「そんなわけで『あわわわわわわわわわ』軍師の雛里んが仲間になってくれることになった。
雛里ん、皆に自己紹介を」
「あわわ! もう『あわわ』は卒業するって言ったじゃないですか! 第一、そんな長くないでしゅ!」
「卒業するといいながら、口癖も辞められず、安定して噛む雛里ちゃんは可愛いですね~」
「ううっ・・・風さんひどいでしゅ」
「ズッキューン! なんだ、この愛らしい生き物は! いかん! けしからんぞ!
よし愛でながら早速私は呑んでく・・・」
「当然のように抱え上げて連れて行こうとする星には、メンマもう作らんぞ」
「この通りでござる、私が悪うございました!」
「なんという見事な土下座・・・ジャンピングまで会得しているとは・・・っ! さすが星・・・っ!」
「イイカゲンニナサイ」
漆黒の覇気に包まれた俺たちは皆揃って華琳の前に頭を垂れる。
両腕も前に投げ出して、逆らう気などこれっぽっちも無いですよーって必死のアピールも欠かさない。
「雛里までなんで揃って土下座をしているの・・・まぁ、いいわ。話が進まないことだし、私が進行役になる。いいわね?」
「「「ははーっ」」」
突っ込み役の華琳さんはボケ揃いの俺たちには欠かせない上司であると再認識。
だがしかし、ちゃっかり雛里を背中から抱え込むようにして椅子に座り、頭をなでくりしながら、
話を進める華琳さんは、そつが無さ過ぎて困る。
「さすが華琳・・・油断も隙も無い・・・流石はツッコミ専門・・・っ!」
「貴様っ! 馴れ馴れしく華琳さまの真名を呼ぶなどっ!」
実は華琳さまの斜め後ろにしっかり秋蘭は控えていました。
俺達の流れるような会話に唖然呆然としていた彼女も、さすがに俺が華琳の真名を呼んだもんだから、怒り心頭になるわけで。
「ひ、ひぃぃ! こ、殺さないでくださいぃぃぃ!」
「秋蘭、この者達には私が真名を許した。引きなさい。・・・それに、一刀。あえて場を掻き回さないの。・・・モグわよ?」
「ソレダケはゴ容赦をー」
「全く、風と旅をして、自由さ加減に歯止めが利かなくなってるわね・・・。はぁ」
「あ、あの・・・」
「どうしたの、雛里?」
「・・・こ、こういう時は無視が効くと思います。ボケる人たちはツッコミが無ければ輝けないのですから。
華琳さまの性格を読んで、あえて挑発してるんです」
「わかってはいるのよ・・・ただ、どうしてもこう、この鎌で首を刈ってやりたい衝動に駆られるのよねぇ・・・」
「・・・放置プレイで我慢なさってくだしゃい」
「ふふ、そうね。その間、貴女を愛でればいいのだものね」
結局、雛里は愛玩キャラからは逃れられぬ運命なのだ・・・。
自己紹介が何とか終わり、俺達は華琳の臣下に加わり、星、風、雛里は俺の直属となることも決まった。
というか、それが条件という話で、華琳や風たちの間では既に話がついている、ということだった。
「しかし、華琳さま・・・。さすがに仕官したばかりの者に、将軍や軍師を務められる程の部下をつけるというのも・・・」
「妙才さんの言う通り、いらぬ軋轢を生まないか?」
秋蘭は記憶が戻ってないので呼び方は以下略。
「異形の能力を持つ者は、その中で優れた者が統べるのがもっとも効率的ではなくて?」
華琳さん。言ってることはもっともなんですが、雛里んの頭を撫で続けながら言われても説得力半減です。
雛里んも恥ずかしいんだろうね、頬が真っ赤でござる。
「北郷、といったか。本拠に戻れば、一度力を示してもらわねばならんと思う・・・」
憂い気に言う秋蘭の頭の中に浮かぶ人物・・・うん、愛すべき馬鹿の子が見える気がする。
「勝たなくても、一定時間守りきれたら納得してくれるかな・・・うーん」
「一度、気を失う程度にふっ飛ばしてもいいのでは~?」
「それだと風、俺は毎日勝負を挑まれることになると思うよ・・・俺は面倒ごとは避けたい主義なんだ。
俺は空の散歩を楽しめる時間を最優先するような男なんだぜ?」
「その横には当然、風が一緒なわけですね~」
「青空の中で風に身を任せながら、メンマを愉しむ・・・至高の贅沢ですな」
「わ、私もご一緒しましゅ!」
「無論、私も行かないと話にならないわね。今からでも行ってみましょうか」
「華琳さま、一体なにを・・・」
「秋蘭、何事も一度体験するのが一番手っ取り早いのよ。
一刀たちの能力をかいつかんで話したけど、全く信用できないでしょ?」
昼間のお日様はまことにポカポカ陽気でございまして。本当に眠くなるのでござる。
まして、これだけお日様に近い場所で、ごろ寝が出来るとくれば、昼寝をしない選択肢などない!
