No.347390 Destiny/Domhan Eagsula(デスティニー/ドムハン エアグスラ) 第14話 善と悪とやりたい事BLACKさん 2011-12-14 21:24:08 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:1017 閲覧ユーザー数:1012 |
「あの男は……」
「裏影……終死郎……」
ベガにとどめを刺した剣。
それを放ったのは裏影終死郎であった。
第14話 善と悪とやりたい事
「裏影終死郎…」
「ああ、お互いかろうじて生き延びているようだな、八子空恵生」
終死郎の格好は既にボロボロであり、右策から逃れるために脱ぎ捨てた神父服はなく、ただの短い黒いTシャツに長ズボンしかない。
その上、本来人間が持っているべき心臓がないのが外から見ても分かる。
何故なら心臓があるとされる位置は完全な空洞になっているからだ。
その代わりと言うべきなのか終死郎の体は右策のものとは別の黒く禍々しい魔力のようなものに包まれていた。
終死郎の後ろに存在した金色のオーロラの壁が消える。
「あれを消した?」
「何のつもり? 今更、あなたの出る幕はないわ」
「何をするかなどと判りきった事を訊くな。
俺の目的はただ一つ、この呪いを誕生させることだけだ」
「…何を」
「あなたにそんなことは出来ないわ。第一あれはあなたの物にだってならない」
「愚かしいことを言うのだなライダー、いやジュディス。
俺はこれに干渉することは出来ない。それに俺は干渉する気もない」
「え?」
「セラフィムは気付いているようだな。八子空恵生、お前には一度言ったよな。
俺は誕生するものを祝福する。これは今まさに生まれようとしている。
だったらその誕生を阻もうとする外敵から守ってやるのは当然だろ」
「だから先ほどキャスターを…」
「殺した。奴はまさに誕生を阻もうとする外敵だったからな」
「その結果が今の死にそうな体ですか? 裏影終死郎」
セラフィムは指摘する。
終死郎の体はボロボロで心臓もない。
常人ならとっくに死んでいてもおかしくない状態。
それなのにもかかわらず終死郎はまだ生きていた。
しかしそれは時間の問題であった。
終死郎は放っておいても数分もすれば勝手に死ぬ。
その理由は心臓代わりのものを失っただけでなく、先ほどベガを倒すために使ったのがかつて融合したサーヴァントの力を心臓代わりの泥もなしに無理矢理使ったからである。
もしセラフィムに勝った時やベガを倒した時と同じものを使えばその時点で終死郎は死ぬ。
終死郎はそれを分かっていて、先ほどのものを消したのである。
「あなたの望み通りそれを外に出したところで、あなたは……」
「それはお前達も同じだろ。正気などとうにない。目的を果たしたところで俺達の末路は同じだ。全員消滅、死ぬ。
お前達……いや、八子空恵生はこれを滅ぼし、俺はこれを守る。
けれど、どちらが目的を果たそうとしても結果を得る者はいない。それを承知でお前はここまで来た。
そんなことをする時点で俺もお前も正気じゃない」
「………」
恵生は考える。
セラフィムやジュディスはまだ魔力が残っているとはいえ、ゼロやベガと戦って間もない。
まだ魔力がきちんと回復しきっていない。そんな状態では今の終死郎でも倒される可能性が高い。
だから自分が戦うしかない。
しかし戦うとしても投影は出来ない。なぜなら投影には時間が必要。
投影している隙に終死郎は自分を殺す事が可能。
とは言ってもサーヴァントの能力を使えば死ぬ終死郎も同じ。
つまり恵生と終死郎はまったく同じ土俵に立っているのだ。
「けれど分からないわね」
「なぜそこまでしてあれを守るのですか? あれが出てきたところで、あなたに返るものはないはず」
セラフィムの質問に笑みを浮かべる終死郎。
「何故も何もない。俺にとっては、これが唯一の娯楽だからだ。八子空恵生」
終死郎が恵生にさす。
「お前が他人の幸福に至福を感じるように、俺は他人の不幸に至福を感じるだけだ」
「なんでそんなことに?」
「知らん。生まれた時からこうだった。治そうと必死に努力した。だがすべて失敗した。
そして最後の挑戦であった前回の聖杯戦争で悟った。俺はどうあがいてもその他人の不幸に至福を感じることを治すことが出来ないと言うことをな…」
「……」
終死郎の言葉に三人は絶句した。
「話を戻すとしよう。
そもそも何故これを殺す?
