ハーレム王降臨
ある日、智樹は祖父桜井智蔵を久しぶりに夢で見た。
『ええか智坊。未確認生物でもええんじゃねぇ~? 可愛ければ何でもええんじゃねぇ~?』
それは祖父の度量と懐の広さを表す言葉だった。
「そうだった、じっちゃん。俺、大切なことを忘れていたよ……」
目覚めた時、智樹は感動の涙を流していた。
そして次の瞬間、智樹の人生に大きな転機が訪れた。
「ねぇねぇ。山の中に捨ててあった、男の裸ばかりが載っているこの雑誌ってなんなのぉ?」
窓を開け、大量の雑誌を抱えたアストレアが飛びながら室内に入ってきた。
「男の裸ばかりの雑誌? ……そんなもの、この家に持って来るなっ!」
怒った智樹が急に立ち上がる。
そして悲劇は起きた。
「うぉおおおぉっ!?」
「あ痛ぁあああぁっ!?」
飛び起きた勢いで智樹は自分の頭をアストレアの頭にぶつけた。
そして、アストレアが抱えていた雑誌が大量に智樹の頭へと降り注ぐ。
「俺はどこだ? ここは一体誰だ?」
そして智樹は記憶の大半を失ってしまった。
覚えていることは
『可愛ければ何でもええんじゃねぇ~?』
という老人の言葉だけだった。
そして目の前に散らばる大量の雑誌。
その雑誌に写っている裸の男たちを見て驚愕する智樹。
「この震え……これが、可愛いってことなのか、老人よっ!」
智樹の覚醒は歴史的な必然としか言いようがなかった。
「おい、そこのメガネのお前。俺のモノになれ」
「何を言っているのだ智樹? って、うわぁあああああぁっ!?」
「おい、お前。綺麗な髪をしているな」
「フッ。Mr.桜井。僕の髪が綺麗なのは毎日3時間掛けて手入れしているから当然のことなの……うわぁあああああああぁっ!?」
智樹は男ばかりを狙うケダモノハーレム王と化してしまった。
「おい、お前。俺の名を言ってみろ?」
守形、義経と美形どころを食らい、更に空美学園の男子生徒たちに対しても悪逆非道の限りを尽くす。
智樹を止めることはもう誰にもできない。
女子に被害が及ぶことがなくなったので多くの女子生徒たちは智樹の変化を喜んでいた。
そして智樹の欲望は遂に地上の男を食らうだけでは飽き足らなくなった。
「余はこれよりシナプスを攻略し、有翼人の男を食らおうぞっ!」
「……イエス、マイマスター」
「何だか知らないけれどわ~い。お兄ちゃんと一緒に遊ぶ~」
智樹は、鼻血を垂らしながら忠誠を誓うイカロスと無邪気にはしゃぐカオスを従えてシナプス侵攻を開始した。
「バカめ。シナプス防衛の切り札、ゼウスに抗う術など存在しな……何ぃいいいぃっ!?」
シナプスのマスターが防衛システムの発動を勿体ぶっている間に智樹たちはシナプス内部へと侵入を果たしていた。
シナプスのマスターはバカだった。
「……シナプスのマスター、降参するかここで果てるか。好きな方を選んでください」
「わ~いわ~い。お兄ちゃんの手下手下~♪」
イカロスにアポロンを構えられ、カオスに背中の羽を突き付けられる。
「やれやれ。俺としたことが退屈し過ぎている内に脳まで錆び付いてしまったか。堕ちて行くのもまた刺激的やもしれんな」
こうして、シナプスはわずか数分で陥落した。
「さあ、シナプスの民を味あわせてもらうとするか」
智樹の瞳が光ったことに気づいた時には遅すぎた。
「やめろっ。何をする!? ダウナー如きがこの俺に触れて良い筈がなかろうがっ!」
「うるせぇっ! 今日からシナプスの支配者、マスターはこの俺なんだ。てめぇは今日から奴隷以下の存在だ。それをまず体に教えてやるぜっ!」
「や、やめろぉおおおおぉっ!?」
シナプスのマスターの羽がハラハラと舞い落ちた。
シナプスを征服した智樹は次の目標として、このシナプスに世界中から美男子だけを集めた男パラダイスを作る野望を打ち立てた。
