No.351015

真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第30話

葉月さん

お待たせしました。
第30話になります。

前回までのあらすじ
部屋に缶詰にされていた一刀。

続きを表示

2011-12-22 22:14:14 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:8688   閲覧ユーザー数:5318

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第30話

 

 

 

 

【破られた日常】

 

 

 

《桃香視点》

 

「白蓮様が……幽州が攻め落とされました!」

 

「えっ……」

 

愛紗ちゃんの言葉に私は動きを止めた。

 

「そんな……愛紗ちゃん!白蓮ちゃんは?白蓮ちゃんは無事なの!?」

 

私は愛紗ちゃんに詰め寄った。

 

「桃香落ち着いて。それは本当なのか愛紗」

 

「はい。先ほど間諜が戻り、朱里が報告を受けていました。詳細は聞いていませんが、至急ご主人様たちにお知らせをと朱里が」

 

「そうか。わかった、桃香一旦戻ろう」

 

「……」

 

「桃香?」

 

「そんな……白蓮ちゃんが……」

 

私は目の前が真っ暗になりました。

 

「桃香っ!」

 

「っ!」

 

ご主人様に肩を掴まれ大きな声で呼ばれた。

 

「大丈夫だから。兎に角一旦城に戻ろう」

 

ご主人様は私を安心させる為か微笑み勇気付けてくれた。

 

「ご主人様……うん」

 

私は頷いた。

 

大丈夫、白蓮ちゃんはきっと大丈夫。だってご主人様が言うんだもん。

 

「よし。愛紗戻るぞ」

 

「はっ!」

 

「桃香。行くよ」

 

ご主人様は手を差し伸べてくれた。きっと私が不安になってるから気を遣ってくれてるんだと思う。

 

「はい」

 

私は、ご主人様の手を握り急いでお城に戻った。

 

「……」

 

走りながらご主人様と握った手を見る。

 

やっぱり、ご主人様は凄いな。ご主人様は私をいつも勇気付けてくれる。

 

ご主人様の後姿を見て、私は改めて思った。

 

あの時、ご主人様が手を差し伸べてくれて握った瞬間、ご主人様の手の温もりを感じて安心したのか手の震えが止まった。

 

ホント、ご主人様って凄いよね……好きになってよかった。

 

………………

 

…………

 

……

 

城に辿り着き玉座の間へと急いだ。

 

玉座の間に着くと私たち三人以外のみんなは既に集まっていた。

 

「朱里ちゃん!」

 

私は朱里ちゃんを見つけて駆け寄った。

 

「白蓮ちゃんは!白蓮ちゃんは無事なの朱里ちゃん!」

 

「はわわっ!お、落ち着いてください桃香様。今ご説明しますから」

 

「わわ!ご、ごめんね朱里ちゃん」

 

「はぅ~。目が回ります」

 

朱里ちゃんの肩を掴み揺さぶったせいで朱里ちゃんは目を回してしまいました。

 

「朱里ちゃん。大丈夫?」

 

「うん。大丈夫だよ雛里ちゃん。それでは間諜からの報告をさせて貰います桃香様」

 

「うん。お願い」

 

「では、結果から報告をさせて貰いますね」

 

「「……」」

 

みんな朱里ちゃんに注目する。

 

「白蓮さんの安否は不明。これが間諜からの白蓮さんの状況です」

 

「そんな!」

 

朱里ちゃんの言葉に私は愕然とした。

 

「桃香様落ち着いてください。まだ、安否が不明なだけです。逃げ遂せている可能性もあります」

 

「そ、そうだよね。ごめんね朱里ちゃん。続けてくれるかな」

 

「はい。まず、幽州を攻めた人物ですが河北の袁紹さんです」

 

「まて、朱里よ。それは本当なのか?あの馬鹿、もとい、あの何も考えてなさそうな袁紹が本当にそんなことをしたのか?」

 

星ちゃんの言葉に何人かが苦笑いを浮かべていた。

 

「星。それじゃ、言い換えても同じ意味だぞ」

 

「おっと、これは失礼。つい本当の事を言ってしまいました」

 

「星よ。本当の事だろうが口に出すのは如何なものかと思うぞ」

 

「愛紗。それも言ってることと同じだぞ」

 

「なっ!」

 

「「「あははははっ!」」」

 

「わ、笑うでない!ご主人様も!」

 

星ちゃんの突っ込みにみんなから笑いが起こる。

 

そこで初めて私は気が付いた。みんな私の事を気に掛けてくれてるんだってことに。

 

ダメだな私……もっとしっかりしないと。

 

「ありがとう星ちゃん。もう大丈夫だよ。みんなもありがとう」

 

