No.351108

第3回恋姫同人祭り 蒼穹の御遣い 番外編

ども、峠崎ジョージです。
投稿75作品目になりました。
タイトルの通り『第3回恋姫同人祭り』の参加作品です。
今まではそれぞれに短編を書きおろしてきましたが、今回は自分の作品の更新兼生存報告という事でこのような形をとらせてもらいました。
『賑やかで甘ったるいSSなら皆さんが書いてくれるだろう』『ならば俺一人くらいシリアス全開な奴がいてもいいだろう』と思いまして。

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2011-12-23 00:55:33 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:10080   閲覧ユーザー数:8835

 

 

 

―――――これは『彼』が過ごす最後の冬、その一幕。

 

 

 

 

 

 

クリスマス。

 

イエス・キリストの降誕、即ち彼の人間としての誕生を祝うキリスト教の祭日。

12月25日がこれに当たるが、正教会でユリウス歴を使用しているものはグレゴリオ暦の1月7日に該当する日にクリスマスを祝う。

キリスト教に先立つユダヤ教やローマ帝国の歴、及びこれらを引き継いだ教会歴では日没を一日の境目としている為、クリスマス・イブと呼ばれる12月24日の夕刻から朝までも、教会歴上ではクリスマスと同じ日に数えられる。

日本語の『クリスマス』は英語『Christmas』に由来し、その語源は『キリストのミサ』を意味する『Christ's Mass』にある。日本語では他に、『降誕祭』、『聖誕祭』、『聖夜』などの呼び方がある。『クリスマス』にあたる『ドイツ語:Weihnachten(ヴァイナハテン)』、『フランス語:Noël(ノエル)』、『スペイン語:Navidad(ナビダー)』、『ラテン語:Christi Natalis(クリスティ・ナタリス)』であるが、語源は必ずしも同じではない。『ギリシア語:Χριστούγεννα(クリストゥ・ゲナ)』は、『ギリシア語:γέννα(誕生)』を用いており、文字通り、『キリストの誕生』である。

『英語:Christmas」の略記として、19世紀の英語圏では『ギリシア語:Χριστος』の頭文字である『ギリシア語:Χ(カイ)』、あるいはそれと同じ形であるローマ字の『X(エックス)』を省略形として用いて『X'mas』としたり、『Christ』の末字『t』を『X』に上付き添字した『Xtmas』とする表記が多用されていた。現在の英語圏では『Xmas』あるいは『X-mas』と綴ることが多いが、『Xtmas』、『Xpmas』の表記も散見される。

非キリスト教圏である日本・台湾・東南アジアでは、19世紀の英語圏で見られたのと同様のX'masとの表記が利用されている。Xが十字架すなわちキリストを表し、Xの後ろに何かが省略されているわけではないのでアポストロフィを付けるのは誤りであるとの解釈から、および現代の英語圏で使用が少ないため誤用またはEngrishとされることがある。なお、日本では『Xマス』とも略記する―――

 

 

「―――ね。流石は天下のウィキペディア、何でもお任せあれってか」

 

その声は、静寂に掻き消されそうな錯覚を覚えるほどに、微小だった。

窓の外、吹き抜けるのは低気圧に研ぎ澄まされた、刺さるような冷たい風。しかし、故に限りなく澄み切った大気は不純物を全くといっていい程に含有しておらず、晴れ渡る漆黒の帳には千万の灯が揺れていた。そして、そんな自然の闇に相反するかのような人工的な射光が飽和する室内、その一角に、苦笑気味な呟きの主はいた。

規則的に並ぶのは年季の入った木製の本棚と、光沢を放つ大きな卓。大小、厚薄、長短、新旧、その悉くを問わずして陳列されているのは、一枚の紙に綴られた知識や物語の数々。糧とする者。導とする者。悦とする者。数多の目的で、数多が来訪する場所。

市立図書館、そのカウンター。液晶の仄かな明かりが照らし出すその輪郭は、若干の呆れを確かに象っていた。

 

「ここまで大々的に祝われるなら、本人も悪い気もしないだろうな。……まぁ、この国じゃ殆どがそうは思ってないだろうけど」

 

事実この館内、新築にして十万を優に超える蔵書を誇る豪奢な設備が却って逆効果となっているのだろう、人気の全く感じられない閑散さが際立たされていた。完全な無音よりも、微かな異音が混じった静寂の方がより寂寥感を醸し出す。その例に漏れず、空調やPCの駆動音のみが仄かに耳朶を擽る中、呟きの主―――北郷一刀は苦笑と共にその画面、映し出されている記事を眺めていた。

