No.355303

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(33)

年末、こんな時分になってようやく完成です。
完結まで頑張りますので、来年もよろしくお願いします!

2011-12-31 00:15:03 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:13593   閲覧ユーザー数:10683

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

 

虎牢関における第二戦。

その戦端は、天遣軍の完全なる後手として開かれた。

 

具体的に言うなれば、騎馬隊の加速が足らず、中途半端な位置で曹家軍の歩兵隊にぶつかってしまったのだ。

 

 

「まずい、ですね」

 

 

思わず、葵の口から呟きが漏れた。

その両腕は、怠けずに敵兵の命を現在進行形で屠っているが。

 

一度でも食い止められてしまえば、騎馬隊は唯の的に成り下がる。

故に、開戦から接敵までの加速によって成る勢いが肝要。

現状は悪し。

しかし。

 

 

 

「ちっ、やるではないか、天の御遣いとやら」

 

 

華織も攻めあぐねていた。

後手を取らされたと理解した一刀の判断は迅速かつ、現実をしかと見据えていた。

瞬時に騎馬隊を使用する主戦術を放棄して下馬を命じ、即興の歩兵戦術に切り替えたのである。

これには、華織は愚か同軍内の者達も揃って驚愕した。

 

幾ら先手を奪われたとは言え、強力無比な西涼騎馬隊を躊躇う事無く放棄する。

普通ならば、攻撃力を捨てる事になる。

だがしかし、軍師達は理解していた。

これが英断でなくて何だと言うのだ、と。

 

 

「本来ならば、誇りが邪魔をしかねん。

だが、それをいとも容易く捨てるとは・・・俄然興味が湧いて出た!!」

 

 

華織の目から眼光が溢れる。

・・・あくまでイメージだが。

 

 

「将軍、右の隊を下げて。

次に夏候将軍両名の隊を左右から挟み込む様に進めて下さい」

 

「任された、他の策は?」

 

「今はまだですね。

取り敢えず、第一条件は善し、と言った所です」

 

「善哉、ならば攻め立てよう」

 

 

華織が鞭を一鳴らしするする度に、軍が一個の生命体の様に動く。

それに立ち向かうは、戦場を見る天遣が軍師。

 

 

「手は三つ。

初手は取られたけど、まだ挽回は利く!

三手までなら、どうにかして勝ちに持っていってみせるわよ・・・稟!」

 

「えぇ、分かっています、すぐに大将軍様の所へ行きます」

 

「ええ、ここからは時間との勝負よ。

急いでお願い」

 

「はい、任されました」

 

 

やけに可愛らしい走り方ではあったが、稟は急ぎ虎牢関内部へと走って行く。

その場に残った詠の額に、薄らと汗が滲む。

 

 

「やってやろうじゃない。

こんな所で投了なんかしてたまるもんか。

ここで負けたら、月が危険に晒される」

 

 

そんな詠の脳裏に浮かんだのは、親友と・・・

 

 

「それに、あのバカの理想の為にも絶対に!」

 

 

一人の男の姿。

普段の詠ならば、幾ら自分の思考の内側のみとは言え、慌てふためいていただろう。

しかし、今はそんな余裕は欠片も無い。

 

 

「負けらんないのよ!

絶対に読み切ってやるわ!」

 

 

こめかみを指先で叩きながら、これまでに得た情報を呑み込む。

総てを自分の力とする為に。

そして、眼下で戦う戦友達を勝利へと導く為に。

 

それから暫くし、虎牢関から一筋の煙が昇り始めた。

 

 

 

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

第三十二話「大戦」

 

 

―――袁紹軍

 

時は少しばかり遡る。

 

 

「あー、そう言う訳だから、今から暫く私が此処の指揮を取る事になった」

 

「あ、そうか、分かったぜ」

 

「軽っ!? い、良いのか!?」

 

「えー、だって白蓮さまだし?