「はて?私は何か桃香様に致しましたかな?」

 

星ちゃんはとぼけた態度をとってみせていた。本当は星ちゃんも白蓮ちゃんの事が心配なはずなのに、それをおくびにも出さず、自分より皆の心配をしてくれていた。

 

「よし!それじゃもう一度朱里の話を聞こう。それに今後の対応も考えないといけないしね」

 

ご主人様の言葉に皆が頷きさっきまでの不安な顔じゃなく真剣な顔に変わる。

 

「朱里よ。開戦の報はあったのか?」

 

「いえ。無かったようです。あっという間に攻め込まれ応戦出来なかったと言っていました」

 

「なんと卑怯な……」

 

「だがこれで袁紹は白蓮殿が居なくなったことによって後顧の憂いがなくなったことになる。この機に攻勢に出てくるだろう」

 

「星の言う通りだな。さて、俺たちは今後どうするかだけど……桃香、どうしたい?」

 

「え?」

 

ご主人様はそこで私に話を振ってきました。

 

「桃香の思ってることを言ってごらん。俺たちはそれぞ全力で補佐するから」

 

「はい。多少の無茶でしたら押し通して見せます」

 

「うむ。我々は桃香様の家臣。なんでもお言い付けください桃香様」

 

「ご主人様……それに朱里ちゃんに愛紗ちゃんも……ありがとう」

 

私のお礼に皆が微笑んでくれた。

 

私が皆にお願いすることは……

 

「白蓮ちゃんを探して欲しいです。みんな、協力してくれますか?」

 

「もちろんだよ桃香。桃香ならそう言ってくれると思ってたよ。そうだろ?」

 

ご主人様の問いかけに皆が頷く。

 

「ではまず、白蓮殿を捜索する。部隊を編成しよう」

 

愛紗ちゃんが場を仕切るように話しを進めてきた。

 

「ではまず、部隊を率いる将だが……星、頼めるか?」

 

「むっ。私で良いのか?」

 

「ああ。それにお前は我々よりも長く白蓮殿と居たのだ。心配も一入であろう」

 

「かたじけない。ここは皆の好意をありがたく受け取ろう」

 

星ちゃんは深々と頭を下げてお礼をしてきた。

 

「そんなこと気にしなくて良いんだよ!だって星ちゃんはつい最近まで白蓮ちゃんのところに居たんだから心配するのも当たり前だよ。だからお礼なんて良いんだよ」

 

「……よし!まずは白蓮の捜索はどう行うかだけど。俺は秘密裏にそれも少数精鋭でやったほうが良いと思うんだ」

 

「?でも、大勢で探した方が見つけやすいんじゃないですかご主人様」

 

「ああ。桃香の言ったとおり、その方が早く見つかるかもしれない。だけどその方法だと白蓮、それに俺たちにも被害が及ぶ可能性がある」

 

「袁紹さん、ですか?」

 

ご主人様の話に朱里ちゃんが神妙な顔つきで答えた。

 

「俺たちが主でだって白蓮を探せば袁紹もまだ白蓮が生きているかもしれないと探すかもしれない。それに兵たちを大勢使い、探すことで警備が手薄になる。そこを袁紹に突かれる可能性もあるからだよ」

 

「それに、袁紹さんだけでもないんです。えと……公孫賛さんの領地が攻められたことで各陣営の均衡も崩れてきています。なのでどこから攻められてもおかしくない状況になってきています」

 

「おっ。よく勉強してるな。えらいぞ雪華」

 

「ふぇ。あ、ありあとうございますご主人様」

 

ご主人様は雪華ちゃんの頭を撫でて褒めていた。雪華ちゃんもご主人様に頭を撫でられて嬉しそうに頬を赤くしていた。

 

いいな~。私もご主人様に頭をなでなでしてもらいたいな……って、今はそれどころじゃないよね。

 

「それじゃご主人様が言った少数精鋭でいいかな?」

 

私は嬉しそうにしている雪華ちゃんを見て羨ましく思いながらも話を進めた。

 

「ええ。それがいいでしょう。白蓮殿も心配ですが、そればかりを気にして町の警備を怠るわけにも参りませんかね」

 

「そうですね。私もご主人様に賛成です」

 

「それでいいのだ!」

 

みんなが頷きご主人様の案に賛成していた。

 

「よし。それじゃ、話を詰めていこう」

 

こうして、白蓮ちゃんの捜索について詳しく話し合いを始めました。

 

――その夜

 

「白蓮ちゃん……」

 

私は城壁の上で遠くを見ていた。

 

無事だよね?無事でいてくれるよね白蓮ちゃん……

 

昼間はご主人様や皆に勇気付けられたけど、夜になって一人になるとやっぱり不安になる。

 