生まれる前から悪と決めつけるのは傲慢じゃないか。孵りたがってる命ならば、孵化させてやるのが愛だろ」
「何が愛よ。屁理屈ね。あれはもう多くの人を殺してきた。このまま外に出すことなんてできない」
「ほう、では訊こう。お前の言う善悪とはなんだ。人を殺すことが絶対の悪だと、お前はそう言うのか?」
「それは……」
終死郎の言葉に恵生だけでなくジュディスにセラフィムも言葉を詰まらせた。
「その反応は正しいな。
元々そんな答えなんてない。人間、生き物全てに言えるがあえて人間で言おう。人間とはそう言うものだ。明確な答えなんてない。
変動する事柄を良しとし、初めから真実となる事柄なんてない。
人間は善悪を同時に兼ね備え、その属性を分けるのにはあくまで自身の選択であり、始まりはゼロ。
生まれること自体に罪はないと、八子空恵生、お前には教えた筈だ」
「そうね。たとえそれが悪であろうと、赤ん坊に罪はないって……」
「そうだ。人間は生まれ、学習によって善か悪か、そのどちらかに偏るものだ。
とある聖典に書いてあったことだが、人間は天使よりも優れた存在だと。それは何故か。それは悪を知りながらも、悪に走らぬ者がいるからだと。
生まれながら善しか知らぬ天使とは違う。
人間とは、悪を持ちながら善と生きられる存在故、善しか知らぬ天使より優れた存在だとな。
しかし……。
吐き気を催す悪人が、戯れに見せる善意がある。多くの人間をすくった聖人が、気紛れに犯す悪意がある。
この矛盾…、両立する善意と悪意こそが、人を人たらしめる聖杯だ。
生きると言うことが罪であり、生きているからこその罰がある。生あってこその善であり、生あってこその悪だ。
それ故に…、生まれ出でぬものに罪科は問えん。
何者にも望まれぬもの、生まれながらに悪であるものなどない。
あれは誕生するその瞬間まで、罪を受ける謂れはない」
終死郎が聖杯の方に顔を向けて話した。
「だからって許すの?」
「その聖杯の中にいるものは初めから殺すためのものです。
外に出ることで多くの人間が死ぬことが判っているなら、それは私達にとっては悪です」
「そうだな。これは存在自体が悪だ。そのように創られ、初めから悪であるようにと生まれたものだ。
人間とは違う。これは悪しか持たない、人間が創り上げた純粋な単一神だ。
しかし、その行為が悪だとしても、あれ本人がどう思うかどうかはまだ判らないだろ」
「え?」
終死郎の言葉を聞いて疑問に思った恵生。
「『この世全ての悪』本人が自らの行動を『悪し』と嘆くか、『善し』と笑うか。それは俺達が量るものじゃない。
もしあれに人に近い意思があって、自らの存在を嘆いたのならそれは悪だ。
だが自らの存在に何の疑問を持たなければあれは善だ。自らの機能に疑いを持たないのであれば、それが悪であるはずがない」
「一体…何を?」
「生まれながらにして持ち得ぬもの。初めからこの世に臨まれなかったもの。それが誕生する意味を、価値のないものが存在する価値を、あれは見せてくれるだろう。
何もかも無くして何もかも壊した後で、ただ一人残ったあれが自身を許せるのか。
俺はそれが知りたい。外界との隔たりをもったものが、孤独に生き続けることに罪科があるのかどうか、その是非を問いたい。
その為に俺はお前の養父を間接的に殺し、その為に真浦右策を生かした。俺では答えが出せなかった。
だから答えを出せるものの誕生を願った。
それが俺の目的だ。自身に還る望みを持たないお前と対極に位置する、同質の願望だよ。八子空恵生」
「そんな……そんなことのために、右策を利用したのね」
恵生は歯を強く食いしばる。
「そうだ。そんな事の為に俺は多くのものを殺してきた。今更降りることは出来んし、降りる気もない。
言っただろ。俺はそんな感じで生きていた。俺の持つ疑問を解くためだけにここにいる。
