No.356887

真・恋姫†夢想 新たな年の始めに 

狭乃 狼さん

ども。明けましておめでとうございます。

狭乃狼、今年一発目の投稿です。

そして、第二回恋姫総選挙の応援ネタでもあります。

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2012-01-02 15:18:28 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:10740   閲覧ユーザー数:5919

 それは、とある正月のこと。

 

 「みんな、明けましておめでとう。今年も一年、よろしく頼むよ」

 

 新年を祝う三国合同の祝賀会。各国の主だった将らが、ここ、天の御遣い北郷一刀の治める都にその顔を揃えていた。

 普段から都に常駐し、彼のことを補佐する者もいれば、普段はそれぞれの国にいて、中々その顔を見せられない者もいるが、新しい年を迎えた今日は久々に全員がその顔を揃え、和気藹々と歓談を行っていた。

 

 「さて、まずはみんなの今年の目標から上げていってもらおうかな?あ、食事なんかはそのまましながらで構わないからね。まずは各国の王から始めようか」

 「それじゃあ私から発表しまーす。私の今年の目標は……ご主人様と子供を作ることでーす!」

 「ぶっ!?」

 

 一番手に名乗りを上げた劉備こと桃香の新年の目標に、おもわずむせこむ一刀。

 

 「ちょっと、桃香。貴女も王なら、そこはせめて、為政者としての目標を」

 「えー?だって、ほんとのことだしー。華琳さんだって、ご主人様との子供……欲しいでしょ?」

 「そ、それは……」

 「あ、あはは……まあ、桃香らしくていいさ。じゃあ、次は華琳」

 「……はあ。新年早々にため息を吐く事になるとは思わなかったわ。……それじゃあ私の目標だけど、まずは北方の安定が第一かしらね。五胡の脅威も完全に無くなったわけじゃあないから、近い内にその為の防衛策を出すつもりよ。まあ、他にもやりたいことはたくさんあるけど、最大の目標はそれかしらね」

 「ほへー。さすが華琳さん。まじめに考えているんですねー」

 「……貴女は考えなさ過ぎなの」

 

 先ほどの桃香とは完全に違い、王としての指針表明をその場で行った、曹操こと華琳の発言に歓心する桃香に、呆れた表情で突っ込みを入れたのは、三国の王の最後の一人。

  

 「じゃあ蓮華。君の目標は?」

 「そうね。登や他の子たちを健やかに育てる……っていうのが、個人としては一番の目標ではあるけど、呉の王としてはやっぱり、外洋船の早期完成と南方航路の開拓ね」

 「そういえば、呉の港で建造中だったわね。長期間の外洋航行が可能な船を。その為に真桜をそちらに派遣しているけど、仕上がりはどんな感じなのかしら?」

 「おおむね良好よ。おそらく、三月もあれば試験航行に出れると思うわ」

 「そいつは楽しみだな。処女航海のときは、ぜひ俺も乗せてくれな?」

 「ええ、もちろんよ」

 

 孫権こと蓮華のその言葉どおり、呉の国では一刀の知識を基にした、大きな外洋船の建造が急ピッチで進められており、いずれは東南アジアからインド、そしてさらに西の国々まで廻る大船団を派遣する、といった壮大な計画が進められている。

 本来ならばはるか後世に行われるはずの、船団による大遠征。それがこの時代に行われる可能性があるのも、外史ならではの面白いところであろう。

 

 

 三人の王たちによるそれぞれの目標発表の後、各国の将たちも次々と各々の目指すところ、やり遂げたいことなどをあげていった。

 

 大陸全土の食の食い倒れ。

 銘酒の飲み漁り。

 書物の読破。

 

 といったところから始まり。

 

 猫という猫を一つ所に集める。

 鼻血を治す。

 馬による羅馬行脚。

 漏らし癖の矯正。

 存在感の向上。

 

 などなどと言った、願いというより欲望丸出しなものが、その大半ではあったが。

 

 ともかく、そうして最後の一人となったというか、それまでまったく口を開いていなかった人物に、一刀が少々怪訝な表情をしつつ、それを促した。

 

 「……えっと、桂花?君は何か目標は」

 「は?目標?そんな分かりきっているもの、わざわざ言う必要もないでしょ?」

 「桂花……一年の計は元旦にあり、って言うでしょう?新しい年の最初の一日だからこそ、目標を口にして自分を引き締めるべきでしょう」

 「……華琳様のおっしゃることも分かります。ですが、私は華琳様の御為に力を尽くす以外、願いも目標もありません。ですから、改めてこの場で口にする必要も無いと、そう思った次第です」