「……はぁ。ダメだよね、しっかりしないと……っ?」

 

そんな時でした。急に私の肩に何かが掛けられました

 

「大丈夫。桃香はしっかりしてるよ」

 

「え?」

 

その声に振り返るとご主人様が微笑んで立っていました。肩を見てみるとご主人様の上着が掛けられていました。

 

「こんな所にいると風邪引くよ?」

 

「うん……でも、やっぱり心配で」

 

肩に羽織られたご主人様の上着を握り締めて暗い夜を見つめた。

 

「……桃香は強いね」

 

「え?私、強くないですよ?愛紗ちゃんや鈴々ちゃん、星ちゃんの方が凄く強いですよ」

 

「違うよ桃香。俺が言ったのは力の強さじゃない。心の強さだよ」

 

「心の強さ?」

 

「ああ。桃香は辛い時でも笑顔でいようと頑張ってる。それは心が強くないと出来ないことだと俺は思うんだ。その桃香の笑顔がみんなを勇気付けることにもなってるんだよ」

 

ご主人様は私の心が強いって言ってくれた。でもそれは違う……ご主人様が傍に居てくれるから私は笑顔で居られるんだよ。

 

きっとご主人様が居てくれなかったら笑えてないかもしれない……もしかしたらどうすればいいのか分からなくて間違ったことをしていたかもしれない。

 

だから私が笑顔で居られるのはご主人様のおかげ……間違わずに居られるのもご主人様のおかげ。みんなみんな、ご主人様のおかげなんだよ。

 

口に出して言いたかった。でも、こんなこと恥ずかしくて伝えられないよ。もし伝えちゃったら恥ずかしくてこの場に居られなくなっちゃう思うし。

 

「……ご主人様」

 

でも、これだけは伝えよう。私のありったけの気持ちを籠めて、一言だけ……

 

「ありがとう。ご主人様」

 

「え、あ……うん」

 

ご主人様は暗い夜でも分かるくらい戸惑った顔をしていた。

 

なんだか戸惑ったご主人様を見るのも珍しい気がするな……そうだ。ちょっとだけいたずらしちゃおうかな♪

 

「……そ、それじゃ、寒いし戻ろうかとう、か」

 

「ん……」

 

私はご主人様の唇に向かい、顔を近づけそしてそのまま腕を首に絡めた。

 

「んんっ……ちゅっ」

 

「と、うか?」

 

「えへへ……なんだか今日のご主人様可愛いね」

 

ご主人様の唇から口を離して少し上目遣いでご主人様を見つめる。

 

「前にも言ったよね?私、ご主人様の事が好きって」

 

「あ、ああ……」

 

「あれね。違ったの本当は好きじゃないの」

 

「えっ……」

 

「本当はね。ご主人様の事……だーい好きなの♪」

 

私はそのままご主人様の胸に顔を埋めるようにして抱きついた。

 

「うぉっ!?」

 

「えへへ……」

 

ご主人様は驚きながらも私の事をしっかりと抱きとめてくれた。

 

「ご主人様」

 

「ん、どうかした?」

 

「頭、撫でて欲しいな」

 

ねだる様にご主人様を見上げる。

 

「頭を?」

 

「うん」

 

「了解」

 

(なでなで)

 

「えへへ♪私、ご主人様に頭を撫でられるの好きだな。凄く安心するの」

 

「そっか。でも知ってるか?頭を撫でられ過ぎるとハゲちゃうんだぞ?」

 

「ええっ!?そうなんですか!?」

 

うぅ。撫でられるの好きだけどハゲてご主人様に嫌われたら嫌だよぉ……

 

「ははっ」

 

一人悩んでいるとご主人様は急に笑い出しました。

 

「な、何で笑うんですか?」

 

「ごめんごめん。まさか桃香がここまで本気にするとは思わなかったからさ」

 

「え?」

 

ご主人様の言葉が意味が分からず首を傾げる。

 

「今のは嘘だよ」

 

「……え、えええっ!ご主人様、騙したんですか!酷いです、私本気で悩んでたのに!」

 

「ごめんごめん。なんだかちょっと苛めたくなっちゃったんだよ」

 

「ふ~ん。許さないもん」

 

私は頬を膨らませてご主人様を怒りました。

 

「む~っ!」

 

別に凄く怒ってるわけじゃないけど、やったらやり返さないとね。

 

「困ったな……あれ?こんな所に美味しそうな桃があるぞ?」

 

「え?どこですか?」

 

「ここだよ」

 

ご主人様はそう言うと顔を近づけてきました。

 

「んっ……っ!?!?」

 

え?ええ?も、桃って、私ぃ!?

