真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第10章「黒天」 中編2 雪蓮vsサラ
戦場中央 最前線
そこでは戦場の最前線というだけあり、大激戦が勃発している
・・・・・・はずだった。
しかし、その場からは兵士たちの戦う声や剣戟が重なり合う音が聞こえてこない。
敵味方問わず、ある二人の戦いに皆が釘付けになっているからだ。
しかし、決して楽観的に二人の戦いを眺めているわけではない。
そうしないと自分の身に危険が及ぶのだから
ツルギ「ヒャッッッハァァァァァァァァァ!!!!」
ツルギは上空へと人間の脚力とは思えないほど飛び上がり、愛用の刀“月白”を上段に構えている。
蜀軍兵士「やばい!!また来るぞ!!逃げろぉぉぉぉ!!!」
一人の兵士がそう叫ぶと、皆が悲鳴を上げながらその場から全力で逃げていく。
ツルギの月白は真っ赤に輝いており、それを落下の勢いを借りながら、一気に振り下ろす。
振り下ろした瞬間、真っ赤な閃光が戦場一帯を包み込む。
光が包み込んだ後は暴風と呼べるくらいの風が吹き荒れ、その次に爆発音が戦場一帯に広がっていく。
「「「「「「「「ぐわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」」」」」」」」
そして最後には、それに巻き込まれた兵士たちの悲惨な叫びがこだまする。
戦場を包んだ真っ赤な光が収まっていくと、今までの戦場が阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌する。
大地にはツルギを中心にして大きな窪みができており、周りには敵味方問わず、巻き込まれた兵士たちの亡骸が散乱していた。
ツルギは辺りをキョロキョロと見回し、ある人物を探し始める。
しかし、周りにはその目的の人物がいない。
そのことが分かると、ツルギは心底楽しそうな笑みを浮かべる。
ツルギが笑みを浮かべるのとほぼ同じその時、ツルギの後方左から彼の首元を狙った瞬激の刃が襲い掛かる。
ツルギは体を反転させ刃でそれを防いだ後、すぐさましゃがみ込み、脚払いをかけようとする。
愛紗「はあっ!!」
愛紗は最小限の跳躍で脚払いを避けた後、そのまま右方向へ回転し、その勢いで再びツルギの体を薙ぐ。
ビュオンと風を切る斬撃をツルギは刀の柄で受け止めた後、それを弾き返した。
愛紗は体勢を少し崩されるものの、何とか堪えきって、刃を再びツルギへと向ける。
ツルギ「あ~~、メッチャクチャ楽しいぜ!!!血が熱くなる!!!」
ツルギは指揮者のように大袈裟に両手を挙げて歓喜している。
ツルギ「さっきの斬撃も見事に避けて、オレの後方をいとも簡単に取ってみせるとはな!!!」
上方へ挙げていた両手を次は愛紗の方に向け、まるで歌でも歌っているかのように言葉を述べていく。
ツルギのテンションはもうすでに振り切っていた。
愛紗「御託はいい・・・さっさと構えろ!!」
愛紗は偃月刀をカチャっと音を立てながら握りなおす。
ツルギ「心配すんな。オレの流派に構えや型なんて無い。オレの思うようにコイツを振りまわす、ただそれだけだ。いつでも来な」
ツルギはそういいながら、月白の刃を愛でるように撫でる。
一見、隙の多そうな姿勢で普通にたっている様にしか見えないが、愛紗は攻めあぐねていた。
先ほどから何合と打ち合っているが、相手の隙を全く見つけることができないでいた。
確かにほんの少しだが、自分の刃がツルギに届いているものもある。
しかし、その斬撃はツルギに会心の一撃というものは全くない。
愛紗はツルギが撫でている刀に目を向ける。