「全世界の愚かなる人類に告ぐ。無駄な抵抗はやめてすぐさまに美男子を俺の所によこせ。従わない場合にはゼウスが世界を焼き尽くすことになるであろうぞ」
唯一絶対皇帝に就任した智樹は全世界の男たちを手中に収めようとした。
だが、思いも寄らぬ所から反乱が生じた。
「智ちゃんっ! 悪戯が過ぎるわよっ!」
「何を全世界にこっ恥ずかしい放送を流してるのよ! バカ智樹っ!」
「桜井智樹のヴァカヴァカヴァ~カっ!」
「桜井く~ん。ウフフフフ~。よくも会長から英くんを奪ったわねぇ~」
黒の乙女団を名乗る、そはら、ニンフ、アストレア、美香子たちだった。
そはらたちはレジスタンスを組織して智樹に反乱を起こしたのだった。
4人の乙女たちは一斉に智樹に向かって迫ってくる。
「えぇ~いっ! ゼウスは何故起動しなかったっ!?」
少女たちを前にして智樹は叫ぶ。
「それは絶対皇帝が俺を椅子にして腰掛けているからだ」
「なんとっ!?」
智樹が座っていた椅子。
それはシナプスの元マスターが四つんばいになっている人間椅子だった。
「えぇ~いっ! イカロスっ。迎撃に出ろぉおおぉっ!」
智樹は狂ったようにして叫ぶ。
だが……
「……すみません、マスター。鼻血の出し過ぎで、動けません」
智樹の繰り返される蛮行を間近で見ていたイカロスは興奮から鼻血を出し過ぎてもはや立ち上がることもできない状態だった。
「ならばカオスはどうしたっ!? 第二世代型エンジェロイドの力を示してみせろっ!」
だが……
「わ~い。ペロペロキャンディーだぁ~♪」
カオスは既にお菓子で買収されていた。
「フッ。甘いお菓子の誘惑に勝てるエンジェロイドなんてこの世に存在しないのよ」
「その通りで~す」
自信満々に解説してみせるニンフと同意するアストレア。
「え~いっ! まだだ。まだ終わりにはさせん。守形先輩っ、鳳凰院っ、シナプスの元マスターっ! あの謀反人どもを引っ捕らえるのじゃっ!」
智樹は近衛部隊である側近たちに黒の乙女団討伐を継げる。
だが……
「英く~ん。桜井くんに浮気するなんて~覚悟はできているのかしら~?」
「美香子が何を言っているのかまるでわからない……うわらば」
「よくも智樹を奪ってくれたわねぇっ! パラダイスソングっ!」
「ほげぇ~」
「智樹に負けるなんてシナプスのマスターのバァ~カヴァ~カビュァ~カっ!」
「シナプス一のバカにバカにされるとは……グハッ!」
だが頼みの近衛部隊はあっさりとやられてしまった。
「さあ、智樹っ! 観念なさい」
「智ちゃん、おしおきの時間だよっ!」
部下を失い孤独な王と化した智樹は追い詰められる。
だが、それでも智樹にはまだ秘密兵器があった。
「フッ。俺はこんなこともあろうかとシナプスの科学力を全てつぎ込んだ超・スーパーパンツロボを開発しておいたのだっ!」
智樹の背後、壁だと思われていたそれは巨大なロボだった。
「さあ、超・スーパーパンツロボよっ! この世で最も不必要な女どもを踏み潰すのだっ!」
智樹はロボの起動スイッチを入れる。
だが……
「何故動かないっ!? 超・スーパーパンツロボっ!?」
ロボは動かなかった。
「パンツロボは女の子のパンツで満たさないと動かない。なのに智樹は男たちのパンツでパンツロボを満たしてしまった。それが、動かない原因よ」
ニンフがメカっぽい目でスキャン・分析した結果を述べる。
「なんと……男物のパンツでは動かないなんてぇっ!」
智樹が膝から崩れ落ちた。
ポタポタと涙が零れ落ちる。
ここに戦いはレジスタンスの勝利に終わった。
「さて、智ちゃんにどうやっておしおきしようかしら?」
そはらたちが捕らえた智樹を包囲する。
「……待ってください」
イカロスが背中に智樹を庇うようにして前に立つ。
「幾らイカロスさんの頼みでも、智ちゃんのおしおきはさせてもらうからね」
そはらがチョップを構えた。