 

「ん……んぁ、んんぅ……ご、ご主人様……」

 

「とっても美味しい桃だよ」

 

ご主人様は私の口から離れて微笑んでいました。

 

うぅ……こんな不意打ち卑怯だよ。

 

「機嫌は直ったかな?」

 

「……まだ、直ってません。だから次は私からします!……んっ」

 

今度は私からご主人様の口に接吻をしました。

 

「ん……ちゅっ、ぁ……んん……」

 

ご主人様は一瞬驚いていたけど、直ぐに私を受け入れてくれた。

 

「ん……まったく、困ったお姫様だな」

 

唇を離すとご主人様は私の頭を撫でながら苦笑いを浮かべていました。

 

「うにゅ……な、なんで笑うんですか」

 

「ん?なんでだろうね」

 

「むー、そう言う意地悪なご主人様、ちょっと嫌いです」

 

「ははは、ごめんごめん。別にからかってたわけじゃないんだよ」

 

「じゃあ、なんですか?」

 

「云うのも恥ずかしいんだけど……恋人みたいだなって」

 

「……はぅ!い、行き成りそんなこと言われると私も恥ずかしくなっちゃうよご主人様!」

 

ご主人様の言葉に顔が段々と熱くなってきた。

 

「も、もう。ご主人様ったら……」

 

それでもご主人様にそう思われたのが嬉しかった。

 

「あ、あのご主人さ……?どうかしたんですかご主人様?」

 

ご主人様は急に地平線の向こうを睨んでいました。

 

「……桃香、直ぐに玉座の間に行こう」

 

「え?どうしてですか?」

 

「大勢の人の気配が近づいてきてるんだ」

 

「ええ!?もしかして袁紹さんの所かな?」

 

「わからない。兎に角、皆を集めよう」

 

「う、うん!」

 

私は急いで階段を下りて玉座の間へと向かった。

 

《一刀視点》

 

「みんな、こんな夜遅くにごめん」

 

月も大分上に来ていたがみんな起きていた様で直ぐに集まることが出来た。

 

「うにゃ~……眠いのだ」

 

若干一名は寝ていたようだけど。

 

「鈴々、しっかりしろ!それで、何かあったのですかご主人様」

 

「何者かがここに向かってきている」

 

「それは本当ですかな主よ」

 

「ああ。間違いないと思う。今、斥候を出して調べに行ってもらってる所だ」

 

「では夜襲の可能性を考えて対策を考えましょう」

 

「まず、城に在中している兵は既に待機させてあります。そして予備兵はまだ未調練の兵しか居なく今回出すことは難しいかと思います」

 

「今居る兵たちで対応できる人数なのか?」

 

「それは斥候が戻ってこなければなんとも言えませんが問題ないのではないかと思います」

 

「ふむ。その根拠はどこになるのだ?盗賊ならば問題ないだろうが、これがどこぞの正規兵ならば心もとないと私は思うぞ」

 

星の言うとおり、盗賊程度なら今城にいる人数で対応できるだろう。だけど、これが袁紹の兵となれば兵数が足りなさ過ぎる。

 

「今のところ諸侯に動きはありません。袁紹さんも今は領地に戻っています」

 

「なるほど、だから諸侯の選は無いと、そう言うことだな」

 

「はい。消去法で残りは盗賊の類だけかと」

 

「失礼します!」

 

タイミングよく朱里の説明が終わった時に扉を開けて兵が入ってきた。

 

「斥候より報告が入りました!」

 

「よし、報告しろ」

 

「はっ!騎馬に乗り牙紋旗らしきものを掲げていたので、どうやら賊ではないも模様」

 

愛紗の許しを得て兵は報告を始めた。

 

「旗の名は」

 

「暗くまだ確認できていません」

 

「よし、分かり次第直ぐに報告をしろ」

 

「はっ!失礼します」

 

「如何なさいましょうご主人様」

 

兵の報告を受け愛紗は俺に尋ねてきた。

 

「う~ん。賊じゃないとなるとどこかの兵って事だけど、諸侯が動いてる気配は無いんだよね」

 

「はい。昨日の間諜の報告が最新なので、それは確かかと」

 

朱里は間違いが無いと頷く。

 

「それじゃ一体、誰なのかな?」

 

桃香の疑問に誰も答えない。いや、答えられないんだ。

 

「とりあえず、いつでも出撃できるように城門前に配備しておこう。ただ、寝ている民を起こさないように慎重にね」

 

「わかりました。では、私と星で事に当たりましょう」

 

「あ、あの。私も付いていってもいいでしょうか?」

 

雪華は手を上げておずおずと自らも付いていくと志願してきた。

 

「雪華がか?まあ、問題ないが。ご主人様、構いませんか?」

 

「……」

 

雪華は少し不安そうな視線で俺を見てきた。

 

多分、雪華なりに役に立ちたいんだろう。

 

ここ最近雪華は勉強や鍛錬を色々がんばってたしな。

 

「よし、雪華も行っておいで。愛紗たちを補佐してあげてくれ」

 

「は、はい!ありがとうございますご主人様」

 

嬉しそうに笑顔になる雪華に俺は微笑んだ。

 

「よろしく頼むぞ雪華」

 

「はい!」

 

「失礼します!