その刃は紙のように薄く、向こうの景色が透けて見えそうなぐらいだった。
だが、何度打ち込んでみてもその刃は折れることは無い。
しかも、その刃は奇妙にも時折、赤色であったり、黄色であったり、青色であったりと様々な色へと変化する。
ツルギ「どうした・・・来ないのか?」
いろいろと考えていたその時にツルギに話しかけられ、愛紗はハッとした表情をみせる。
そして、刃をツルギに向けなおし、深く腰を落とした。
ツルギ「おっ!やる気になったか・・・だが・・・、ここじゃお互いに本気が出せないよな?他の兵士を巻き込んじまう」
愛紗「よくもまぁ、ぬけぬけと・・・」
愛紗は自分の足元に転がっている兵士の亡骸に目をやる。
その亡骸は、ツルギの攻撃の影響をまともに受けて黒焦げになってしまっている。
ツルギ「もっと広い所へ行こうか!!こっちだ!!ついて来い!!!」
ツルギは愛紗に背中を見せて、後ろ手に誘うようなしぐさをすると、そのまま走って行ってしまう。
愛紗「・・・・・・どうすべきか・・・」
愛紗は一瞬、敵の罠ではないだろうかと勘繰りをするが、考えたって分かるわけが無いと判断をすると、かなりの速度で走っていくツルギを追いかけることにした。
愛紗「伝令!!厳顔将軍に私が前に出るから、後方は頼むと伝えてくれ!!」
愛紗は伝令にそう告げたのち、馬に跨ってツルギの後を追っていった。
戦場 左翼
こちらの戦場は三国軍と漆黒の兵士たちが入り乱れるような乱戦が繰り広げられていた。
目の前の敵を倒したと安心していると、背後から敵に切り伏せられるかもしれない。
味方が背後にいるとも限らない。
乱戦の際は自らの命は自分で守らなければならない。
そのような緊迫した雰囲気、気持ちが戦場全体を包み込んでいる。
そんな中、乱戦の人ごみの中を縫うように走りぬく人影が二つあった。
一つが雪蓮、もう一つが黒い布を巻いていたサラだ。
雪蓮はサラとの距離を縮めようと、積極的にサラとの間合いを詰めていく。
しかし、人ごみの中というだけあり、一直線に走りぬくことができない。
一方、サラは雪蓮との距離を縮ませまいと後方に軽やかなステップを踏みながら間合いを広げていく。
しかし、こちらも乱戦の中のため、たまに兵士と肩をぶつけてしまったりと、思うように動けてはいないようだ。
雪蓮「ちぃ!?邪魔よ!!!」
雪蓮は自分の進もうとしている所にいた黒兜をかぶった兵士を容赦なく切りつける。
そして、斬った相手の方を振り返りもせず、サラの行く方へと駆け抜ける。
すると、雪蓮の前方から一直線に自分の顔に目掛けて矢が飛んでくる。
雪蓮は難なくその矢を打ち落としてみせるが、間髪入れずに第二射が飛んできたことに気付く。
雪蓮は咄嗟に左に居た敵兵士の鎧をつかむと、強引に自分の前へと引っ張り込む。
敵兵士「グハァ!!!!」
雪蓮に引き込まれたその兵士は雪蓮に向けて放たれた第二射を背中に浴びた後、両膝をついて倒れこんだ。
雪蓮「身近にあるモノは使わないとね。悪く思わないでよ」
雪蓮は敵兵に突き刺さっている矢へと目を向ける。
その矢は敵兵士の着ている鎧を突き抜けていた。
雪蓮「相当な威力ね・・・。それに乱戦の中でのこの命中力・・・早く間合いを詰めないと・・・」
そして目線を再びサラの方へと向ける。
サラとの間合いはさらに広がってしまっていた。
雪蓮は地面を思い切り蹴りこむと、サラの向かう方へと走り抜けていく。
サラ「やっぱり、考え方が野獣というか、なんというか・・・。人を何だと思ってんのよ・・・アイツ・・・」
サラは雪蓮が人を盾にすることで、第二射目を回避する一部始終を見ていた。
