「俺が元『天の御遣い』の北郷一刀だ」
建業の玉座の間に着いて自己紹介をしろと孫策に言われた為に自己紹介をした。
「って訳で俺は一週間後にここから出ていくから」
「「「はぁっ!?」」」
驚愕の表情を浮かべる呉の将達。
「どう言う訳よ!いきなりすぎるでしょ!」
孫策の妹さんの孫権だったな。
まぁ、そりゃ、いきなりそんなことを言われたら動揺するのは仕方ないな。
「俺は華琳達の所に帰りたく無いんだよ。
ここから情報が流れたら華琳達は何も考えずにここに来るだろう。
だから一週間で出ていくんだよ。
俺が居る間で何かあったら力になるから安心してくれ」
実は三日で済むのだが今の大陸の状況を見たいから一週間に延ばした。
「まずは、街を適当に歩いてくるから何かあったら呼んでくれ」
俺は手を振りながら玉座の間を出て行った。
「それで?何で付いて来た訳?」
俺がその言葉を向けたのは孫策に言われて付いて来た周泰。
「み、御遣い様に何かあったら大変だと冥琳様に……」
「嘘を吐くな」
「え?」
「監視だろ?」
「!」
分かりやすい奴だな……
簡単に表情を変えやがる。
「それに気付かれて無いつもりかもしれないけど甘寧も付いて来てるだろ?」
「気付いていたのですか?」
顔に似合わず随分な殺気だな。
華琳と比べればまだまだだけど。
「相当上手く尾行してるな。
文句を付けられない程に」
「そんな、だって、御遣い様は武はそこまで高くないと『それだ』え?」
「相手の武はそんなに高くない。
そんなことを思っているからどこかで甘寧は尾行に手を抜いているんだ。
本当に無意識の内にな。
あんたもそう思ったから剣、持ってきてないんだろ?
何かあっても素手で制圧出来ると思ってさ。
人をなめるのも大概にしろよ」
「………」
周泰は何も言わずに俯いてしまった。
あ~やっちまったか……
「悪い、ちょっと説教になっちまったな。
ちょっとそこら辺で甘い物でも食べるか」
「はい……」
口調を明るくしても周泰は俯いたままだ。
う~ん……何か良い手は無いかなぁ……
そんなことを思っていると足に異変を感じる。
「にゃ~」
猫が俺の足にすり寄って来たのだ。
「どうした?お前、随分人懐っこい猫だな」
俺はそう言いながら猫を持ちあげる。
「にゃ~」
すると
「お猫様です~!」
さっきの落ち込んだ表情から一気に変わって顔が一気に明るくなった。
「猫好きなのか?」
「はい!お猫様はすばらしい生き物です!
生きる為に色々な人に愛想を振りまいてむぐっ」
長くなりそうだから周泰の口を猫の背骨で塞いでやった。
まさか、そこまで猫好きだとは……
「猫好きなら持って良いぞ」
「良いのですか!?」
「あ、ああ」
この子、任務中に猫を見て飛びかかったりしてないだろうな?
やってそうだな、おい……
「お猫様~……もふもふです~」
「おい、それやめろ。
猫嫌がってるから」
「はう?」
そう言いながら俺は周泰から猫を取り上げる。
周泰は残念そうな顔をしたけど仕方無い。
「普通に持つぶんには良いんだよ。
でも、そう言うことしてると大体の猫は嫌がる」
「道理で猫にあまり好かれない訳です……」
そりゃ、好かれないよ……
「周泰、気は使えるか?」
「え、使えませんけど……」
「俺も最初から猫に好かれてる訳じゃないんだ。
気を使えるようになってから猫……と言うか動物全体に好かれる様になったんだよ」
そう言いながら猫を降ろして少し歩いてみる。
すると、猫は俺の後を付いて来た。
試しに横にも動いてみるとそれにも付いてくる。
「また来るからな。
今度は餌を持って来てやるからここで待ってろ」
「にゃ~」
猫は『分かった』と返事をしたのか歩いて俺から離れて行った。
「猫に好かれたいなら気、教えてやるよ。
気配を消すのにも使えるから甘寧にも教えてやれ。
明日の朝、中庭で待ってる」
「は、はい!」
周瑜の部屋
「呼んだか?」
「ああ、座ってくれ」
城に戻ると侍女に連れられて周瑜の部屋に来た。
俺は周瑜の言われた通り周瑜の向かい側に座る。
「まず、街の様子はどうだったか聞かせてくれないか?」
「警護と言う名の監視があったから緊張して街の様子なんて分からなかった」
その言葉に周瑜は驚愕の表情を浮かべる。
「気が付かないと思ったか?
