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真・恋姫✝無双外伝 ~~受け継ぐ者たち~~ 第七話 『迷子の才も親ゆずり?』

jesさん

やっと七話目投稿できました。 汗

今回は本編からちょっと離れて拠点話っぽくなってます。

今回の主役は雛里の娘の煌々です。

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2012-01-04 21:29:20 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:2201   閲覧ユーザー数:1969

本編の前に、今回の主役となる子のキャラ紹介をば。

 

オリジナルキャラクターファイルNo.005

 

 

 

 

 

 第7話 ~~迷子の才も親ゆずり?~~

 

 

 「ふぁ~~」

 

・・・・暇だ。

 

廊下の真ん中であくびをしながら、俺はそんな事を思っていた。

仮にもこの国のトップにも近い立場であるにも関わらず、はたから見たら相当間抜けな顔をしているだろう。

 

こんなところを兵士にでも見られようなら軍の士気に関わるな・・・・

 

でも、何と言われようと暇なものは暇なんだから仕方ない。

 

こんな事を考えてる今も、件の紅蓮隊は少しずつ勢力を拡大しているかもしれない。

それを止めるためにわざわざ妹たちに帰ってきてもらったわけだけど、戦力がそろったからってすぐに出陣!・・・という訳にもいかないのだ。

 

『事を急いてはし損じる。』

 

緊張感は大事だけれど、焦りすぎる必要はない。

少しくらい、こんな時間があってもいいだろう。

 

もともと、今日は領地内にある村の代表たちと朝から会議の予定だったんだけど、なにやら各自都合が合わないとかで急きょ延期になった。

 

・・・という報告を愛梨から聞いたのは、ついさっき。

 

『私は他に仕事がありますので』

と言って真面目っ子の関興将軍は去って行った。

 

『俺も手伝おうか?』と言おうとしたが、『その必要はありませんよ』とその背中は優しく言ってくれていた・・・・と俺は勝手に思っている。

 

いきなり振って湧いたこの時間。

明日やるべき仕事を今のうちに片づけておくという考えも無くはないが、残念ながら今やる必要のない仕事をわざわざ進んでするほど俺は仕事熱心じゃない。

 

という訳で、俺は今絶賛フリータイム中だ。

 

 「街にでも行ってみるかなぁ・・・・」

 

一人で行くのは少し味気ないが、たまには良いかもしれない。

 

一応、同じく暇になったであろう桜香に声をかけてみたけど、今日はどうも体調がすぐれないらしい。

風邪とかそういうものでは無くて、本当に少しダルい程度のものだけど。

 

まぁあの子は昔から身体が弱いし、盲目の事もあって人混みも苦手だからなぁ。

 

そういう意味でも、今日の会議が延期になったのは幸いだったかもしれない。

 

城の中をぶらぶらして、他に誰かとあったら声をかけようと思ったんだけど、こういう時に限って誰にも会わないんだよな。

 

多分俺以外の皆は何かしら仕事があるんだろう。

 

仕事の邪魔をするのも悪いし、今日は諦めて一人の時間を楽しむ事にしよう。

 

そんな訳で、街へ向かおうと廊下を歩いていると・・・・

 

 

 “ヒョコ。”

 

 「ん?」

 

「っ!?・・・・・」

 

“ササッ!“

 

 「あれ?」

 

今、柱の陰に何か・・・・・

 

 “ヒョコ。”

 

 「あ」

 

 「っ!?・・・・・・」

 

 “ササッ!”

 

あ~あ、また隠れちゃった。

チラっとしか見えなかったけど、誰なのかはバッチリわかった。

あんな風に隠れる子は、俺の知る限り一人しかいない。

 

 「煌々(きらら)」

 

 「・・・・・・・・“ヒョコ”」

 

大正解。

 

俺の呼びかけからちょっと間を空けて、柱の陰からヒョコっと顔を出したのは紫色のツインテールの女の子。

 

我が北郷家の六女、煌々こと龐宏巨師(ほうこう きょし)。

俺の父さんと、雛里こと龐統様との娘だ。

 

 「どうしたんだ煌々? こっちにおいで」

 

 「・・・・・・“コク”」

 

