No.347592

真・恋姫†無双 ~君思うとき、春の温もりの如し~ 33話

lovegtrさん

赤壁の戦い編。
と言っても今回はまだ戦いは始まりません。
しかし、周瑜の策はもう動き始めます…
ではどうぞ!

2011-12-15 03:45:14 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7197   閲覧ユーザー数:3459

夜、城の高台の柵にもたれかかり、下を見ると城内の至る所で篝火が灯り、その周りで兵たちが出陣のための準備を行っているのが見えた。

「眠れないのですか?」

「ああ、少しな……」

振り向かずに後ろからの声の主、思春に返事を返す。

思春は俺の隣まで来ると、同じように下を眺める。

「考えてたんだ」

「何をですか?」

「…今度の戦いのことを」

この赤壁での戦い、魏と呉蜀連合、大陸のすべてをかけた戦いになる。

そしてこれが最後の戦いにも…

「この戦いは今までものと比べものにならない規模のものとなる。

当然、犠牲もたくさん出るだろう…」

思春から顔を逸らすように背を向け、話を続ける。

「もしかしたら、俺は怖いのかも知れない…」

「怖い?」

「これまでの戦いも激しいものだった。でも、心のどこかで、皆大丈夫だという気持ちもあった。

だが、今回は違う。相手は今この大陸で一番の力を持っている魏だ、今までとは訳が違う。

俺は嫌なんだ、思春や皆が、俺の大切な人たちが死ぬのがっ」

何を言っているんだ俺は。

王が弱音を吐いてどうする、しかも大事な戦の前に。

「……それは曹操も、ですか…」

「…っ!」

そして、見透かされてしまった本当の思い。

敵である華琳が死ぬかも知れないという恐怖。

戦いになれば、どちらかが勝ちどちらかが負ける、そんなことはとうの昔に分かっていた。

でも、幼いとき同じ場所で学んだ旧知である彼女が居なくなることが辛い、そう思ってしまうのだ。

もう、終わりが近づいているからかも知れない。

思春は後ろからそっと体を密着させ、手を前にまわし俺を抱きしめる。

「私は死にません。誰も死なさせません。勝利と共に一刀様の元に戻って参ります」

腕に力を込め、そう必死に言う思春。

戦なのだから絶対なんて無い、そんなことは分かっている。

だけど、俺の側に思春が居る、そのことがただ嬉しかった。

「ありがとう、思春」

胸にまわされた思春の腕に、俺はそっと手を添えた。

俺は、華琳を、殺せるのか……

そして決戦の地、赤壁。

呉の全軍を率いての陽動は成功したらしく、長江を挟んだ対岸には魏軍百万がその圧倒的な力を見せつけるかのように陣を構えていた。

程なくして桃香たち蜀軍も到着したという知らせが届き、迎えの挨拶へと向かうことにした。

「一刀さーん!お久しぶりです!」

「桃香。久し振りだね、…っと」

向こうから手を振り、こちらに元気よく駆けてきた桃香は勢いそのまま俺の腕に抱きついてきた。

「桃香様っ!いきなり抱きつくとはみっともないですよっ!」

「え~、だって久しぶりに一刀さんに会えて嬉しかったんだもんっ。

あっ、もしかしてヤキモチ?愛紗ちゃんもしたら良いのに」

桃香に追いつくかたちでやって来た愛紗は俺の腕に絡みつく桃香を諌めるが、当の本人は全く懲りていない様子でサラっと受け流し、逆に愛紗をからかう。

「なっ!?そそそ、そんな恐れ多いこと、できませんっ!

