No.338905

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 幕間2 桂花√

TAPEtさん

自分はまだ社会については良く知りませんが、
誰かが誰かを踏んで上に上がらなければならないことがあるということは分かります。
でも、誰が残って誰が功をあけるがを決めなければならない立場に置かれた時、

天才の選択は何になるのでしょうか

2011-11-24 18:32:20 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:5191   閲覧ユーザー数:4128

桂花√ 題名:迷う心

 

昼食を食べる少し前、一日中で頭が一番冴えている時間に、私は毎日アイツの所に向かう。

理由はいつも通りに、アイツと囲碁など象棋などを打つため。

今まで勝ったことは…あの初めての時以来にはないわね。アイツと私との間の実力を思い知ったのは昨日今日の事じゃないわ。

でも、私は諦めない。

 

私は華琳さまの軍師、

そして、アイツはそうじゃない。

厳密に言うとアイツは警備隊隊長で、他にアイツがやっている仕事はすべてアイツが自分勝手にやっている仕事たち。位としては重役でもなければ、どっちかと言うと中間管理職よ。

それでも、他の部署からの抗議を一蹴させられるのは、アイツの実力があるからでしょうね。

 

そして、その能力は、

はっきり言って、私を上回っているわ。

 

最近文官たちの中ではこういう話が流れているらしい。

私が才もなく、華琳さまに媚びて軍師の座を自分のものにしているという話だ。

ふざけた話よ!

私の前でそんなことしたらそんな奴らに私の実力を思い知らせてやるわ!

……でも、そういう噂が出るのも無理もないってわかっている。

 

コンコン!!

 

「北郷!居るでしょ!さっさと出てきなさいよ!」

 

私がいつものようにうるさく門を叩いた。

 

アイツの住んでいた天の世界では、人の部屋に入る前に中の人に準備させる時間を与えるために外に誰か居るという表示がわりに門を叩く風習があるらしい。

のっくって言ったかしら。

アイツの場合、門を壊すかの勢いで叩かないと気づかないのだけど……

 

暫くして出てきたアイツの姿はいつものよう酷い様だった。髪はいつ洗ったのか分からないほどひどくなってるし、目の下にはいつも隈がある。

 

「……荀彧、いつもより早かったな」

「ちょっと早めに済ませたかっただけよ。…あんた、ちゃんと洗ってるの?」

「……見ての通り腕がこんなんでな」

 

北郷は石膏で固めた包帯を巻いた腕を見せながら言った。

そう。コイツはこの前の戦で、信じられないぐらい馬鹿なことをしたのよ。

義勇軍だった凪を助けるために、自分の腕を犠牲にして凪を庇ったらしいけど、なんでそんなことをあんたがするのよ。

戦うことも出来ない癖に。季衣に任せていればこんなことにならなかったでしょう?

 

「理由になってないわよ。っていうか、あんた前々から思ったんだけど、もうちょっと綺麗にならないの?」

「……最小限の掃除は典韋がしてくれている。とは言っても、ここには大事な資料たちも集まってるんだ。他の奴に勝手に掃除させるわけにはいかない」

 

だったら自分でなんとかしなさいよ。

 

「入ってくるか?」

「いやよ、臭いし。あんたの部屋に入ったら、入っただけで妊娠しちゃうわ」

「……男の精は空気では感染しないぞ、荀彧」

「それぐらい分かってるわよ!」

「なら何故そんなふざけた言い方をするんだ」

「うるさいわよ!掃除しなさいって言ってるのよ!」

 

 

(荀彧さま、また御使いさまと喧嘩してるわね)

(ほんとね。この時間になったら毎日荀彧さまが御使いさまの部屋に来て身嗜みや部屋のことに関して文句を言って喧嘩し始めるんだから)

(侍女たちの中ではこの時間がある意味名物になってるしね。見て面白いし)

 

侍女たちが向こうで騒いでるけど、そんなの気にしたら負けよ。

 

 

「人の部屋に文句を言いたければ、先ず俺に勝つか、同等になれるぐらいにはなってから言え」

「っっ!」

「荀彧がしっかりしてくれないと、こっちは仕事が増える一方なんだ。最近は孟徳までもサボり気味だし……そろそろ本気でキツい」

「仕事が増えるのは自業自得でしょう……というかあんたいい加減華琳さまに付きまとうのはやめなさいよ」

「荀彧、お前はもう少し自分が聞きたくない話でもちゃんと聞いた方がいいぞ」

「うるさい、うるさい!!」

 

今日こそその鼻をへし折ってやるんだから、覚悟しなさい!