 

方針が決まった所で慌てて兵が入ってきた。

 

「どうした!」

 

「牙紋旗が判明しました!」

 

「なに、何処の誰だ!」

 

愛紗の言葉に俺を含めみんなが兵に注目をする。

 

「色まではわかりませんでしたが公孫の名が見えました」

 

「「っ!」」

 

斥候の報告にみんなの動きが止まる。

 

「それは確かか!」

 

「は、はい。間違いありません」

 

「桃香様!」

 

「う、うん!迎えにいこう!」

 

「俺たちも行くぞ」

 

「「はい!」」

 

「……うにゃ?ま、まってなのだ!鈴々も行くのだ!」

 

「はっ!」

 

城を出て数分。俺達は馬を走らせて白蓮と思われる軍勢に接触しようとしていた。

 

「桃香様。大丈夫ですか?」

 

少し遅れ気味の桃香を気遣って愛紗は桃香にペースを合わせていた。

 

「う、うん!私のことは気にしないで。それより早く白蓮ちゃんを!」

 

「ですが……」

 

桃香は自分の事は気にしないで白蓮を助けに行ってくれと言っていた。だが愛紗は頷けずにいた。

 

「俺が桃香に着いてるよ。愛紗はみんなと一緒に先に行ってくれ」

 

「ご主人様……わかりました。鈴々、星、みなも先行するぞ!」

 

愛紗は頷くと叫ぶようにして命令を飛ばしていた。

 

「……ありがとうご主人様」

 

「ん?なにがだ?」

 

愛紗たちが馬を飛ばし居なくなると不意に桃香がお礼を言ってきた。

 

「愛紗ちゃんたちを先に行かせてくれたことだよ」

 

「ああ。別に桃香の為じゃないぞ?」

 

「え?」

 

「俺もまだ馬を自在に操れないからさ」

 

「……そっか、でも、それでもありがとうご主人様」

 

「ああ」

 

桃香はそれでも嬉しそうにお礼を伝えてきた。

 

「とにかく俺達も急ごう」

 

「うん!お馬さん、キツイかも知れないけどよろしくね」

 

「ヒヒーーーーンッ!!」

 

桃香のお願いを聞いてなのか、馬は嘶くと走るスピードを上げた。

 

「わわっ!は、早すぎだよ!お、落ちちゃう~~」

 

桃香は急にスピードを上げたことに驚き馬の首に抱きついてた。

 

「桃香!手綱!手綱で馬を操るんだ!」

 

「あ、う、うん……っしょ」

 

桃香は俺の言葉を聞いてなんとか手綱を握った。が……

 

「え、えっと……はっ」

 

「そ、それだめーーーっ!」

 

「え?」

 

「ヒヒーーーーンッ!!」

 

「ひゃ~~~~っ!!」

 

馬は桃香の間違った命令にさらにスピードを上げてしまった。

 

「ご、ご主人様。と~~め~~~て~~~~~ぇ~~~~~」

 

「だ、だから俺はそんなに上手く操れないんだって!」

 

「そ、そんな~~~~ぁ~~~~」

 

そう言っている間も桃香と俺の距離はどんどんと開いていってしまっていた。

 

「ここまで来ると馬じゃ追いつけないか……これ、あんまりやりたくないんだけどな……よっと」

 

俺は苦笑いを浮かべながらなんとか腰に着けていた袋から一つの宝玉を手に取り刀にはめた。

 

流石に普段使っている走り方じゃ馬には追いつけない。そうなると……

 

「ごめんよ。ちょっと驚くかもしれないけどこのまま走ってくれな?」

 

俺は馬の鬣を撫でながら話しかけた。

 

「……よっと!」

 

手綱を握りながら鞍の上に立つ。

 

「ふぅ……ほっ!」

 

(とんっ)

 

走る馬の上で軽くジャンプをして馬から降りる。

 

「北郷流歩速術……神速っ!」

 

(ドンッ!)