サラ「絶妙なタイミングだったから、殺ったと思ったんだけど・・・そんなに甘か無いか。まぁ、このままの距離を保ちながら、あそこまでたどり着けたら・・・」
矢を三本取り出してそのうちの一本を弓に番えると、サラは再びバックステップで雪蓮の様子を伺いながら距離をあけていくのだった。
春蘭「待ぁぁぁぁぁぁぁぁたんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
春蘭は七星餓狼に闘気を込めながら、逃げている黒布の男を追いかける。
黒布の男「アホか!!逃げへんかったら死んでまうやろが!!」
男は春蘭に背中を向け、右手に槍を抱えながら全力で春蘭から逃げている。
春蘭「お前“戦わんとこっちが死ぬ”みたいなこと言ってただろうが!!逃げるなぁぁぁぁ!!!」
男「勝ち目の無い戦いはせえへんのや!!しかも、これは逃げとんのとちゃう!!!戦略的撤退じゃ!!!」
春蘭「季衣の仇を討たせろ!!!!!」
男「せやからオレちゃうって!!!!!!!」
春蘭「そんなの知るか!!!私の気が収まらんのだ!!!!!!」
男は顔だけを後方に向けて全力で逃げながら、春蘭の様子を見てみる。
春蘭「でぇぇりゃぁぁ!!!!!」
春蘭は闘気の纏った七星餓狼をおもむろに振り切ると、その斬撃が赤色の弧を画いて黒布の男に襲い掛かる。
男「ちょ!?なんか飛んできてるって!!!」
そういっている間にも春蘭が放つ赤い斬撃が男に迫ってくる。
男「ほんまにファンタジーやん!!普通、剣振っただけじゃぁ、なんも飛ばへんって!!!」
春蘭「何をゴチャゴチャと!!!」
春蘭はそういいながら、連続で赤い斬撃を放っていく。
そして、男を襲う斬撃が一気に4つに増える。
男「・・・・・・・・・、はぁ……、なんか・・・もうどうでもよぉなってきたわ。人間ホンマに危険になったら笑いたくなるってきいたことあるけど、マジみたいやな。避けながら・・・逃げよ」
そう言って、男は右手に持っている槍を短く持ち直して、走る速度をさらにあげる。
しかし、春蘭の放つ斬撃の方がわずかに速く、徐々に男との距離が狭まってくる。
男「よっと!」
男は斬撃をギリギリまで引き寄せると、上方へ飛び上がり、一撃目の斬撃をやり過ごす。
飛び上がった後はすぐに着地し、再び男は走り始めるも、二撃目、三撃目が続いて襲い掛かる。
二撃目は男の首の辺りに飛んできており、三撃目は男の足辺りに直撃する位置に放たれている。
男「ひゃっ!とりゃぁ!!!」
男は急停止してしゃがみ込んで二撃目をいなした後、立ち上がる勢いを利用してバク宙の要領で飛び上がって三撃目もかわしてみせる。
しかし、着地が思うように行かず少しだけ後方にバランスを崩してしまう。
男「しまっ!」
すぐにバランスを取り直して後方を見ると、すぐ目の前に4撃目が迫っていた。
男「ああ……終わったな・・・。ん?」
すぐ目の前に迫る赤い閃光を見て死を覚悟したものの、赤い閃光が先ほどまでの斬撃よりも小さくなっていることに気付く。
男(なるへそ・・・、距離が伸びるほどに威力が落ちんのか・・・。これなら・・・)
男は4撃目の斬撃を正面でとらえると、右手に持っていた槍を両手に持ちかえ、槍の間合いに入ると同時に槍を振るう。
槍と斬撃が交差した一瞬、辺りに赤い閃光が広がっていく。
そして、男に飛んできていた斬撃は槍によって打ち消されていた。
男「さすが!!!我が家の宝“紅蜻蛉(くれないとんぼ)”やな。初めて振ってみたけど、ええ感じや。って!!そんなんゆうてる場合とちゃうな。はよ、あそこまで逃げよ。もうそこまで来てるし」
黒布の男は自分の槍を一撫でしたあと、迫り来る春蘭から再び逃げるのであった。
戦場最前線 ??????