 

 

 

 

 

「………参りました」

 

囲碁を打ち始めて早半刻、囲碁盤上は微細だけどこっちの負けが決まっていた。

……は?それぐらいなら同格じゃないのかですって?

 

……これ、置き碁なのよ。それも5子。

(※囲碁で、下手が上手と打つ時、最初に定められた場所にいくつか石を置いてから始めること。置く石の数が多いほど黒に有利で、それはつまりそれほど実力の差があるということになる)

これも最初は|井目(9つ置き碁)から始めたのよ……。

 

いや、でもこっちからでも文句は言わせてほしいわ。

コイツ、全然今までみたことのない打ち方してくるのよ?

最初は対応しようもしようがなかったけど、最近はコイツの奇異な打ち方にも慣れてきた……それでも5子なわけだけど………。

 

「…次からはもう一個減らすか」

「あ」

 

あ、減らしてもらった。

最初に井目に打たれた時はあれほど侮辱されたことがないと怒っていたけど、今じゃコイツとの差がちょっとずつだけど縮んで行くのが減っていく置き碁の数でわかってくる。

 

「ところで、荀彧」

「何よ」

「前に出した宿題。また答え聞いてないのだが……」

「うっ!あ、…あれは……」

 

北郷が言っている『宿題』とは、コイツが季衣と賊の退治に出る前に出した宿題のこと。

つまり、現在黄巾党の首魁が居る本城がどこか調べろとのことだった。

 

季衣と北郷と助けるために援軍に出た時、私は我々が着いた時にアイツが華琳さまが考えていた陣で何倍もする賊たちを一掃させたのを見てあっけなくしていたけど、その後、アイツからある話を聞いた。

 

『ここから半日ぐらい西に行けば、現在黄巾党の軍糧の半分ぐらいが集まった要塞がある。それを落としたら、荀彧にも良いヒントになるだろう』

 

何でそんなことが解ったのか、聞く間もなく北郷はその場を去っていた。

季衣と一緒にいたのが私だったら、私はきっと防衛することでも精一杯だったはず。なのに北郷はそんな状況を覆して、尚且つ相手に致命傷を与える情報を手に入れた。

そんな私とコイツの差は一体どこから来るものか?

才の差?

 

そういう結果は認めない。

だって、それを認めてしまったら、

コイツとこうしてやりあう時間も、すべて無駄だということになってしまうのだから。

 

「まだよ……いくつか絞ったけど、まだ決定的な情報が欠けてる。斥候出したら分かるのだけど……」

「出したらどうだ?」

「あんたはそんなの出さずにもわかったのでしょ!」

 

だったら、私もそんなことせずに当ててみせる。

 

「……荀彧、俺は宿題と言ったが、これは時間との戦いだ。いつまでもお前に時間をあげられない」

「……どういうこと?」

「俺はこの前孟徳と賭けて負けたのがある。孟徳にお前に出した宿題の答えを教えてあげることにしたんだ」

「!」

 

そんなことしたら…

 

「絶対許さないわよ!」

「……」

「華琳さまの軍師は私よ!いくらあんたでもそこだけは譲らない!」

 

軍事において王を支えるのが軍師の務め。私が軍師で、コイツではない。

周りから見ると誰が持ってきた情報であろうとも、軍全体に益であるなら早く知らせるべきだと思うでしょうし、それが正しい。

でも、コイツとの間では、コイツと私ではそうじゃない。

 

「…そうだ。孟徳の軍師は荀彧、お前だ。王佐の才を持っているのは荀彧、『お前』だ。だから、孟徳の期待に応えてくれ。そして、俺の興味にもだ」

「………」

「期限は……もう長くはあげられない。明後日の昼まで結論を出せられなかったら、俺から孟徳に話す。孟徳は分かった途端出立の準備をするだろう」

「……分かったわ。その前に答えを引き出せばいいんでしょ?」

「………期待してるぞ、荀彧」

 

私は軍師で、コイツはそうでない。

 

「俺はまだ残してる仕事があるから先に帰らせてもらうぞ」

 

コイツは……

 

 

 

 

部屋に戻ってきた私は、今やっていたことを全部辞めて、陳留周囲の地域の城や砦たちが詳細に出ている地図たちを持ってきた。

机に全部置こうとすると空間が無くて、寝床の上に置いたら、それでも足りなくてそのまま床に広げておいた。

 

