No.354819

オブリビオンノベル 1.プロローグ~帝都、その様相~

紫月紫織さん

前書き:本作品は、【The Elder ScrollsⅣ:Oblivion】のプレイ記録をそのままノベライズ化してみる試みによって行われている小説作品です。パソコン版において、幾つかのMODを導入した環境下においてプレイを行っておりますので、ネタバレを多分に含みます。それらを了承できる方のみお進みください。また、このノベライズをするにあたっての環境として吸血鬼種族・システムとして【TerranVampires】と呼ばれるMODを導入してあります他、多量のMODによる環境の変更が行われています。ご了承ください。最初は適当に徘徊→その後TerranVampiresでのメインストーリーという流れになると思います。◆オブリビオンをわからない人でも楽しめるように書いていければいいなぁ、と思いますがこういうところわからねーよ? ってのがあれば気兼ねなくコメください。頑張って説明おりまぜていきます。

2011-12-29 23:33:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:708   閲覧ユーザー数:707

 

 不思議な浮遊感をもたらす船室のベッドの中で、私は眠りから微かに揺り起こされた。

 だるい体をゆすりベッドの中で寝返りを打って、もう一度眠りに入ろうとしていた。

 それを妨げるのは部屋に入ってきた人の気配。

 

「お嬢さん、聞こえてますか?」

「んー……ぅ」

「ふぅ、やれやれ。こちらに入国書類を置いておきます。夕方には船がシロディールに到着するので、それまでに記入しておいてください。いいですね?」

 

 そう言って気配は何か紙束を置いて出ていった。

 眠い、ひどく眠い。体には力が入らず、起き上がることすら出来ない。

 おそらく今は、日が天頂に座している頃合いだろう。忌々しいことだ。

 そうして私は再びまどろみの中に引きずり込まれていった。

 

   *   *   *

 

 これは夢なのだろう、と自然と感じ、そして受け入れていた。ひどく断片的な、けれど記憶に焼き付いて離れないような、そんな光景。

 

 薄暗い部屋の仲、鉄格子が見える。

 無骨な鎧を纏った兵士に連れられて、身なりの立派な老人が入ってくる。

 

『そなたには……見覚えがある』

 

 聞き覚えのない声は告げる。

 

『そう、夢で見た』

 

 貴方は──だれ?

 返事はなく、突如として場所が変わる。

 地下道のような一室で、私は老人と共に居た。

 

『私はここで死ぬだろう』

 

 老人は私に、何か赤いものを手渡して、言う。

 

『オブリビオンの顎を、閉じてくれ』

 

「オブ……リビオ、ン」

 

 タムリエルに住む人々ならば、一度は聞いたことがあるのではないかというその言葉。

 不吉な響きは、私の視界をじわりと暗く歪める。

 

 からん──

 

 落ちた赤い何かは、小さな影に持ち去られて、闇の中へと消えていった。

 

 何か、とても大切なもののはずなのに、それはどれだけ手を伸ばしても届かなくて……

 

 そうして私は──唐突に目を覚ました。

 

   *   *   *

 

「……なんじゃ、夢か」

 

 起きてみれば夜着は汗でひどく濡れ、手は震えている有様だった。

 歳かとふと考えて、慌ててそんな考えを振り払う。確かに相当な齢は重ねてきたけれど自分でそれを考えるのだけは絶対にやめておきたい。

 なにせ、老化とは無縁なのだから。

 

「んーむ、なんぞ見覚えのあるものじゃったような気がするんじゃがのぅ……まぁ、よいか。ただの夢じゃろ」

 

 船はどうやらまだ海上らしくゆらゆらと揺れている。とりあえずベッドから体を起こし調子を確認する。

 問題なく動くあたり、どうやら日は沈んだか、あるいは沈む数刻前といったところだろう。部屋を確認すれば入国書類らしきものが置かれていた。

 汗だらけになった服を脱ぎ捨て、持ってきてあった別の服に着替える。

 グリーン系の衣装に袖を通しながら入国書類の内容に目を通す。幾つかの項目記入が必要とされており、傍にインクとペンが置いてあった。

 

