ごめんなさい一刀。貴方の愛した魏は負けてしまうかもしれないわ
「フフッ、今のこの様を一刀が見たらなんて思うかしら」
ここは、魏領内にあるとある城。そこの屋根の上で私こと曹孟徳・・・・・・華琳は一人、自嘲しながら寝転がりその遥か上空、天にある月を見詰めていた。
そんな私が思うのは彼のこと、我ら魏の皆と苦労しながら馬鹿しながら笑いあいながら彼と共に天下を目指していたときの事。
そして、天下統一を成しえたとき彼が消えてしまった時のこと。今日出ている月はその日に見た月に少し似ていて、私は何だか嫌だった。
あの日から、一刀が天に還ったその日から、私、いや魏の面々は弱くなったと思う。3
あれから既に三年経ち私達は彼が消えた事により生じた心の隙間を埋める術を見つけた。
といっても、春蘭は未だ夜になったら時々だが涙で枕をぬらしているし。秋蘭、稟はため息をつく回数が増えてきたし
桂花でさえも行動にキレがなくなったというか。風は居眠りをすることが増え何やら思いつめている様子だった。
霞は飲む酒の量が目に見えて増えた。そして季衣と流々の笑顔もぎこちないし、一番接していたであろう三羽鳥は未だ目を赤くしているときがある。
そして私は・・・・・・。
私も一刀が消えた事に対して何もただ指をくわえたままいたわけではなかった。
天という未知なる物に対して、私なりに考え一刀を取り戻せないだろうかと講じた策が天下三分の計である。
しかし、それもどうやらはずれのようだった。三年たった今でも還ってくるということは無かった。
「ふぅ・・・・・・」
そして、今回の事である。
五胡の侵攻。完全に隙を突かれた。
一刀がいない事で、魏の面々に隙が出来た。いや、一刀のことを良いわけにするなんて私はついにボケでもしたかしら。
今回のことは完全に私達の怠惰の結果だ。何とかせねばならない。
今既に、五胡の侵攻は涼州にまで及んでいる。侵攻の報を受け慌てて私達は出撃をした。
しかし、敗北とまでは行かずとも手痛い、被害をこうむりこうして蜀の援軍であった翠達に一旦場を預けこうしてここまで撤退してきたわけである。
「何とかしなければならないわ。 一刀かが帰ってきた時。魏がなくなってましたじゃ、話にならないものね」
そうして、腕で目を押える。色々な思い、記憶が私の頭の中をめぐる。
それは、ただの日常、一刀がいた頃のただ変わらない日常である。思い出というものは常に美化されそして忘れ去られていく物だ。
その証拠に私の中の一刀、その顔、声を思い出すことが段々と難しくなってきている。
「一刀、合いたいよ・・・・・・」
小さく呟く。私の頬を何かが流れた涙だ。
あの時、後悔などは無かった。しかし、今弱くなった私に同じく一刀に聞かれたとしたら後悔していると答えてしまうだろう。
何が悪かったのか。低軍山で秋蘭を助けたことか、それとも我ら魏が天下を取ってしまった事か。
どうすればよかったというのか。どうとっても私達と一刀の間には決して結ばれない。ちくしょう。ちくしょう。
「私達が何をしたっていうのよ!! そりゃ、私達が天下を取ったことは天の歴史を変えたかもしれないわ!! でも、それで一刀を取る必要があるの!?」
私は腕をどけ立ち上がり、私に苦しみを与え続けている満月に向かって叫ぶ。
もし、ここにもう一人私がいたらふん、全く覇王らしからぬ発言だわ。なんて言うと思う。
「しょうがないじゃない! 私の中の一刀が大きすぎるの!! もう、苦しいのよ!」
ふん、それこそ戯言だわ。 あなたは誰? そう、曹孟徳よ。 誰もがひれ伏す覇王よ。だけど今のあなたでは誰もひれ伏すどころか見向きもしないわ。
だって、今のあなたは何処からどう見てもただの小娘だもの。
心の声が私の言う事を真っ向から否定する。その言葉が、私の心を貫く。そう、今の私はただの小娘だ。
「わかってるわ。 わかってる わかってるのよ」
しょうがないわね、そんな小娘なあなたには今の状況をどうにかするには荷が重いかもしれないわね。そのままでは、一刀に会う前に魏という国は消えるわ。
その事を実際に考えるとゾッとした。目から涙が溢れ、身体が震え、止まらなくなる。目の前が暗くなってくる。
もぅ、ちょっとからかっただけなのに泣かないでよ。 ふぅ、私も一刀の帰る場所が無くなるというのは許しがたいからあなたに良いものを貸してあげるわ。がんばりなさいよ。じゃあね。
「え?」
私はその心の声がいったと思われる言葉に間抜けな声を出した。そして、ふと目を上げ月を見た。
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恋姫†無双の二時創作