面倒臭い事全部やってくれんだろ?」

 

「・・・・・・斗詩、お前の苦労が手に取る様に分かるよ」

 

「ありがとうございます・・・」

 

 

余りにもあっさり過ぎる決まり方に、苦労人二人はがっくりと肩を落とす事に。

少し位は難儀してもいいんじゃないかな、とか思ったり思わなかったり。

 

それどころか、麗羽の配下達からは感涙で迎えられる始末。

これでいいのか、と言わんばかりのトントン拍子で、白蓮の下に袁紹軍は組み込まれた。

そして今。

 

 

 

「動きがあった。

へぇ、巧いな。

確かにあれなら、騎馬を封じるのに最も有効的だ」

 

「けど変だな、曹操の奴が舌戦の一つも仕掛けねぇなんて」

 

「そうだよね・・・」

 

「ああ、私も正直そこが気になる」

 

 

白蓮を中心として、右後方に鉄槌を持つ斗詩。

左後方に断ち切られた部分を鎹で繋げて応急修理した斬山刀を担いだ猪々子。

真背後に黒蓮が位置した状態で、戦線を見る。

 

人からは「残念」だの「地味」だの「普通」だの言われる白蓮だが、実際にはかなり優秀である。

一芸に秀でてはいないだけで、紛れもない名君となれる器だ。

武は一人前、知は軍師不在でも機能する。

そんな彼女が不憫にならざるを得なかったのは、正直何かしらの世界の悪意が仕事したとしか・・・・・・

 

 

「うるさいうるさい、黙れぇー!!」

 

「白蓮さま、何かいきなり空に怒鳴ったぜ?」

 

「何だか最近何時もああなんです。

大丈夫かな、お姉ちゃん」

 

 

ほら見ろ、メタは厳禁だろ。

 

 

「うぅ・・・・・・絶対下剋上してやる・・・・・・・・・」

 

「大丈夫、お姉ちゃん?」

 

「うん、大丈夫、大丈夫さ・・・」

 

 

そうは言っても、白蓮の背中には酷い哀愁が漂う。

どう見てもリストラ直前の課長の空気です、本当にありがとうございました。

と、そこで、虎牢関より一筋の煙が立ち上った。

まだ心中立ち直れていないが、白蓮は煙を見上げた。

 

 

「あれは、何だろ?」

 

「御遣い様が考案した、遠くの人達へ合図を送る為の【狼煙】と呼ばれる物みたいですけど、私が知っているのとは違います」

 

「火事じゃねーの?

間抜けだな!」

 

「「・・・・・・」」

 

「な、何だよ?

そんな目であたしを見て?

照れるじゃん」

 

「「いや、何でも」」

 

 

お前が言うな、とでも言いたげなジト目の真意に気付かなかった猪々子を捨て置き、白蓮は再び狼煙を見上げた。

その表情は、かなり強張っている。

 

 

「今、私達と天の御遣いは敵同士。

知っているかもしれない奴がいる煙を止めて、新しい物に変えたのだとしたら・・・黒蓮!」

 

「うん!」

 

「兵達に、後方を警戒させるんだ!

左右は絶壁だから、来るとしたら後ろしかない!」

 

「分かった!」

 

 

白蓮の言葉を聞き、黒蓮は急ぎ後方へと駆ける。

 

 

「どーしたんだよ、白蓮さま?」

 

「・・・あれが遠方の仲間に合図を送っているんだとしたら、考えられる最上の策は、伏兵による前後方からの挟撃だと思っただけだよ、杞憂ならいいんだけど」

 

 

そう語る白蓮の表情は未だに硬かった。

 

 

 

 

 

「ぬぅん!!」

 

“ズガァン!!”

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「次だ、来る者より来い!!」

 

 

戦場の内、両の目から凄まじい光を迸らせつつ、春蘭が荒ぶっていた。

その奮迅ぶりに、天遣軍の兵達ですら、怯んでしまっていた。

 

 

「何だ、来んのか!