笑顔で手招きをすると、煌々は少し考えた様子だったが、頷いてトテトテと小走りにこちらへやってきた。

 

 「一人なんて珍しいね。 今日は麗々は一緒じゃないんだ?」

 

 「・・・・・・“コクコク”」

 

しゃがんで、煌々と同じ目線で訪ねてみるが、煌々は俺と目を合わさずにうつむいたまま頷くだけ。

そもそも、うつむいてなくても長く伸ばした前髪のせいで目線は合わないんだけどね。

 

 「あの、うーちゃんは・・・・」

 

 「ん?」

 

 「うーちゃん・・・・今日は、一人で・・・・・お、お仕事・・・・・・・・・・」

 

 「ああ、そうなんだ」

 

おお! 煌々の声が聞けるなんて珍しい。

俺は嬉しくて心の中でガッツポーズ。

 

少し大げさに思われるかもしれないが、身内である俺でさえ煌々の声を聞ける機会は本当に少ない。

 

見て分かる通り、この子は極度の恥ずかしがりやで、兄弟である俺に対してさえまともに会話ができない程。

 

そのせいで、たいてい煌々との会話は首振りによるイエスかノーだけなのだ。

 

だからいつもは双子の妹である麗々が一緒にいて、煌々の言葉を代弁してくれているんだけど、今日は一緒ではないらしい。

 

 「それで、煌々はこんなところで何してたんだ?」

 

 「あぅ・・・・・・」

 

あらら。

また顔をそらされてしまった。

 

本当にこの子の恥ずかしがり屋は母親の雛里様ゆずりだ。

あの人、子供のころの俺にすら人見知りしてたもんなぁ・・・・

 

 “クイクイ”

 

 「ん?」

 

どうしたものかと苦笑していると、不意に制服の裾を引っ張られる感触があった。

 

 「・・・・・にいさま、暇って・・・・・・・私も・・・・暇、だから・・・・・」

 

 「ああ。 もしかして一緒に出かけようって誘おうとしてくれたのか?」

 

 「・・・・・“コク”」

 

肝心なところは俺から言ってあげて、煌々は顔を赤くして頷く。

 

願ってもないとはこの事だ。

普段は俺以上に忙しい煌々が俺と同じタイミングで暇を持て余していて、こうして煌々の方から声をかけてくれるなんて、これが偶然なんて思いたくはない。

 

 「ありがとう。 丁度ひとりで街に行こうと思ってたんだ。 煌々も付き合ってくれるかな?」

 

本当は嬉しすぎてとび跳ねたい衝動を抑えながら、俺は笑顔で煌々に提案する。

 

 「・・・・・・・“コクコク”」

 

すると煌々も、うつむきながら二つ返事でOKしてくれた。

 

 

――◆――

 

 「今日も結構にぎわってるなー」

 

通りの真ん中を歩きながら、辺りを見回しての独り言。

そんな俺の隣では、俺に手をひかれながら煌々が少しオドオドしながらついてくる。

 

俺の手をぎゅっと握りながらオロオロと周りを見渡しては、すぐ近くを人がすれ違うと怯えたように俺の後ろに隠れたり、というのを既に何回か繰り返していた。

 

煌々の方から誘ってきたのに・・・・・とは思わなくもないが、この子の性格を考えれば仕方ないかもしれないけど。

 

ただでさえキング・オブ・人見知りの煌々だ

これだけたくさんの人に囲まれていては落ちつかないだろう。

 

それに加えて、背の低い煌々から見れば、周りの人たちはみんな巨人の様に見えるだろうから、少々怖るのも無理はない・・・・・・・が。

 

 「・・・・なぁ、煌々。 ちょっと歩きにくいんだけど・・・・」

 

さすがに限度がある。

 

通りを歩いているだけでこれだけ挙動不審とは、この子は普段どうやって出歩いてるんだろうか?