それは、死を前にしても変わることない」
終死郎は断言する。
「そう………」
恵生は静かに何かを悟った顔をする。
「退かないわよね、それじゃあ…」
「それにな、これは感傷でもあるんだ。この状況になってようやく気が付いた。
俺はお前達を羨んでいた。求めても得られなかったもの。手に入れたと言うのに手に入らなかったもの。どのような戒律をもってしもて、指の隙間から零れ落ちた澱(おり)。
お前達が幸福と感じたものがな……」
終死郎がわずかにもの寂しそうな顔をしたが、その顔はすぐにさっきまでの冷酷な顔になる。
「その鬱積を、ここで絶つ。俺には、幸福と感じられなかったからな」
恵生もセラフィムもジュディスも悟った。
「セラフィム、ジュディス。あいつは私一人でやる。
二人は小坂と右策をつれてこの大空洞から離れて」
「ですが……」
「アサシン」
ジュディスはセラフィムの肩に手を置く。
今この場において自分達は邪魔者。
それに彬渡と右策は息はあるものの死にかけである。
正直な話、今の恵生よりも死ぬ可能性が高い。
「分かりました…。
恵生、必ず迎えに来ます。その時は…」
「分かってる。必ず生きて帰る」
セラフィムとジュディスは彬渡と右策を抱える。
「ご武運を」
二人は急いで大空洞から去っていった。
(二人とも無事で……)
恵生は立ち去っていくセラフィムとジュディスを眺めた。
そしてすぐに終死郎の方に顔を向け直した。
「無駄な時間を使わせたわね、裏影」
「構わん。時間がないのはお互い様だ」
終死郎が近づいて来、恵生も終死郎に近づいて行く。
二人の距離が縮まる。
「ふっ! はあ!」
「!」
終死郎が拳や足を振るい、恵生はそれをなんとか防ぐ。
「だあっ!」
終死郎は次に掌打で恵生の頭を攻撃しようとして腕で何とか防いだ。
「神父なのに……拳法?」
「別に驚くことではないだろ。これは俺が自分の異常性を治そうとして自ら学んだものだ。
1ヶ月ほどでやめたがな……。しかし………」
終死郎は自分の手を見る。恵生もつられて終死郎の手を見てみると恵生を殴ろうとした終死郎の手は血まみれになっていた。
「厄介な体だな。打つ方が命がけとはな…」
恵生がそう言われて自分の体を見てみる。
体には剣山なり重火器類の先端部分が出ていた。
何故そんなことになっているのかと言うとそれはイカロスの魔力が完全に恵生の体に入りこみ、イカロスの魔力が暴走を起こし、勝手に様々なものを投影していたのだ。
そのため終死郎が素手で殴ろうとしたために終死郎は負傷したのだ。
「だがいいハンデだな」
拳法などの心得がない恵生にとっては自動で守られているのはなかなかのアドバンテージではあるが、命の危機に瀕していることを意味している。
しかし終死郎がそんなことでためらおうと思うわけがない。
「つまるところこいつは……」
終死郎が薄ら笑う。
「外敵との戦いではなく、自身を賭ける戦いという事だ!!」
終死郎と恵生の戦いは激化を始めていく。
恵生の拳はことごとく終死郎にかわされる。
その反対に終死郎の拳は恵生の体に当たる。恵生の頭はまだ暴走の範囲外のため、頭をやられまいと恵生は頭だけは必死に守る。
その結果、終死郎の拳も血まみれになっていった。
しかし何度目かの終死郎の攻撃をもろにくらった恵生は倒れた。
「う……っ……」
意識が朦朧としはじめ、目を閉じかけていた。
「じゃあ頭を潰すぞ」
終死郎が倒れている恵生に近づいてくる。
(もうこのままじゃどちらも死ぬ…だったら……)
恵生が素直に死を受け入れようとしたその時、頭に走馬灯のようにある人物だけの記憶がよみがえった。
その人物は自分に対して笑ったり、落ち込んだりしていた。
そしてその人物の為に自分が何をしてきたのかを恵生は改めて悟らされた。
(私は…の…ために………を…守るために!!)