ならば此方から往くぞ!!」

 

 

だからと言って、春蘭は怯えた兵を見逃す様な将ではない。

再びその大剣【七星餓狼】を大上段に構え、敵へと吶喊。

その凄まじさは、正に一騎当千と呼ぶに値する。

故に、それを止められるのもまた、一騎当千の将。

 

 

「待ちなさい!」

 

「むっ!?」

 

 

この混戦の中、未だに騎馬を護り続ける葵が、両手の矛を一度打ち鳴らし、春蘭の気を引いた。

その一瞬の隙に、兵達は一斉に退いた。

春蘭を恐れたからではない、あくまでも『二人の戦いに巻き込まれる事』を恐れたからだ。

 

 

「貴様は、龐徳!

丁度良い所だ、我が剣の錆となれ!」

 

「夏候惇、よくも私の兵を虐めてくれましたね、許しませんよ!」

 

「ぐぅ!?」

 

 

馬から飛び降りた葵の身体から噴き上がる怒気に思わず気圧されるが、すぐに身を立て直すのは流石と言えよう。

少しだけ、一騎討ち直前特有の緊張感が溢れるが、誰かの断末魔を切欠として、二人は接敵した。

 

 

“ゴリッ、ギャリッ、ガリリリリリィィィン!!!”

 

 

武器同士とは思えぬ轟音が、二人が互いの一撃を受け止める度に上がる。

 

 

「「((強い!!))」」

 

 

十合も重ね、二人の心中に湧き上がったのは、きしくも同じ言葉。

春蘭は何故自身の敬愛する主君がこの女を自陣に引き入れようとしたのかを理解し。

葵は春蘭が心中で苛立ち、何かしらに八つ当たりをしたがっている事を感じ取った。

故に。

 

春蘭が浮かべたのは笑み。

獰猛にして豪快、この二人だけの大戦を楽しもうと思ったが故。

 

葵が浮かべたのは怒り。

憤怒にして繊細、自身の大切な部下を八つ当たり相手にされた理不尽故。

 

互いの心中は真逆であった。

だがしかし。

 

 

「「倒す!!」」

 

 

またしても、同じ言葉が湧き上がった。

 

春蘭は己の内側から力を爆発させる様に。

葵は己の内へ力を静める様に。

 

それでいて、二人は互角。

此処に至って、戦況は極悪なまでに拡大された。

 

そして戦場は別の位置へ移る。

 

 

 

 

 

「射て!」

 

 

華織の号令一つ。

それだけで、兵のみによって構築された防衛線から雨霰と矢が放たれ、バタバタと天遣軍の兵が倒れていく。

 

 

「ふむ、防御は此方が勝るか。

やはり騎馬を放棄した分、攻撃力は大幅に落ちている様だな。

此処まで来られる程の機動力も無い」

 

 

そう言っていた所であった。

 

 

「ところがどっこい!!

ここにっ、いるぞぉーーー!!」

 

 

平時から鉄面皮で知られる華織も、こればかりは驚かされた。

まさか、騎馬毎防衛線へと飛び込んでくる将がいるとは!

 

 

「名を名乗れ!!」

 

「卑怯者に名乗る名前なんか無い!」

 

「ほぅ」

 

 

そう言い、単身乗り込んで来た蒲公英は馬から飛び降り、影閃を構えた。

そしてその一方、華織は割と本気で感嘆していた。

自らの正体を隠す事は、戦場に置いて時に有利と働くと思っていたからだ。

なればこそ。

 

 

「ならば、私も名乗るまい。

外道らしく、正義と相対しよう」

 

 

鞭を取り出し、ニヤリと笑う。

それだけで、蒲公英は背筋が震えあがった。

物凄く怖い。

しかし、此処で退く程蒲公英は臆病ではない。

 

 

「望む所だ!