 

 「もしかして、まだ昔の事気にしてるの?」

 

 「・・・・・・・“コクコク”」

 

俺の問いには、顔を上げないままの頷き。

 

昔の事というのは、俺が十歳の頃の話。

我が北郷家では既に伝説となっている事件だ。

 

昔、煌々の母親である雛里さまが、当時まだ小さかった(今もサイズ敵には小さいんだけど)煌々を連れて二人だけで街に買い物に出かけた。

 

何の意地なのか、『やめた方がいい』という父さんたちの制止を振り切って意気揚々と出かけたわけだけど、結果は案の定というか、当然の様に二人は迷子になった。

 

結局城の兵士で捜索隊まで結成して街中探した挙句、丸一日探しまわってやっと見つかったわけだけど・・・・・。

 

決して小さくないとはいえ長年住んだこの街で、しかも丸一日捜索隊の目に触れることなく迷い続けるなんて、ある意味奇跡だ。

 

やっとの思いで城に帰ってきた二人はといえば、煌々だけでなく雛里さままで泣きながら父さんに抱きついてたもんな・・・・・。

 

あの時の父さんの困った表情といったら、今思い出しても笑ってしまいそうだ。

 

まぁそれが事件の全容な訳だけど、どうやらその事件が煌々の中ではいまだにちいさなトラウマになっているらしい。

 

 「あぅ~~・・・・・」

 

 「はぁー・・・しょうがないな」

 

何を言ったところで、煌々の恥ずかしがりが今更直るわけもない。

少し歩きにくいのは我慢して、このまま市を回る事にしよう。

 

 

――◆――

 

結局街を回って何をしたかと言えば、特に何をしていたわけでもない。

煌々が欲しいと言った軍略書を一冊買って、あとは適当にブラブラとウィンドウの無いウィンドウショッピングをしていた。

 

煌々が少し歩き疲れた様子だったので、今は帰り路の途中で見つけた甘味処で二人で休憩していた。

 

お茶を飲んでいる俺の向かいでは、煌々が注文したお茶菓子をおいしそうに食べている。

 

 「美味しい?」

 

 「・・・・・“コク”」

 

俺の問いかけに煌々は大きく頷いてくれる。

長く伸びた前髪のせいで表情は見えないけど、頷き方で上機嫌であることは十分に伝わってきたので俺も嬉しい。

 

 「あ、ごめん煌々。 厠に行ってくるから、少し待っててくれるかな?」

 

冷たいお茶を飲んだせいかな?

急にもよおしてきてしまった。

 

 「・・・・・“コク”」

 

いくら人見知りとはいえ、トイレに行く間くらいなら一人にしても問題ないだろう。

煌々も頷いてくれたので、俺は少し小走りでトイレへと向かった。

 

――◆――

 

 「・・・・はむ♪」

 

章刀が席を立ったのを見送った後、煌々は変わらずに一人席に座ってお茶菓子を食べていた。

 

 「・・・・・・♪」

 

先ほど章刀が感じていたように、お茶菓子を食べる彼女はかなり上機嫌だった。

とは言っても、上機嫌の理由は別に今食べているお茶菓子が美味しいからではない。

 

理由は、章刀と一緒にいるからだ。

 

幼いころに兄と父親が姿を消し、さらにその数年後には母親も病で失ってしまった。

彼女だけではなく章刀の妹たちは皆、同じ境遇であり同じ寂しさを抱えているのは言うまでもない。

 

しかし妹たちの中でも特に寂しがり屋の煌々にとって、その悲しみは特に大きかったかもしれない。

 

だからこそ、大好きな兄が帰ってきたことへの喜びは人一倍だった。

恥ずかしいので家族の誰にも言っていないが、この世界に帰ってきた章刀と初めて出会った日には、部屋でずっと嬉し泣きした程だ。

 

章刀が帰って来てからというもの、ずっとこうして一緒に出かけたいと思っていたのだが、お互いに国の仕事を背負っている身としては、今日の様に二人の時間が合う日は決して多くはない。

 

人混みに来るのは正直少し不安ではあったが、勇気を出して章刀を誘って良かったと心の底から思っていた。

 

 「・・・・・・♪」

 

章刀が帰って来るのを待ちながら、上機嫌で皿の上のお茶菓子を口へ運ぶ。

そうして最後の一個に手を付けようとした時、ふと思い出したようにその手を止めた。

 

 (この一個は、にいさまにとっておこう♪)

 