元々ならこんなこと、している場合じゃないわ。

誰でも早く我軍にいい情報を持っているのなら華琳さまに教えて、即刻策を立てて、功を挙げた方が良い。

でも、私は、今の私はそうしたくなかった。

 

この軍において私はなんなのか。

私は軍師よ。

なのに何よ。自分よりも遙かに優秀な才の人間が居て、それが私が私が大嫌いな男で、しかもその男は華琳さまの軍師にはならない。

才では明らかに下な私が地位では上に立ってアイツの教えをもらっているこの状況がこの軍に置いてどれほど危うい環境であるか私もアイツも知らないわけじゃない。

でも、アイツはどうしても私のように華琳さまの軍師にはならない。

 

だって、アイツは華琳さまの『部下』ではないのよ。

あいつと華琳さまの『関係』はそういうものではない。

 

だから、この不均衡な状況を正しくするには、私がアイツど同等か、それ以上になるしかない。

 

私は華琳さまの軍師、私がすることは、すべてあの方のためよ。

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

凪SIDE

 

それは、私が近くに現れた賊の討伐に向かって引き上げている時のことでした。

休憩の時に、ちょっとした散歩をする気で、軍から少し離れて近くの林を歩いていたのです。

そこで、誰かが居るような気配がしました。

とても民間の人とは思えなかったので気の動きを追って相手を居場所を探し、捕まえてみると、黄巾党の伝令だったのです。

しかも、その内容を見ると…

 

 

「黄巾党本城からの救援を要請する……か…」

「はい」

 

中身には現在黄巾党の首魁、張角が居る本城の居場所が表示されていました。

しかも、内容を見るかぎり、本城は現在戦力をほぼ失っている状態の黄巾党は援軍の要請を断っていました。恐らく、以前我々が奴らの穀倉となる要塞を燃やしたせいでしょう。

 

「………………」

「…一刀様?」

 

しかし、隊長の様子がおかしいです。

これほどの情報を持ってくれば、一刀様もきっと喜んでくださるだろうと思って、進軍速度ももっと早くして帰ってきたのですが……

 

「…はぁ……」

 

逆に頭を抱えてため息をついておられます!

 

「一刀様、私が余計なことをしてしまったのでしょうか」

「………文謙」

「はい」

「………」

 

な、何故そんなにじっと見つめられるのですか?

……ちょっと

 

「///////」

「…最近は皆して俺の期待以上してくれるから逆に困る………手紙を書いてあげるから、これとこの黄巾党の伝令所を持って軍部最上級者の部屋に行け」

「軍部最上級者……桂花さまのことですか?!な、何故私が……」

「君の手柄だ。…俺は君の上官だがただの雑用係だ。こんなものもらっても何の益もない」

「あ」

「これぐらいの功績だと、後で孟徳から何かしらの褒美があるだろう」

「………」

 

違います。

私はそんなことよりも、一刀様に褒められたくて……

 

「…とまぁ、それは孟徳からの褒美として、」

「へ?」

「上官自らも何か良い事をした部下にご褒美を与えた方がいいよな。次来るまで考えておくように……」

「……はい!!」

 

そう言われて、私は一刀様からの手紙と黄巾党の伝令所、2つの竹簡を持って、勢い良く門を閉じました。

 

 

 

一刀SIDE

 

……

 

「………はぁ…」

 

 

 

 

桂花SIDE

 

コンコン

 

「………」

 

コンコン

 

「桂花さま?」

 

……!

今誰か門を叩いた?

 

「誰よ!」

「凪です。一刀様に言われて報告することがありまして…」

 

報告?

そういうのなら自分が来ればいいんでしょ?何で凪を使いに出すのよ。

 

「取り敢えず入って来なさい」

「はい」

 

凪が門を開いて中に入って来ようとした時、ふと私は凪が足を踏もうとする下にも地図があることに気付いた。

 

「ちょっと待ちなさい!」

「はひぃっ!?」

 

不意をつかれ変な声を出した凪はちゃんと足を踏み入れることができずに前に倒れた。

持っていた書簡を落として転がり、周りに無秩序に散らばっているように見えてもちゃんとした規則で置いてあった地図たちが散らばって本当に混沌な状態となった。

 

「もう何やってるのよ!」

 

半分は私のせいだったけど、あともうちょっとというところで邪魔をされた気分だった私は凪を責め立てた。

 