かかって来い!」

 

「勘違いするなよ、正義の味方」

 

「何だと!?」

 

「此処は、私達の陣であり、貴様は其処へ踏み入って来た者だ。

元より、かかって来るのは貴様の方だろうに」

 

「うっ、上手い事言ったつもりかー!!」

 

 

思わず真っ赤になった蒲公英が叫ぶ。

そしてその隙を狙われた。

 

 

「とわっ、危なっ!?」

 

「チッ、外したか」

 

「い、いきなりやるな卑怯者!」

 

 

内心ドキドキながらも、蒲公英は華織に向けて吼える。

だが、華織はフッと嘲る様な笑みを返した。

 

 

「そうだよ、私は卑怯者。

そして貴様は正義、悪の頭領に対し存分に挑戦する事だ」

 

「うぐぅ、余裕綽々って感じでムカつくかも・・・」

 

 

歯噛みするが、それで状況が好転する訳でも無し。

チラリと多少なりとも近付いた華琳を見る。

無機質に唯虎牢関のみを睨んでいるその姿が、堪らなく憎々しく感じた。

 

 

「(くっそー、お兄様以外眼中に無いって事ー?)」

 

「どうした、余所見している余裕があるか?」

 

「うわぁ!

今のは、本気で危なかった!」

 

 

何処かしら遊ばれている感が拭えないが、蒲公英は目の前の敵に集中する事に決める。

眼前の華織は先程よりもやや笑い方が深くなっている様にも思えた。

 

 

「(う~、何だか蛇を思い出して嫌だな・・・)」

 

「その目、私が蛇にでも見えたか?」

 

「うん、その通りだよ!!」

 

「やれやれ、嫌われたものだ」

 

 

心中を見透かされたのには少し驚いたが、それで何かが変わる訳でも無い。

ならば、と思った。

 

 

「よし、行くぞっ!!」

 

 

一つ吼えて気合を籠め、蒲公英は華織へと飛び掛かった。

 

 

 

 

 

一刀は危機感を募らせていた。

この戦況、危地にあるのは此方だと一目で分かる。

そもそも騎馬を前提とした軍勢が、騎馬を思うように展開出来なかっただけで負けにも等しいものだ。

例えこの一戦に勝ったとしても、二戦目があれば確実に負けるに違いないだろう。

そんな事を考えながら、一刀は更に右手に持った暁を鋭く振るう。

また一人、曹操軍の兵が首をはねられた。

 

 

「頼むぜ・・・詠、稟」

 

 

ボソリと、自軍の軍師達に対し乞う様な言葉がこぼれる。

この一戦、一刀は殆ど策を考えてはいない。

単なる武官の一人として出ている。

 

策の全ては彼女達に任せた。

故に。

一刀の神経は、全て武に傾けられていた。

 

 

「ふっ!!」

 

 

左斜め前へ向けて、一閃。

直後、大地へ落ちたのは一本の矢。

射った相手をキッと睨むが、射った相手は至って澄まし顔で、一刀の睨みに応えた。

 

 

「仕留めるつもり、だったんだがな」

 

「随分と狡賢い真似をするんだな、夏候淵」

 

 

一刀の言葉に、肩を竦める秋蘭。

その目には、諦めの様な光が宿っている。

それに首を傾げる。

そしてそれに合わせる様に次の矢が放たれた。

 

 

「隙を見せられないな!

と言うか、あれっぽっちを隙と捉えられるのかよ!?」

 

「私にとっては、瞬きの間さえ隙と変わらん!」

 

「言葉通り、瞬間か」

 

「ほぅ、中々上手い事を言う!」

 

「お褒めに預かり恐悦至極、ってな!」

 

 

笑い合う様に、二人嘲る。

一刀は秋蘭を、秋蘭は自分自身を。

奇妙な事に、秋蘭を嘲る者しか存在しなかった。

その事に奇妙さを覚えるよりも速く、秋蘭の矢が一刀を射抜かんと迫る。

 

可能な限り避け、それでも避け切れなければ払い落す。

ある程度の距離を保ち、秋蘭は矢を放ち続け、一刀は踏み込めずにいるが、一刀の方は自身が有利と睨んでいた。

 

 

「(後、7本!)」

 

「(矢が切れる一瞬を狙われているな)」

 

 

そう、相手は弓矢使い。

ならば矢の絶対量は大きな弱点と成り得る。

それを見越しての回避。

 

秋蘭も理解していた。

一刀にハッタリや挑発は一切通用しない。

少なくとも、自分が知っている物では。

 