あの世界―――三国志の英雄達が性転換され、一部の歴史さえ書き換えられた外史へのタイムパラレルから現世に強制送還されて7年弱。かの少年の面影こそ微かに残るものの、その出で立ちは年相応、精悍さすら漂わせる青年へと成長していた。Yシャツに紺のネクタイ、暗色のカーディガンとスラックスという絵に描いたような司書の風貌で軽く頬杖をつきながら設置されているPCでネットサーフィンしていた。仕事中にそのような行為など職務怠慢ではなかろうか、と思うだろうが、日頃より真面目な勤労態度の一刀がこうなるのも無理もないと言えよう。先程も述べたように来訪者は殆どおらず、後に来る事も殆ど、と言うよりも間違いなく『ない』と言えた。というのも、何を隠そう今日は件の『クリスマス・イブ』なのである。家族と、友達と、恋人と、大切な人達と過ごそうという人が大半であろうこの日に、態々図書館と言う場所を選ぶような考えの持ち主は、いないと断言こそ出来ないものの、まず間違いなく少数派だろう。実際、来訪者がいないからこそ、普段は真面目な勤勉態度で、空き時間さえ蔵書を眺め勤勉に励んでいる一刀がここまで怠惰にもなろうというものである。世間がどれほど聖夜の雰囲気に浮かれようと、地方公務員には勤務時間と言う名の呪縛が纏わりついているのである。

 

「改めて、ネットって便利だよな。無駄知識から専門用語まで、何でも直ぐに調べられんだから」

 

退屈からの現実逃避を続ける一刀。普段の勤務時間は午前からだが、今日に限って午後から夜までとなっていた。理由は単純、勤務時間を替わってくれと頼まれたのである。普段、午後から担当している彼女の理由は『彼氏とのデートがあるから』だそうだ。確かに独り暮らしで浮いた噂の一切ない成人男性である一刀は代理となるには打って付けだろう。それだけで聖夜に予定が入っていないだろう事はまず間違いなく、実際に一刀はその時間を持て余しているだけなのだから。

勉強の時間が増えたといつも以上に勤しみもした。精神修養だと開き直りもした。思いつく限りでほんの少しでも有意義になるような時間潰しも試してみた。が、当然ながら『退屈だ』という意識が消え去らぬ以上、時間の経過を『長い』と感じてしまう思考回路から解放される事はなく、行き着いた末がこのネットサーフィンだったという訳だ。日頃から積もりに積もったどうでもいいような疑問。うろ覚えになってしまった昔の杵柄。その悉くが検索欄に単語を入力するだけであっという間に氷解する。『情報=価値』の図式は古来より様々な事例で立証されており、遂には高度情報化社会などと呼ばれている現代だが、そこに生きる人々は、

 

「いつでも簡単に手に入るが故に、情報を身につけなくなったのかもしれないな……」

 

『感受性を身につける為』と始まったゆとり教育は却って国の学力を弱体化させ、情操教育に関する言動をやたらと規制するようになったメディアは却ってその基本知識の低下と魅力の欠乏の一途を辿っている。当然ながら、そんな環境下でも『本物』は確かに存在するのだが、以前よりその数が減少している事もまた事実。育てる手間を切ってインスタント物ばかり食べている人間の身体が数年後どうなっているかなど、解り切っているだろうに。

と、逸れ始めてしまったので話を戻そう。

誤解しないで頂きたいのが、この状況を生み出した原因が決してそのリア充達のみではない、という事である。ある意味で、一刀自身の自業自得とも言えた。

先述した通り、そして以前にも語った通り、7年前の『あの日』以来、一刀は変貌した。己を磨く事に熱心で、他の事に自ら現を抜かすような事は皆無に等しかった。それこそ、『自称』親友であり悪友の及川が度々何かしらの息抜きに連れださなければ、彼は一日中、そして一年中、自己鍛錬に励み続けていただろう。それはもう、狂気にあてられたかのように。強迫観念に衝き動かされているかのように。

とまあ、程度こそ行き過ぎてはいるものの、そんな一刀の変化は周囲に二つの印象を齎した。一つは、及川の言うように『生き急いでいる』と恐怖、またはそれに類した感情を抱くもの。それはある程度、彼の本質や心中を知る者であれば当然のそれだが、逆に言えばそれは彼と予め、ある程度の関わりを持っていなければ、彼という人物を知る者でなければ抱けない。

