No.358101

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 十五話

TAPEtさん

星を出すためにかなり無理矢理つくった感がありますが……

次回から連合軍編です。

2012-01-04 16:24:06 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:4895   閲覧ユーザー数:3889

一刀SIDE

 

「一刀さん♪」

「忙しい」

 

それが一週間……ここに来て三ヶ月

 

新しい場所という違和感がここに来て一ヶ月ぐらい続いた。

でも、それ以来は……ここが本当に軍なのかという違和感を持っている。

 

「一緒にお昼食べに行きましょう」

「忙しいと言っている。昼なら雲長と一緒に行けば良い。彼女なら例え忙しいだろうと玄徳の頼みを断るわけがないから……君がまたサボったせいで彼女に会うことを避けているわけではなければな」

「うぐっ!」

 

そしてこの世には色んな人間が君主となれることに関しての興味深さは異常とも言えるほどのものだ。

仕事はサボるし、実力は圧倒的に劣るにも関わらず多くの人材に恵まれているこの劉玄徳は、俺じゃなく他の誰が見ても世間に暗くて愚かにも関わらず、『暗愚』というには少なからず違和感を感じる。

だからこそ俺は、他の誰かが話していれば鼻笑いもしなかったはずの『笑顔』という単語に興味を持つようになったのかもしれない。

 

「ご、ご飯食べてからちゃんとするもん」

「俺は忙しい。飯に行くなら一人で行けば良い」

「えー、一刀さんって冷たい」

 

自分の仕事をサボタージュして頬を膨らめる君主がこの世に二人も居たら俺も退屈しないだろう。

 

「今何してるの?」

「今回君の軍の文官試験の問題を孔明と士元が出すことになったのだが、俺も一問頼まれてな……この問題が解けたら玄徳とご飯を食べに行こう」

「本当?見せてみせて」

 

玄徳は嬉しそうに僕から竹簡をもらってその問題を見た。

 

『重罪で死刑を宣告された罪人が4人居る。ある日太守が来て、自分が出すある問題を解けたら、四人とも無罪放免すると約束した。

 

その問題とはこうだ。四人の罪人を一人と三人に分ける。一人は壁の左側から壁を見て立たせ、他の3人は壁の反対側に立って壁を見る方向に一列に並ぶ。つまり一人で立ってる人間は壁しか見えず、三人で立っている人間の一番前の人間も壁しか見えない。その後ろの人間は壁とその前に立っている人が見えて、一番後ろの人間は壁と前の二人の姿が見える。さて、太守は二つの黒い帽子と、二つの白い帽子を用意して、四人の罪人に目隠しを無作為に帽子をかぶせた。目隠しを外した後、罪人たちは自分の帽子の色は見えず、自分の前に立っている帽子の色が見える。太守は自分の帽子の色を当てたら四人とも放免、一人でも答えようとして間違えれば四人ともこの場で死刑すると話した。罪人たちが十分に教育されていることを想定した場合、答えを言う罪人は誰かを述べよ』

 

「………どうしてこんな変な悪戯をするの?普通に許してあげたらいいじゃない」

「君は本当に馬鹿だな」

「また馬鹿って言われたよ!」

 

 

 

桃香SIDE

 

「えへへー」

「………」

 

最近一刀さんはいつも部屋の中にばかりいたので、ちょっと無理矢理ですけど、ご飯を食べるということで一緒に街に来ました。

 

「一刀さん、何食べますか?」

「玄徳が食べたいものに合わせよう」

「んじゃあ、最近できた店知ってるんです。すっごく人気あるから、そこに行ってみましょう」

「……好きにしろ」

 

短く答えられて、実はあまり気に入らないのかなぁとおも思いますけど、一刀さんはいつもこんな感じですから、敢えて気を使うよりいつものように対応した方がいいと思って、いつも巾着の中に入ってる腕に自分の両手を絡めて曲がった腰をしっかりと立たせました。

 

「そうと決まったら、早くいきましょう」

「…おい!」

 