 

「(時間稼ぎが精々か)」

 

「(退くか、攻めて来るか? どっちだ?)」

 

 

言葉の無い駆け引き。

やがて、互いの動きのみならず、配置された兵卒達の息を呑む音さえ響く程の、肌に突き刺さるが如き沈黙が訪れる。

隙を見せる訳にもいかず、秋蘭は番えかけた矢尻をグッと強く握った。

引くのは一瞬、だが放つ為に二手は絶対に必要。

しかし距離は弓矢に有利。

一刀が懐まで踏み込むには後一手足りない。

 

一刀の後方で狼煙が立ち上り始める。

しかしそれですら、二人の集中を乱すには至らない。

動けない。

等しく武に長けた者同士故に。

ならばそれを動かすのは、盤外の妙手に他ならない。

 

 

「伝令! 御遣い様! 直ちに関にお退き下さいませ!」

 

「よし、分かった!」

 

 

一刀は伝令の側を見もせず、意識を秋蘭に向けたままに退く。

秋蘭もそれに何事も言わず、自身の兵達を退かせた。

その顔は、少しホッとした様な物であった。

 

 

 

 

 

「ふむ」

 

 

檪花は、華琳の台座の膝元で首を傾げた。

馬一門の、馬超を始めとした姉弟の姿が早々に退却していたが気になっていたが、恐らくは乗り捨てた馬達を回収して関で再編、再び騎馬で襲い掛かろうと言う魂胆なのだろう、と中りを付けていた所である。

 

 

「ならば、騎馬に対する応対をしましょうか。

誰かある!」

 

「はっ、これに」

 

「曹洪将軍に、正面より騎馬が来ると思われる、対処を、と」

 

「ははっ!」

 

 

伝令は頭を下げ、華織の元へ一直線に走っていく。

檪花は、自分の見込みが恐らく正しいとは思っていたが、場合によってはそれ以外の可能性も考えていた。

何せ、相手はこれまでに無い奇策を数多戦場に顕現させた天遣軍。

またしても、これまでに無い何かを仕掛けて来ないとは限らない。

数々の新たな策が繰り出される度に心躍らされてしまうのは、軍師の性として見逃して貰いたいものだと、思わず溜息が漏れる。

 

 

「伏兵は、いるのでしょうか?」

 

 

ボソリと呟いた一言。

しかし、周囲の状況がそれを否定する。

開けた関の前の広場の両端は切り立った崖。

隠れ様にも場所が無い。

右側の崖は昇るのも降りるのも不可能な程に急。

左側の崖上にならば隠せるかもしれないが、深い雪に包まれている。

例え伏せたとしても、凍えて動けなくなる事は想像に容易い。

 

 

「と、なると、やはり再編しての突撃ですか」

 

 

再び関の方を見れば、門が動いているではないか。

予想が当たったと、ニッと口元を吊り上げる。

しかし、次の瞬間驚きの表情に変わらずにはいられなかった。

予想は確かに当たってはいた。

 

関の中へ引き上げた部隊を再編し、再度の攻撃を仕掛ける。

だが、一つだけ予想と違えていたのだ。

たった一つ、されど致命的な一を。

 

 

“ジャーンジャーンジャーン・・・”

 

 

出撃の意を知らしめる為の銅鑼が三連続して打ち鳴らされ、騎馬隊がその姿を現す。

此処で漸く、部隊を率いる者を示す旗が明らかとなった。

紺碧の張旗。

即ち、【神速】の異名を取る張文遠の旗である。

 

 

「そんな、馬鹿な!?」

 

 

檪花の驚きに満ちた声が漏れる。

虎牢関に入った武将は逐一調査していた筈だ。

一体何時の間に、張遼が虎牢関入りしていたと言うのか。

 

 

「散々お預け食ろうてたんや、暴れさせて貰うでぇ。

総員抜刀! と・つ・げ・き・やぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

霞の怒号にも似た大号令が掛けられ、騎馬の一団が一気に駆け出した。

 

 

 

 

 