このお菓子は、『お茶だけじゃ味気ないだろ?』と章刀が煌々の為に頼んでくれたものだったが、お礼の意味も込めて最後の一個は章刀に食べてもらおうと決めた。

 

少し食べたい気持ちを我慢しながら、のばしていた手をお菓子から話した時だった。

 

 「ニャー」

 

 「?」

 

気が付くと、テーブルの下から一匹の野良猫がひょっこりと顔を出していた。

これだけ賑やかな町だ。

野良猫や野良犬をみるのはそう珍しい事ではない。

 

 「こんにちは猫さん。 お散歩ですか?」

 

突然の来客に特に驚く様子もなく、煌々は猫に向かって話しかけた。

彼女は極度の人見知りであるが、それは文字通り人限定なので、動物相手にうろたえたりはしない。

 

ちなみにこれはあまり知られていない話だが、煌々はたまに仕事がない時などは心が城で飼っている犬や猫と庭で会話したりしている。

人とまともな会話ができない彼女にとっては、犬や猫はとても良い話し相手?なのである。

 

 

 「ニャー」

 

しかし話しかけられた猫の方はといえば、声だけの生返事をして皿の上に残っているお菓子をじーっとみている。

 

そして・・・・

 

 「ニャッ!!」

 

“ビッ!”

 

 「あっ!?」

 

次の瞬間、猫は一つだけ残っていたお菓子を咥えたかと思うと、すぐさま店の外へと駆けだした。

 

 「ま、待って下さい! そのお菓子はにいさまのっ・・・・・!」

 

自分が食べるつもりだったのなら、猫に分けてあげるのも良いかと思ったところだろうが、あれは章刀の為にと残しておいた最後の一個だ。

 

突然の事に驚きながらも、煌々は声を上げながらお菓子を咥えた猫の後を追って走り出してしまった

 

 

――◆――

 

 「煌々、お待たせ・・・・ってあれ?」

 

用を足して自分の席へと戻ってみると、そこにはなぜか煌々の姿はなかった。

テーブルの上にあるのは二人分の湯のみと、さっきまでお菓子が乗っていたお皿だけだ。

 

 「煌々のやつ、どこに行ったんだ?」

 

ここのトイレは男女共同だから、もし煌々もトイレに行ったのならすれ違うはずだし・・・・

 

 「先に城に戻った・・・・なんてことはないよな」

 

俺と一緒に歩いている時でさえ、周りの通行人にビビりまくっていた程だ。

まかり間違っても、煌々が一人で帰るなんて事はあり得ないだろう。

 

 「一体どこに・・・・」

 

 「あの、もしかしてこちらにいたお譲さんのお連れさんですか?」

 

 「え? ああ、はい」

 

俺がテーブルの前で考え込んでいると、それを見ていた店員の女の子が話しかけて来た。

 

 「あのお嬢さんなら、先ほど店の外に出て行ってしまいましたが・・・」

 

 「えぇっ!?」

 

予想外の展開に、俺は他の客の迷惑も考えずに大声をあげてしまった。

 

 「外にって、どうして・・・・?」

 

 「さぁ、そこまでは・・・。 ですが、なにやら声をあげて慌てている様子でした」

 

 「どっちに行ったか分かりますか?」

 

 「えっと・・・・」

 

――◆――

 

 「はぁ、はぁ・・・・」

 

店員さんにお礼を言ってお代を払った後、すぐに俺は店を飛び出した。

そして煌々が向かったという方向へただひたすらに足を走らせる。

 

 「煌々のやつ、一体どこに・・・・」

 

あの煌々が慌てて出て行ったなんて、よほどの事があったのだろうか。

理由はどうあれ、あの子が一人で街を出歩くのは心配だ。

 

店員さんの話では煌々が出て行ったのはほんの少し前の事らしい。

だとすれば煌々の小さな体ではまだそう遠くへは行っていないはずだ。

 

そう思って、俺は店の周辺をやみくもに探しまわることにした。

 

 

――◆――

 

 「猫さーん、どこですかー?」

 

心配する章刀をよそに、当の煌々は猫を追って人通りのない路地裏に迷い込んでいた。

つい先ほどまで猫の背中を追いかけていたのだが、人では入れない小さな隙間に入られて完全に見失ってしまった。

 