そんな私の突発的な行動に慌てたのか、いつもの対応ができず一刀さんは私に引っ張られてきました。

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

「はい、着きましたー」

「……」

 

店に着いたら、随分と人が混んでいます。余程人気があるそうです。

 

「…おい、そろそろいいだろ」

「え?あ」

 

絡んでいた私の手を振り切っていつもの姿勢に戻った一刀さんは、混んでいる店の方を見つめながら言いました。

 

「随分と混んでるな?」

「でしょう?すっごく美味しいところなんですよ」

「…賑やかな所が好きじゃないんだが」

「えー、入りましょうよ」

「分かったから腕を掴もうとするな」

 

また無理矢理入ろうとしたら横に一歩逃げられて腕を掴もうとした手は空振っちゃいましたけど、一刀さんはぶつぶついいながらも店の中に入りました。

私もその後を追って中に空いてる席に座って菜譜をみながら何を食べようか悩んでました。

 

「うっ!」

「………ん?」

 

何これ、高い……。

そういえばお金のことまったく考えてないよ。

どうしよう。無理矢理連れてきたこともあるし、君主から誘った以上こっちから支払わなきゃ駄目なのに、こんなに高いだろうとは思ってなかったよ!

ふえーん、どうしよう。これじゃお金がヤバいかも。

 

「注文、メンマと回鍋肉に白飯、後食に桃の蜂蜜漬け頼もう」

「かしこまりました」

 

一刀さんが注文したので既に予算越えてるよ!主に後食の方って後食の中で一番高いのだよ。

 

「俺の奢りだから焦ることはない」

「ほんとですか!」

 

はっ、つい嬉しそうに言っちゃったよ!

 

「……玄徳って本当に馬鹿だよな」

「何で言われたの!?」

 

確かに価格とか考えてなかった私が悪かったのですけど、こんな有名な店だったら幾らなんでもこんな高い店だとは思わないじゃないですか。

 

「いいから君も注文しろ。こっちもこっちなりに忙しい」

「は、はい」

 

うぅぅ、なんかかっこ悪くなっちゃったよ……

 

「君に君主として威厳なんて望んでないぞ」

「追い打ちかけないでー(涙)」

 

・・・

 

・・

 

 

「………はぁー、美味しかったな」

「…そして、開き直るも早い」

 

なんか言われた気がするけど、満腹だからきこえなーい。

あー、美味しかったよ。ちょっと高くても、こんなに美味しければ確かに有名にもなるよね。

 

「後食の桃の蜂蜜漬けです」

「ほぉ…」

「おー、これってすごく豪華そうだね」

 

蜂蜜がたっぷり塗られた白桃が、見るだけでも甘々な感じがしてるよ。

こんなの食べるの愛紗が見たらきっと「桃香さまのようなお方がこのような奢侈なものを食べると広まっては民たちの信頼を失ってしまいます!」

とか言って怒られるだろうな。

 

「言っておくがやらんぞ」

「えーーっ!?一つだけでもいいから私も…」

「やらん」

「うぅぅ……」

 

酷いです。こんなもの、見るだけで食べることも出来ないなんて……

 

「……えいっ!」

「…!!」

 

 

 

 

「それで我慢できなくて人のものをひょこっと摘んで食べたら奴のいつもの開いてるのかも良く分からぬ目が真ん丸くなって、それからごめんなさいと言っても聞かずに城に戻って部屋に閉じこもった……と」

「……ぅぅ…はい」

 

コンコン

 

「お兄ちゃん、生きてるのだ?死んでたら返事をするのだー」

「あわわ、鈴々ちゃん、死んでたら返事できないよ」

「雛里ちゃん、突っ込むところはそこじゃないよ」

 

一つだけ摘んだだけなのにすっごく怒って、さっきまで穏やかだった目つきが(もちろんちょっと怖い目なのは認めるけど、まだ大丈夫だし)まるで私を虫けらを見つめるかのように睨み付いて、それから残った桃にも全然手を出さずに会計してからそのまま部屋に閉じ篭っちゃって、外から門叩いて謝っても開けてもらえなくて……