あ…でも、ちょっと位ならしても罰はあたらないかも……って、ちがーう!!桃香様、お離になって下さいっ」

顔を真赤にさせたかと思うと急にもじもじし始め、最後には桃香に対して怒りを爆発させた愛紗は俺から引き離そうと桃香の腕を引っ張る。

「あなた達は相変わらずね…」

「あ~ん、もうちょっと。…あ、雪蓮さん、お久しぶりですっ」

なかなか離れない桃香を見て、後からやって来た雪蓮達は呆れながら桃香達と挨拶を交わす。

あ、桃香さん、そろそろ離れてくれるとありがたいのですが。

俺の後ろから得も言われぬ圧力を感じるのですが。

俺の感じた危機を察知したのかどうか、程なくして桃香は俺の腕を開放してくれた。

その代わりに俺の腕にやってきたのは良々であった。

「貴方は一体なんですか?人の夫を妻である私の前で誘惑するなど言語道断です」

いつもの無表情でトロンとした半開きの目で桃香を睨むかの様に見詰める。

呉の面子は、またいつものことか、と苦笑いでいるが良々の事を知らない桃香は、

「えっ!?つ、妻っ!?かかかか一刀さん結婚したのっ!?…どうしよう、もうだめなのかな……でも、側室にとか…いや仮にも私は一国の王、側室なんて反対されるよね……だったら奪うしか…………って、どうしよう愛紗ちゃんっ!」

「えっ!?私に聞かれてもどうしようもありません…」

良々の話を受けあたふたする二人であるが、このままでは話が進まないので後で事情を説明すると言い、先に進めた。

 

「それにしても、魏は圧巻よね…」

再び視線を対岸の魏軍に向けて雪蓮はポツリと呟く。

「あんなにたくさんですと、ちょっとやそっとのことでは動じないでしょうね」

「穏の言うとおりだな……で、何か策はあるのか?冥琳」

呉が有利な土地である水上を戦地に選んだ。

しかしそれだけではあの大軍に勝てないのは事実である。

「ああ、もう策は講じてある。魏はもうその策に嵌っているよ」

そう言い、我が軍の大提督はニヤリと口の端を上げてみせた。

【曹操 side】

呉の大軍が赤壁へと向かっていると情報を受けた私達は船で長江を下ることとなった。

しかし、なれない船の上のせいか体調を崩す者たちが出てきた。

「う~ぅ、あかん。もう立ってられへん…」

「沙和もなの~」

「お前たち…みっともないぞ…ウプッ…」

「そう言う凪ちゃんもなの…」

いつも元気が良いうちの三羽烏こと、李典、于禁、楽進の三人も船酔いにやられて倒れこんでしまっている。

このままでは士気に関わってくる。大切な戦の前だ、何か対抗策を考えなくては。

そう思いながら水面の方へと目を向けると、川で魚を捕る漁船が見えた。

しかしその漁船は普通の漁船と少し違っていた。

「…あれは何かしら?秋蘭少し聞いてきて」

この状況を打破する手がかりになるかもしれない、そう思い近くにいた秋蘭に話を聞きに行ってもらった。

 

少し経ち、部下からの報告を受けた秋蘭は少し嬉しそうな顔をして戻ってきた。

「あの漁師たちの船ですが、あのように船を鎖で繋ぎ合わせることで船が安定し、船酔いになりにくと言うことだそうです」

「船を繋いで陸地の様にするのね…真桜!すぐに我が軍の船たちを鎖で繋ぎなさいっ」

船をひとつにし、陸地の様にする。これはこのあたりの漁師には当たり前の知識であるそうだ。

そうと分かればひどい有様を解消するため、魏が誇る最高の技術者である李典こと真桜に船の改修を命じる。

話を聞いた真桜は、先ほどまでの船酔いが嘘かの様に嬉々とした顔で船の改造を始めた。

こうして悩みの種であった船酔いは船を鎖で繋ぎ、安定させることで解決することが出来た。

これにより下がっていた兵たちの士気も戻り、どうにか動けるまでになった。

しかし、後になりこの選択を私は後悔する。

そんな未来を、今の私が知るはずもなく、ただ赤壁へと船を進めるのであった。

【曹操 side end】


 
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