「……マスターは記憶喪失の状態なのです。だから、今回マスターが起こした事態は、以前のみなさんが知っているマスターが起こしたものとは違うのです」
驚く一同。
「じゃあ、今の智ちゃんはわたしたちが知っている智ちゃんとは違うってこと?」
「……そうです。今のマスターは男征服王なマスターです。理想的過ぎるマスターなのです」
さらに驚く一同。
「アルファはどうすれば智樹が元に戻るのか知っているの?」
「……おっぱいで叩けば直ります」
ニンフの顔が引きつった。
「……では、マスターの男遊びも十分堪能したのでそろそろ戻します。えいっ」
イカロスは自分の胸で智樹を往復ビンタした。
「ぶわっはぁああああぁっ!?」
吹き飛ぶ智樹。
そして──
「あれっ? 俺は今まで一体何をしてたんだ?」
智樹は元に戻った。
「アルファ、アンタはこの事態を楽しんでいただけなのね」
「……快楽を追求するのが人間だから」
イカロスはとてもツヤツヤした笑顔を見せていた。
「でも、これからどうするの? 智ちゃんは男色皇帝として全世界から恐れられているのよ。もう、地上は反智ちゃん感情で一色だよ」
そはらが不安げに地上を見る。
ニンフが地上の様子をモニターで映すと、地上は男たちが反智樹デモの真っ最中だった。
しかし若い女性を中心に腐皇帝智樹を支持する勢力もあり、両者が激しい激突を起こしていた。
どちらの勢力も智樹の名を声高に騒いでいる。
その声は険しく、智樹が現れればどうなるかわかったものではなかった。
「何か知らないけど、これ、とても地上に戻れる雰囲気じゃないぞ……」
智樹は自らが引き起こした事態に焦っていた。
「……大丈夫です」
だが、そんな智樹に対してイカロスは自信満々に答えた。
「……マスターはこのままシナプスに住んでください。シナプスの主として暮らしていけば地上は怖くありません」
斬新な解決法の提示だった。
「おおっ。それはいいな。平和が一番。シナプスにいれば平和でいられるのならそれで良い」
智樹は解決策を受け入れた。
「……マスターはシナプスの主になるのですから、もう地上の法に縛られる必要はありません。というわけで、私と結婚してください」
「何でそうなるっ!」
智樹は大声でツッコミを入れる。
「……嫌なら革命です。マスターを怒れる民衆の前に放り落とします」
「好きだ、イカロス。今すぐ結婚しよう!」
智樹は平和を選んだ。
「ずるい、アルファっ! 私も智樹と結婚する。ここはシナプスなんだから人間の法律なんか関係ないもんね! 結婚してくれなきゃ、智樹を地上に放り投げるんだから!」
「わ、わたしも結婚してくれなきゃ、智ちゃんのことを地上の人に渡しちゃうんだから!」
「はいは~い。私も私も~」
「カオスもお兄ちゃんと結婚する~」
次々に美少女に結婚を申し込まれる智樹。
困った智樹は守形を見た。
「先~輩。コイツらをどうにか説得してくれませんか?」
「フム。俺もすっかり智樹に征服されてしまった身だからな。今更元の世界にも戻れまい。というわけで、俺も智樹と結婚することにする。ここはシナプスなのだから問題あるまい」
智樹は最後の一縷の希望をシナプスのマスターに託した。
「こんなにたくさんの人間がシナプスに残られちゃ迷惑だよな? 精々俺1人だよな」
智樹の最後の願い。その願いは──
「俺もサクライトモキに征服されてしまった。となれば、結婚しないわけにはいくまい。しからば俺と、そこのメガネ男とアルファたちは家族も同然。追い返すいわれはない」
こうして智樹は少女5名と男2人と同時に結婚することになった。
「じゃあ会長は英くんと結婚するわ~。ここはシナプスなのだし~問題ないわよね~」
こうしてそらおと史上稀に見る大ハッピーエンドがなったのであった。
めでたしめでたし
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