ならば、彼を知らなかった者が、変貌した後の彼を知った場合、果たしてどのような印象を抱くだろうか。欠かさない鍛錬の賜物から文武両道を地で行き、幾多の戦場を生き延びたからこそ纏う空気は凡夫のそれとは桁違い。何事にも熱心で人柄もよく、加えて見た目も悪くない。それでいて独り身。これだけの好条件が揃った物件を、世に蔓延る狩人達が放っておく訳もない。

が、それでも一刀が未だ独り身であり、世の恋人達が心温まる一時を過ごすこの日にその身を持て余しているのがどういう事か、彼が浮いた話の一切無い独り暮らしを続けているのがどういう事か、理解できるだろうか。

彼は、断り続けているのだ。自身に向けられた想いを、誘いを、確かな理解をもって。そう、それはまるで誰かに操を捧げんとばかりに。

 

「―――お、やっと閉館か」

 

突如、館内に響く無機質な放送と『ほたるの光』。閉館15分前の合図。

PCの電源を落とし、やり残した業務の有無の確認。返還図書の整理は既に終え手続きも完了済み。ある程度の掃除も終わっている為、残りは年末休暇の間に入るであろう清掃業者に任せれば問題ないだろう。

 

「さて、晩飯はどうするか……」

 

冷蔵庫の中身を反芻し今夜の献立を構想しながら、更衣室へと戻る一刀だった。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「はぁ、寒」

 

コートとマフラーに包んだ身を縮こまらせ、見るも鮮やかなイルミネーションと雑踏の中を歩く。時間帯のせいか、やはり男女の二人組が多い。仲睦まじく手や腕なぞ組み常夏気分に浸っているのだろう彼等は、見る者に漏れなく慈愛の笑顔か怨恨の舌打ちをさせる事だろう。

そして、一刀はどちらかというと前者だった。手放しにでこそないが、少なくとも彼等に祝福があらんと願うくらいの酌量はあった。

では、それ以外には何があるのか、と言うと、

 

「…………」

 

ふと傍らに向けた視線は、小さな洋菓子屋のチェーン店に向けられていた。明るい店内に陳列された色彩豊かな甘味の数々。その中でもやはり目立つのは、モミの木と赤い装束の老人の砂糖菓子が添えられた1ホールのケーキ。

 

「買って帰っても、食べきれないしな」

 

呟き、踵を返す。余程の甘党でなければ、数切れならばまだしも1ホール食べきるなど容易ではない。結局は冷蔵庫に放り込まれ賞味期限も消費期限もとうに過ぎ去った頃に思い出して処分する羽目になるのだ。

 

「とっとと帰ろう」

 

溢し、再び歩き出す。駅前に程近い立地からして行き交う人や車、灯るネオンやLED、共に壮観と言わんばかりだった。賑々しく、華々しく、目にした誰もが浮足立つような、綺麗な光景。

しかし、一刀にとっては正反対で、むしろ遠いもののように、むしろ別の世界を覗き見ているかのようにすら感じられて、

 

「……はぁ」

 

小さな嘆息。足を急がせる。一刻でも、一瞬でも、ここから離れたい。

ここはあまりに眩しくて。ここはあまりに羨ましくて。

 

「……なぁ、キリスト様」

 

もし、アンタが本当にいるのなら。

もし、アンタの誕生を心から祝うのなら。

 

「俺にも何か、恩恵があったりするのかな……?」

 

皆が一緒に過ごしたい人と過ごすこの日に、俺は一緒に過ごす事が出来ない。

皆が一緒にいたい人といるこの日に、俺は一緒にいる事が出来れない。

 

「信じる者は、本当に救われるのか?」

 

もしそうなら、俺はいくらでもアンタを信じる。いくらでもアンタを崇める。

神父にだってなってやるし、試練とやらだって喜んで受けてやる。その程度でいいなら、いくらだって、何だって。

 

「俺はもう、藁以下にだって縋りたいんだよ……」

 

欠片でも、一縷でも、可能性があるのならば。

だが、何が起こるはずもない。何も起こるはずもない。

鼓膜に届くのは相変わらずの喧騒と雑踏。

何が変わるはずもない。何も変わるはずもない。

 

「……ははっ」

 