雪蓮はサラの後を追って、無我夢中に走っていた。
自分が今どの方角を向いて走っているのかなんて考えてもいない。
ただ、目の前を走るあの女を追う。
ただ、それだけ・・・
すると突然、目の前を走っていたサラが動きを止めて、辺りを見渡していた。
雪蓮はその様子を見て速度を落とし、同じように周りを見つめる。
そこは周りを小高い丘に囲まれた荒れ果てた不毛の大地だった。
雪蓮は辺りを警戒しながら、サラに今度はゆっくりと近づいていく。
雪蓮「もう追いかけっこはお仕舞い?」
雪蓮がそう問いかけたその瞬間、サラは体をすぐさま反転させ、雪蓮の足元に矢を打ち込む。
あともう一歩、右足を踏み出していたら確実に右足は矢の餌食になっていただろう。
雪蓮「今度は不意打ちかしら?」
サラ「人聞きが悪いわね。わざわざ自分に敵を近づかせるわけが無いでしょ?それに不意打ちするならちゃんと頭狙ってるわよ。バカじゃないの?」
サラはチラッと自分の矢筒にある矢の数を確認する。
そして、矢を一本取り出して番えると、雪蓮に向かって矢を引き絞る。
雪蓮「やっとまともにやれそうね」
サラ「はぁ・・・、ホントにウザイ」
雪蓮「もう逃げないでね。殺せないから」
サラ「逃げる?誰が?私の目的はただ一つ。アンタを殺すことなのよ!!!!」
怒声と共にサラは引き絞った矢を一気に解き放つ。
風を切りながらその矢は一寸の狂いも無く、雪蓮の顔に飛んでいく。
雪蓮はその矢を体をひねって軽く避けてみせたあと、一直線にサラに向かって突進していく。
サラ「この猪!!」
サラはすかさず矢を二本取り出して一本を雪蓮の足元に打ち込む。
雪蓮はその矢をクルリと華麗に回りながら左に避けると、その動きを追ってサラは次の矢を打ち込んだ。
雪蓮はサラに向かって一直線に走りながら、二本目の矢も容易に弾き返す。
二人の距離は徐々に狭まっていく。
雪蓮「前みたいに邪魔な木々がないから、動きやすいわね」
雪蓮はわざとサラに聞こえるように話しだす。
サラ「それって“私はあの時は森の中だから負けたのよ”っていう言い訳?」
雪蓮「どう取ってもらっても結構!!ただ・・・今回はどちらにも地の利は無い・・・。いや、それがない分、私が有利!!!!」
雪蓮は弓の的としてとらえられないようにジグザクに走り始める。
前の闘いでは森の中で木々が邪魔をしたので、どの経路で突っ込んでくるかを推測されてしまった。
しかし今いるここは、行動を邪魔する木々がない不毛の大地
どこで曲がるのか、どこで速度を緩めるのかという緩急を見分けづらい。
サラ「はぁ・・・、ホントに単純・・・」
サラはわざとらしく大きなため息をつくと、再び雪蓮とは距離をとりながら弓を構え、雪蓮の進行方向へ矢を放とうとしたその時・・・
バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!
サラ「えっ!なに!!」
突然、周りにそびえる西側の小高い丘の一部が爆音を立てて崩壊し始めた。
そしてなだらかな丘を崩れた岩石が転がり落ちてくる。
崩れた丘とは距離があるため、別に逃げる必要はないが突然の爆発音に目線がそちらに奪われる。
丘の斜面を土埃を立てながら、岩石が転がっている中、土埃の中で動く二つの影をサラは見つけることができた。
サラは目を凝らしてその二つの影の後を目で追うと、一つは知っている顔だった。
サラ「・・・ツルギ・・・か・・・やっと来た」
雪蓮「あら?待たせちゃったかしら?」
サラ「ッ!?し・・・」
サラは目線を雪蓮の方へ向けると、雪蓮はすぐ目の前に来ていた。
雪蓮はサラが目線を外している時にすぐさま間合いを詰め、サラの胸元へ飛び込んでいた。
サラはほとんど零距離なので、弓を引くこともできない。
雪蓮「殺った!!」
雪蓮は必殺の間合いで、南海覇王を横一閃に振り切った。
ギィィィィィィィィィィィィィィィィィン
雪蓮「・・・・・・ふぅん。やるじゃない」
雪蓮が振り切った南海覇王はサラが持つ弓の弓身(弓の弦でない方)に備え付けられている金属部分でがっちりと受け止められていた。
サラ「ハァ!!」
サラはグルリと弓を回転させて、南海覇王を弾いたあと、サラ自らが横に回転し、弦の部分で雪蓮を切りつけてくる。