ついに私が泣き声を聞いて皆集まって来た、といったところです。

 

「まったく、あいつも心が小さい奴だな。たかがおやつ一つ取っただけだというのに子供にように拗ねおって……」

 

愛紗ちゃんはいつものように一刀さんに関しては厳しいけど、今回に限っては私が絶対悪いとおもう。

思ってはいるけどこの仕打があまりにも酷すぎるということには同意するよ。

 

「駄目なのだ。返事がないのだ。お兄ちゃんはただの屍になってしまったのだ」

「私が殺した!?」

「お前は紛らわしい言い方をするな!」

 

もしかして本当に死んだとか…ないよね

 

「お構いなしで門を壊して突入しましょうか」

「はわわ、その場合、本当に北郷さんが怒っているのとしたらその後口聞かずに私たちの軍を出ていく恐れが」

「そ、それは絶対駄目だよ!」

 

やっと仲良くなれたと思った所なのに、私のせいでこんなになっちゃって……

 

「まぁ、何日放っておけば自然と出てくるでしょう。あまり心配する必要もありません」

「そ、そうですよ、桃香さま。北郷さんはああ見えて理性的な人ですから、明日にでもまたいつものように桃香さまに接してくれます」

「…本当?」

「………………………ひゃい」

 

凄く不安だよ、雛里ちゃん。

 

「お兄ちゃん、鈴々が隠しておいた愛紗ちゃんの肉まんをやるから元気出すのだー」

「ほう、私の夜食を盗んだのが誰かと思えば……」

「あ、しまったのだ」

 

 

 

三日後

 

 

「えっと、侍女さんたちに聞いた話だと、それから北郷さんはまったく部屋から出ていないようです」

「待て!もう3日も経ったのだぞ?!一度も部屋から出ていないって有り得ないだろ」

「人は3日以上水を口にしないと死んでしまいます。夜は動いているのかもしれませんが、水はともかく、夜の警備が不審な影を見たという報告も聞こえませんし……」

「じゃあ………」

 

あれから何も食べてないってこと?

 

「「「「…………」」」」

「なんで皆私をそんな目で見るの!?」

「いえ、なんと言いますか」

「分かってるよ!私のせいなのはもう分かってるけどこんなのあんまりだよ!私どうすればいいのか分かんない!」

 

まさか桃一口がこんなに大きな事件を呼び起こすことになるなんて思わなかったよ。

 

「はわわ、確かにちょっとやり過ぎな感もありますけど…」

「まったく、たかがお菓子を取られただけであんなに拗ねるとは度がすぎるではありませんか。桃香さま、今でも門を壊してここに連れてきます」

「肉まん一つで義妹に刃物を振るう愛紗が言う台詞じゃないのだ」

「お前は少し反省しろ!」

「ごめんなさい」

「あわわ、桃香さまが謝っても意味がありません」

 

でも、ほんとにどうしよう。

 

「申し上げます」

 

そんな悩んでいた時、兵士さんが御殿に入ってきました。

 

「何事だ」

「はっ、城門である武人らしき女性が劉備さま方に会いたいと…」

「何?それはどんな者だった」

「白い服を羽織って、水色の髪に、赤い槍を持っている者でした」

「それって」

「星ちゃんだ!」

 

星ちゃん、来てくれたんだ。

 

「どうするのだ、お姉ちゃん」

「もちろん、会いにい……あ、でも……」

 

一刀さんは……

 

「別段、奴のことは今解決しなくても良いことです。今はこちらを待っている星の方をお出迎えましょう」

「……うん、そうだね。行こう、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん」

「はい」

「わかったのだ」

 

私は一刀さんのことは少し置いておいて、星ちゃんのことを迎えに外へ向いました。

 

・・・

 

・・

 

 

「星ちゃん!」

「うん?これは桃香殿、まさか本当にご自分からお出迎えられるとは相変わらずですな」

 

城門に行ったら、本当に星ちゃんがそこに居ました。

 