極めて自嘲的。無理もない。

奇跡は起こるべき時に、起こるべき者に、起こるべくして起こるもの。

偶然ではなく必然。唯一にして不可侵。

そしてきっと、これが俺にとっての『必然』。

 

「偽物とはいえ、歴史を書き換えたんだもんな……」

 

だが、後悔などない。

あるはずがない。

あってはならない。

 

「……好き、なんだ」

 

これまでも。

これからも。

 

「大好き、なんだよ……」

 

何度も。

何度でも。

 

「見殺しになんて、出来ないじゃないか……」

 

別れる事になろうとも。

苦しむ事になろうとも。

 

「死なせたく、なかったんだから……」

 

同じ世界にいたとしても、いつかは別れは絶対に来る。それこそ『死』という形をもって。

ゆっくり言葉を並べて別れられただけ、まだましな方ではあるのだろう。

別れる一瞬よりも、ずっと楽しい時間を積み重ねてきた。

覚悟していた。受け入れていた。理解していた。認識していた。

でも、だからこそ、

 

「この『感情』は、簡単にどうにか出来るほど、小さくも安くもないんだから……」

 

滅入る一方。落胆の底なし沼。足を踏み入れたが最後、頭の天辺までずぶずぶと。

滲む視界を更に落とし、勢いを増す逆説ばかりのいたちごっこ。

こうなってしまうと、もう止まらなかった。

でも。どうして。だけど。なんで。

悲劇の主人公を気取っていると、嗤いたければ嗤えばいい。

自らの不遇に酔っていると、嘲りたければ嘲ればいい。

辛いんだ。

悲しいんだ。

嘆きたいんだ。

憤りたいんだ。

この不条理を。

この不公平を。

この不一致を。

この不十分を。

 

「…………」

 

あれから約7年。

探し続けた。

求め続けた。

あらゆる可能性を模索し、試し、時には眉唾ものの伝承の類にまで手を出した。

ただ、もう一度だけ、ほんの一瞬、たった一言だけでも。

歳不相応な貫禄と、年相応な幼さが同居した、強くて弱い女の子。

心から、心の底から、守りたいと、共にありたいと、そう思えた。

でも、共にある事を願うなら守れなくて、守る事を願うなら共にある事は出来なくて。

 

「……畜生」

 

人混みの中、憚る事無く、溢れて、零れて、伝って、落ちる。

心が、想いが、気持ちが、言葉や涙と言う形を持って。

きっと、人の感情というものには下限も上限もなくて、本当に満たされる事も底を尽きる事もなくて、だからこそ『原罪』なんてものがあったりするのだろう。

でなければ、

 

「……ははっ。まだ、出るんだな」

 

照れなのか、恥じらいなのか、判断のつかないそれを振り払おうと見上げた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

―――――はらり。

 

 

 

 

 

 

「……お」

 

舞い落ちる小さな白。頬に触れた途端、仄かな冷たさだけを残してなくなった。

雪の結晶には、全く同じ形は一つもない。完成する過程での環境、湿度、温度の変化により、様々な姿形を持って生まれ、その美麗さから『六花』『天花』『風花』、またその冷暗さから災厄の象徴として『青女』『白魔』などの異称を持っている。

成程、奈落のようにすら見える黒い空から降り注ぐ真白の群れには惹きこまれそうな、呑み込まれそうな感覚さえ覚える。

 

「ホワイトクリスマス、か……」

 

普通なら『天からの贈り物だ』と喜ぶのだろうが、今は更なる寒風の到来を告げる先達にしか思えない。マフラーを持ち上げて首を縮ませコートのポケットに手を突っ込んで歩き出そうとして、

 

「……?」

 

ふいに、そのポケットから感じる規則的な振動。明らかに携帯のバイブレーションであり、取り出し開いたそこにはここ数年で圧倒的に見る機会の多くなった悪友の名前。

 

「及川? 確か今日は合コンだって…………俺にも来いとか言うんじゃないだろうな」

 

容易に想像できた。昨今、草食系男子の割合が多い中では珍しい肉食系だが、如何せん雑食じみていて、時折『女なら誰でもいいんじゃないか?』とすら思える傾向がある。本人曰く『その時その時はマジで恋してんだよ!!』との事だが。

兎に角、及川は学生時代から一刀を餌にして(当の本人は『俺なんかが餌になるのか?』と本気で思っているが)出逢いの場を無理矢理作り出そうとする事が多く、

 