雪蓮はあまりの予想外の行動に、少しだけ動きが遅くなってしまう。
そのため、弦での攻撃にうまく対処できず、雪蓮の服の左袖から垂れ下がる布が切り落とされた。
雪蓮「弓で・・・近接戦もできるってこと?」
雪蓮は横に転がったあと、すぐに体勢を立て直し、南海覇王を構える。
一方、サラは雪蓮を斬りつけた動作のまましばらく硬直し、ゆっくりと顔を俯けていく。
そして・・・
サラ「はぁ・・・、もう!!一生の不覚!!弓術士が懐に入られるなんて!!!恥だわ!!」
サラは今までの冷静な態度とは一転して、急に髪をワシャワシャとかき乱し、地団駄を踏み始める。
サラ「おばあちゃんには感謝しないと・・・、ホントに死んでたわ・・・。アァ~~~ッ!!もう!!超サイテー!!傷はついてないよね!!」
サラはおもむろに弓の各部位をすばやく撫でながらチェックしていく。
サラ「よかった・・・。目立った傷はついてない。さすがは“神音(かぐね)”ね」
一通りのチェックが完了すると、サラはキリッとした目をさらに引きつらせて雪蓮を睨みつける。
サラ「やってくれたわね・・・孫策!!」
雪蓮「戦いの最中によそ見する方が悪いんじゃないの?」
サラ「うっ・・・・・・、言い返せない・・・(あっ!)」
サラはそう言った後、何かハッとした様子で両頬を二回パンパンと叩く。
そして、弓を再び構え、孫策へと狙いを定める。
サラ「確かに・・・よそ見したのは私の失敗。だけど、これで接近しただけじゃ、有意に立てないってことも分かったんじゃないの?」
雪蓮「確かに・・・アンタは近接戦もいけるようね。」
サラ「当然でしょ?私をそこらの弓使いと一緒にしないで。私がやってるのは弓道じゃなくて実践弓術なの。近づかれただけで終わりっていう軟弱な武術はやってない!!」
雪蓮「あら?そうなの。でも、あんた・・・あせってるわね。少し饒舌になってんじゃない?フフッ」
サラ「ッッ!!だっ・・・黙れ!!!」
サラは一瞬だけ手で口を覆う動作をしそうになるのを何とか途中でとどめると、さらに目尻を上げて雪蓮を睨みつける。
そして、瞬時に矢を取り出して、最小限の動作で雪蓮の胸元に向けて矢を放つ。
ビュォォォン!
その矢の速度は今まで放たれた矢の中で一番速く、鋭い物に雪蓮は感じた。
しかし、真正面に放たれたため、雪蓮はその矢をまっ二つに斬ってみせる。
そして、姿勢を低くし脚にめいいっぱい力を溜めた後、サラに向かって雪蓮は全速力で駆けていく。
ツルギ「おっ・・・、もうやってんじゃねぇか」
ツルギは少し離れた丘の上から雪蓮とサラの闘いの様子を眺めていた。
ツルギ「ありゃぁ・・・サラか?意外と押されてんじゃねぇの?揃うまでもつか?」
ツルギは月白を肩に乗せ、絶壁の崖に腰をかけるようにして座る。
そして、子供のように脚をプラプラとさせながら、二人の様子を見下ろしている。
ツルギ「おい!お前もあいつ等の殺し合いを見ようじゃねぇか!なかなかの見ものだぞ?」
ツルギは誰も居ないはずの後方に向かって声をかける。
ツルギのすぐ後ろはなだらかな斜面が広がっており、その斜面の先は断崖絶壁の崖になっている。
通常ならそんな位置に誰も立っているはずはないのだが、後方からトーン、トーンと崖を蹴っている音が聞こえてくる。
その音は次第に近くで聞こえるようになっていき、最後に地面を力強く蹴る音が聞こえた瞬間、崖から愛紗が飛び出してきた。
愛紗はそのまま空中高く飛び上がり、その落下の勢いを利用してツルギに偃月刀を振るう。
愛紗「でぇぇぇいりゃあああ!!!!!!」
ツルギ「ったく・・・せっかちなや・・・おっ?」
ツルギは空高く飛び上がっている愛紗の姿を軽く一瞥した後、先ほどと偃月刀の様子が違うことに気付く。
ツルギ(偃月刀が薄っすら赤く・・・)
ツルギはすぐさま立ち上がり、前方の崖を恐れる様子も無くポーンと飛び降りる。
愛紗の偃月刀はツルギに命中することなく、今までツルギが腰掛けていた部分に突き刺さる。
その瞬間・・・
バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!
