私が一抹の皮肉も込めて評価すると、盗賊らしい笑顔は引っ込めて再び心根優しそうな善人の笑顔を浮かべた。

 くるくるころころと変わるその表情は一つ一つが別人の様、百面相と言うのはまさしくコイツの為の言葉だ。 

 

 「これはこれは、結構な評価を頂けたようで何よりです。

  私は高順、高北郷と申します、そして二人とも、出てきてください」

 「あいよっ。あたいは文醜で」

 「私は顔良と言います」

 「以後、貴女方との取引の際はこの三人が出向かせてもらいます。是非お見知りおきを」

 

 飄々と『我々は三人だ』と紹介を済ます北郷。

 

 「了解した。私は甘寧、甘興覇だ。そしてこっちが周泰、周幼平だ。もう一人、蘇飛という奴が居るが今は此処に居ない。貴様等と一緒でな」

 「おや、バレていましたか」

 

 カマをかけもう一人の存在を指摘するが、全く動揺することなくいけしゃあしゃあと肯定してみせた。

 虚実を指摘されれば多少なりの動揺くらいは示すと思ったが、なるほど、余程の事が無ければコイツを動揺させるのは難しそうだ。

 

 「ああ、だが、ソレくらいの方がこの商売では丁度いいだろう」

 「違い無いですね」

 

 くつくつと北郷は笑った。

 笑う姿さえ中々に抜け目の無さそうで、より一層強かそうな印象を私に思わせる男だ。

 

 「では取引と行きましょう。

  我々が受け渡すのは馬乳酒二十壺で相違ないですか?」

 「ああ。そして我々は壺当り九千銭を支払う。相違ないな?」

 「ええ。では早速取引と……」   

 

 北郷がそういい、酒壺を運んできた時。 

 

 

 「させないわよ」

 

 鋭く、凛とした少女の声が響いた。

 

 

 **

 

 /明命

 

 

 「させないわよ」

 

 

 北郷さんの真後ろ、天幕で影になっていた場所から誰かが現れました。

 そいつが出したんであろう少女の声に、反射的に五人が武器を抜きます。

 北郷さん達も武器を抜き構えた辺り、どうやら向こうも知らない相手の様で、それはつまり彼女はとりあえず友好的にお話しできる人では無い、という事でしょう。

 

 「貴様っ、一体誰だっ!?」

 

 思春様が問い詰めるため飛びかかろうとした瞬間、視界の隅で小さく金属が光りました。

 一瞬だけ目を向けると、そこには弓を私に向かって今にも放とうとしている人影が一つ。

 

 「思春様後ろですっ!」

 「ちぃっ!?」

 

 咄嗟の掛け声でしたが、思春様に殺気を気付かせるのには十分でした。

 無理やり体勢を捻り矢を交わすと、思春様と北郷さん、顔良さんに文醜さん、もちろん私も武器を抜いて声の主に向き直りました。

 

 「あら、アレを避けられるのね。残念」

 

 すると、全員に殺気を向けられているのにも拘らず、最初に現れた女は飄々と笑って見せました。

 輪郭しか見えなかったその姿が、焚火の薄明かりで出来た影から出てきた事で私達の目に入りました。

 

 それは、私達と同年代であろう、桃色の髪の女の人でした。

 

 「だけど、もう詰みよ。

  全員さっさと投降しなさい」

 

 口元をつり上げ、ニヤリと笑う襲撃者の女の人。

 それを合図にしたのか、ガサッと辺りの茂みが揺れ弓を持った兵が少なくとも二十は現れました。

 

 何時の間に彼らは現れたんでしょうか……?