「も、もうしわけありません」

「なんなのよ、一体。まったく、あの男に絡んだことときたらロクなことが起きないんだから……」

 

愚痴りながら、散らばった地図を片付けている中、ふと、凪が転けて落とした書簡の中の一つが開いてあったのを見つけた。

 

「何よコレ…」

「あ、それは……」

 

凪が何か言おうとしたけど、私の目は既にその文章を読み上げていた。

 

 

 

 

それが間違いだったのよ。

 

 

 

「………」

「…桂花さま?」

 

書簡を持っていた手がびくびくと震えた。

 

「……何…これ…どこでこんなものを…?」

「…桂花さ、」

「どこで手に入れたのが聞いてるじゃない!!」

「!!ぞ、賊討伐から帰ってくる時に偶然黄巾党の伝令を捕まえたら、そいつがもって居ました」

「…偶然?」

 

偶然と……これを…

 

 

「っ!!」

 

私は怒りのあまりに持っていた書簡を床にぶつけようとした。

でも、おもいっきり持っていた書簡を床に叩き落そうと上げた手は、結局ゆっくりと降りてきた。

 

「……」

「……桂花さま?」

「もう行っていいわよ。華琳さまには私が報告するわ」

「………はい」

 

凪がゆっくりと頭を下げて部屋を出ると、私は布団の上にも散らばっていた地図たちを退いてそこに顔を伏せた。

 

あともうちょっとだった。

本当に…もうちょっとで解ったのよ。

なのに……なのに……

 

 

 

 

ガラッ

 

「あ、桂花さん?」

 

アイツの部屋に入ったら、流琉が一緒にいた。

 

「……典韋、さっきの頼むぞ」

「…はい」

 

アイツが流琉に言ったら、流琉は少し私の様子を伺うような顔をして、アイツの部屋を出て行った。

 

「……座るか?」

「…」

 

要らない。

ほんとは、こんなところに長居したくない。

でも、今は……

 

「ええ」

 

アイツが勧める通りさっきまで流琉が座っていた椅子に座った。

アイツも書類が沢山置いてある机からぐるんと回ってこっちに向かって座った。

 

「…アレは…見たか?」

「……直ぐに華琳さまに上げたわ」

「……そうか」

 

ただ沈黙が続いた。

 

「孟徳はなんと?」

「直ぐに軍議を始めるって仰ってたわ。凪のことも何か褒美が下られるでしょうし」

「……」

 

また沈黙。

 

こうして顔を合わせながら無言のままで居なくても、互いに何を思っているのか、だからそれがどうなったのか全部分かっていた。

軍事に置いて時間は命だし、コイツは部下の手柄をそのまま埋葬させるわけにはいかなかった。

そして、私は十分な時間があったにも関わらず、自分が欲張って出遅れた。

私がもしありとあらゆる方法を全部使っていれば、奴らの本城を分かることぐらいできた。

でも、アイツは今さっきまで私と同じ情報を持っていたのにも関わらず、私には分からないことが分かっていた。

それが悔しくてたまらなかった。

こいつと同等な智謀が私にもあったなら……

 

別に、何かをしようとここに来たのかというとそんなものは特にない。

怒るにも…コイツの立場が分かるから怒れなかった。

いつものように罵って済ませるようなことでもなかった。

そして、コイツもそういう諸事情を知っているから、私に何も言い訳をしてこない。

だから、お互い何も言わない。この話は互いの口を通してじゃなくても完結していた。

 

でも……

 

コンコン

 

「兄様」

「……来たか」

 

長い沈黙の中外から流琉の声が聞こえてきた。

 

「…手間がかかせたな」

「いえ、そんなことは全然……」

 

北郷が門の前で流琉からもらってきたものは湯気が出るお酒にちょっとしたお肴。

 

「呑むか…?」

「…ええ」

 

呑もう。

今回のは呑んで忘れよう。

そして、明日からはまた……

 

 

 

 

………うん…?

 

「何……ここ…私の部屋……っ!」

 

昨日確かアイツの部屋で潰れるほど呑んだ記憶があるのだけど……

そこからは知らない。

ただ本気で飲みつぶれる勢いで酒を飲み干したことは覚えてる。

 

…はっ!あいつまさか、私が寝てる間何かしたわけじゃないでしょうね!?