 

地面に足がついたと同時に弾ける様にして地面が窪む。

 

「くっ!」

 

やっぱりこの一番最初の衝撃は慣れないよな……

 

この技を使うと最初の一歩は凄い圧力が掛かる。云わば、戦闘機の発進と同じ、通常の倍以上のGが掛かるからだ。

 

ま、まあ、馬で走っていたから普段よりはましなんだけどね。

 

それに一度、この速さに慣れてしまえばあとはどうってことはないんだ。

 

「よし!待ってろよ桃香!」

 

俺は桃香に追いつく為に更に足に力を入れた。

 

………………

 

…………

 

……

 

「……見つけた!」

 

走ること数十秒。桃香の乗る馬に追いついた。

 

「ひーーんっ!お願い!も、もう少しゆっくり走ってぇぇ!」

 

桃香はどうすることも出来ずにただ馬にしがみついていた。

 

「よし、馬と速さを合わせて……驚かせないように乗り上げないとな……ほっと!」

 

俺はなるべく馬を驚かせないように桃香の後ろに座り桃香を抱き寄せた。

 

「へ!?ご、ご主人様!?」

 

「もう大丈夫だからな……どうどう」

 

俺は手綱を握り馬を落ち着かせる様に首を撫でてあげた。

 

「ブルル……」

 

「ふぅ……ありがとうご主人様。でも、どうやって追いついてきたの?」

 

「うん、それは……おっ、俺の馬が追いついてきたぞ」

 

後ろから馬の気配を感じて話をごまかすように振り向く。

 

「それじゃ、俺は自分の馬に戻るね」

 

「あ、あのご主人様?」

 

「ん?」

 

降りようとした時、桃香が話しかけてきた。

 

「えっとね?また馬が暴走しちゃうかもしれないからこのまま一緒に居て欲しいんだけどダメかな?」

 

「……」

 

「ダメ?」

 

ぐぐ……そんな上目遣いでお願いなんてされたら断れないじゃないか。

 

「はぁ。そうだな……また、馬が勝手に走り出したら危険だもんな」

 

「ホント!?ありがとうご主人様!」

 

まあ、桃香が変な命令を出さなければあんなことにはならなかったんだけどさ。

 

「何か言ったご主人様?」

 

「いいや。何も言ってないよ。それよりも早く愛紗たちに合流しよう」

 

「うん」

 

俺は右手で桃香の馬の手綱を握り、左手で自分が乗っていた馬の手綱を握り走り出した。

 

うぅ……片手で馬の操作は難しいぞ……うまくたどり着けるかな?

 

俺は一抹の不安を覚えながら馬を走らせた。

 

《愛紗視点》

 

「はっ!」

 

馬を走らせ報告のあった方へと急ぐ。

 

白蓮殿がご無事であれば早く桃香様に会わせて差し上げたい。

 

「愛紗よ。そんなに急くと馬がばててしまうぞ」

 

「むっ。それもそうだな」

 

その想いからか私は馬の体力も考えずに先走ろうとしていた。

 

「まあ、分からんでもないがな。早く桃香様に白蓮殿が無事であることをお知らせしたいのだろ?」

 

「ああ。だがダメだな。これしきの事で我を忘れてしまうとは。もっと精神を鍛えなければ」

 

「それはみんな同じことだ。それを攻めるものはいまいて」

 

星は軽口で言ってはいたが手綱を握る手が普段よりも真っ白になっているのがわかった。

 

自分を抑える為に力強く握っているせいだろう。

 

「……星よ。お前も力を抜け。それでは白蓮殿に会う前に疲れてしまうぞ」

 

「っ!……ふっ。冷静になったと思えばこの私の心境を見抜くとは愛紗もやるようになったではないか。差し詰め主のおかげかな?」

 

「茶化すな。私とてご主人様だけを見ていたわけではないのだぞ」

 

「だが殆どは主であろう?」

 

「うぐっ……ま、まあ。それは否定はしないが」

 

くっ!勇気付けるどころか逆にからかわれてしまったではないか。

 

まあ、これだけ口が達者なのだ問題なかろう。

 

「くっくっく……だが、その気遣い感謝するぞ愛紗。しかし、貸しが出来てしまったな、この借りはいずれ返させてもらおう」

 

「ふん。期待しないで待っていよう」

 

星と軽口を言い合い、少し気分が落ち着いてきた。

 

(……っ)

 

「……っ!」

 

「愛紗よ」

 

「ああ、聞こえた」

 

私と星の顔色が変わった。

 

「どうかしたんですかお二人とも」

 

私たちの雰囲気が変わったのを察したのか雪華が話しかけてきた。

 

「どうやら、一戦交えなくてはいけなくなったようだ」

 

「ふえっ!ど、どうしてですか?」

 

雪華の驚きはもっともだろう。雪華はまだそこまでの領域には達していたいのだから。

 

「お前もそのうち分かるようになる。雪華は朱里たちにこの事を報告してきてくれ」

 

「わ、わかりました!」

 

雪華は馬の速度を落とし朱里たちに報告に行った。

 

「鈴々!準備は良いか!」

 

「準備万端なのだ!」

 

「星は!」

 

「ふっ。愚問だな」

 

「よし!では、行くぞ!」

 

「「おう(なのだ)!」」

 

私たち三人は先行して敵の殲滅に当たることにした。

 

………………

 

…………

 

……

 

(ガキンッ!ガキンッ!)