愛紗の偃月刀の先が一瞬だけ赤く光った後、丘が大爆発を起こした。
愛紗「なっ!?」
愛紗は偃月刀で突き刺しただけで崖が崩れるとは思ってもいなかったため、少しだけ驚きの表情を浮かべる。
崖は見るも無残に砕け散り、数多くの大きな岩が急斜面を轟音をたてながら下っていく。
愛紗は何とか体勢を整えながらその岩を足場にして安全に急斜面を下っていく。
斜面の前方は土埃で視界こそ悪かったものの、ツルギも同じようにして崖を下っているのが見えた。
愛紗は最後に乗った大岩が地面にぶつかった瞬間を見定めて、大きく飛び上がり無事に平地へと着地することができた。
その数歩先にはツルギの姿も確認できる。
ツルギ「ったくよ~、さっきの場所、観戦にはもってこいの場所だったのによ~。人の話はよく理解したうえで行動しろよな~~」
ツルギは愛紗の方を一度だけ振り返った後、指でクイクイと東側の方を指差した。
愛紗「あれは・・・雪蓮殿か!?何故こんな所に!?」
愛紗はツルギの指差す方を見てみると、そこでは雪蓮が戦っている姿を見ることができた。
ツルギ「にしても、お前も闘気使えるようになってんのな」
愛紗「なに?何のことだ?」
ツルギ「無意識か。まぁ、設定が緩くなってんのもあると思うが・・・」
愛紗「何を言っているのだ?お前は・・・」
ツルギ「まぁまぁ、あんまり気にすんな。こっちの話だ。って言ってる間にも、あいつも来たな」
ツルギは次に雪蓮たちのいる方角とは逆の方角を指差した。
愛紗もそちらへ首を向けてみると・・・
黒布の男「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉわぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」
春蘭「待ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁたぁぁぁぁぁんかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
雪蓮と戦っている女と同じように全身を黒い布で覆った人物が、春蘭から逃げながらこちらに向かっているのが見えてきた。
愛紗「春蘭!?なぜ!!!」
ツルギ「これであとはアイツとカガミだけか」
黒布の男「おお!!!!ツルギさ~~~ん!!!たすけてぇぇぇなぁぁぁぁぁ!!!」
黒布の男はツルギの姿を見つけると、両腕をブンブンと振って一直線にこちらに向かってきた。
そして、すぐさまツルギの背中へと身を潜める。
黒布の男「あの人アカンって・・・、鬼やって・・・、鬼神やって・・・」
ツルギ「お前はホントになさけねぇな・・・、あいつを見習え」
黒布の男「えっ・・・、って!!!あの子メッチャ戦ってるやん!!!よ~やるで・・・」
男とツルギが話している間に春蘭も愛紗の下へと到着していた。
春蘭「愛紗ではないか!?なぜこんな所に?」
愛紗「それはこちらの台詞だ!!戦線はどうした!!!!!」
春蘭「えっ・・・、いや・・・、ついカッとなってしまって・・・でも、あとは任せたって言ってきたしだな・・・。そうだ!!!!季衣がやられたんだ!!!!!」
はじめは春蘭も何故こんな所にいるのかとわけが分からないそぶりだったが、季衣のことを思い出してハッとする。
愛紗「何!!季衣が!!!無事なのか!?」
春蘭「いや・・・私も報告を聞いただけだから詳しいことは・・・」
愛紗「いったい誰に!?」
春蘭「アイツだ!!!!」
春蘭はツルギの後ろに隠れている男を指差す。
黒布の男「アホか!!!何回も違うゆーとるやろが!!!!」
男は顔だけを出して反論した後、すぐにまた首を引っ込める。
ツルギはこの会話には興味がないらしく、ジッと雪蓮とサラの闘いを眺めている。