それからしばらく探しまわっているのだが、見つかる気配はない。

 

 「あぅ・・・・みつかりません」

 

身体は小さいとはいえ、彼女も天才と称された軍師の娘だ。

これ以上探したところで見つかる可能性が低いであろうことは薄々気づいていた。

 

何も言わずにここまで来てしまったのだ。

これ以上時間をかけていたら章刀も心配してしまうだろう。

 

せっかく兄の為に残しておいたお菓子を取り返せなかったのは残念だが、それは正直に言って謝る事にしよう。

 

そう思って、引き返そうとしたのだが・・・・・

 

 「・・・・あれ? ここ、どこ・・・?」

 

ここまで来て、ようやく自分が入り組んだ道の奥まで来てしまっている事に気が付いた。

猫に夢中になってしまっているうちに、どうやら知らない道に入りこんでしまったらしい。

 

 「あぅ・・・どっちに行けば・・・・」

 

こんな細い入り組んだ道に、誰か他の人がいるはずもない。

道を尋ねる事も出来ずに、ただただいくつにも分かれる道を見渡しながら立ちつくす。

 

そうしていると、なんだかもう二度と帰れないのではないかという気がして、煌々の胸には急に寂しさがこみ上げて来た。

 

 「うぅ・・・・にいさま・・・・・・」

 

 

――◆――

 

 「煌々―、どこだー!!?」

 

煌々の名前を呼びながら、俺はいまだに街中を駆け回っていた。

もはや店の周辺という考え方も捨ててしらみつぶしに街全体を探しまわっているのだが、それでも見つからない。

 

 「くそ、いったいどこに行ったんだ・・・・」

 

少しの息切れを感じながら、一度立ち止まって空を見てみる。

すると既に日が沈み始め、空は赤く染まっていた。

 

 「こりゃ、城の皆に応援をもらった方がいいか・・・・」

 

できる事なら大事にしたくないと一人で探していたが、そろそろ時間的にも危ない。

可能性は低いだろうが、煌々がなにか良くない事に巻き込まれている事もありえなくはない。

 

捜索隊を出してでも探した方がいいと思い、城の方へと走り出そうとした時だった。

 

 「ニャー」

 

 「!・・・・猫?」

 

通りの横にある小さな道から、一匹の猫が出て来た。

 

 「ニャー、ニャー」

 

 「・・・・・・・・」

 

普段なら、野良猫を見ることなど珍しくもない。

しかしなぜか章刀には、この猫が自分に何かを語りかけているように思えた。

 

そして猫が出て来た細い道に視線を向ける。

 

 「もしかして・・・・・」

 

 

――◆――

 

 

 「えっぐ・・・・ひぐ・・・・っ」

 

狭い路地を一人で歩きながら、煌々は泣いていた。

あれからやみくもに歩いては見たものの、同じところをぐるぐる回るばかりで一向に大通りに出る気配はなかった。

 

既に日は沈みかけ、路地裏は暗闇に包まれ始めている。

一人であるということと周りの暗闇が、煌々の心細さをいっそう大きくしていた。

 

 「ひっく・・・・にいさま~・・・っ」

 

章刀を読んでも、返事があるはずもない。

 

もしかしたらもう二度と城には帰れないのかな?

もしかしたらもう二度と大好きな家族に会えないのかな?

 

そう思えば思うほど、目から涙が溢れてくる。

 

 「にいさま・・・・ひっく・・・・ぐすっ・・・・」

 

もはや歩くことも泣くことにも疲れを感じ、声もちいさくなってその場でしゃがみ込んでしまった。

 

ただ声も無く涙を流し、小さな肩を震わせる。

 

 「ぐすっ・・・・にいさま・・・・・」

 

 「煌々ーーーっ!!」

 

 「っ!?」

 

途方に暮れていた煌々の耳に、聞きたいとずっと願っていた声が聞こえた。

 

 「煌々ーー、いるのかーーっ!!?」

 

その声はだんだん大きくなり、自分の方へと近づいて来る。

 

 「! 煌々っ!!」

 