 

 年が変わろうが自分のやるべきことは変わらない。だからあえて、何も変わったことを言う必要はない、と。一同を前にきっぱりとそう言い切った、魏の筆頭軍師荀彧こと桂花であった。

 そして結局、終始その態度を崩すことのなかった彼女。一刀たちも、本人がそう言うなら仕方がないかと、それ以上追求することはせず、新年の祝賀会はそのまま進行し、まあ、最終的にはいつも通りなカオス全開の大宴会へと発展していった。

 

 そうして宴の進む中、城の外では日が西に傾き始め、夕日の赤が街を染め始めた時刻。

 

 「……あれ?桂花の奴……どこ行ったんだ?」

  

 酔いが回った皆にもみくちゃにされていた一刀が、どうにかこうにかそれから開放されて、一同から少し離れたところに腰を下ろした時、つい先ほどまで会場内に居たはずの桂花の姿が見えないことに、ふと気がついた。

 

 「厠でも行ってるのかな?……俺も行ってこよ」

 

 未だ飲めや歌えやの大騒ぎを行っている者たちの、その横をさりげなく移動して、場内からそっと出て行く一刀。

 そして厠で用を足した後、彼はなんとなく、宴席へとは戻らずに城の広場へと足を運んだ。すでに日は完全に沈み、月明かりが宵闇を照らす中、冬の冷たい空気が酒で火照った彼の体に染み込む。

 「ふう。……空気が気持ちいいな……正月、か……今頃、向こうも同じように、みんなで正月を迎えているんだろうか……」

 

 それは、たまに思い出す、元の世界の風景。この世界に来るまでは、当たり前のように過ごしていた、祖父母と両親、そして妹と過ごす、ごく普通の年始。

 

 「……おかしなもんだな。乱世の只中にあった頃は、向こうでのことなんて思い出すこともなかったってのに、三国同盟が結ばれて世の中が平穏になった途端に、ホームシックが出始めるなんてな……」

 

  

 

 すべての戦いが終わり、一刀を中心として三国が手を取り合うことで成立した、現在という平穏。失ったもの、失われたものは数多くあったが、それと同時に、得ることのできたものもまた多数ある。

 特に、呉の面々とはいち早く子が出来、一刀は今の年齢にしてもう何人もの父親になった。まだ生まれてこそいないが、魏や蜀の者達の中にも、彼の子をすでに身篭っている者もおり、今年は出産ラッシュになるだろうなと、一刀はなんともいえない複雑な、それでいてとても幸せな笑みをこぼしていた。

 

 「……あれ?あそこの四阿(あずまや)に居るのって……」

 

 そんな思考をしながら、城の中庭を見回していた一刀の視界にふと入った四阿に、見慣れた猫耳つきフードを被った、その少女がぽつんと、ただ何をするでもなく腰を下ろし、空に浮かぶ白い月を見上げていた。

 

 「……ふぅ……」

 「……よっ」

 「っ!?……なんだあんたか。……あに?なんか用?」

 「別に。ちょっと酔い覚ましに来たら、迷い猫が目に入ったんでね。……座っていいかい?」

 「……勝手にすれば」 

 

 沈黙が流れる。

 

 「……」

 「……」

 

 二人とも、何も語らない。それぞれの視線は互いを見つめるでもなく、四阿の小さな屋根の下、一刀と桂花は時折白い息を吐きながら、夜の冷たい空気に身をさらし続ける。

 そうしてどれほどの間、何をするでもなく、ただ二人で居ただろうか。ふと、桂花がその口を開いた。

 

 「……ねえ、北郷」

 「……ん?」

 「あんたが今年やりたいことって、ほんとにさっき言っていたのだけなの?」

 「……」

 

 一刀の今年の目標。先の場にて彼が口にしたそれは、三国が今年も平穏無事であるように、力ないながらも全力を尽くすという、わりとありきたなりものでしかなかった。

 桃香、華琳、蓮華の三人からは、本当にそれだけなのかと、執拗に問われた彼であったが、本当にそれだけのことだよ、と。いつもの笑顔で淡々と、それに答えていた彼。

 

 「……桂花はなんでそう思うんだ?」

 「べ、別にあんたの考えなんて、これっぽっちも、興味はないわよ!?けど、その、あんたらしからぬ答え方だなーって、ちょっと、そう思ったってだけよ!」

 「……そか」

 