 

「っ!聞こえてきたぞ。直ぐ近くだ!」

 

太刀のぶつかり合う音が徐々に大きくなってきていた。

 

「うぉおおりゃーーーっ!」

 

「っ!そんな攻撃が通じるか!はぁぁああああっ!」

 

(ザシュッ!)

 

「ぎゃーーーーっ!」

 

茂みに隠れていた賊の一人が私に向かい攻撃してきたが私はすぐさま反応して逆に討ち取った。

 

「やはり賊が……それにこやつら黄色い頭巾を!」

 

「どうやら黄巾党の残党のようだな」

 

「まだ残っていたのか……兎に角まずは白蓮殿を探すぞ!」

 

「ああ。鈴々、久々に暴れるぞ!」

 

「おおなのだーー!うりゃりゃりゃりゃ!鈴々のお通りなのだーーーーーっ!!」

 

星の言葉に鈴々は嬉しそうに得物を振り回していた。

 

「それにしても、白蓮殿のところの兵は騎馬が主なはず、それなのに黄巾党にこれほどまで追い込まれているとはそれほど疲弊しているということなのか?」

 

これは急いで白蓮殿を探した方がよさそうだな。

 

「白蓮殿!居られるか!居られたら返事をしてください!」

 

白蓮殿の名を呼び探す。

 

「誰だお前は!」

 

「むっ!お前は白蓮殿の所の兵か!」

 

「真名を知っている?公孫賛様をご存知なのか!

 

「ああ。それより白蓮殿はどこに居られる!我々は劉備軍だ。助けに来た」

 

「本当か!?公孫賛様は向こうで黄巾党の残党と戦っている。我々もお助けに行きたいのだが、みな連日の軍行で疲れ果ててしまっているのだ」

 

やはりそうか。袁紹の侵略から辛くも逃れてきたのだ。ろくに休まずの強行に心身ともに限界が近いのだろう。

 

「わかった。白蓮殿は我らに任せろ。お前たちは自分の身を守れ。良いな」

 

「あ、ああ」

 

白蓮殿の兵は安堵した顔になった。

 

「よし!隊を二分するぞ!半分は私について白蓮殿を助けに行く!残りはここに残り黄巾党の駆逐だ!」

 

「「おう!」」

 

私は馬から居り、兵が指差した方へと走り抜ける。

 

「邪魔だ、どけ!」

 

(ざしゅっ!)

 

「がはっ!」

 

「なめんじゃねぇぞ!」

 

「雑魚に用は無いわ!」

 

(がっ、がきんっ!)

 

「なっ!ぎゃーーーーっ!!」

 

敵の攻撃をはじき返しそのまま切りかかる。

 

「白蓮殿!どこに居られるか!」

 

もう一度大声で呼ぶ。

 

「だれだ!私の真名を呼ぶ奴は!」

 

「っ!白蓮殿!」

 

「っ!お前は、桃香の所の愛紗じゃないか!ということはもう、劉備軍の領地に入っていたのか?」

 

白い馬に跨った白蓮殿は私を見つけて驚いていた。

 

「いえ、まだ手前です。ご主人様が気配を察知し、様子を見に来たのです」

 

「そうか。とにかく助かった。おい皆!劉備軍が助けに来てくれたぞ!もう一踏ん張りだ。がんばってくれ!」

 

「「おう!」」

 

「我らも負けては居られぬぞ!劉備軍の底力、この下賎な賊どもに見せ付けてやるのだ!」

 

「「おおおおおおっ!!」」

 

「ひ、ひいいいぃぃぃっ!!」

 

「に、逃げろ!」

 

雄たけびと共に黄巾党に向かっていく我らの兵を目にして黄巾党は一目散に逃げていった。

 

こうして違った形で白蓮殿と再会を果たすことになってしまった私達。今後、大きな戦が起ころうとしている事に私は一抹の不安を覚えた。

 

《To be continued...》

葉月「どもども~。愛紗に説教をされ続けた葉月です」

 

愛紗「丸一日で開放してやったではないか。咎められる言われは無いぞ」

 

葉月「いや。丸一日って、普通無いですよ」

 

