No.345270 Destiny/Domhan Eagsula(デスティニー/ドムハン エアグスラ) 第9話 決意のかけらBLACKさん 2011-12-09 19:23:59 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:712 閲覧ユーザー数:709 |
朝になる。
「………」
恵生はいつものように目を覚ますが、ふと思い出す。
ゼロとイカロスが自分達を守るためにいなくなったことを……。
「ゼロ……未来の私………」
失った時に流し終えたはずの涙がまた流れていた。
「……………」
恵生はしばらく泣き寝入りした。
彬渡に起こされるまで……。
第9話 決意のかけら
何とか朝食などを終えた恵生は自分の部屋に戻っていた。
右策は風邪をひいたらしく部屋で大人しくしていた。
「…………」
恵生は考える。何とかフィリーを連れだし、宝石剣に使われてる宝石のきちんとした情報を得られそうではあるが、その情報はフィリーの頭の中を覗けばいいらしいが、恵生の精神上、万全な状態でないと危険なためひとまず保留と言う扱いになっていた。
つまりは恵生のために時間を割いて後回しにしてくれているのだ。
そのことをふがいないと思ってはいてもやはり自分達のためにいなくなったサーヴァントのことを考えるとショックはある。
しかしそれ以上のことがある、それは恵生とイカロスの二人でやるはずだった投影は恵生一人でやらないといけず、宝石剣は恵生がイカロスの腕の封印を解いてやる必要がフィリーの口から語られていた。
しかし一度でも封印を解くと後は死を待つだけである。今の恵生はそれが怖いのだ。
「昔はあんなに自分が死ぬのが怖くなかったのに……」
恵生はイカロスからもらった左腕を見る。
「未来の私からの贈り物………」
恵生はまた泣き出してしまう。
「こんなに精神、脆くなかったし、涙もろくもなかったんだけどな…」
「そんなに泣いていては精神も脆くなりますよ」
自分以外誰もいないはずの部屋から声が聞こえてくる。
「!」
恵生は部屋を見回してみるが何も見つからない。
「けど今の声……いるんでしょ、セラフィム」
「はい」
恵生の上、つまりは屋根裏からセラフィムが姿を現す。
「いつから?」
「明け方くらいからいました」
「それで何の用? 私を殺しに?」
「私が今言う用件を無視するのであれば……今から真浦家に行ってください。我が主、真浦賢蔵が待っています」
「賢蔵が……」
「はい、断ればこの場で殺します。ですが、私もライダーに襲われるでしょう」
「大変ね」
「それで返事は?」
「行くわよ」
「分かりました……それでこれは私個人のことです」
「?」
セラフィムの顔は先ほどまでの冷静で冷酷そうな顔から少しさみしそうな顔になる。
「昨日はあなたのサーヴァントに助けられました」
「ゼロに?」
「はい、セイバーは私をあの黒いものから助けるために自ら犠牲になりました。
私は彼には返したくても返せない恩が出来ました」
「そっか……」
恵生は笑顔をこぼす。
「責めないのですか? 私を…」
「ゼロも元々は正義の味方みたいだったみたいよ、それでゼロの作品を調べ直したことがあるんだけど、ゼロは一度、自分を好きだった人を自分の手にかけたことがあるの…。その人は悪人じゃなかったんだけど……」
「……」
「多分だけど、あなたを助ける時にゼロはその時のことを考えてたのかもしれない。
実際は分からないけど……。もしかしたらあなたが悪い人には見えなかったんじゃないかな。
賢蔵の所にいるけど、悪い人には見えない。私からあなたを見たらそう思うし、何より一度戦ってるゼロならそう思ったんじゃないのかな……」
「……どうなのでしょうね」
セラフィムの寂しそうな顔が解消される。
「とりあえず私個人のお礼は言いました。私はこれで……」
セラフィムは霊体化して消えていった。
「行けば何か分かるかな」
恵生は皆に黙って家を出て行った。
恵生は真浦家にやって来る。