愛紗「季衣を倒すほどの腕前の奴が他にもいるのか」
春蘭「それで・・・何故、愛紗もこんな所に居るのだ?」
ツルギ「だぁぁぁぁぁぁぁ!!!お前らうっせぇぇぇ!!!黙って見れんのか!?ああんっ!?そろそろ決着つきそうなんだ!!!静かにしやがれ!!!!」
ツルギは愛紗たちに向かって、一喝する。
ツルギの背中の後ろにいる男はその声の大きさに少しだけ肩をビクつかせている。
春蘭「アレは・・・雪蓮か・・・。おっ?」
春蘭もようやく雪蓮が戦っていることに気がついたらしく、その場の4人は一定の距離を開けたまま、雪蓮たちの戦いを傍観することにした。
キィン・・・
カキィン・・・・・・
辺りには金属音が鳴り響いている。
そう、剣を使う雪蓮と弓を扱うサラとの一騎打ちにおいて金属音が鳴り響いているのだ。
そこから考えても、どちらが優勢に立っているかは明白だった。
サラ「くっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
サラは弓の((神音|かぐね))で雪蓮の攻撃を辛うじて防いでいるという状態だった。
しかし、息はあがってしまっており、疲れが見え始めている。
雪蓮「近接戦でもなかなかやるようだけど・・・所詮は弓使い。体力がついていかないのかしら?」
サラ「はぁ・・・はぁ・・・だ・・・だまれ・・・」
サラはすばやく後方へと跳び下がった後、すかさず矢を放つ。
だが、その矢の勢いは今までのものと比べ、速度が断トツに遅かった。
雪蓮はその矢をよけることはせず、その矢を掴んでみせる。
雪蓮「今までの矢と全然違うじゃない。ここまでのようね」
雪蓮は掴んだ矢をそっけなく放り投げると、ゆっくりとサラの方へと近づいていく。
雪蓮「弓の腕は祭とか紫苑を上回るかもしれないのに・・・残念ね・・・」
サラ「はぁ・・・、はぁ…はぁ・・・まだ・・・やれ・・・る」
サラは雪蓮がゆっくりと近づいてくる歩幅にあわせて、ゆっくりと後退していく。
すると突然、雪蓮の体勢が前かがみになり、南海覇王を構えながらさらに向かって突進してきた。
サラはその速度にあわせて後退しようとしたが、もう足がいうことをきかず、思ったように後退できない。
雪蓮は徐々に距離を詰めていき、ついにサラに追いつくと前かがみの体勢からのびるように体を起こしながら南海覇王を下方斜めから上方へと振るう。
サラ「きゃあぁ!!!!」
サラはそれを防ごうと弓を前に出したが、雪蓮の剣圧に耐え切れず、神音を手放してしまう。
弓はクルクルと回りながらサラの後方遠くへと吹き飛ばされた。
雪蓮「かわいい声でるじゃない・・・フフフッ・・・」
雪蓮は勝利を確信し、再びゆっくりとした速度で歩みを進める。
サラは後ろをチラッと見て弓のある位置を確認した後、雪蓮の様子を伺いながら後ろ向きに歩いていく。
しかし、すでに疲れが足にきているためうまく動かすことができず、最後には体がよろめいて尻餅をついてしまう。
サラ「ク・・・ソ・・・、まだ・・・まだなのに・・・」
サラは必死に地面に手をつき、立ち上がろうとする。
しかし、そこで腕に痺れがあることを初めて感じた。
弓を吹き飛ばした雪蓮の一撃はかなり重かったらしく、弓を伝って腕にも決して軽くはない衝撃を与えていた。
そのため、腕をつっかえにして立ち上がることも満足にできないでいた。
サラ「まだ・・・まだ・・・・・・やれる・・・。だって・・・」
サラは何度も立ち上がろうとするも、体が言うことをきかない。
そうしている間にも雪蓮はサラの前まで到着し、南海覇王の剣先をサラに向ける。
雪蓮「終わりね・・・。これであの森の時の借りが返せるわ。私を侮辱した罪・・・死をもって償いなさい・・・」
サラ(動いてよ・・・動いて!!!!!!だって・・・まだ・・・話してない・・・話してないもん!!!!!!!)