「えへへー、だって星ちゃんのこと早く見たかったんだもん」

「星お前、もう公孫瓚殿の軍からは出てきたのか」

「うむ、白珪殿のところから出てきたのは随分前のことだな。その間は大陸を周りながら私が仕えそうな軍を探し回っていた、といったところか」

「じゃあ、もう鈴々たちの所に来るのか?」

「ふふっ、さあ、それはどうだろうか」

「そんな話は後で良いよ。取り敢えず入ろう」

「そうですな。ではお言葉に甘えて……」

「さあ、さあ、入ろう」

「って、ちょっ、桃香殿、そんなに慌てなさんな……」

 

私は星ちゃんが慌ててることも構わず、両手を引っ張って中へ案内しました。

外って寒いし、さっさと入ってお茶とかしながらゆっくり話そうね。

 

「愛紗、お姉ちゃんって星を言い訳にお兄ちゃんとのことを忘れようとしているのだ」

「シーッ、黙っていろ、鈴々。桃香さまの気持ちを察してくれ」

 

 

 

 

朱里SIDE

 

「ねえ、雛里ちゃん、本当にこれでうまく行くかな」

 

今、私は雛里ちゃんの策のために一緒に厨房に来ています。

策というのは、つまり北郷さんを部屋から出させるためのもので、お菓子で拗ねたということなら、お菓子で解けたらいいというわけで、今雛里ちゃんの主導でお菓子作りをしている所です。

 

「これ以外には良い方法が思い浮かばないし、それに、北郷さんってすごいお菓子好きだから、例え拗ねててもお菓子の匂い嗅いだらでてくると思うよ」

「…どうして雛里ちゃんは北郷さんがお菓子好きだって知ってるの?」

「あわわ………だってそうじゃなければあんな高いもの買って食べようとしないじゃない」

 

それは確かに……あの店の蜂蜜漬けの桃って、相当…いや、凄く高かったと思うけど……あんなの好きな人じゃなきゃ買わないよね……。

 

「胡桃のあんこは出来たし、後は油に揚げたら完成だよ」

 

……でも、それとは関係なく雛里ちゃんが熱心に見えるのは私の気のせいかな。

 

「朱里ちゃん、その練りに胡桃入れるから一口の大きさに切っておいて」

「あ、うん、分かったよ」

 

……すごく熱心だよ、雛里ちゃん。

 

 

 

 

桃香SIDE

 

「へー、そうなんだ。凄いね」

「うむ、桃香殿がこれほどメンマに興味を持たれるとは、これは思わぬ所で良い仲間を得た気分だ」

 

「愛紗、お姉ちゃんって星の話聞いてないのだ」

「しーっ」

 

アハハ、私なにやってるんだろ。

星ちゃんとさっきからメンマのことしかしてないよ。

なんでこうなったんだっけ。

 

「そ、そうだ!星ちゃん。聞きたいことがあるんだけど」

「うむ、なんでも申されよ。この趙子竜、メンマを愛する仲間の頼みなら私に出来る限りを尽くし助太刀致そう」

「例えばね、私が星ちゃんがすっごく大事にしていたメンマを食べちゃったとして」

「縁を切りますな」

「仲間じゃなかったの!?取り返しのつかないことなの?!」

 

もう駄目だよ。私もう一刀さんに許してもらえない。

 

「星、お前という奴は……実はだな、星。かくかくしかじかでだな」

「ふむ…そうか、私が居ない間そんなことが……しかし、あの程度のことで拗ねるとは、あの男も大したことないな」

「お前がそれを言うか」

「にゃはは……あ、お兄ちゃん」

 

そう、このままだと一刀さんが永遠に昼出てこなくな……え

 

「一刀さん!?」

「………」

 

一刀さんが、外に居る……

 

「桃香さま」

「凄い!雛里ちゃん、どうやったの?」

「別のお菓子で釣りました」

「……魚みたいな例えはやめろ」

「あわわ、だって本当に釣られたじゃないですか」

「雛里ちゃんがお菓子を持って北郷さんの部屋の門を叩く前に出てきました」

「立派に釣られたな」

「………」

 

手作りのお菓子…その手があったんだ!