もはやその人物の名前を思い出せなかった。
しかしその人物が誰なのかは思い出せなくてもとても大事な人だと言うことだけは覚えていた。
そしてその大事な人を守るためには目の前の敵は確実に邪魔になる。
ならばここで素直に死を受け入れるわけにはいかなかった。
「う…おおおお!!」
恵生は咆哮と共に立ち上がり、思い出した。
自分にとって大切な存在、真浦右策を……。
「はあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
恵生は起き上がると同時に頭を潰そうとした終死郎の顔面に一発の拳を打ち込んだ。
「貴様…まだ……!」
「裏影、終死郎ーーーーーーーーー!!」
恵生は終死郎の名前を叫び、何度も何度も殴った。
この機会を逃せばもう自分に攻撃のチャンスはないからだ。
終死郎は恵生の拳を何度も受けた。
「くぅ!」
終死郎はお返しとばかりの拳を恵生にくらわせ、恵生は後ろに吹き飛んだ。
「っ…あ!!!」
先ほどのパンチは恵生にとってはかなりダメージであり、体がイマイチ動かなかった。
そして恵生の眼前には終死郎の拳が止まっていた。
「うらか……げ?」
終死郎は拳を振るおうとしたその瞬間で止まっていた。
「ここまでか…。単純に、時間の差が出るとはな……」
恵生は気付いた。心臓を無くした終死郎を支えていた黒い魔力が完全に消えていることに…。
終死郎は拳を静かに下した。
「お前の勝ちだ八子空恵生。その体で何秒持つか知らんが、目的があれば急ぐがいい」
「裏影…」
「お前が最後のマスターだ。聖杯を前にして、その責務(のぞみ)を果たせばいい」
「…散々痛めつけたお礼よ。容赦なくあんたの願いを壊してくる」
恵生は急いで大聖杯の方へと向かった。
「………」
終死郎は黙って通した。
何故なら終死郎は立ったまま死んだのだから………。
恵生は大聖杯の前へとやってきた。
「はあ…はあ……」
恵生はもはや息をするのですら困難になっていた。
恵生は一呼吸置く。
ここで投影をすれば確実に自分は死ぬ。しかし右策を縛り付けるこの大聖杯がある限り、右策を救うことは出来ない。
ならば自分がするしかない。
(これを壊すには……)
恵生は何を投影すればこの大聖杯を壊せるかを考えた。
そして恵生は………。
『エミは死なないよ。だってこの門を閉じるのは僕なんだから…』
どこからか声が聞こえてくる。
恵生はその声の主の名前が誰か思い出せなかった。
何とか叫ぼうとした。だが声が出なくなり始めていた。
しかしここで止めないと二度と帰ってこない気が恵生にはした。
その声の主は立派な正装をしており、いつの間にか恵生よりも近く、大聖杯の所にいた。
『ね。エミは生きたい? どんな命になっても、どんな形になっても、エミはまだ生きていたい?』
恵生はその問いの答えとしては生きていたいと答える。
だがそう答えてしまったら目の前の声の主が消えることが判っていた。
だから名前を叫ぼうとしても名前が出てこない上に、声が出ない。
『よかった…。僕もそうしたかったら。僕よりエミに、これからも生きて欲しかったから。
だから奇跡を見せてあげるよ。前に見せた魔術の応用だけど、今度のはすごいよ。
だって、皆が見たがってた魔法だからね』
「………リー………」
恵生は何とか声を出して一生懸命止めようとする。
『けど、体(うつわ)だけは安物かな。使えるのは僕の体だけだから、完全な再現は出来ないかもしれない。
けどエミならすぐに元通りになると思うよ』
声の主は大聖杯の中に入ろうとする。
「……ィリー……………」
『じゃあね。僕とエミは血は繋がってないけど、エミと兄妹で本当に良かった』
「…………」
恵生の声にもならない言葉は声の主に届いていた。
『エミ、お姉さんやお兄さんは妹や弟を守るものなんだよ。
だから僕はエミのお兄ちゃんだから、妹を守らないとね』
「フィ………リー」
恵生はようやくその声の主を思い出した。
八子空断の実の息子であるにも関わらず、自分が居場所を奪ってずっと一人にしていた少年のことを……。
「フィリー、フィリー、フィリー、フィリー!!!」
恵生はフィリーの名前を叫ぶも届かない。
だが最後にフィリーは恵生に向かって笑顔を見せ、そして大聖杯の門を閉じ、消えていった。
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この物語は作者が「Fate/Zero」を見た影響で「Fate/Stay night」の話を基に作った作品です。
基となった話はアニメ化されてないルートをメインとしているため、ネタバレが嫌な人はあまりお勧めできません。
また話によっては原作のシーンなどを見ながら作っている場面もあり、原作で出てきたセリフと全く同じやほとんど同じなところもあることをご了承ください。
なお、サーヴァントにつきましてはクロスオーバー的にまったく別の作品からの参加となっています。
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