剣先を向けられていても、サラは必死に立ち上がろうとしている。
しかし、また体に力がはいらず、地面に座り込んでしまった。
雪蓮「さよなら・・・・・・楽しかったわ」
黒布の男「ちょおおお!!!!!待ってや!!!殺されそうやんか!!!サラちゃん!!!!助けにいかな!!!!!!!」
雪蓮とサラの闘いを少しはなれたところで見ていた黒布の男は剣先を突きつけられているサラの姿を見て動揺している。
ツルギ「ダメだ」
黒布の男「何でや!!!!」
ツルギ「これはあいつ等の戦いだ。俺達が出る幕じゃねえ」
黒布の男「そんなん知るか!!!!!!!!」
黒布の男は槍を構えて、すぐさまサラの下へと駆け寄ろうとする。
しかし、それをツルギに阻まれてしまう。
黒布の男「どけや!!!!!!!!」
ツルギ「行かさん」
黒布の男「どけってゆーとるやろが!!!!!オレはあの子を守らんとあかんのや!!!」
ツルギ「それは知っている。だが、俺達が出るとこじゃねぇといってるだろうが」
黒布の男「だから、そんなん知らん!!!どけ!!!!!!」
ツルギ「何回も言わせんな。俺達“は”出なくていいんだ」
黒布の男「・・・何やと?」
ツルギ「これは“あいつ等”の戦いだ。俺達“が”出る幕じゃねえ・・・おとなしく見てろ・・・」
ツルギは男に向かって、再び同じ言葉を繰り返す。
春蘭「さすが、雪蓮だな」
ツルギと黒布の男の二人がもめている間、春蘭と愛紗も雪蓮の闘いの様子を眺めている。
愛紗「ああ。あの女もなかなかの者だ・・・・雪蓮殿を相手に弓で・・・」
春蘭「そうだが、秋蘭には遠く及ばんな!!秋蘭は天下一品舞道会の時に弓で明命に勝っているのだぞ。その戦い方をすれば、奴にも勝機があっただろうに・・・弓だから負けたというのはただの言い訳に過ぎん」
愛紗「いや・・・たぶんあ奴も秋蘭と同じような闘い方をしていたんだろうが・・・武道会の時は戦うための広さが決まっていただろ?この闘いはこんなに広く、しかも障害物が一つもない不毛の大地だ。弓には不利すぎる」
春蘭「・・・お前はどちらの味方なのだ?」
愛紗「事実を述べただけだ。しかし・・・私も一度、手合わせしてみたかった」
春蘭「とりあえず、もう決まりだろうな」
愛紗「ああ」
そして二人は雪蓮たちのほうへと再び視線をもどす。
雪蓮は南海覇王を女へと突き刺そうとしている瞬間だった。
しかし、愛紗は見逃さなかったのだ。
女の後方から青い閃光がものすごい速度で雪蓮たちの方へ近づいていたことに
雪蓮「さよなら・・・楽しかったわ・・・」
雪蓮は南海覇王をサラの心臓目掛けて一突きしようとしていた。
サラはもはや終わりを悟ったのか目を瞑ってしまっている。
そして、雪蓮が突き刺そうとしたその瞬間・・・雪蓮の目の前が一瞬だけ青い光で包まれる。
雪蓮「何!?」
そして、同時にキィィンという甲高い音が鳴り響く。
サラ「えっ・・・・・・」
サラは一帯何が起こったのか確認するため、少しだけ目を開ける。
雪蓮もいったい何が起きたのか理解できず、目の前で起きたことを理解しようと目を凝らす。
すると、南海覇王の剣先は双剣によってサラの体に突き刺さる手前で防がれていた。
雪蓮はその剣を伝うようにして、その剣を使う人物へと視線を移していく。
そこには今までいなかったはずの人物が立っていた。
顔に仮面を装着した人物が・・・
END
あとがき
どうもです
いかがだったでしょうか
雪蓮とサラの戦いを書いていて一つ思ったのが
何か雪蓮が悪役っぽい感じになってるな・・・ということです。
物語の進み方としてはイメージどおりに進んではいるのですが、どうにかならないかと考えた結果、どうにもならないなという結論に達しました。
きっと孫呉の血が全力でうずいていたら、雪蓮も残酷になるよねってところで落ち着きました。
では、次回タイトルだけをひとつ
次回 真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第10章「黒天」中編3 仮面の男
では、これにて失礼します。
Tweet |
|
|
14
|
0
|
追加するフォルダを選択
どうもです。中編2になります。
前回の予告でサブタイトルを間違えてしまったことに気付き、変更したことをここでご報告させていただきます。