 再び流れる沈黙。

 

 「……なんで黙ってんのよ?」

 「……いや、まあ。ほんというと、一応、個人的な目標ぐらいあるけど、その、なんていうか」

 「……何赤くなってんのよ。はっ、どうせあんたのことだから、今年は何人切りしたいだとか、新しい妾でも作りたいとか、女がらみの目標に決まってるでしょうけど!あー、やだやだ。これだから全身精液の種馬皇帝は」

 「あのな。……俺はもう、みんな以外に目を向ける気はさらさらないって。……でもまあ、女の子絡みってところは、当たってるか……」

 「はっ!やっぱり!まったく、年がら年中発情しまくって!そんなんだから……って、な、何、人の顔じっと見てるのよ!?やめて頂戴よね!あんたにそんなに見つめられたら、それだけで子供が出来ちゃうでしょ!?」

 

 それは、桂花にとってはいつも通りな、彼女がこの世でもっとも嫌い(自称)な一刀に向ける、罵倒の台詞。

 ところが、そんな彼女の罵倒に対し、一刀の口から出てきた言葉は、彼女のその思考を真っ白なものにするものだった。

 

 

 「……俺の今年の個人的な目標は、さ。……桂花に、好かれるようになる、だよ」

 

 

 「え……」

 

 何を、彼は言っているんだろう、と。桂花のその常人よりも遥かに回転の速い頭脳をもってしても、一刀のその一言をしっかりと認識するまでには、わずかな間を必要とした。

 

 「……桂花のいつもの罵倒、あれは俺に対する愛情の、その裏返しなんじゃあないかって、自惚れかも知れないけど、俺はそう思ってる。……いや、そう思っていたんだ」

 「それはっ」

 「けどさ、それは俺の勝手な思い込みに過ぎないんだって、ほんとはちっとも好かれて居ないんだって、それを認めたくないから、勝手にそう思い込んでいたに過ぎないんだと思う」 

 「ちょ、だからっ」

 「だから決めたんだ。桂花が嫌いなところ、俺の悪い所を全部治して、桂花に一言、『好きだ』と言ってもらう。それが俺の目標だ。……そのために、他のみんなに嫌われて、孤立してしまおうとも」

 「っ……!!」

 

 桂花(じぶん)の為に全てを捨ててもいい。そんなことを真顔で、正面から桂花に訴えた一刀のその目は、まさに真剣そのものだった。

 

 「……ば、馬鹿じゃないのあんた!?わ、私一人のために、華琳様や他のみんなの寵愛を失ってもいいって言うの!?『魏の種馬』なんて呼ばれたあんたが、そ、そんな事……っ!!」

 

 信じられない、と。桂花は声を大にして叫んでいた。しかしその反面、信じられないことに、どこか嬉しそうにしている自分も、確かに心の中(そこ)に居た。他の誰でもなく、自分を一番に考え、欲してくれている一刀のその台詞に、桂花の心臓は今まで感じたことのないほどに、激しく脈打っていた。

 

 「……まあ、すぐに達成できる目標でもないことぐらい、俺だって分かっているし。実際、他のみんなに嫌われたら、それはそれでかなり落ち込むのは目に見えてるけどさ。……それでもやっぱり、俺は」

 「馬鹿なこと言ってんじゃあないわよっっっ!!」

 「っ?!……桂、花?……泣いて、るの、か?」

 「るっさい、馬鹿!!この能天気のオタンコナス!!年中無休発情男!!私が一番!?他の連中より!?ふざけたこと言ってんじゃあないわよ、この種馬!!みんな、みんな、あんたの事が好きで好きでたまらない、そんな連中ばかりなのよ!?なのにそこから、よりにもよって私を選ぶ!?いつもいつもあんたのことを無能な、閨だけがとりえみたいな男とか言って散々馬鹿にしている私を!?冗談はあんたの存在だけにしなさいよ!!」

 

 本人はおそらく自覚していないであろう、双眸から溢れかえるほどに流れ出る大量の涙でその顔をぐしゃにぐしゃにしつつ、ほとんど支離滅裂に一気にそれだけまくし立て、はあはあ、と、肩で大きく息をしながら、一刀の顔をぎっと睨みつけ続ける。

 

