――2005年
――中国 チベット
吹雪に包まれたチベットで雪をかき分けていた。
未だ存在している人類未踏の地。そこは宝の宝庫のはずだ。そんな中、俺は一つのおかしなモノを見つけた。
「五代さん、ちょっと来てください!」
少し離れたところにいた五代先輩が俺の元に駆け寄ってきた。
「どうしたの一騎君?」
「これってクウガのベルトに似ていませんか?」
「そんな……これがどうして……。アマダムなのか?」
* OP:仮面ライダークウガ! *
EPISODE24 原点
――時は大きく遡り2005年
――中国 某所
「君、大丈夫?」
あのとき俺の目に映ったのは屈託のない、まるで大空の様な笑顔だった。まだ大学三回生21歳の俺は、同級生と共に所謂"自分探しの旅"とやらのために中国を訪れていた。
「君、崖から落ちてここでのびてたんだよ」
上を見上げると両端にそびえ立つ絶壁が空を狭めていた。
夜道に盗賊に襲われ、仲間によって囮に仕立てられたあげく、その弾みで落下したのである。
「よく生きてたな……」
「まったくだよ。立てる?友達とかは?」
丈夫さは取り柄であった。やたらと運が良いのもその一つだ。
「貴方は何でこんな谷底に?」
「君がいたから」
確か俺はこの時、この人は馬鹿じゃないのか?と思ったはずだ。むしろ今でもそう思っているかもしれない。
「そんな理由で?自分が危険であるにも関わらず?」
「そうだよ。ま、お互い無事だったからいいじゃん。それにこの谷を下れば小さな集落があるんだ」
俺はあのとき、五代先輩に出会ってなければ仮面ライダーになることも、戦いの渦中に身を投じる事もなく、無難な進路を進み、無難な仕事に励み、無難な人生を過ごし、刺激の無かった人生を悔やんで死んでいったのかもしれない。
* *
「へぇ、じゃあ俺の後輩になるのか」
「凄い偶然ですね」
野宿になった。正しくは泊まるところがなかったと言うべきか。
あの時、普通に宿に泊まっていれば、また俺の人生は違っていたかもしれない。たき火を二人で囲み談笑した。
「ってことは今三回生、進路とか決める時期か……俺は冒険家になるって決めてたしな」
「どれくらい冒険しているんですか?」
「もう4年は日本に帰ってないよ……というか逃げているだけかも」
そう言って五代先輩は夜空を仰いだ。今思い返してみれば、五代先輩のトラウマを掘り起こす質問だったと思っている。
「雨無君は将来何になりたいの?」
話を変えたかったのだろう。咄嗟に五代先輩が話題を変えた。
「わかんないです。こうやって自分探しの旅とやらに出発して、仲間に捨てられて……分かんなくなりました」
軽い錯乱状態だった。友達と思ったら態の良いコネクションで、別段親しいというわけではなかった。
「今、大人になるってすっごい難しいよね」
「俺、何になりたいのか分かんないです。何に?なる?それすらも分かんない」
無気力に生きすぎた。何も考えず刹那主義で、日常を過ごしていた。
「一度悩んじゃったらそのまま悩みこんじゃうよね」
場の湿気た空気を暖めるために五代先輩は、たき火を木の棒でつついた。パチッと火花が散り僅かであったが正気に戻る。
「今の子って、一杯遊んで、一杯知って、一杯考えなきゃならないのに……それをする時間もない。うーん……与えられないと言うべきかな」
弱くなった火種を元気づける様に五代先輩は新たな木片を火の中に放り込む。
「けどすぐに答えを出す必要は無いと思うよ」
「え?」
顔を上げれば、五代先輩の顔が炎の光に照らされていた。
「だって人間すぐに変われないじゃん」
その真意は立場的な事なのか人格的な事なのか。そんな野暮な事を考える余裕はあのときの俺には無かった。
「雨無君がこれから将来何になってもさ、今このときこんなにも悩んだ雨無君なんだよ。それはいつまでたっても変わらない。根っこの部分は雨無君なんだよ」
その言葉は哲学的で、直感的で、なにより曖昧で。だけど俺にはその言葉をかけられることで救われていった。
「だからゆっくり枝を伸ばせばいい。すぐ変わっちゃうと折れちゃうよ」
「……」
その後は、やれ人生の事、自分の事、将来の事、そして五代先輩の事。
当時の俺は、最高学府である大学まで籍を進めたものの、どこか無気力の人生を過ごしていた。自分の進路もはっきり決まらず、自分が何者なのかも虚ろで、自分が何のために生きているのも曖昧だった。
五代先輩と会話している中で、俺を支配していたもやは徐々に薄れ道がひかれ空が晴れてきた。今は獣道でいい。晴れていれば、進んでいける。