・・・ないはずだったんだ。
南陽の城の上空、滅ぼした汝南袁家の牙門旗を空中のゴザ代わりに、ピクニックと洒落込むはずだったのだ。
現に、俺の手には華琳お手製のサンドイッチがあり、俺の膝を枕代わりに、片足ずつ華琳と風が占拠している。
風は本気で寝てるんじゃないか?
「寝・・・て・・・ませんよ・・・すぅ・・・」
ほぼ本気寝じゃないか。
まぁ、空飛ぶカーペットみたいなもんだよ。
これだと地上からスカートの中身を見られる心配も無いと、華琳たちには好評だった。
むろん、保険の意味で、皆には浮力の術式はかけてあるんだけどね。
風や星、華琳は出力調整や効果時間延長の修練も含めて、自分達で術式を組んでいた。
星はメンマと酒で一人で楽しそうにやってるし、華琳に造ってもらったツマミに舌鼓を打っている。
だがしかし、明らかに困惑している秋蘭や、雛里の巧みな話術で、まんまと空の散歩に連れ出された、
真っ青な顔をした、諸葛子瑜、孔明姉妹や徐元直、向巨達…の水鏡塾の女生徒さんたちを放っておくわけにもいかんでしょう。
華琳は『お手並み拝見』とばかりに、まぁ、全身脱力系のリラックス状態。
面倒なことは全部俺任せなわけですね~。
『私の代行ぐらいやってもらわないと困るのよ・・・前回よりゆっくりとした時間を作りたいんだから』
わお、これ術式による念話ですか、華琳さん。すげー。その発想力がすごい。
ただ、そっか。華琳と空の散歩と洒落込むにも、二人の自由時間を増やさないといけないわけか。
・・・仕事頑張るしかないか。
『むしろ、人をうまく使う術を身に付けて欲しいわね。貴方は自分でやろうとするきらいがあるから。
自身の仕事量としては、魏の文官の中でも中々のものになってたわよ、安心なさいな』
ほ、褒められたーっ!? うおお、むずかゆくてしょうがないので立ちあが・・・!
「駄目よ。貴方は今、私と風の枕なんだから」
俺にだけ聞こえる声量で、甘えた声でそんなことを仰る覇王様。
ちくせう、風といい、華琳といい、俺のツボを的確に射抜いてこられる・・・っ!
「そんなこと言うと、種馬の本性が出るから、まずいって」
「あら? それは楽しみにしてるわね・・・ふふっ」
余裕の笑みで返されましたよ、ええ。ちくせう(二回目)、悔しいから華琳の髪をなでくりしてやる!