そして目の前の暗闇から現れたのは、煌々の良く知る白色の服を身にまとった人影だった。

 

 「・・・にいさま?」

 

しかしまだ目の前にある姿が信じられなくて、煌々は独り言のように呟いた。

そして徐々にそれが現実だと実感すると、今までの寂しさと悲しさが一気に溢れだしたように声を上げた。

 

 「にいさまーーーっ!!!」

 

 「おっと」

 

普段はみられない勢いの煌々の突進を受け止めて、章刀はその小さな頭を撫でる。

 

 「まったく、どうしてこんな所に・・・・? 心配したんだぞ」

 

 「ひっく・・・ごめ・・・なさ・・・グスっ・・・ごめん・・・・なさい・・・っ」

 

迷子になった理由を聞いても、煌々から帰って来るのは泣きじゃくる声と謝罪の言葉だけだ。

相当心細い思いをしたんだろうと思い、章刀はそれ以上何も言わずにもう一度その長い髪を撫でた。

 

 「もういいよ。 さぁ、家に帰ろう?」

 

 「グスっ・・・・・“コク”」

 

 

――◆――

 

まだ泣きやまない煌々をおんぶして城へ着いた時には、完全に日が暮れていた。

帰った途端に愛梨から・・・

 

――――『こんなに遅くまで二人でどこへ行っていたのですかっ!』――――

 

・・・とお叱りは受けたが、そこは桜香がなだめてくれてなんとか助かった。

 

 

 

 「なるほど。 それで猫を追いかけて迷子になっちゃったのか」

 

 「・・・・“コク”」

 

俺の部屋でようやく泣きやんだ煌々の話を聞いて、今回の事件の真相がだいたい把握することができた。

 

今考えてみると、あの時猫が俺の前に出てきてくれたのは、煌々からお菓子をとってしまった事に対してのお詫びのつもりだったのかもしれないな。

 

 「ありがとな、煌々。 俺の為に、お菓子残しておいてくれたんだろ?」

 

 「あぅ・・・・・」

 

そっと頭を撫でてやると、煌々は恥ずかしがってうつむいてしまう。

 

 「あの、でも・・・・けっきょく猫さんに取られちゃって・・・・・」

 

 「良いんだよ。 でも、もう二度と一人でどっか言っちゃダメだぞ?」

 

 「・・・・“コク”」

 

諭すような俺の言葉に、煌々は無言だけれど素直に頷いてくれた。

 

 「さぁ、たくさん歩いて疲れただろう? 今日はもうお休み」

 

 「・・・・・“コク”」

 

さっきから前髪越しに見える煌々の顔はかなり眠そうだ。

最後にもう一度頭を撫でて部屋に戻るように促すと、煌々は頷いて扉の方へと歩き出す。

 

 「・・・・・ぁ」

 

だけど扉に手をかけようとしたところで、煌々は急に何かを思い出したように足を止めて俺の方へと戻ってきた。

 

 「どうした? 忘れものか?」

 

 「・・・・・“フルフル”」

 

俺の問いかけに首を振りながら、煌々は俺のすぐそばまで歩みよってきた。

そして何を思ったのかそっと俺の耳元に顔を寄せて・・・・

 

 「・・・・・“コショコショ”」

 

 「ッ・・・・・・・!」

 

その瞬間、多分俺は相当間抜けな表情になっていたと思う。

だって煌々が耳元でささやいた言葉が、あまりに唐突で、あまりに予想外だったから。

 

 「~~~~~っ」

 

“トテトテトテ・・・・バタン!”

 

そして俺をこんな風にした張本人はというと、すぐに俺から離れて、顔を真っ赤にして部屋から出て行った。

 

煌々が出て行った扉を茫然と眺めながら、いまだに俺は顔を赤くしたままだった。

 

 「はは・・・・その不意打ちは反則だよ、煌々」

 

まったく・・・・さすがは天下の龐雛の娘。

大した戦略だよ。

 

そんな風に感心しながら、俺は煌々が耳に残して行った言葉を何度も思い出していた。

 

 

 

―――――――――――――『・・・・にいさま、大好き。』――――――――――――――

 

 


 
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