 「……けど、それでも俺は」

 「うるさいうるさい!!それ以上、もうつまらないこと言わないでいいわよ!!」

 「つまらなくなんかない!俺は本気で……っ!!」

 「……それよりも!!……ひ、一つだけ、あんた、大きな勘違いしてるようだから、訂正しておくけど!わ、私は別に、あ、あんたのこと、す、好きじゃないなんて……ひ、一言もい、言ってないんだからね?!」

 「へ?……えっ……と。それって」

 「(か~っ/////)だ、だからもう二度と、さっきみたいな馬鹿なこと、誰の前でも言ったらだめなんだからね?!分かった!?」

 

 ふんっ、と。紅潮して真っ赤になった顔を、一刀に見られないようにでもするためか、桂花はぐるりとその体を反転させて、彼にその背を向けるのであった。

 

 

 それから少し経って、一刀と桂花の姿が宴席場に見えないことを心配(?)した他の面々によって、広場に二人っきりで居た一刀と桂花はめでたく発見され、あれこれと詮索されながら再び宴席場に連れ戻された。

 そしてその後、宴席の間中二人が全員から質問という名の尋問を受け、一部の人間の酒の肴にされていたのは、まあ言うまでもないと思う。

 

 そして、宴席がようやくお開きになった、明くる日の早朝。

 

 完全に泥酔して眠りこけている一同の中、桂花がいち早くその目を覚ますと、その体には一刀の制服の上着がかけられていた。 

 

 「……これ、北郷の服……?……そっか。あのまま寝ちゃったんだ……うう、頭痛い……。にしても……」

 

 ぐるり周囲を見渡せば、死屍累々という表現がぴったりなぐらい、そこかしこで寝こけている、魏・呉・蜀一同の姿があり、その中で一刀はといえば、華琳、蓮華、桃香の三人に包まれるようにして寝息を立てていた。

 

 「……見なさい、馬鹿。これだけみんなに好かれているんだから、誰か一人を選ぶなんて、それこそおこがましいってやつよ。……ちょっとは自覚しなさいよね」

 

 自身の体にかけられていた一刀の上着を、未だ夢の中に居る本来の持ち主のその体にかけると、桂花はその顔がある位置のすぐ傍に座り込み、双眸の閉じられた一刀の顔をじっと見つめる。

 

 「……ふふっ。可愛い寝顔♪……私の今年の目標、まずは一つ、達成、かな?……こうして、アンタの寝顔を傍で眺める……っていう、ね。……もう一つは、達成するの、難しいかもしれないけど」

 

 そう。もちろん桂花にも、新年に向かって達成したい、個人的な目標というものはある。一つは、先ほど本人が小声で呟いたとおり。

 そしてもう一つ、こちらこそ、本命というべき、彼女の目標という名の願い。

 

 

 「……願わくば、正面切って、アンタのその、綺麗な瞳を見ながら、“一刀、大好き”って、そう、言えるようになれますように……」

 

 

 おわり

 

 

 皆様、新年、明けましておめでとうございます。

 

 今年も一年、この似非駄文作家こと、狭乃狼を、よろしくお願いいたします。

 

 さて、新年一発目は、第二回恋姫総選挙のための応援作品として、桂花をメインにお送りしたわけですが。

 

 正直な話、仲帝記の続編とどっちにしようか散々悩んだんですが、年明け早々から誰かさんの高笑いもなんだったんで、こっちとさせていただきました。

 

 皆さんはもう、今年の目標は立てられましたでしょうか?

 

 作者はまだです(マテw

 

 とまあ、新年初っ端の軽い冗談はさておいて。

 

 昨年は作者自身も、リアルにおいて碌な事の無かった一年でしたので、今年はとりあえず、何事も起きず、平穏無事に過ごせることだけが、唯一の望みだったりします。

 

 とりあえず、TINAMIにおける目標は、仲帝記の完走と、そして現在プロットを練っている、あるオリジナルネタのスタート、って言うところです。

 

 一部のユーザーさんにご出演を願い、とある仮想世界におけるバトルものを、ただいま頭の中で構築中です。で、ある程度枠組みができ次第、出演を願うためのメールを、こちらから送る予定ですので、その時にはぜひ、お許しを願いたいな、と。そう思っております。

 

 ・・・・・・いつごろになるかは、断言どころか予測もできませんがww

 

 それでは皆さん、次回は仲帝記の十八羽にて、お会いいたしましょう。

 

 改めまして、今年もよろしくお願いします。

 

 それでは、再見、です( ゜∀゜)o彡゜  


 
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