愛紗「お前が悪いのだ。私は悪くない」

 

葉月「ま、まあ。この話は置いておきましょう。今回はなんとあの袁紹に土地を奪われちゃった白蓮さんがここに来ています」

 

白蓮「くぅ~!なんだか私が間抜けみたいな言い方じゃないか、葉月!」

 

葉月「だって『お~っほっほっほっほ!』なんて笑ってる人に土地を奪われちゃったんですよ?ちょっと情けないですよね」

 

白蓮「わ、私だってな……私だってもっと将が居てくれれば戦えたさ!だけどな、私しか居ないんだぞ!?星は北郷たちが旅立って数ヶ月もしないうちに旅立つし。仕事は山のようにあるし!」

 

愛紗「……」

 

白蓮「それに反董卓連合軍にも参加して。帰ってきたらまた仕事が山のようにあるし!どうしろっていうんだよぉ!」

 

葉月「うん。その……がんばったね」

 

愛紗「あ、ああ。白蓮殿は頑張ったと思うぞ」

 

白蓮「だろ?!私は頑張ったんだ!山のように詰まれた書簡を片付け、兵たちの調練を見て、民の暮らしを良くする為に駆けずり回り、私は頑張ってきたんだ!」

 

葉月「それをあの袁紹にすんなり奪われちゃったんですよね」

 

愛紗「お、おい。葉月!それを言うか?」

 

白蓮「そうだよ!奪われたんだよ!悪いかこんちくしょーーーっ!麗羽のばぁかぁぁぁああああっ!!」

 

葉月「あ、白蓮が壊れた」

 

華蝶仮面「はーっはっはっは!通りすがりの正義の使者参上!はっ!」

 

白蓮「はぐっ!(どさっ)」

 

華蝶仮面「では、さらばだ。はーっはっはっは!」

 

葉月「……」

 

愛紗「……」

 

葉月「えっと。白蓮が落ち着いたので。話を戻しましょうか」

 

愛紗「そうだな。それで、今後の展開はどうなるのだ?」

 

葉月「そうですね。取り合えず白蓮を劉備軍に迎え入れて数話。日常の話を書こうかなと思っています」

 

愛紗「ふむ。まあ、妥当だとは思うが……また、私達をヤキモキさせるような話でな無いだろうな?」

 

葉月「それはまだ言えませんよ。もしかしたらラブラブかもしれませんよ?誰が、とは言いませんが」

 

愛紗「……よし、葉月よ。お前にいい物をやろう」

 

葉月「おやおや。まさかの軍神関雲長が私に賄賂ですか?」

 

愛紗「ふん。私は武人である前に。恋する一人の人間だ。ご主人様とい、色々やってみたいのだ」

 

??「ちょっとまったーーーーーっ!」

 

愛紗「な、なに!?」

 

桃香「愛紗ちゃんだけずるいよ!私だってご主人様とイチャイチャしたいんだからね!」

 

愛紗「は、早い者勝ちです!それに桃香様は普段からご主人様とイチャイチャしているではありませんか!少しくらい私に譲ってくれても」

 

桃香「え~。そんなことないよね葉月さん?」

 

葉月「え?あ、え?」

 

桃香「ね~。は・づ・き・さん♪」

 

葉月「そ、ソウデスネー」

 

桃香「ね~」

 

愛紗「なっ!?葉月、貴様!」

 

葉月「あ、愛紗。こ、ここは桃香の言う通りにしてください!そ、そうしないとわ、私の命が!」

 

桃香「アハハ~♪」

 

愛紗「……わかった。だが、ちゃんと私も書くと約束してくれたらいいだろう」

 

葉月「……は、はい」

 

愛紗「さて、桃香様。そろそろ終いの時間となりました。我々は戻りましょう」

 

桃香「あれ?もうそんな時間なの?残念」

 

葉月「ほっ……」

 

桃香「なんで安心してるのかな葉月さんは?」

 

葉月「っ!な、なんでもありませんよ!ほ、ほら、それより終わりの挨拶を!」

 

桃香「あ、そうだね!それじゃみんな~。また読みに来てね~」

 

愛紗「みなのもの。また次回会おう!」

 

葉月「まあ、今。天下ごめんやってるんでいつになるのやらって感じですけどね」

 

桃香・愛紗「ええぇぇぇええええっ!?」

 

葉月「では、みなさん。また次回、お会いしましょ~~~!」

 

愛紗「ちょっと待て!何ださっきの言葉は!おい、葉月!」

 

桃香「え、え、えええ!?だ、ダメだよ!ちゃんと私とご主人様とのらぶらぶなお話書いてくれないと!」

 

愛紗「桃香様もここぞとばかりに主張しないでください!」


 
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