………お菓子はおろか炊飯すらちゃんとできないけど!

 

「…見ない顔が居るな。お前が趙子竜か」

「ふむ、貴公こそなかなか見られぬ姿をしてるな。貴公が桃香殿があれほどご心配なさっていたお方か」

「へっ?」

「星、さてはお前知っていながら桃香さまにメンマの話ばかりしていたな」

 

え、そうだったの?

 

「まぁ、そう怒るな、愛紗よ。私もメンマ以外の大事な話をするために来たわけではあるが…桃香さまがご乱心な様子だったから少し控えていただけだ」

「ということは、つまり……」

「……俺はお菓子に釣られたわけじゃないと言ったはずだが」

「あわわ…」

 

つまり、一刀さんが部屋から出てきたのは雛里ちゃんのお菓子で許してもらったわけではなく、私が星ちゃんに失礼なことをしないようにさせるため出てきたということだから………

 

「まだ怒ってる?」

「玄徳は本当に馬鹿だよな」

「なんでー!?」

「玄徳、

 

趙子竜は俺を見にここに来たんだ」

「…ふえ?」

 

 

 

一刀SIDE

 

『趙雲という者がそっちに行ったわ。劉備とは以前から面識があるようだけど、恐らく目的はあなたでしょうね。私が見るに彼女はなかなか優秀だけれど、まるで蝶々のように、なかなか遅く見えども羽ばたいてる間にはなかなか捕まりにくい。私の所に来た時はまだ彼女は浮いていたわ。もっとも私とは趣味が合わなさそうだったし…。とにかくあなたのやり次第で、劉備に新しい将が出来るか否かが決まるはずよ。精精頑張って、また私の前に現れなさい』

 

 

「……お前が手に入れられなかった人材か……なかなか興味深い話だ」

 

 

3日前に来たその手紙を読んでいた俺はふと甘い匂いがすることを感じた。

最近何も食べてないからヤケに鼻が効くようになった。

 

「あわわっ!」

 

門を開けると、丁度鳳士元が門を叩こうとしていたように私を見てびっくりして手を引っ込めた。

 

「趙雲が来ているな」

「あわわ?!」

「どうして北郷さんが星さんのことを知っているんですか?」

「3日前に孟徳からここに趙子竜という者が来るという連絡が入ってきた。

「……曹操さんから、ですか?」

「そうだ」

「………」

 

鳳士元が釈然としない顔で俺を見つめる。

恐らく、以前の手紙との間の違和感を感じているのだろう。

以前自分が俺の前で読んだ手紙が偽物であると疑えば、まだ俺への警戒を解くには不足と思っているのだろう。

 

……俺が三日間悩んでいた所もそこだった。

 

だが、幾度熟考した所で出る答えは同じ。

以前の文に偽りがあるということだ。

 

この手紙を受けたのは三日前、持ってきたのは陳留から来た商団からのものだったという。

以前の手紙は、曹操軍からの借款をした時に一緒に来た文だった。

だが公に来た文が偽りで、私的な集団により運ばれてきた書文が本物であるとすれば、曹操軍の中に俺と孟徳を遠ざけようとする群れがあるということ。

 

しかし、それは不可能だ。

これほど隠密で且つ露骨に邪魔を入れられる程の力のある勢力を俺は孟徳軍に残しては居ない。

そこから生まれる違和感が俺の思考を邪魔していた。

そして何より、どっちも孟徳の自筆で間違いないということが俺の仮設を妨げた。

 

なら結局、どっちも本物であると考えるべきなのか。

…………ちっ。

 

「…北郷さん?」

「俺に利用価値があるまで生かしておけば良い。害になるようなものだったらいつでも俺を排除できるだろう」

「あわわっ?いえ、私、別にそういう意味ではなくて……」

「玄徳は今どこに居る、今頃趙雲を利用してまた現実逃避しているはずだろうから引きずり下ろすに行くぞ」

 

俺は鳳士元が持ってきた菓子の皿の上のお団子を一つ取って御殿に向かっ………

 

