幻想の夜が明ける。
それは太陽が昇り、やがて沈むという日々の繰り返しなのだが、人妖―ヒトビト―はそれに意味を見出し、名を付けた。
人も妖怪も、新たな陽射しを待ち望みながら、神社に集うことになる。
東方幻常譚 第九話 「いつも通りの新しい日々」
年の瀬の差し迫った幻想郷だが、博麗と守矢の二つの神社以外は、たいして普段と変わらない日常を送っていた。
詰まるところ、皆で集まって飲み明かすだけである。
「なんだろうな、なんか毎日の様にこんな事してる気がするぜ。まぁいいんだけどな」
「なによ魔理沙、言いだしたのあなたじゃないの。料理を作る人間の身にもなってほしいわ」
アリスの小言を受けた魔理沙は、ハハハと小さく笑ってから、猪口に残っていた酒を飲み干した。
「それなら、会場を提供してる私にも敬意を払って欲しいわね。そこんとこどうなのよ、魔理沙さん?」
儀式の準備を終えた霊夢が、寒そうに身を震わせながら中に入ってきた。
「さて、じゃあ飲もうかしら・・・と言いたい所だけど、さすがに後に響くからやめとこうかしら。紫、小皿頂戴」
「どの具が欲しいのかしら。取ってあげるわ」
霊夢の横に座っている割烹着姿の紫は、たまじゃくしを使って何個か具をすくうと、霊夢に小皿を渡した。
しかし、端で切った小さな大根だけは、紫の箸で霊夢に差し出されている。
「・・・なによ」
「あーん、して?」
「ちょ、紫、何言ってんのよ!自分で食べるわよ」
アリスが、自分の小皿の中にあるジャガイモを自分の箸でいそいそと切り、魔理沙に差し出す。
「ま、魔理沙。ほら、あーんして」
紫のそれのように差し出したアリスの箸は、しかしその先端はすぐに魔理沙の口に咥えられた。
「あふっ!はふっ!・・・っ、うん、美味しいぜ」
「ほら、霊夢も」
アリスと魔理沙のやり取りを見て、紫はさらに霊夢に大根を突き出す。
「あ、あーん・・・」
ついに根負けした霊夢は、箸の先にある程よく冷めた大根を口に入れた。
「美味しい?」
「・・・ん。ありがと・・・」
耳まで赤く染めた霊夢は、大根を咀嚼しながら小さくうなずく。
「しっかし、人間と妖怪が同じ席について年の瀬を祝うってのも、なんか不思議な感じだな」
「あなただって普通の魔法使いじゃない。人のことは言えないわよ?私、妖怪ですけど」
「ま、平和に年が越せるなら何でもいいぜ。平和なうちはおでんも美味いしな。これ、八雲家製なんだろ?」
「ふふ。喜んでいただいて何よりですわ。このおでん、私のお手製ですのよ?」
ふーんと一言つぶやいた魔理沙は、卵を箸で半分に切って口に運び、言った。
「おふふほほあひっへやふはは(お袋の味ってやつだな!)」
「飲み込んでから喋りなさいよ、まったく・・・でも、確かにそんな感じはするわね。なんか懐かしい感じがする」
「神綺がおでん作るのは想像できないわね。っていうか、あいつ自分で料理するの?夢子じゃなくて」
「確かに料理はほとんど夢子がやってたわね。お母さん、お菓子作るくらいしかしてなかったわ」
卵を食べ終えた魔理沙が、でも、と続けた。
「アリスの作るお菓子も、美味しいよな。私は好きだぜ?」
アリスは顔を赤らめ、恥ずかしそうにうつむいた。とんだ夫婦漫才である。
「さあ、新年まであと少し。盛大に飲んで食べて、明るい新年を迎えるとしましょう」
新しい酒瓶を抱えた紫が、台所から歩いてくる。夜明け頃にはその倍以上の量が無くなっている事だろう。
「ホントになんか、オカンみたいだな」
☆
天狗の新聞記者たちが山頂の鳥居をくぐったとき、遠方の空はうっすらと白み始めていた。
もうすぐ夜が明ける。
まだ暗い神社の境内には篝火が置かれ、来る新年の準備がされていた。
「ねぇ文、私眠いからお酒飲んで寝たいんだけど」
「馬鹿ですねぇ、はたて。年末こそ、ネタの宝庫なんじゃないですか。
まったく、何のために大天狗様に許しをもらって、年跨ぎの飲み会を抜けさせてもらったと思ってるんですか」
奥へ行くと、東風谷早苗と二人の二柱が、慎ましやかながら忘年会をしていた。
「どうもこんばんわ、文々。新聞です。もうすぐ新年明けるわけですが、来年の豊富などをお聞かせ願えれば」
「あぁ、天狗の。随分といきなりだねぇ。
ま、上がっていきなさいな」
「あ、はたてさんもいらしたんですね。では二人分、すぐに用意しますね」
と言い奥へと入っていく早苗の背中に
「あ、お気遣いなく」
下駄を脱ぎ、中にあがると、二人の天狗は席についた。
「大晦日なのに仕事?烏天狗は大変だね」