あー、すげーサラサラだよー。心地良さそうに目を閉じられたら何も言えないぞー、ちくせう!(三回目)
「雛里ん」
俺はあえて視界から遠ざけてきた、黒~い悪~い顔をしている、雛里に声をかけた。
「はい、ご主人様♪」
うん、どうしてこうなった・・・。
彼女にこの笑顔でこの呼び方をされると破壊力は『抜牛ン』だ!・・・が、俺はこんな呼び方など教えておらず・・・。
「にゅふふ・・・」
やっぱり悪い笑顔をして口元を緩ませたまま惰眠を貪る、可愛い恋人の仕業なのだと、確信するのだった。
「ひ、雛里ちゃんを、も、元に戻してくだしゃい! 雛里ちゃんはこんな黒くて悪い笑顔をする娘じゃなかったんです!」
とベレー帽のちみっ子孔明さんが、震えながらも叫びます。
しかし、蜀の軍師は噛むのが基本か・・・なんという策士! 愛らしい風貌から油断を誘うとは・・・恐ろしい娘よ・・・。
「ああやって震える小動物の雰囲気を演じながら、いかに自分に有利な交渉へ持っていくかを
画策するのが朱里ちゃんのいつものやり方です。騙されてはいけません。
私も何度、あの特注本を掠め取られたことか・・・」
「うぉ~い、雛里ん? その瘴気は小規模ながら、華琳さんのアレにそっくりなんだじぇ~?」
結構、噛みながらも口達者な親友に、好き勝手やられていたんだろうか。
あの瘴気には、恨み辛みがどっぷり篭ってるぞい・・・。
「だけど、私はご主人様という翼を得た! もう私は朱里ちゃんの後ろに隠れる必要は無い・・・鳳凰として飛び立つ時が来たの」
それと黒くなってると噛まないみたい。
「それに私が決心さえすれば、ご主人様は私に寵愛を下さるの! 朱里ちゃんの一歩先を行くんだから!」
「ふ、ふえぇっ!? ひ、雛里ちゃんはそ、その、いつでも大人の女性になれるって言うの・・・!?
あの秘蔵本で培った知識を、実践すると・・・」
頭が痛い。星はこのやり取りを見てケタケタ笑ってるし、秋蘭も現実逃避の為に星と一緒に呑み始めた。
華琳と風は本気で昼寝している。つまりは孤立無援。
「あの・・・あうあぅ、代わりに私が話をしてもいいでしょうか?」
そう言ったのは、孔明さんと色違いの帽子を被った、但し出る所はしっかり出ている・・・何がとは言わないが、
金色の網み髪のお嬢さんだった。その後ろには、それぞれ帽子をかぶった女の子二人。
「諸葛、子瑜さんですか? 助かります・・・この状況じゃ立ち上がるのもままならないわ、
雛里はなんか暴走気味だわで、どうしたもんかと思っていたんです」
助かったーと、笑顔がこぼれるのも仕方ないことだと思う。
ただ、目の前の子瑜さんは固まった。ピシッ!・・・って擬音が聞こえた幻覚すら感じる。
徐元直、向巨達の二人は・・・せ、石化したーっ!?
なっ、なんかやっちまったか!?
「魅了の術をつ、使うなんて・・・」
「へ? いや、特に術式も組んで無いし、術の発動は口に出さないと無理っす」
「はうあう・・・それではこれが普通というのですか。・・・こ、これは・・・雛里ちゃんが参るのも、
周りに女性が侍るのも、な、納得できてしまいますね・・・うぅっ」
ぼそぼそ何かを言っているようだけど、全然聞こえない。むしろ独り言なんだろうか。
「はうあぅ、あの、ご主人様、と呼ばせるのはご趣味なんですか?」
爆弾発言キター! というか、何か話がおかしいぞーっ!?