油断したな、周瑜」
「………」
「まぁ、監視は仕方ないよな。
何たって俺はお前達の呉の宿将黄蓋を『傷付けた』男だからな」
「え?」
「そう言えば来た時に黄蓋を見なかったけど遠征でもしてるのか?」
「貴様、何を言っている?」
その声には純粋な殺気しかない。
まさか……
「華陀は黄蓋の治療を失敗したのか?」
「何だと?」
この反応は演技じゃない。
本当に知らないんだ。
「俺は華陀に長江の下流に居るように言ったんだ。
そして、黄蓋を見つけたら治療するようにと指示した。
完治したら呉に送り届ける様にとも言っておいたんだが……
まだ来てないみたいだな」
「何故だ?何故そんなことを?」
「今はそんなことはどうでも良い。
華陀は今どこに居る?」
「分からない。最近連絡が取れないんだ」
おかしい……
華陀は俺が倒れた時に言ってた筈だ。
『俺は依頼があったらいつでもその場所に行けるようにいつでも連絡を取れるようにしているんだ。
だからまた何かあったら連絡をくれ』
そう言っていた華陀が音信不通だと?
何かあったとしか思えない。
「このことは伏せておけ。
将達を混乱させるかもしれない」
「分かった」
俺は冷静に考えごとをする為に城壁の上に来ていた。
「(あいつ程の医者が黄蓋の治療に失敗する筈がない。
失敗したとしても呉にそれなりの連絡をする筈だ。
それに最も怪しいのが連絡が取れなくなったと言うこと。
いつでも連絡を取れるようにしているあいつが音信不通になった。
このことから考えると華陀と黄蓋に何かあったと考えるべきだ。
何があった?華陀は医者だが並の奴には負けない程の実力がある。
それに華陀には二人の連れが居る。
その連れも相当な実力者らしい。
まさか、その二人が何かしたのか?
いや、その二人の連れに何の得がある?)」
考えれば考える程に謎が多くなっていく。
そして
「もう分からねえ!」
考えることを諦めさせる。
「情報が少な過ぎるっての!」
もう少し情報が多ければ分かるかもしれないが今の段階では分からない。
「今はそのことは放っておくか。
明日は周泰に気を教えないといけないし」
集中して教えないと周泰や来るかもしれない甘寧にも失礼だ。
そう思いながら俺は周瑜に教えられた部屋に戻って行った。
中庭
「甘寧来なかったのか?」
「ええ、まぁ……」
この様子だと俺みたいな女誑しに教わることは何も無いとか言ったのかな?
まぁ、周泰を困らせることは出来ないからあえて追求はしないけどな。
「さて、まずは気について教えよう。
気って言うのはこの世に生き物全てに備わっているもの。
気を使えるか否かと言う区切りは気を自由自在に使えるかどうかってことなんだ」
「凪みたいに気団を撃ったりとかそう言うのですか?」
「それも入ってる。
人には気の容量と言うものがあってな。
だが、常に体は気を取り込み容量よりも多くあろうとするんだ。
何かあった時にの為に生きる為にな。
まぁ、それは気休め位にしかならないから覚えなくても良いことだ。
さて、体は容量よりも気を多くしない為に常に余計な気を放出するんだ。
気配を消す時はその放出をやめれば良い。
こんな風にな」
そう言って気の放出をやめる。
すると、周泰は驚愕の表情を浮かべた。
それを見て放出を再開する。
「放出を止めている間は体も気を取り込まないからいくらでも気配を消せるんだ。
どうだった?感想は」
「目の前に居るのに存在感がありませんでした……」
「俺と全く同じ感想だ」
祖父ちゃんが実演した時に感想を聞かれたそう答えると『詰まらん感想じゃな』と言われた。
「それじゃぁ、気を操る段階に行こうか。
最初は気は全体を流れているんだ。
それの流れを自由に操ることが出来れば後は慣れだ」
「どうすれば良いんですか?」
「まずは座禅を組む」
俺がそう言うと周泰は座禅を組む。
「自分の全身の中に水が流れている想像をする。
その水が重くなってきたらその重さが両腕の掌に移動する想像をするんだ」
「………」
すごい集中力だ。
俺は人の中に流れる気も見えるが周泰はもう気の流れを操る段階にまで行っている。
でも……時間がかかりすぎだな。
まぁ、初日でここまで行けば上出来か……
「そこまで!」
俺がそう言うと周泰は立ち上がる。
すると
「!」
何かに気付いた様な顔になる。
「体、軽いだろ?」
「はい、さっきまでとは比べ物になりません」
「気が使えるのと使えないのとでは全く違う。
明日もまたここで修行しよう」
「はい!」
周泰はそう言って自分の部屋に向かって歩いて行く。
それを見ていると
「北郷!」
周瑜が走って俺達の方に近づいて来た。
息も途絶え途絶えで急いでいることが容易に想像出来た。
周瑜はクールキャラだと思ったんだがな……
「周瑜、どうした?」
俺がそう尋ねると周瑜は息を整えてからこう言った。
「華陀が傷だらけで発見された」
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三話目投稿です。