真浦家の家は恵生の程ではないが、なかなか広い西洋風の屋敷であった。
「ここに来るのってどのくらい久しぶりなんだろう……」
聖杯戦争が始まる前はそれなりに訪れていたが、聖杯戦争が始まってからは行くことがなくなった。
「罠があるかもしれないけど、とりあえず入るしかないか…」
恵生が真浦家の家の玄関の扉を開ける。
「開いてる……」
恵生がひとまず真浦家にある客室間の方に行ってみる。
「ようやく来たか」
客室間には賢蔵が座っていた。
「賢蔵……」
「まあ座るがいい」
「それは遠慮しておくわ。それで話は?」
「うむ、右策のことじゃよ」
「右策……右策はあなたが操れるはずよ!」
「少し前まではな……」
「少し前まで?」
「今のあ奴は聖杯の呪いに侵されている」
「聖杯の呪い…」
「知らなかったのか? 右策はこの聖杯戦争における聖杯じゃ、アンベルツインの小僧もな…」
「フィリーが聖杯なのは知ってる…」
「ほう、知っておったのか。じゃが右策の方は知らなかったようじゃな」
「ええ、でもなんで? なんで右策は聖杯なの!? フィリーは聖杯であるように作られたホムンクルスだって聞いたけど、右策はそんなこと聞いてないし、小坂の弟だって聞いてた…、まさか!?」
「いやいや、右策は正真正銘の人間じゃよ」
「だったらなんで?」
「儂が右策に入れた時璽石、あれの一部にはな、前の聖杯のかけらを使って作ったものじゃよ。
つまりは即興で作られた聖杯と言っても過言ではない。アンベルツインの小僧が白い聖杯なら右策は黒い聖杯じゃ」
「だったらその時璽石を取り除きなさい!」
「それは無理じゃな、右策の体に入った時璽石はもう完全に右策の内臓だけでなく神経にも浸透しておる。
埋め込んだ儂でも除去は不可能な程にな……」
「………それで聖杯の呪いって言うのは……」
「…最近この鋼呂市で行方不明事件があるじゃろ?
あれが聖杯の呪いの仕業だと言うことじゃ」
「! ベガやお前じゃなくてあの黒いのの仕業ってこと!?」
「そうじゃ、あの黒いものは人を殺し、生命エネルギーを自身の魔力に変えておる。
そしてあの黒いものは右策の体から現れたもの言うなれば右策の影じゃよ」
「!!!!?」
恵生は驚きを隠せなかった。
「あの呪いのせいで儂は右策を操ることは出来なくなった。
仮に操って儂の元に来させても、あ奴は儂を拒絶し始めておるのもあって、儂が呪いで殺されかねない。
だからもう儂はあ奴に干渉することは出来んのじゃよ」
「それを信じていい保証は?」
「ないな、信じるも信じないもお前次第じゃ」
「………」
恵生には賢蔵の言葉が嘘だとは思えなかった。
何故ならあの黒い何かを初めて見た瞬間に何かを感じていた。
それは一度味わったことのあるものだった。
(あの時、何となく右策と同じ感覚がしたのは……間違ってなかったのね…)
「ひとまず話はこれだけじゃ。帰るがよい、このまま見逃してやるぞ」
「…………」
恵生は部屋から出ようとする。
「それと忠告じゃ、このままでは鋼呂市での犠牲者は増えるだけじゃ、右策を殺すなら今しかない。
とは言っても聖杯の呪いのせいで右策の命はもうわずかじゃがの……。
そのことを頭にいれておくことじゃな」
「…………………」
恵生は黙って家から出て行った。
恵生がこっそり家に戻ろうとするとフィリーが待ち構えていた。
「フィリー…」
「エミ、どこに行ってたの?」
「……」
恵生は質問に答えない。
「答えないんだ」
「答えたくない」
「何があったの?」
「言いたくない」
「……」
「ねえ…」
「何?」
「フィリーは自分が聖杯だって知ってる?」
「知ってるよ、僕は最初っから聖杯として作り出されたホムンクルス、そんなこと生まれた時から教えられてるよ」
「そっか……」
恵生は暗い顔のままだった。
「エミ……もしかして右策が聖杯だってことを知ったの?」
「うん」
「誰に教えられたか知らないけど、聖杯ってのは別にどんなものでもいいんだよ、その気になればそこら辺にある鍋でもいい」
「だったらなんで人なの?」