霞が全速力で己の騎馬を駆けさせるのを見ながら、詠は汗に塗れた額を袖で拭った。

 

 

「我が策、成れりってね」

 

 

フッと呟きと共に漏らした言葉は、大きな達成感に満ちていた。

この策を説明するには、少し事前の行動を示しておかなければならない。

 

まず、第一に何故この場に霞がいるかの理由だが、それは至極単純。

汜水関での一戦で撤退した張遼隊は、虎牢関ではなく、裏道を使用して直接洛陽へと帰還していたのである。

そして、恋と菖蒲を洛陽へ向かわせるのと入れ違いで霞を此方へ向かわせたのだ。

先程の狼煙は、『危機が迫っている、急行せよ』の合図である。

そして。

 

 

「騎馬を使用しての再突撃は読まれている、当然よね。

あの程度も見抜けない様じゃ、軍師を辞めるべきよ」

 

 

華織の指示で対騎馬用武装を整えていた部隊が、霞達を迎撃しようとする。

しかし、詠の口元は笑みのままだった。

 

 

「でもね、読まれている事位、ボクだって読んでるわよ・・・!」

 

 

突如として、曹操軍がその陣形を崩す。

否、崩された。

 

左側面より、歩兵部隊に強襲された所為だ。

そしてその歩兵隊を率いる旗印は、漆黒の華旗。

 

 

「奇策も愚策も策の内ってね。

戦場の常なんて、無い。

その事実を、嫌って程あいつに解らされたもの」

 

 

 

「やられた!

よもや、あそこに伏兵を敷いて置くとは!

おい、あれも貴様等の策か!」

 

「え、えーっと、多分!」

 

 

苦虫を噛み潰した様な顔をする華織から咄嗟に出た疑問に、蒲公英は思わず返す。

それによって更に苦渋の表情へと変わっていく華織の顔に、蒲公英は背筋が縮み上がる様な恐怖を感じていた。

 

華雄と霞が暴れ回り、それと共に兵が次々と宙を舞う。

その光景も、蒲公英の背筋が縮み上がる様な恐怖の元となっていた。

 

 

「曹洪将軍、我が方総崩れの危機です!」

 

「・・・・・・致し方なし、退くぞ」

 

「はっ!!」

 

 

副官に短く意を告げ、華織は鞭を持っていた右手を強く強く握り締めた。

 

 

「隙有りっ!!」

 

「無い」

 

 

隙と見て強襲した蒲公英の刺突を、華織は左手一本で、柄の部分を掴み取った。

 

 

「う、うわっ!?」

 

「・・・借りはいずれ返させて貰うぞ、私の配下達の無念と共にな」

 

 

そのまま、影閃の柄を握り潰す。

刃が、カランと物悲しい音を立てて落ちる。

今度こそ蒲公英は完全に恐怖に呑まれ、動けなくなってしまった。

 

 

 

 

 

「吹き飛べぇ!!」

 

 

華雄の怒号と共に、また一人また一人と、宙を舞う。

虎牢関を見て左手にある比較的なだらかな崖の上に存在する森。

彼女達は、今日までそこにいたのだ。

雪を押し固めて造った小型のシェルター、所謂カマクラに。

雪で造ったにしてはかなり快適だったが、流石に一週間近くは堪えたらしく、かなりのストレスが溜まっていた。

見れば、部隊長である華雄のみならず、部隊員達の中にも幾人か鬱憤晴らしの様に武器を振るっている者がいた。

 

 

「華雄ー!!」

 

「おう、張遼か!」

 

「曹操のとこまで一息に行こ思うとるんやけど、手ぇ貸してくれへん!?」

 

「よかろう!」

 

 

霞の言葉を受け、台座を護る様に展開した敵軍を一瞥し、華雄はそこへ向けて突撃。

杭付きの盾毎、5人程一挙に蹴散らす。

 

 

「開いたぞ!!」

 

「おっしゃあ!」

 

 

そして、霞と他数騎が出来た穴を通り抜ける。

その行く手を更に敵兵が阻むが、それは飛び越えた。

 

 

「うし、曹操覚悟ぉー!!」

 

 

命の危機が間近に迫っていると言うのに、華琳は未だに身動き一つしない。

視線を動かそうとさえ。

飛び掛かりながら霞は眉を顰めるが、そのすぐ傍を矢が通り過ぎる。

 

 

「危なっ!?