「ふむ、面倒じゃのぅ……生まれの星座……はて、なんじゃったかのぅ? 確か恋人座だったような気はするんじゃが……ま、いいか。テキトーテキトー」

 

 大雑把に当たり障りなく入国書類に記入を済ませる。書類の隣には堅焼きパンとトマトがひとつ置かれていた。食事ということなのだろう。

 嗜好品にしかならないけれどとりあえず平らげておく。私にとってさほど重要な要素ではないが、食べることは好きだった。

 食べ終えた当たりで船の揺れが落ち着き、何やら甲板がにわかに騒がしくなった。どうやら港に着いたらしい。

 そうとわかれば長居する理由もない。

 軽く身支度を整えて私は船から降りることにした。

 甲板に上がってみれば、空は東の空はすでに暗く、西の空が赤く染まっていた。活動を始めるには少々早い時間だけれどまぁ良いとしよう。若干、肌が焼ける気がしなくもないけれど、この薄暗さならおそらくわかるまい。

 治癒も円滑に行われている、支障はない。

 

「よぅ嬢ちゃん、船旅はどうだった? よく眠れたかい? 荷物は降ろしておいたから確認してくれや」

 

 荷降ろしをしている船員に声をかけられ、そちらから降りるのだと気づく。立派な体躯の船員が手を振っていた。

 微笑んで返すとそれだけで彼は上機嫌になる。

 全く、男というのはわかりやすい生き物だ。だからこそ扱いやすいのだけれど。

 

「えぇ、おかげ様でよく眠れたわ。少し寝すぎてしまったけれど」

「はっは、そりゃよかった。荷物はこっちだ」

「ありがとう」

 

 荷物を確認してみるが、特に物が減っているということもない。ざっと準備を整えてその場で身支度を済ませる。

 

「しかし嬢ちゃん、こんな見知らぬ地に来てやってくアテはあんのかい?」

「里帰りなんです、結構前に此処を離れたんですけどやっと帰れる準備ができたので。しばらくは祖母の家に寝泊まりする予定ですけど」

「あー、なるほどね。そっかそっか、なら心配ないな、うん」

「はい、心配してくださってありがとうございます。では」

「おう、達者でな」

 

 雑談を済ませ船から離れた所で、ふぅと一息つく。

 そう、私は見た目だけならおそらく十代前半に見えるだろう。

 もともとエルフであった私は幼い頃に成長が止まった、その結果として未だに見た目だけならば、成人前の女性──いや、ぶっちゃけよう、子供と大人の中間ぐらいに見える。

 もっとも見た目が実年齢と比例していないところまで含めてエルフ種族と同じわけだけれど。

 

(やれやれ、見た目通りに愛想をふりまくのも疲れるもんじゃて。あー、吸うてやればよかった。あやつも悦んだじゃろ……いやいや、流石にまだ土地の状況を把握する前の吸血はいかんの。何のためにこっちに来る前にたらふく飲んできたと……自重自重)

 

 薄暗がりに包まれてゆく帝都の街並みを見ながら、ふと胸がざわめく。

 こういう時は往々にして何かしらあるのだ。

 

(何も無いと、いいんじゃがのぉ。平穏が一番じゃて……)

 

 ひとまず、今日の宿を探すべく数十年ぶりの帝都を歩くことにした。

 それに、この服もおそらくこちらでは目立つだろう。もう少し良いものを探したい。

 それに、あとは武器。可能ならエンチャントも含めて用意しておいたほうがいいという予感がしていた。

 

 そんなことを考えながらあるいていると、ふとガードとすれ違った。

 街の中の警備だというのに、ひどく緊張した空気を纏っていてやたら物々しい。

 この時私は未だ知らなかったのだ。

 

 現状のシロディールが、どのような自体に陥っているのか。

 なぜ、この帝都──インペリアルシティの空気が緊張しているのか。

 程なくして私はその理由を知ることになる。

 

 そして、私が見た夢が──何を意味していたのかも。

 

   *   *   *

 

 帝都を歩いてみて、昔の帝都とはもはや別物であることを痛感していた。

 自分が何処を歩いているのかもわからない、むしろ此処は何処だろうと、そういうレベルだった。

 