「まぁ好きでやってますからね。苦にはなりませんよ」
文と諏訪子が話に花を咲かせ始めたころ、奥から早苗が戻ってきて、二人分のコップをテーブルに置いた。
「そういえば、今日ははたてさんも一緒なんて、どういう風の吹き回しなんですか?」
「私は寝たかったんだけど、文がどうしてもって聞かなくて」
酒が半分ほど注がれたコップを渡された。
一先ずそのコップに口をつけ、舌の渇きと寒さを癒す。
「でもまぁ、普段こうやって飲んだことない相手と飲むってのも悪くないわね」
「ここ終わったら、次は博麗神社に行きますよ。なんたって新年スペシャルですからね」
え、とあからさまに否定の色を示すはたてを横目に、文は自らの仕事を開始した。
☆
二、三質問が終わったあたりで、神奈子が
「博麗神社に行くんなら、早苗も一緒に連れてってやってくれ」
「え、でもそれじゃあ明日の仕事が――」
神奈子の提案に早苗は戸惑うが、
「悔しいが、元日ばかりは博麗神社の神事には見る価値がある」
「わかりました。加奈子様にそこまで言わしめる神事をこの目に焼き付けてきます」
そういうや、早苗はすっくと立ち上がった。
「では、早速行きましょう。善は急げともいいますし」
「なかなか行動的ですね、大晦日から。こっちとしては大歓迎ですが」
「・・・いってらっしゃぁい」
けだるそうにそう答えるはたてを無言で立たせた文は、お邪魔しましたと短く告げて外に出た。
大晦日の夜更け。外は寒かったが、少し酒を舐めたからか、思ったよりは暖かかった。
「さて、じゃあ行きましょうか」
星空に飛び上がる。
「さ、はたてさん。行きましょう」
「さむ・・・」
☆
三人が博麗神社に来るころ、まだ空は暗く、幻想郷のそのほとんどが寝静まっていた。
「あやや、いいタイミングでしたね。おでんですよ、おでん」
「げ、あんたらまで来たの?」
「あけましておめでとうございます、霊夢さん。
今年もお願いしますね」
会場は、すでに出来上がっていた。
その場にいた数人はみな頬を紅潮させており、すでに何度目かの乾杯をしている。
「いいじゃない霊夢。時間もお酒も食べ物も、まだまだあるんだから、上がってもらいなさいな」
「まったく・・・まぁいいわ。新年早々客を追い返すわけにも行かないしね。
早苗、具の準備手伝って」
「あ、はい。わかりました」
早苗は霊夢とともに奥へ、天狗の二人はそれぞれ空いた席に座った。
「さ、飲みなさい飲みなさい。今日は私持ちなんだから」
「さすが大妖怪、太っ腹ですねぇ。
では、はたて共々、およばれいたします」
「天狗が相手じゃあ、飲み比べすると命に係わるな。
正月から死にたくないから、ゆっくりと飲むとするぜ」
さっそく、天狗の二人は各々食べたい具をとり始める。いつ飲み始めたのかわからなくなるくらい、具は減っていなかった。
と、いうより、減ったそばから追加されているといったほうがいいのだろう。
「新しい一年が始まっても、結局やることは変わらないのよね、毎年」
追加の具を持って現れた霊夢は、居間の状況を見てそうつぶやいた。
「それが幻想郷だもの。あなたも好きでしょう?」
「まぁ、悪くはないわね・・・っと」
食材をおくと、霊夢は縁側から外に出る。
神事の時間だろう。
もうすぐ、幻想の夜が明ける。
第九話 了
どうせ誰もよまねぇよこんなところ!!
などと供述しており・・・ではなくて、皆様、遅ればせなが、あけましておめでとうございます。
今年は就職だなんだと個人的に忙しくなってきますが、そんな中でも安定した低クオリティで、皆様に私の幻想をお送りしたいと思います。
いえ、違うんです。PSvitaで遊んでたわけではないんです。本当なんです。5日6日も企業訪問でして、はい・・・。
そんなわけで何とか新春ネタ。久しぶりに時事ネタ書きました。もう二度とかかねぇ。
なんか一話と同じような感じになった感がびんびんしますが、平和な幻想郷は、みんなで集まって酒飲んで飯食って歌うたって寝るくらいなもんでいいと思うんですよ。
ほら、異変のときの弾幕だって、あくまでごっこ遊びで女の子の遊び的なうんたらかんたら的な設定もあったような気がしますし、これでいいのです。
読んでる人がいいと思わないと本末転倒というかなんというか。
まあそんなこんなで新しい年も、耳かきボイスと一緒にがんばります。
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ま、まだ1月3日の25時ですよ。ですから三が日には間に合ってます。うん、間に合ってますん。