この矢は、淵ちゃんか!」

 

 

矢を放った秋蘭は憮然とした表情で、次の矢を無言のまま構えて撃つ。

次は、霞も危な気なく躱すが、華琳の台座から引き離されてしまった。

だが。

 

 

「私がいる事を忘れるなよ、貴様!」

 

「ぐっ!?」

 

 

何時の間にかすぐ傍まで迫っていた華雄の戦斧の一撃によって、弓を叩き壊された。

 

 

「行けい、張遼!」

 

「うっしゃ! 改めて・・・曹操覚悟ー!!」

 

 

次こそ、違わずに霞の飛龍偃月刀の一閃が、華琳の首を薙いだ。

 

 

 

―――洛陽近郊

 

 

「・・・・・・見えたな」

 

 

洛陽を臨める丘の上。

一人の女性が洛陽を見ていた。

その眼差しは非常に厳しい。

 

 

「はい、しかし幾ら少数とは言え、補足されずによく此処まで」

 

「その為の虎牢関攻めです」

 

 

沙羅が言い、それに追従する様に鴉羽が言葉を繋ぐ。

 

 

「この策を成す為に、あちらには可能な限りの戦力を置いて来たのですから。

まぁ、負けたりしても、此方が本命だと分かられなければ善しです」

 

「相変わらず、怖い考えだね・・・見た感じ通りだよ」

 

「見た目男の貴女に言われたくはありません」

 

「女だもん!」

 

「泣くな、沙羅」

 

「泣いてないです!!」

 

 

頻りにゴシゴシと目元を擦りながら、そっぽを向く沙羅だが、はっきり言って説得力は皆無である。

 

 

「では、行きましょう。

鍾繇、件の抜け道を案内して下さい」

 

「うぅ・・・分かった」

 

 

泣き腫らした眼から手を離し、沙羅が皆を先導する。

その中程に存在するフード姿の一人は、ずっと虎牢関の側を眺めていたのであった。

 

 

 

 

第三十二話:了

 

 

 

 

 

後書きの様な物

 

・・・・・・・・・・・遅い、遅すぎでしょう自分。

よもや過去最遅。

ちくせう、就活ってこんなに面倒臭くて苦しくて忙しいものだったんですね・・・

 

コメ返し

 

 

・転生はりまえ$様:華琳は実は少しずつ正史や演義に記録されている曹操に近付いていると言うイメージでいます。

 

・熱を操る料理人?龍々(ロンロン)様:簡単に言うと、一刀に追い付こうと躍起になっているんです。 これ以上はネタばらしになっちゃうので、御勘弁!

 

・オレンジペペ様:と言うか、戦争って言うのは本来泥臭い物なんですよね。 劉邦もかなりそう言う所ありましたし。

 

・悠なるかな様:予想は付けさせないつもりで書いています。

 

・骸骨様:ゲームでも公孫瓉って普通に優秀かつ強キャラですものね、寧ろ何故恋姫ではああなったし。

 

・2828様:普通は長所ですから!

 

・nameneko様:今回解決編でした!

 

・無双様:白蓮はあちらこちらで救済と言うか、活躍の場を増やそうと思っておりますよ。

 

・ティマイオス様:もうちょい、もうちょいだけ待って下さい・・・!

 

・欠陥製品様:ありがとうございます!!

 

・paur様:う~む、ねねも好きなキャラなんですけどね。 真・恋姫やってみてると、白蓮よりもよっぽど不憫が似合うキャラっていると思うんですよ。 アンソロジーにもそう言うキャラいるし。

 

 

では、今回は此処までです。

次回はまたしても数カ月後になるかもしれません。

どうか、応援お願い致します!!

ではまた来年も!

 

 

 


 
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