「誰が作った」

「あわ、わ、私ですけど……朱里ちゃんも手伝ってくれました」

「…………………」

 

………………………

………………

………

 

「ちょっと食ってから行こう」

「はい?」

 

 

・・・

 

・・

 

 

「何故曹孟徳の任官要請を断った?俺がいえる口ではないが、この大陸の中で今もっとも覇者の可能性を持った者は彼女だ」

「そうかもしれませぬな。だが、私が望む主は別段覇者でなければならないというわけでもありますまい」

 

そして、趙雲の所に来てみたら、くだらないメンマの話なんかしていた。

……いや、本当玄徳って馬鹿だなと思った。

 

「一刀さん、なんか私今凄く泣きたくなったよ」

「部屋に閉じこもって喚いていろ」

「ふえーん、愛紗ちゃん、一刀さんが許してくれないよー」

 

やっぱ荀彧よりイジメ甲斐があって良い。

 

「で、お前はあの泣き虫がお前の主人に相応しいと」

「おい、貴様!桃香さまに泣き虫とは…………」

「愛紗ちゃん、最後まで言ってよ!」

「そういうお主はどうだ?何故孟徳の所からここに来た」

 

少なくも退屈はしない。

 

「彼女は俺を裏切った。俺も彼女を裏切った。それだけの話だ」

「私が孟徳殿に聞いた話では、あのお方はお主に付いて何も悪い話はしていなかったが…奇人ということを除けば」

「…………そうか」

「孟徳殿は内心お主が戻ってくることを期待していたようだったが…」

 

…………

 

「それは絶対駄目!」

「………」

「一刀さんはもう私たちの仲間だもん。昔は曹操さんの所に居たかも知れないけど、私が一刀さんのこと『信じてる』から…だから、一刀さん!」

「桃香さま」

「………」

 

曹孟徳は、俺に興味を持っていた。だが信用はしていなかった。

俺も孟徳に興味を持っていた。だが同じく、

玄徳、お前も……

 

「ね!一刀さん!」

「………」

 

玄徳は俺の手を握ってその青い目でまっすぐ俺の見下すような目を見つめていた。

 

「『桃香』」

「!?」

「「「「!!」」」」

 

「………君は本当に……馬鹿だな」

 

 

 

 

愛紗SIDE

 

 

星が我軍に入ることになった。

どこか釈然としない所もあったが、奴の腕は本物だし、奴がまた我々のように桃香さまの志に惹かれていることも事実だ。

 

だが、北郷一刀、彼はそうなのだろうか。

奴は私たちと、以前に居た曹操軍の間を微妙に渡り合っている。

そんな奴を信用できるわけがない。

だけど、にも関わらず誰も奴を疑うことが出来ないのは、皆こればかりはわかっているからだ。

 

奴は『桃香』さまに興味を持っている。

その興味というものが具体的にどんなものかは分からない。

だけど、奴の桃香さまを見ている目が私を見てる目と違うことは明らかだった。

そして今日の事件

 

 

『この前俺がやった問題。解いてみろ。そしたら許してあげよう』

『ほんと!?そんなんでいいの?!』

『ただし、間違ったら俺が食えなかった分の十倍で返してもらう。君の自払いでな』

『ぐっ!…解けたらいいんだよね!』

『……ふっ』

『ああ、今鼻笑いした!私には解けられないって思ってるよ!』

 

 

……奴は笑った。

この軍に来て初めて笑って、そして初めて桃香さまの『真名』を口にした。

 

奴が桃香さまから真名をもらっていたことは知っていたが、口で言わないのを見て、私はやはりアイツが信用できない者だと思っていた。

でも、その逆だったのかもしれん。

奴が私たちのことを信用できていなかったから、桃香さまを真名で呼んでなかったのだ。

 

 

 

 

「…で、お主はこの文が本物であると思ってるのか?」

「筆跡は間違いなく孟徳のものだ」

 

うん?