「人の形が一番適性があるんだよ、聖杯は……」
「なんで?」
「それがアンベルツインと小坂とマウラーで決めた聖杯だから……」
「…………」
恵生はますます暗くなった。
「それとね、前の聖杯って言うのは僕のお母さんなんだ」
「え?」
「僕のお母さんもホムンクルスで聖杯だった。
そして前回の聖杯戦争の最後に完全な聖杯になった。
けどその聖杯はダンが壊したの」
「そっか……お義父さんはフィリーのお母さんを殺したのも当然……裏切り者以前の問題だよね………」
「エミは右策が聖杯だと知ってどうしたいの?」
「どうしたいっか………今の私も分からない」
「決めないとね」
「うん」
それから夜になり晩御飯などを食べ、深夜へとなっていった。
右策の部屋の扉が静かに開かれる。
入って来たのは恵生であった。
「…………」
恵生は静かに閉じる。
右策は熱があったせいか眠っていた。
「…………」
恵生は右策を黙って見ている。
恵生はあたりを見回してみる、机にはカッターやはさみなど刃物があった。
「……………」
恵生は机に近づく。
そして机にあるカッターなどに手を伸ばそうとする。
「………」
しかしその手は掴む前に途中で止めた。
「…………」
「先輩、僕を殺さないんですか?」
眠っていたはずの右策が恵生に声をかけてきた。
「右策…」
「先輩は今日、お爺さんに会って来たんじゃないんですか?」
「!!」
「やっぱりそうなんですね……」
「右策、と言うことは自分の体のこと……」
「分かってました……いつ、先輩や兄さんに言おうかと悩んでました……けど言えなかった………」
「右策………」
「でも先輩なら僕を殺してもいいですよ」
右策は少し怯えているような声で恵生に語る。
「殺すだなんて……」
しかし先ほどまでの恵生は悩んでいて、殺そうかどうかと悩んでいた。
「私、何してたんだろ……、最後まで右策の味方をするって決めたはずなのに………」
恵生は右策の前に膝をつく。
「ごめんね、右策」
「せん…ぱい………」
「ごめんね、右策。もう二度とこんなことしない…。今度こそ右策だけの味方でいるようになるね」
「先輩…」
恵生は立ち上がって部屋から出ようとする。
「あの…先輩……」
「何?」
「今度……桜を見に行きませんか?」
「桜を?」
「はい、この鋼呂市って4月入った途端に桜が咲くんですよ」
「そう言えばそうだったわね」
「それで桜が咲いたら……」
「ええ、一緒に見に行きましょう」
「約束ですよ」
「分かったわ、その約束、守るわ。おやすみなさい」
そして恵生は部屋を立ち去っていった。
幕間
右策の部屋には右策以外いない。
いや、実はもう一人いる。
「ライダー……いるんでしょ?」
「ええ」
ジュディスは霊体から具現化して姿を現す。
「ライダー、さっき先輩を…」
「ええ、殺そうとしたわ。私はあなたのサーヴァント、サーヴァントが自分の主を守るなんて当然でしょ」
「そうだね……、けどライダーも約束してくれ」
「何を?」
「これからは先輩を守ってくれ」
「それは無理だと思うわ」
「だったら令呪に命ずる、ライダー、お前はこれからは何があっても恵生先輩を守れ」
右策は最後の令呪を使う。
「令呪はもうない…、先輩を守る以外はもう自由だよ……」
右策は眠りについた。
「右策……、仕方ない子ね」
ジュディスは霊体化して消えた。
幕間終了
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この物語は作者が「Fate/Zero」を見た影響で「Fate/Stay night」の話を基に作った作品です。
基となった話はアニメ化されてないルートをメインとしているため、ネタバレが嫌な人はあまりお勧めできません。
また話によっては原作のシーンなどを見ながら作っている場面もあり、原作で出てきたセリフと全く同じやほとんど同じなところもあることをご了承ください。
なお、サーヴァントにつきましてはクロスオーバー的にまったく別の作品からの参加となっています。