(ええい、無駄に広い都市じゃのぅ。とりあえず宿の前に武器と服を見繕っておきたいのじゃがどうしたものか)

 

「どうしました?」

「ふぅわっ!?」

 

 唐突に声を掛けられ護身用の短剣に手を伸ばしつつ振り返ると、逆に驚いたような顔をした兵士が立っていた。しばし硬直した後短剣から手を放す。

 苦笑されてしまった。

 

「驚かせてしまって申し訳ない、レディ。こんな時間に出歩くのは好ましくありません。道に迷いましたか?」

 

 気を悪くしたふうでもなく話しかけてくる兵士を見て内心息をつく。

 

「あ、あー……えぇ、実はそうなんです。護身用の武器と、あと服、それから今夜寝るところを探しているのですけど」

「なるほど、そういうことでしたらあちらの橋を渡って門をくぐると神殿地区に出ます。そこをまっすぐ進むと帝都宮殿があります。さらにその向こう側にいくと商業地区に出ます。商人宿は手頃な値段で泊まれますからお嬢さんにちょうどいいでしょう。治安も悪くない。ファイティングチャンスという武器屋ならお嬢さんが扱えるような武器も揃っているでしょう。女将のローサンは良い人だから信用していいです。服は……申し訳ない、あまり詳しくないのですが、商業地区なら服を扱っているお店も揃っています、そちらへ向かうのがいいでしょう。ただ、もうすぐ店が閉まる時間です、早めに行ったほうがいいかと思います」

「ど、どうもご親切に」

「夜道にはお気をつけて」

 

 にこやかに去っていく兵士を見送りながら内心で胸を撫で下ろす。

 もともとあまり人に声を掛けられるような活動をしていないためどうにも慣れない。気付かれたりはしなかっただろうかと少々不安になるが、そういう素振りはなかったからおそらく大丈夫だろう。

 

(まったく、驚かせおってからに……。しかしま、良いヒトじゃな。その割に……何か警戒しておったフシがあるが……)

 

 考えをひとまず脇に置き、夕闇の中を私は少し早足で教えられたとおりに商業地区へと向かうことにした。

 

 

 

 

 店のドアをくぐると店内は武器屋特有の匂いを漂わせていた。

 金属の匂い、血の匂いを連想させるそれに思わず喉を鳴らしてしまった。

 

「おや、お客さんかい? もう店を閉めようと思っていたんだけどね」

「ごめんなさい、少し武器を見せてもらいたいのだけれど」

「構わないよ。護身用かい?」

「ええ、護身用に。でも、小さなものではなくて大物がいいわ。長剣ぐらいのやつが欲しいのだけれど」

 

 店の女将──兵士いわくローサンというらしい彼女は少々訝しげにしながら私を見てからこともなげに言う。

 

「お嬢ちゃんみたいなナリじゃ長剣は扱えないんじゃないかね。ナイフとは言わないがショートソードぐらいにしておいたほうが無難だと思うよ?」

「あはは、よく言われます。でも、これでも一応剣は習っててそれなりに扱えますから大丈夫。むしろある程度長くないと扱いづらくて」

「ふぅん、そういうふうには見えないけどもま、そう言うならしかたないさね。一般的なのはこの辺、こっちの方は最近仕入れたばかりなんだが業物で少し値が張るけどもいい切れ味してるやつだね、それからこっちが……」

 

 店にある片手で扱える長剣類を説明してくれるのだが、その中の一つに私の心を妙にひきつける剣があった。

 少なくとも見ただけで、一般的な刀匠が作った剣ではないことは知れる。刀身の優雅さ、そして刃の研ぎすまされ具合。何よりも色合い。

 私はその刀を手にとって、その瞬間気づく。材質からして、普通の武器とは一線を画している。銀というわけではない、エンチャントが施されているわけでもない、けれどその清浄さは私達のような存在に極めて効果を発揮しやすい性質を帯びている。