だから、聞いてみなくなった。五代先輩がどうしてこんなにも俺に気を遣ってくれるのか。
「うーん……やっぱ誰かの笑顔のためかな?」
今思い返してみればあの言葉は、何のために戦っていたのか、という解答でもあったんだ。
次の日、俺たちはチベット自治区へと進路を進めていた。
五代先輩が、地元の人からタイガの下から遺跡が顔をのぞかせているという話を聞いたのだ。
「ホントに山登り初めて?そうとは思えないんだけど?」
「やんちゃしてたんで、腕っ節と体力には自信有ります!」
学生時代の俺は、少なくとも優等生ではなく、どちらかと言えば先生方の頭を悩ます方であった。
多少は懲りて大学に籍を進めていたが、興味ある授業しか聞いていなかった。だが今は五代先輩に付いていけば道が開けると思っていた。
「うわ……こりゃ凄いな」
想像以上の吹雪だった。
俺は地理には詳しくないから分からないが異常だと感じていた。まるで何かを隠す様な吹雪だ。
「戻ります?」
「うーん、三蔵法師のルートと同じはずなんだけどなぁ……」
五代先輩が一歩踏み出した次の瞬間、自然が俺達に牙をむいた。
――クレバスだ。
普通ならあり得ないその深さ。対応できた俺はしっかりと五代先輩の手を掴んで、何とか留めた。
「手を離して!雨無君!」
「そんな馬鹿な事が出来ますか!」
手を離せなかった。折角手に入れた光だった。霧の中を進んでいるのか戻っているのか分からない人生に照らされた光。それを手放したくなかった。
「俺は大丈夫だから!」
変わるきっかけ。否変えるきっかけ。それを今手にし、そして落とそうとしていた。
あのときの俺は……変わりたかった。
だがあまりにも力が足りず、そして吹雪は俺達を包み込む様に、クレバスの奥へと誘い込んだ。
二人とも奈落に落ちていく。
そして五代先輩は覚悟を決めた。確か四年は使っていないと言っていた。
――変身!
五代雄介/仮面ライダークウガ
ACTER:オダギリ・ジョー
確かあのときベルトしか顕現していなかった。
ベルトの傷……霊石アマダムの傷は治っていたらしいが、変身は一度も試みた事がなかったらしい。
覚悟不足か、それとも単なるブランクか。前までのように古代の戦士クウガに変身する事ができない。五代先輩は身体を強化されているため、この高さから落下しても無事だが、あのときの俺はは無事では済まされない。だから五代先輩はなんとか体勢を立て直そうと必死にもがいた。
しかし手を掴んでいる俺はあまりにも運が良く、丈夫だった。
背負っていたアイスピッケルを氷壁に突き立て、スパイクシューズも壁に押し当てる。
「止まれ……!」
だが全てが上手く回るわけがなかった。ある程度落下速度を抑えたものの、アイスピッケルを持つ手は位置エネルギーを制御出来るわけもなく手放してしまう。
そのままクレバスの奥底まで、俺達は墜ちていった。
「大丈夫?雨無君?」
目を開けたとき、デジャブを感じた。前と同じような光景を見た事があった。
起き上がったものの両側は氷の壁。文字通りの絶望の壁が俺たちを閉じこめていた。
しかし俺はそんなことよりも、アレが気になってしょうがなかったのだ。
「……五代先輩。あのときのベルトは……?」
俺はしっかりと見えて"しまっていた"。あれだけ神々しく厳かに光ったものを見逃すわけもなく。
「あー、見えちゃってた?」
・・・
・・
・
おそらく五代先輩にとっては触れてほしくない内容だったかもしれない。だが、五代先輩は俺に全てを話してくれた。
「じゃあ……四号は……」
「そ、俺。まあ、本当は四号って名前じゃなくて、クウガって名前なんだ」
「クウガ?」
「そ、古代文字を解読したらそう書いてあったんだ」
かつて災害レベル……いや、それ以上に人々を虐殺した"未確認生命体第0号"。そしてそれを倒した"未確認生命体第4号"。あの四号は全てが終わった後、突如姿を消した。
見るも聞くも語るもおぞましい事件。おそらく常人が当事者となれば精神を病んでしまう様な事件。
その事件を終わらせ、たくさんの笑顔の為に戦い、そして守ったあの四号は、伝説は今確かに目の前にいた。
「そうだったんですか……」
納得がいった。
いや、感じていたと言うべきか。どこか普通の人間とは違う。そう思っていた。むしろ五代先輩のような人間だからこそ、全てをなす事ができたのだと。
「あんまり驚かないんだね?」
「そうですね。けど五代先輩が四号……」
「クウガ」
「……クウガって聞くと何か納得しました」