 

ガラッ

 

「桂花、もう目は覚めたかしら」

「っ!か、華琳さま!」

 

どうしてこんなところに……

 

「二日酔いに効く薬を持ってきたわよ。飲みなさい」

「は、はい」

 

華琳さまが私の前に湯薬を置いた皿を出されるのを見て、私はまだ自分が夢の中に居るのかって思った。

 

「朝議あなたが顔を出さないからどうしたことかと思えば……まさか酔いつぶれていたとはね」

「…!朝議!」

 

驚いて外を見ると、もう日が随分と昇った時間。

 

「一刀があなたの代わり朝議を進めてくれたわよ」

「アイツが…ですか」

「ええ…………朝から血の暴風が襲ったけど」

 

一体アイツ何をしたんですか。

 

「大概の事情は一刀から聞いたわ……あまり気を落とさないで頂戴、桂花」

「華琳さまが心配なさるほど大したことではありません」

「いいえ、そんなはずはないわ」

 

華琳さまは私が寝ている布団にそっと座って私の顔を手でなぞりながら仰ってました。

 

「あなたはすべて私のものだもの。その体も、心も何一つ私が知らないところで傷つくとしたら、私はあなたを傷つけたものを決して許さないわ」

「…華琳さま……」

「今日は休ませてあげるわ。明日からはまた、私のために尽くしなさい。もう直ぐ我軍の運命を決める大事な戦が始まるわ。頼りにしてるわよ、桂花」

「……はい!この荀文若、身も心もあなたに捧げた者。必ずあなたの覇道を支えます」

 

 

私は華琳さまの軍師。

いつまでも止まってるわけにはいかない。

 

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

桂花が知らない話

 

「後悔してる?」

「……何をだ」

「桂花にあの伝令書を見せたことよ」

「…俺に後悔という概念はない。俺がすることはすべて最善を尽くした選択だった」

「………」

「…ただ今回は、どっちも興味に欠ける結末であっただけだ」

「もし凪があの時その書簡を持ってきてなければ、桂花が己の力で答えを出していただろうと思うのかしら」

「愚問だ。その質問の答えは俺もお前も知っている。答えるに足らずだ」

「……そうね……桂花を慰めてくれてありがとう。私には出来なかったことよ」

「……」

「だからあなたはいつも桂花に鍛え上げているのね。私と同様、あの娘もまたいざってなった時は頼る相手がないもの。私は君主で、こう言ったことであの娘の愚痴を聞いてあげられる立場にはなれないからね」

「………」

 

 

 

「孟徳」

「何?」

「前々から言おうと思ったのだが…お前がそこに座ってると下着が見える」

「!!何見てんのよ、馬鹿!」

「いや、見せてるのかと思ってな」

「そんなわけないでしょ!ちょっとあんた怪我したからって見逃してやると思うんじゃないわよ!!」

 

・・・

 

・・

 

 

「うん?兄様、石膏の包帯に何か書いてありますよ?」

「気にするな」

「………あの、変えた方がいいんでしょうか……あ」

「気にするな……何故筆を取る」

「いえ、何か面白そうだったから…駄目ですか?」

「………」

 

 

『万年腐れ外道発狂男』

『変態引き篭もり色魔←一ヶ月間変えないように』

『兄様、早く治ってください。あ、後、甘いものは程々にお願いします』

 

 

 

 

 

 

 

誰も知らない話

 

 

「あー、もう!全部アンタが悪いんだからね!」

「……随分呑んだな」

「アンタが準備させたんでしょ!酔って何が悪いのよ!寧ろ酔わないとやってられないわよ!」

「…………」

 

 

「お前は孟徳にとって十分に有能な軍師だ。今回のことがお前の手柄にならないとしても、それは変わることはない。最も、お前が実力を見せる場面は、こういったことよりも戦場での策略として出した方が……」

「そんなこと分かってるわよ……アンタなんかが確かめさせてくれなくても、華琳さまが私を信じてくださっていることぐらい……分かってんのよ……でも、もう私は、それだけじゃ足りないのよ」

「………」

「アンタに……アンタが悪いんだから……全部…アンタがいるから……私が……」

 

 

………

 

 

「お前は頑張った、荀彧。ただ結果を出せなかっただけ。結果を持って評価するのは孟徳の仕事だ。俺は違う」

 

 

 

「良く頑張ったな、桂花」

 

 

 

「……うぅん……この万年腐れ外道キモ男が……ん……」

「……ふっ」

 

・・・

 

・・

 

 

 


 
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