 おそらくこの剣ならば、霊体のような存在でも断つことが可能だろう。

 しゃらん、刀身から剣を抜いただけで金属同士が優雅に擦れる澄んだ音が響く。

 刀身には一点の曇もなく、歪みすら無い。そして驚くことに、はるかに軽い。刀身には揺らめくような不思議な波紋が浮かび上がり、それがさらに不思議な魅力を生み出していた。軽く数回振り、鞘に刃を収めた頃には私の心は決まっていた。

 

「この刀はいくらかしら?」

「あ、あぁ……少し値が張るよ。二千九百セプティム」

「……これで、お釣りは要らないわ」

 

 セプティム金貨三枚を渡すとローサンは驚いたように金貨を確認してから承諾するように頷いた。

 用事も済んだからとドアを開ける。

 

「あ、て……手入れが必要になったら、何時でもおいでよ。贔屓にするからさ」

「ありがとう」

 

 背中に投げかけられる声に返事をしながらも、私の心は上の空だった。

 

 店の外に出て、鞘を夕日にかざして見る。漆黒の鞘に施された見事な銀の装飾は夕日をきらりと反射して光り輝いた。

 思わず見惚れる程に美しいそれを夕日の中でもう少し眺めていたいが、その前に服も探しておきたいことを思い出し慌ててそれを腰に下げる。

 眺めるのはまた後にしておこう。

 

 

 

「もう店じまいなんだがねぇ」

 

 洋服屋の店主、パロリーニャはそう言って面倒くさそうな顔をした。

 閉店間際に買うかもわからない客が来たのなら何処の店員だって似たような顔を擦るのではないだろうか。

 とはいえ私もその程度のことを気にするわけではない。

 店の中のものを物色するのだけれど、これといって気に入ったものはなかった。

 

「どういう服を探してるんだい。ありそうならすぐ持ってくるし、無いなら探すだけ無駄だから帰って欲しいんだがね」

「正直ねぇ。そうね、黒い服がいいわ。あまりスカートの長くないもので、それなりに丈夫だと嬉しいかしら」

「ぁー、そういうたぐいの服は扱ってないねぇ。……あ、そういえば」

「何? 何かあるのかしら?」

「買い手がつかないからって捨てる予定だった服があったね、そこの袋に入ってる」

 

 ダメ元で開けてみると、そこには黒い生地ばかりで作られたいかにも私好みの服が収められていた。

 挙句装飾としてリボンとチェーン、である。

 とりあえず着替え部屋を借りていそいそと着替えてみる。実際に自分の姿を確認できるわけではないけれど、これはかなりいいのではないだろうか。

 チェーンの装飾が特に気に入った。こういうジャラジャラしたものを巻きつけるのは結構好きなのだ。

 

「気に入った、これにするわ。おいくらかしら?」

「どうせ捨てようと思ってたもんだ、適当でいいさ」

「そう、ではこれで足りるかしら?」

「んー……ぇっ?」

 

 セプティム銀貨を三枚渡したらどうやら満足したらしく上機嫌で送り出してくれた。そのご機嫌さが漏らした情報で、思わぬアクセサリーの情報も手に入れお店を訪ね終えた頃には、すっかりと日が沈んでいた。

 

 

 

 

 じゃらり、腰に巻き付けられたチェーンが音を立てる。

 宝石店で買った綺麗に装飾されたチェーンに、魔法道具屋で偶然見つけた魔力の付与された本を付けてみたのだ。

 これが上手く言ったようで、魔力による恩恵を受けれる結果となった。回復魔法の強化と、それなりのシールドエンチャント、そして一時的な生命力の強化の効果があるらしく幾分体が軽くなった。

 長らく怠惰に生活していたツケでかなりの能力低下を招いていた私にはありがたい限りだ。

 ひと通りの準備も済んだ所でひとまず宿へ向かうことにした。酒場もあるだろうから情報収集にはうってつけだ。

 

 宿に向かう道すがら、二人組が何やら話しているのが耳に入った。

 

「皇帝が行方不明らしい」

「噂では暗殺されたとか……」

 

 何やら物騒な話題だったが、この時の私はまだそれが後々自分に関わってくるとは思わなかった。

 

 プロローグ 了

 


 
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