高尚というと語弊があるかもしれない。だが五代先輩は常人では考えられないくらい強靱な精神と信念を持っていた。
「それにしても、随分深いところまで墜ちちゃいましたね」
無理矢理話題を変えた。
好奇心はあったものの、きっと触れられたくないだろうし、今ここで話し込んでも状況が打破できるわけではなかった。
「うーん、ネパールの方角に伸びてくれているね」
あたりを見回す限り氷壁のど真ん中に落下した用だが、なんとありがたいことか道が開けていた。
「ということは……希望は消えてないと」
立ち上がり、自分達の道をしっかり見据え歩き出した。
まるで導くように道が作られている。その異常に二人とも気付いてはいたが、その異常に悪意を感じていなかった。
・・・
・・
・
そして俺達がたどり着いたのは、人一人がようやく通れる様な洞窟であった。
雪が入り込んでいる。いや、吸い込まれている。導くように。
「……似ている」
「え?」
「クウガのに似ているんだ」
五代先輩の先代にあたるクウガ。
彼が安置されていた遺跡に酷似していた。違う点は、先代クウガが眠っていた棺がないのと、雪が随分入り込んで所々氷になっているといったところか。
そしてその中央に違和感を感じた俺はつもっていた雪をかき分けた。
「五代さん、ちょっと来てください!」
少し離れて、遺跡の中を調べていた五代先輩が俺の元に駆け寄ってきた。
「どうしたの一騎君?」
「これってクウガのベルトに似ていませんか?」
「そんな……これがどうして……。アマダムなのか?」
俺達の目の前には腰ほどまでの高さの台に置かれているベルト状の装飾品であった。
五代先輩が近づいたその時、ベルトに埋め込まれていた霊石が輝き始めた。
しかし霊石が選んだ……導いたのは、導かれたのは、俺のほうだった。
頭の中にヴィジョンが流れてこんでくる。
古代の風景。
古代の生活。
古代の事件。
古代の戦士。
古代の……。
一気に映像が薄れ始め、黒い戦士と白い戦士が戦うヴィジョンに移り変わる。一人は泣きながら、一人は笑いながら。
現実に戻った俺を、濁流の様な汗と酸素を求める荒々しい呼吸が迎えた。
「あ、あ……」
「雨無君!?」
膝から崩れ落ちた俺の身体を、五代先輩が支えた。
そして同時に古代の記憶が黄泉返った。
「そんな……グロンギ!?」
封印されていた種族も目を覚ましたのだ。三体……いやもっといる。
「雨無君!逃げて!」
五代先輩が怪人の腹に思いっきり突っ込んだ。
五代先輩はクウガだ。常人よりかは遙かに丈夫だが、変身できる状態ではない。俺は無意識に……主のないベルトを視界に入れた。
「俺、変身します!!」
「止めるんだ!止めろ!」
今思えば、あの五代先輩があんなにも言葉を荒げたのはこの一回だけだったはずだ。目の前にあったベルトに手を伸ばす。
「俺は変わりたいです!」
しかしあの場ではあの選択が最良だったと……今でも信じている。
ベルトを手に取り過去のヴィジョンを、そして覚悟の姿をみた。
「自分が何者か!そんなことも分からないけど!」
ベルトを腰に当て、自身と融合させる。痛みが走るものの、一歩間違えれば死んでしまうというその恐怖感か、それとも高揚感からくるアドレナリンが阻害したか、それほど激痛に感じなかった。
「だからってこんなところで!何もせずに死にたくない!」
右手を高く左天に伸ばし、左手は右の腰に当てる。右手を右天に滑らせ、左手は左の腰に移す。
「だから見ててください!俺の!」
頭の中によぎったヴィジョン通りに身体を動かす。そして吐き出された言霊は英雄と一緒で。
――変身!!
覚悟の姿も英雄と一緒で。無意識に、導かれる様に、右手で宙を斬った。
――次の瞬間、世界は黒く変わった
それは同時に、仮面ライダーヌルがこの世界に顕現した瞬間だった。
深淵の体表を流れる力はどす黒い赤。禍々しい装甲は城壁を思わせ、唯一明るく輝く瞳は優しくも鋭い赤であった。
「……クウガなのか?」
そして俺は目の前の敵を一瞬で薙ぎ払った。自分の世界を変えるために。なによりも……後悔しないために。
次回予告:
――さあ、派手に行こう
EPISODE25 虚空
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この作品について
・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。
執筆について
・隔週スペースになると思います。
・日曜日朝八時半より連載。