「ち・が・い・ま・す! ここで寝ている、長い癖っ髪の女の子の謀略です。
可愛い奴なんですけど、どうにも悪巧みが大好きなもんで・・・」
「・・・それだけ安心しきった寝顔なのですから、貴方のことが大好きなんですね。
雛里ちゃんが暴走したのも、きっとそういうことなんですよ、ふふふ。
妖術使いさんって仙人のような変わった方か、悪逆非道といった印象しか無かったもので」
「なんか、ほんとすいません! 雛里んは俺についてくる気まんまんみたいですけど、
他の皆さんはもちろん学院へ送り届けますので・・・!」
誘拐はもうこりごりである。するのもされるのも。
「はい、貴方の言葉を信じます」
柔らかな、相手に安心感を与える笑顔。
俺に姉がいたとしたら、こんな風に笑ってもらえるのかもしれない。
ザ・お姉ちゃん、って奴だ。いや、なんだって言われても困るんだが。
「そちらのお二人を見れば、操心の術など使用していないことが判ります。
最初は摩訶不思議な現象に慌ててしまいましたが、こんな空の散歩が出来るなんて、
こちらとしても得がたい経験が出来ました」
「子瑜さん…」
「あわーっ! 駄目でしゅーっ! それ以上、朱羅さんにメインヒロインのフラグは渡せましぇん!」
お、不毛な言い争いをしていた雛里んが帰ってきた。
涙目なのがまた保護欲をそそりよる…。全くけしからんね、うむ。ムッハー。
だが、何故か子瑜さんが目配せをしてきたので、俺は合わせて悪乗りすると決めたのである。
「はうあぅ…雛里ちゃん、でも私はもう『ご主人様』の虜だよ?
たとえ、魅了の術をかけられていたとしても、それでも構わないと思うもの…」
瞳をトロンとさせ、背中にしなだれかかってくるお姉さん。
女学院の方なのに、これは立派で柔らかなものをお持ちで…くっ、俺の理性が…。
って、声色まで艶がかったものに変わってるし、これが演技…というのか…。
呉の名外交官マジヤベェ…。
「あわー! 自意識の無い人形化はありですけど、こういうのはダメでしゅーっ!
ごっ、ご主人様、早く術を解いて、記憶抹消してくだしゃい!
やっぱり女学院の皆は元通りにしましょう! 私だけご一緒すれば十分でしゅ!
朱里ちゃんの政務の才も、朱羅さんの外交の才も含めて、私が超えてみせましゅ!」
いろいろダメ人間発言満載だけど、俺もダメ人間なので、むしろ公言できる雛里んバッチコイなんだが、
うん、さすがに友人なくすよ? いや俺が恋人兼友人兼お兄さんぐらいいくらでもやるけどなHAHAHA!
ただ、引っ込み思案の気があった彼女に火がついたのはいいことかもしれんね。
そうやって暫く現実逃避していたら、気づけば、俺直下に子瑜さんが加わる事になってました。
なんか寝てたはずの華琳さんや風がまとめてくれたみたいです。
徐元直さんたちはそのまま女学院に石化したままそっとお返ししてきました。
朱里ちゃんは雛里んとキャラが被るんで、
『雛里んは俺に傾倒し過ぎているから、外から目を覚まさせてやって欲しい。
傍にいる俺では無理だから、伏龍たる君に外から止めて欲しいんだ…!』
などと適当に煽って、玄徳さん陣営に行くように誘導しました。
目を輝かせて、『北郷さん諸共私が救ってみせましゅ!』とか張り切っていたから大丈夫だろう、うん。
ただ、君のお姉さんはちゃっかり俺と一緒に行くらしいけどな。
魅了なんてかかってないと判った時の雛里んの唖然とした顔はちょっと可愛そうだった。
いや、華琳が歯ごたえのない覇業なんてヤダって言うんだもん。しょうがないよね。
俺はのんびりやりたいから、適当に桂花辺りを煽ててうまくやってもらうとしよう。
「外交担当なんかいいかもですね~」
「外交in諸国漫遊食い倒れの旅だな、ありじゃね?」
「はうあう…行く先々で孟徳さんのお気持ちといいながら、一刀さんなどの能力で作り出した食料を民たちに渡して回れば、
民の取り込みも出来ますね」
「護衛の名目で私も行きますぞ、主」
「はっきり『名目』って言い切る星がカッコいいぜ・・・!」
「はっはっは、もっと褒めて下され!」
(どうやって城内に括り付けておくかが問題ねぇ…)
暴走気味の俺たちを傍目に上司が頭を痛めていたことに気づかない俺たちドンマイ。
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黒雛里んが暗躍を始めます。でも後ろで糸を操っているのは多分風で。
それを呆れた目で見てる一刀と華琳。面白がって一緒に悪知恵を考える星。
・・・なんて、想像し易い情景なんでしょう・・・。
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