 先程まで、周囲には誰も居なかった筈なのに。

 

 「ちっ、どっから情報が漏れてたんだよっ!」

 「おい北郷、コレちょっとやべーんじゃね?」

 「ちょっとじゃないよ! とんでもなくやばいからね文ちゃん!」

 「漫才してる場合か! 霞!」

 

 向こうの方の緊張感の無いやり取りを聞きつつ、初めて出た真名らしき名前に全員が反応しました。

 特に襲撃者の女の人は驚きの表情を一瞬出しました。どうやら向こうは完全にコレで全員だと思っていた様です。

 

 「あいっ!」

 「逃げるぞ!」

 「合点承知や!」

 

 何処からか張りのある元気という文字を音にした様な声が聞こえました。

 声の先を確かめるべく辺りを皆が見回した瞬間に。

 

 

 「せいやぁっ!!」

 

 

 どごん! と重い物が吹き飛ぶ音がして“天幕が吹き飛びました”。

 そして、そこから飛び出してきたのは三騎の馬。それが天幕を粉砕して飛び出したのです。

 

 向こうの三人以外全員が目を丸くしそのあり得ない光景をただ茫然と見つめます。

 もちろん私も例に漏れずあんぐりと口を開けて茫然とその光景を見つめました。

 

 だって、天幕を吹き飛ばして馬と少女が飛び出す、何て事を想像できる訳が無いですもん。

 

 「よし、さっさと逃げるぞ!」

 「あらほらさっさー」

 「文ちゃんちったあ緊張感持ちぃや」

 「そうだよぅ。流石に今ふざけてて死んだら笑えないよ?」

 「だいじょーぶですよー。風は笑ってあげるのです」

 「へーい、って仲徳それ酷くね!?」

 「はっ!? お、お前等ボーっとしてる場合か! あいつ等を逃がしてはいけないわよ! 射落とせ!」

 

 暫くして、具体的には向こうさんが逃げる準備完了、となった頃でしょうか。皆が茫然とした状態から復帰しました。 

 それは私と思春様も同様で、今まさに走り出そうとする北郷達に思春様がようやっと声を掛けました。。

 

 「ちょ、ちょっと待て! 私達も乗せてくれ!」

 「はぁ!? アンタら自分の足があるだろ!」

 

 明らかに嫌そうな顔をする北郷さん。

 ですが、此処で否と言われると私と思春様は恐らく蘇飛さんが来るまでに死んでしまいます。。 

 

 「た、頼む! すこし向こうで仲間と合流できる手筈なんだ!」

 「お、お願いしますっ! 直ぐそこまでで、包囲を抜けるまでで良いので!」

 「ちっ、さっさと乗れ!」

 「感謝する!」

 

 文醜さんと顔良さんは同じ馬に乗っていた為、私は北郷さんと知らない女の子の乗る馬の後ろに、思春様は天幕を吹き飛ばした少女の馬の後ろに乗りました。

 北郷さんは慌てているのか冷静なのか、それさえも読めない表情で私と思春様を順に一瞥すると、鼓舞するかのように声を張り上げました。

 

 「っしゃ! 正面ぶち抜くで! 死にたくなきゃ手前ら退けぇ!!」

 「怯むな! 矢であいつ等を射落とせ!」

 

 その声に反応して、全方位から矢が飛んできます。

 しかし北郷さんはそれに臆することなく、三騎は包囲の薄いところを狙いぶち抜きました。

 馬に蹴られたらしい兵の一人の頭が眼下で吹き飛び血糊が頬にまで届きます。

 

 「おい興覇! あんたの仲間って何処に居るんだ!?」

 「今呼ぶ! 北郷は気にせず真っ直ぐ逃げてくれればいい!」

 「ったく、とんでもない取引だよ。大損じゃねーか」

 

 文句を言う北郷さんにしがみついた女の子に私も片手でしがみ付くと、すらっとした刀身が特徴の愛刀を抜きました。

 それにぎょっとした北郷さんは

 

 「お、おいっ、刀危ねぇから降ろしてくれよッ!」

 

 と言いました。言い分は分かるのですが、それでも私は刀を納めませんでした。

 理由は簡単です。

 