「……無視するのも気が引けるか」

 

暫し黙考して、受話ボタンを押した。電話越しの声はいつも通りに呆れる程のハイテンション、

 

「―――かぁぁぁぁぁぁぁずぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「……どうした?」

 

ではなかった。若干の泣きが入った大声は普段の及川とは違う……いや、そうでもないか。彼がこのように泣きついて来る時は大体、

 

「失敗してもうたぁぁぁぁぁぁ!! 女側の皆、食うだけ食うて金だけワイ等に払わして帰ってしもたんやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「やっぱりか……前にも同じような事、無かったか?」

 

「わ~っとるわい!! どうせワイは学習せぇへん大馬鹿じゃい!! ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

概ね予想通りだった。受話器からの大声に耳から携帯を遠ざけながら嘆息。

彼自身、悪い奴ではない事は確かなのだが、如何せんがっつき過ぎる傾向があり、そういう部分がどうも敬遠されがちなのである。

思わず零れる苦笑。彼自身そうは思っていないだろうが、

 

(お前と話してると、余計な事を考えなくて済むんだよな……)

 

パーソナルスペース、という単語を御存じだろうか。人は誰しも、他人との距離を保って生きている。親しい者とは短く、そうでない者とは長く。その度合いは個人差が大きく、他人へ踏み込める距離もまた然り。その距離の事をパーソナルスペースと呼び、そして及川のそれは非常に特異なのだ。ごく稀に、そういう人が本当に存在する。初対面の相手とも瞬時に親しくなり、そうでない相手ともいずれは必ず親しくなる。それは努力次第でどうにかする事も可能ではあるが、中々難しい。故に、そういう者は基本的に生まれながらにしてそれを持っている。及川も、恐らくその一人ではないか。一刀は、そう睨んでいた。

 

(男女の仲、って言うと中々受け入れる奴はいないけど『良い人だ』って印象は大抵の奴が持ってるんだよな)

 

そういう人物は、中々いない。狙って八方美人なのではなく、気付けば自然とそういう立ち位置にいる。皆にとって、一番かと言われれば断言こそ出来ないものの、どちらかと言えば間違いなく『好きだ』と言える。

 

(だからこそ、俺も……)

 

この先は言わない。思っても口にしない。

でなければ、アイツは間違いなく思いあがる。調子に乗る。

そうなるのは駄目だ。そうなられるのは癪だ。

 

「……で、俺にどうしろと?」

 

「もう仕事終わってるはずやんな!? 飲もう!! 飲み直そう!! 今日はとことん付き合ってもらうで!!」

 

「了解だ。いつもの店でいいんだな?」

 

「おう!! っつか、もう飲んどる!! 早よ来いや!!」

 

「……俺が行くまでに酔い潰れんなよ? って、おい」

 

返事を聞く前に回線が切れた。どうやら既に出来上がりつつあるらしい。

 

「……とっとと行くか」

 

再び嘆息。携帯を閉じポケットに放り込んで方向転換。

帰路とは反対方向だが、

 

 

 

「ったく、世話の焼ける……」

 

 

 

先に待つ精神的な苦難を嘆いている筈のその表情は、確かに微笑みの輪郭を帯びているのだった。

 

 

 

(本編『其之壱』へ続く)

 

後書きです、ハイ。

本当はもっとほのぼのとした子供達の夢要素満載の和み全開SS書く予定だった事は置いといて、いかがでしたでしょうか?

だって、ねぇ……これまでにうpされたのには一通り目を通したけど、皆2828なのばっかり書いてるんだもの。

一人くらい、こんなのがいてもいいっしょ?

さて、ほいでは俺も本編の更新……の前に『瑚裏拉麺』か『Just Walk』になりそうな希ガスww

 

 

で、

 

 

久々の『蒼穹』更新はアフターならぬビフォアストーリーでした。

そろそろ更新しないと忘れられそうよね……ってか、待ってる人いるのかしら?

まぁ、いようといなかろうと最後まで書くつもりなので、毎度毎度しつこいかもですが、時間を下しあ。

だってさぁ……バイトは月に20日以上出勤だし、就職活動も始まるし、公務員の勉強も滞っててね?

これに現抜かしてまた留年とか本気で笑えないからww

ほいでは、次の更新でお会いしましょう。

でわでわノシ

 

 

 

 

…………最近、3DSを買おうかどうか本気で思案中。


 
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