 

「だが、実は内心そうでないであることを望んでいるのだろ?」

「俺は真実が欲しいだけだ。望みなど答えと関係ない」

 

声がしたのはアイツの部屋だった。

そして、一緒に話しているのは星。

 

「……正に曹操殿から聞いたような人柄のようだな……見た目だけは」

「どういう意味だ」

「お主が真実が欲しがっているのだとすれば、ここまでせぬということだ。お主はこの文が偽りであって欲しいのだ。そういう望みがあるからこそお主はここまで必死になってこの文が偽りである証拠を探そうとしている。違うのか?」

「…………」

 

人と話す時に絶対負けを取らないあ奴が星の問いに黙り込んだ。

 

「まあ、良い。それはお主が悩むべき所であろう。私が足を踏み入れる間はない。そして、この文に関しての感想だが、私は偽物であると思う」

「…その根拠は?」

「私は曹操殿の目を見たのだ。その目はこの世の何もかもが自分の手の中にあるべきだと考え込んでる目だった。そういう方がお主ほどの逸材をこんな風に扱うわけがない」

「…………そうか」

「確信がついたか」

「まったく」

「ふっ、そうか」

 

部屋の中に沈黙が訪れた。

私はもっと門に耳を澄ませた。

 

「劉備軍第一の家臣とも名乗る者が盗み聞きとは良い趣味をしているな、愛紗よ」

「なっ!」

 

一瞬驚いたが、諦めて部屋を門を開くと、中ではあ奴と星が一緒の卓で酒を注いでいた。

 

「……お前は人を誂うのを好むと見た。俺は一番嫌う人種だ」

「お前も私が居ると知っていたのか」

「にも関わらず対話をやめなかったのは、お前にこれ以上疑われることも出来なかったからだ」

「……ふん、それを分かっているのなら少しその不審な態度をなんとかしようとは思わないのか」

 

やはり好きになれん奴だ。

 

「お前に俺という人間を信じさせるためにか?」

「私だけではない、我々皆に、だ」

「…その必要はない」

「何?」

「現に、俺が不審な者であってもお前や孔明は俺を追いだそうとせず、利用しようとしている。それだけでも俺がお前たちの仲間であるように振る舞うことに意義はない」

「お主は何故そこまでして」

「お前が俺を信用できない理由を俺が知っている、雲長。そして子龍」

「私の真名は既に預けたはずだが…?」

 

星、いつの間に……

しかし、北郷は星の声に構わず話を続けた。

 

「……この天下に置いて真名という風習は信頼の証。でも、信頼というのは、相手を理解できてからこそ出来るものだ」

「………」

「お前は俺を理解できない。だから信用できない。俺もお前のことを理解しようとしない。それほどの興味がない。だから信用しない。この軍に置いてお前と俺の信頼関係は不可能であって無用だ。お前もそれが解っているだろ」

 

奴は私を見ないでそうつぶやいた。

もはやそんな行動に怒りすら感じないのは、奴の言い方に肯定しているからかもしれない。

 

「甘えん坊だな。お主は」

「……」

 

だが、星は違った。

 

「誰も人のことを完全に理解することはできない。人間はそれぞれ違う人生を生きてきて、これからも違う道を歩んでいくからな。たかが二ヶ月でその人の全て見抜ける者とすれば……」

「………」

「さほど不運な人生であろう……」

 

星はそう言って自分の酒を飲み干して立ち上がった。

 

「行くぞ、愛紗よ」

「あ、ああ……」

 

私は星と奴の部屋を出た。

それから、奴の部屋で何があったのかは、私には分からない。

 

 

一刀SIDE

 

「………………ふっ」

 

そうでもない。

 

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

「あ、一刀さん!分かったよ!答えは……」

「……玄徳」

「あ、うん?何?って、また『玄徳』なんだ」

「偉いな」ナデナデ

「え?……あれ?褒められた?馬鹿にされた?どっち?」

「そうだな。文官試験の制限時間を考えた場合、やはり玄徳は馬鹿だ」

「えーーっ!なんでー!」

 

 

・・・

 

・・

 

 

 


 
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