 「は、はひっ、で、でもっ飛んで来る矢を落とさなくちゃ、はぅあっ!?」

 「ふおぉっ、流石の風も今のは死んだと思ったのです」

 

 矢を落とさなきゃ私や女の子に刺さってしまうからです。

 それを理解したのか、北郷さんは小さく舌打ちをすると

 

 「間違って馬とか俺とか刺さないでくれよな」

 

 と、一言ぼやきました。 

 

 飛んで来る矢の数は減っているのですが、敵はどこに隠していたんでしょうか、沢山の馬に乗って騎射をしながら追いかけてきています。

 その矢の中でも捌き切れなかった数本は時折馬や北郷さんや私を掠めました。

 一度女の子の頭に乗っかったお人形様に当たった時は思わず小さく悲鳴を漏らしてしまいました。 

 

 でも、それももうすぐ終わります。

 理由は簡単です。もうすぐ進んだところに蘇飛さんが馬を止めて待っているからです。

 そこまでたどり着ければ、後は分散して逃げるなりすれば誰か一人くらいは生き延びられると思います。

 逆に言えば、このままじゃあ全滅必須だと言う事です。

 いくら私や女の子が小柄だと言っても、北郷さんを合わせて三人乗りしていますし、

 思春様が乗ってる馬や文醜さんと顔良さんが乗ってる馬もこのまま二人乗りをしてたらいつかは必ず追いかけてきている兵士に掴まって殺されてしまいます。

 

 なら、少しでも可能性がありそうな方向に希望を持つのも当然だと思います。

 と、そこで私と思春様の目に見慣れた方が写りました。

 

 「興覇!」

 「蘇飛! 無事だった……か……?」

  

 蘇飛さんです。声を張り上げ思春様を呼ぶと、ソレに思春様も嬉しそうに答えて……。 

 何故かそれが途端に尻すぼみに小さくなりました。

 嫌な予感がふつふつと込み上がって、私の内心を不安で染めます。

 

 そして、思春様の一言で、不安は現実になってしまいました。

 

 

 「蘇飛……? 何故お前は、“官の鎧”を着ているのだ?」

 

 

 

あとがき

 

コメントで矛盾を指摘されてはっとなってた甘露です。

 

ああいうご意見は本当にありがたいです。

そう思うならコメントで指摘された誤字直したならお礼くらい言えよ俺(ぇ

 

 

破傷風についてですが。

単純に作者の設計ミスです。

 

当初はうなされ霞が看病してうふふみたいなこと考えてたんですが。

霞刀一刀君が街を脱出してうろうろしてオッサンに拾われるまが大体一ヶ月から三ヶ月くらい。

と、すると破傷風の潜伏期間ってとうの昔に過ぎちゃってるんですよね。

なら描写しないで誤魔化すか、なんて考えた甘露を許して下さいorz

尤も、突っ込まれるまでその事を言いさえしなかった甘露が言って良い事ではありませんが。

 

 

 

真名について。(二章:話の三)

 

一応豆腐屋のオッサンとかは結構知れた仲、という脳内設定があったんで使っちゃいました。

人前で呼ばない、というのもあくまでも不特定多数の人間が居る状況では、程度のつもりでした。

分かりにくくて申し訳ありませんでしたorz

 

 

 

服装が云々について(二章:話の九)

 

えっと、自分の読解力が不足してたらすいません。

コメントを見させてもらう内だと、「何故服をはぎ取っているのに刃物はとって無いのか」

だと思いますが、あくまでも甘露は、霞の元に渡ったのは羽織ってた文官服、としか言っていません。

羽織ってた服を取る位ならナイフを抜かなくても出来るとは思うのです。

それに、ナイフを抜いてしまえば血液が多量に漏れ出てしまいます。

幾ら味方が多いと言っても、城内で殺傷事件を起こした証拠をでーんと廊下に残すのは不味く無いでしょうか?

 

と、上記のとおりの配慮があったのですが……。

その辺の描写が分かりにくくて済みませんでしたorz


 
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